第55話 閑話 誘拐事件の顛末
【ルバルワルス・レーヴタイン視点】
サーベンジールの街にある、レーヴタイン侯爵家の屋敷。
その屋敷の中の会議室で、ルバルワルスはどっかりと椅子に座り腕を組む。
前日の昼にクレイリアの誘拐が発覚し、そろそろ夜が明ける。
会議室の中では集められた情報の整理、分析を行う騎士や官吏たちが慌ただしく動いている。
夜を徹して行われたクレイリアの捜索だが、状況は芳しくなかった。
誘拐の実行から発覚までは、それほど時間が空いているとは思えなかった。
クレイリアが最後に目撃されたのは昼食時のダイニングルーム。
給仕にあたった客間女中やその他の使用人たちがクレイリアを確認している。
クレイリアがダイニングルームを出てから足取りが途絶えたが、その後すぐに正門で異変が伝えられた。
屋敷に出入りしている商人が、『裏門に警備の騎士がおらず、届け物を搬入できない』と伝えてきた。
出入りの商人たちはいつも裏門から出入りしているが、裏門は常に閉じている。
警備の騎士が荷馬車の中を確認し、それから門を開けて敷地内に入ることが許されるのだ。
その警備の騎士がいないので、勝手に入る訳にもいかず困っていると商人が伝えてきた。
すぐに異変は屋敷の警備責任者である騎士隊長に伝えられ、裏門の確認に複数の騎士が向かった。
そこには通常四人いるはずの騎士がおらず、門の鍵が外されていた。
即座に警備隊長は自身の権限により、屋敷内に非常事態を発令する。
それと同時に、レーヴタイン侯爵家の敷地の隣にある、領主軍本部にも伝令を出し異常発生を伝えた。
これにより領主軍本部にいたルバルワルスと、騎士団長のマグヌスも異常発生を知る。
ルバルワルスは即座にサーベンジールの街壁にある三つの門、すべての封鎖を命じた。
同時にルバルワルスは騎士団長のマグヌスに国境防衛の指揮を命じ、国境に向かわせた。
これがグローノワ帝国からの攻撃の可能性があるからだ。
こちらの混乱を誘発し、その混乱に乗じて侵攻してくる可能性がある。
次に何を仕掛けてくるか分からない。
更なる混乱を煽る工作が行われるかもしれない。
すべてに対して、最大限の警戒をする必要があった。
だが、その後しばらく経っても敵からの工作と思われる動きはなかった。
ルバルワルスの下に次々に届けられる報告で、クレイリアの行方が分からないこと、裏門警備の騎士三人の死体が発見されたことが分かった。
三人の騎士は毒と剣により殺され、茂みに雑に隠されていた。
クレイリアの従者であるボゲイザの姿も見えず、巻き込まれたのか、誘拐に加担したのかは分からない。
そして、行方の分からない者がもう一人。
裏門の警備をしていた騎士四人のうち、一人の姿が消えている。
クレイリアの誘拐が目的ならば、警備の騎士一人だけでは難しい。
というより、ほぼ不可能だ。
接点がほとんどなく、目立たないように誘い出すことができないからだ。
これにより、ルバルワルスはボゲイザも誘拐犯の一味と断定。
サーベンジールに閉じ込め、虱潰しに探していくことにした。
だが、サーベンジールの街は広すぎる。
相当の人数を割いて捜索にあたらせても、簡単には見つけることはできなかった。
クレイリアの誘拐発覚から数時間が経ち、夕刻が近づいてきた。
ルバルワルスはクレイリア捜索の本部を領主軍本部から、レーヴタイン侯爵家の会議室に移すことにした。
グローノワ帝国からの工作が誘拐だけなら、混乱に乗じた侵攻の可能性は低い。
ルバルワルスがクレイリアを切り捨てれば、混乱などすぐに収まるからだ。
そう判断し、領主軍としてではなく、個別の事件として扱うことにした。
現在は捜索のために街の門を封鎖しているが、そう何日もできることではない。
サーベンジールで暮らす民たちにも生活があるからだ。
例え愛する娘であっても、ルバルワルスの立場ではすべてと引き換えにすることはできない。
ルバルワルスが守るべきはレーヴタイン侯爵領であり、そこに暮らす領民であり、エックトレーム王国だ。
街壁の門を封鎖するのも、あと一日が限界。
クレイリア一人のために、サーベンジールに暮らす数百万の民を犠牲にするような判断を下すべきではない。
「くそっ!!!」
ダンッ!とルバルワルスが机に拳を叩きつける音が、会議室に響く。
会議室にいた騎士や官吏たちが驚いた顔をしてルバルワルスを見るが、すぐに自分たちの仕事に戻る。
ルバルワルスがここまで感情を露わにするのは珍しかった。
ルバルワルスは外見で誤解されがちだが、普段は声を荒げるようなことはほとんどない。
声を荒げる時は、「そうするべき」と考えた上でやっているのだ。
ただ、低く抑えた声でルバルワルスの怖さが減るかと言えば、そんなことはまったくない。
むしろ、そっちの方が恐ろしいと思う人の方がほとんどだろう。
その時、会議室に数人の騎士が入ってきた。
サーベンジールの街で捜索にあたっている騎士団の隊長たちだ。
みな、一様に冴えない表情をしている。
それだけで捜索の結果が察せられた。
そんな騎士隊長たちを見て、ルバルワルスは力なく背もたれに寄りかかる。
「……どうした。 何かあったのか。」
ルバルワルスの問いかけに、顎に傷のある騎士隊長の一人が一歩前に進み出る。
「閣下。 どうか街の外の捜索隊を増やしてください。 それと、近隣領の領主様にも捜索の協力の要請をしましょう。」
「サーベンジールの外に出ている可能性はほとんどない。 誘拐の実行から発覚までの時間を考えれば、ほぼ不可能だ。 外に人数を割くなら、その分も街の中を徹底的に洗え。 今でも手が足りないのだろう?」
「しかし……。」
どうやらこの騎士隊長たちは、街の外の捜索をもっとするべきだと考える者が、ルバルワルスを説得するために声をかけあって来たようだ。
「では、どうかオールコサ子爵にだけでも協力の要請を! もしも街の外に出ていた場合、もっとも可能性が高いのは通商連合への逃亡です!」
別の騎士隊長が進み出る。
確かに、すでに街の外に出ている可能性もゼロではない。
合理的に考えればありえないが、絶対にないと言い切れるものではない。
だが、捜索のために動員できる騎士にも限りがあり、そのすべてを投入しても街の捜索にすら足りない。
今も最低限は外の捜索に割り振っているが、本当ならそれすら街の中の捜索にあてたいのだ。
ルバルワルスは、今回のクレイリア誘拐をグローノワ帝国からの攻撃だと考えている。
そして、もしもクレイリアをグローノワ帝国に連れ去る場合、どういったルートが考えられるか。
もっとも可能性が高いのは、騎士隊長の言う通り南の通商連合経由で船を使うルートだ。
人の目さえ誤魔化せれば、このルートが一番確実だろう。
レーヴタイン領とグローノワ帝国は平原で国境を接しているが、その国境には長大な防護壁が築かれている。
五十年戦争終結後、まだレーヴタイン侯爵領が辺境伯領だった頃。
ルバルワルスの祖父と父の二代に渡って、十六年もの歳月をかけて国境に30キロメートルを超える防護壁を建設した。
山脈と山脈を繋ぐように築かれたこの防護壁のおかげで、完成後は直接的な戦闘はほとんど起こることがなくなった。
その代わり、建設中のグローノワ帝国の妨害工作、破壊工作は相当に執拗だったと聞く。
一応はグローノワ帝国も、工作を行っているのが自分たちではないと体面を繕う必要があるため、大軍を動かしての工作ではなかった。
だが、夜闇に紛れての破壊工作ならやりたい放題だ。
なにせ三十キロメートルにも渡る建設中の防護壁である。どこでも好きに壊せる。
すべての妨害工作、破壊工作を阻止するなど、どうやっても不可能な話だ。
破壊されても作り直し、防護壁を守るためにレーヴタイン家に仕える騎士たちだけが必死になって戦った。終戦後も、十六年に渡って。
国は国で、戦後の復興に力を注がねばならず、防護壁建設を支援できなかったからだ。
この防護壁があるおかげで、レーヴタイン侯爵領からグローノワ帝国へ直接逃亡することは不可能だった。
残りのルートとしては山脈越えだが、これは危険すぎる。
山脈越えだけでも厳しいのに、凶暴な獣や魔獣が出るからだ。
行き来が不可能というわけではないが、この誘拐作戦に山脈越えは選択しないだろう。
ルバルワルスは、目を閉じて考え込む。
不可能ではないことを、あり得ないと切り捨てることは簡単だ。
実際、現在はそうやって限られた人的資源のほとんどをサーベンジールの捜索にあてている。
だが、それで目に見える成果が上がっていない以上、確かに手を広げる必要があるかもしれない。
何より、このままクレイリアを失った時、「手は尽くした」と言いきってやることもできない。
時間が経てばルバルワルスは、どこかでクレイリアのことを切り捨てねばならないのだ。
領主して。王国の盾として。
「閣下。 どうかその役目、私にお命じください。」
長いピンクの髪をした20代半ばの女騎士が、真っ直ぐにルバルワルスの前に来て跪く。
クレイリアの護衛騎士を務めるヴィローネだった。
ヴィローネはクレイリア誘拐を自らの失態だと、強い責任を感じていた。
クレイリアにみっともないところは見せられない、と普段は綺麗に整えられた髪も今はひどく乱れている。
「どうか、私にお命じくださいませ、閣下。 必ずやクレイリア様をお救いし、その後にどうかこの首を刎ね――――。」
「よせ、ヴィローネ。 貴様の責任ではない。」
ルバルワルスはヴィローネの言葉を遮る。
「屋敷内は安全だと、油断していたのは私だ。 屋敷内であれば、護衛騎士を伴わなくて良いと認めたのも私だ。 貴様の責任ではない。」
「ですが、閣下――――。」
「控えろ、ヴィローネ。 本来貴様は、この部屋に入ることを認められていないだろう。」
食い下がろうとするヴィローネを、騎士隊長の一人が窘める。
「貴様一人だけだと思うな。 我らもみな、クレイリア様をお救いしたい気持ちは同じだ。 控えよ。」
騎士隊長の言葉に、ヴィローネは悔しそうに顔を歪め、震えるほどに拳を握り締める。
だが、ゆっくりと立ち上がりルバルワルスに敬礼をすると、俯いて会議室を出て行く。
「待て、ヴィローネ。」
そんなヴィローネにルバルワルスが声をかける。
「貴様、馬の腕は悪くなかったな。 一隊貸してやる。 最速でヤウナスンへ行き、オールコサ子爵に協力の要請をしろ。 その後はヤウナスン周辺の捜索だ。」
ルバルワルスの言葉に、ヴィローネは目を輝かせる。
ただ、その輝きは例えるなら、爛々と赤く輝く魔獣の目のような輝き。
そんな危険な輝きだった。
「私の隊から、特に速さに自信のある隊を出しましょう。 よろしいでしょうか?」
顎に傷のある騎士隊長が提案し、ルバルワルスが頷く。
騎士隊長は、もしも賊を見つけた場合にヴィローネがやり過ぎないよう、同行させる隊にはよく言っておこうと思った。
八つ裂きにしてしまいそうだ。
何人かは好きにさせても良いが、さすがに全員を殺されては情報を引き出すこともできない。
重要な情報を持っていそうな数人は生け捕るよう、厳命せねばなるまい。
その後、オールコサ子爵宛に協力を要請する手紙をルバルワルスが書き、ヴィローネに持たせる。
すでに夕刻に差し掛かっていた。
早馬を乗り継いでも、ヤウナスンに到着するのは深夜になる。
ルバルワルスは夜を徹しての捜索を騎士たちに命じ、自身も会議室に詰めた。
クレイリアの無事を祈り、好物の蒸留酒を断って。
■■■■■■
クレイリアの誘拐が発覚した翌日の朝。
「本当かっ!!!」
ルバルワルスは立ち上がり、報告した二人の騎士に詰め寄る。
あまりの勢いに座っていた椅子が倒れるが、そんなことには構わず騎士に報告の続きを促す。
「はっ! クレイリア様に間違いございません! 私がこの目で確かめております!」
報告する騎士の隣で、もう一人の騎士も頷く。
報告に来た騎士は、ヴィローネとともにオールコサ子爵の下に送った騎士たちだった。
往復する時間を考えれば、ほぼとんぼ返りで戻って来たことになる。
「そうかっ……!」
安堵のあまり、ルバルワルスはその場に座り込みそうになる。
だが、ここで気を緩める訳にはいかなかった。
「どこに居た?」
「ヤウナスンの街の門の前です。 深夜だったため門は閉ざされ、そこで兵士たちと何やら揉めておりました。」
ヤウナスンの兵士が不審な者を見咎め、それが発見に繋がったようだ。
「クレイリアの様子は? 何か怪我をしたりはしていなかったか?」
「私たちはそこまで確認はしていないのですが、クレイリア様からヴィローネに駆け寄っておりました。 おそらく、大きな怪我などはないかと思います。」
賊に捕らわれていたのだから多少の憔悴や衰弱はあるにしても、自分から駆け寄るだけの元気があるのなら、深刻な問題はなさそうだ。
「そうか……。」
ルバルワルスは大きく息を吐き出す。
最悪の事態を覚悟していたが、これならほぼ最善と言ってよい結果だ。
ルバルワルスはゆっくりと大きく息を吸い込み、報告に来た騎士に尋ねる。
その目つきが鋭く変わる。
「賊は?」
「それなのですが……。」
ルバルワルスの問いに、騎士たちが言い淀む。
「捕り逃がしたか。」
ルバルワルスの奥歯がぎりっと鳴った。
賊を生け捕れなかったのは痛恨と言える。
今後の対策のために、賊どもからできるだけ情報を引き出したかった。
何より、今回の事件の全容を知る、最大の手掛かりを手に入れ損ねたことになる。
「いえ、それが……。」
だが、それにしては騎士の様子がおかしい。
賊を逃がしたことは痛いが、そのことを悔しがっているのとは違うようだ。
どちらかと言うと、戸惑っているような感じがした。
「どうした。 何かあったのか?」
「実は、その場には賊がおりませんでした。 クレイリア様と、もう一人の少女がヤウナスンの門に居たのです。」
「…………どういうことだ?」
報告を聞いても、よく状況が掴めない。
賊がいない?
もう一人の少女?
「……クレイリアは、その少女と協力して、自力で脱出してきた……?」
今分かっている情報だけで、あり得そうな状況を予想するとそんな感じだろうか?
「それが、その、私たちにもよく分からないのです。」
「なぜだ? 聞けばいいだろう。 クレイリアでも、そのもう一人の少女とやらにも。」
「クレイリア様はその……、泣きじゃくってしまいまして。 余程怖い思いをされたのだろうというのは、私たちにも理解できますので……。 落ち着くまで待ったのですが、そのまま泣き疲れたのか眠ってしまいまして……。」
騎士が申し訳なさそうにルバルワルスに報告する。
クレイリアが安心して泣きじゃくるのは分かる
泣き疲れてそのまま眠ってしまったというのも、まあ理解できる。
気丈なところのある娘だが、それでもまだ9歳にもなっていない。
誘拐され、不安と恐怖に圧し潰されるような一日を過ごしたのだ。
大人でも相当な精神的な負担を受けただろう。
「それならば、そのもう一人の少女とやらから話を聞けば良かろう?」
「こちらの少女も、眠ってしまいまして……。」
「何だと?」
「我々が話を聞こうとした時には、街道のど真ん中で手足を広げ、ぐーぐー眠っておりました。 勿論、起こそうとはしたのですが。 どれだけ揺さぶっても、ちっとも起きないもので……。」
何だろうか。
状況がさっぱり分からない。
今、頭が痛いのはきっと寝てないからだろう。きっとそうだ。
「とりあえず我々は、クレイリア様の無事だけでも早くお伝えしようと。 急ぎ戻ってきた次第です。」
「そ、そうか……。 そうだな。」
「クレイリア様とその少女は、オールコサ子爵のお屋敷で保護していただくことにしました。 夜が明け次第、馬車と護衛の騎士をお借りして、クレイリア様にはヤウナスンを出発していただく予定です。 予定通りであれば、すでに出発していることでしょう。」
「分かった。 あとはこちらで引き継ごう。 貴様たちは下がって良い。 ご苦労だったな。 よく休め。」
「はっ!」
騎士たちが下がると、ルバルワルスは会議室にいる者たちに指示を次々に飛ばす。
とりあえず捜索中の騎士たちに打ち切るように指示を出し、休息を交代で取らせる。
街壁の門も急いで封鎖を解除しなければならない。
これから山ほど届くであろう住民たちからの苦情を思うと頭が痛くなるが、それも必要な事後処理だ。
国境のマグヌスには、念のため数日の間は防護壁で待機させ、特にグローノワに動きが無ければ戻って来させればいいだろう。
疲労感は強いが、早く指示しなければならないことも多い。
何より、賊がまだ潜んでいる可能性がある。
ただ、クレイリアたちがヤウナスンに居たのなら、賊もその周辺にいると考えるべきだろう。
いくらオールコサ子爵がレーヴタイン侯爵の寄子であろうと、さすがに賊を討伐するための兵を勝手に出す訳にはいかない。
オールコサ子爵と連携し、何とか賊を捕えねばならない。
「やるべきことが多すぎるな……。」
つい、そんな愚痴を零してしまう。
疲労のためか、心労のためか、はたまた徹夜明けの強い眠気のためか。
いや、きっと愛する娘の無事が分かり、気が緩んでいるのだろう。
ルバルワルスは会議室の前を通りがかったメイドに命じて、気つけの蒸留酒を持ってこさせた。
喉を焼く熱さと木の香りを楽しみつつ、ルバルワルスは気力を漲らせた。
■■■■■■
誘拐の発生から4日目。
クレイリアがレーヴタイン侯爵の屋敷に戻ったのは昨日の夕方だ。
オールコサ子爵の屋敷に保護された直後は憔悴した様子が見られたらしいが、レーヴタイン侯爵の屋敷に戻った時は、すでに元の元気さを取り戻していた。
2日間の馬車の移動の疲れは見られるが、それ以外には特に問題はなさそうだ。
だから、それはいい。
クレイリアのことは、それでいい。
だが、ルバルワルスは、別のとんでもない問題を抱えてしまっていた。
「これは……、本当のことなのか? 本当にこんなことを言ってるのか?」
ルバルワルスは手にした報告書を凝視し、驚愕と怒りに手が震えた。
「はい、間違いありません。 私も立ち会いました。 ですが、閣下。 これはかなりまずい事態です。 あの少年を早急にサーベンジールに移送しないと、他にどんな話が出てくるか。」
クレイリアとともにヤウナスンで保護した少女は、翌日に少年だということが判明した。
それは別に大した問題ではないのだが、この少年の持っていた情報がとんでもない爆弾だった。
ルバルワルスとしては、例え寄子のオールコサ子爵であろうと知られたくない情報――――。
「『スラムから、街壁を潜って街を出た』。 賊がそう話していたのを聞いたと言うんです。 他に何を聞いているか分かりません。 早急に移送を命じてください。」
少年の話の内容はルバルワルスにとってはとんでもないが、だからといって少年を移送できるかといえば、これは正直かなり微妙な問題だ。
クレイリアをサーベンジールに戻すのは当然だ。
レーヴタイン侯爵の娘なのだ。
オールコサ子爵も護衛付きで快く送り出してくれた。
では、この少年は?
オールコサ子爵が保護した少年を、レーヴタイン侯爵がサーベンジールに移送すると言っても、何を根拠にそんなことを命じるのか。
少年が魔法学院の学院生であること、サーベンジールの冒険者であることは判明している。
だがそれは、オールコサ子爵の取り調べる権利、を無視できるほどの根拠にはならない。
「分かりました。 取り調べが終わったらサーベンジールに送ります。」
で済む話なのだ。
強権を発動させれば、オールコサ子爵が何を言おうと、無理矢理少年を移送させることはできる。
そこまでしなくても、オールコサ子爵も『クレイリア誘拐事件』に関する重要な人物として、少年を移送することに同意してくれるだろう。
だが、あまり横暴なことをしては、今後のオールコサ子爵との関係に影を落とすことにもなりかねない。
「現在、取り調べには我々も同席することを許されていますから、少年が話した内容をこちらも把握できています。 ですが、正直どんな話が飛び出すか気が気ではありません。 閣下、何とかあの少年を移送させられませんか?」
ルバルワルスは眉間の皺を深くして、考え込む。
少年の取り調べをしたいのはルバルワルスも同じ。
だからオールコサ子爵も配慮して、レーヴタイン侯爵の騎士の同席を許している。
ルバルワルスがオールコサ子爵の取り調べる権利を無視するには、重すぎる事実がある。
賊が発見されたのだ。
ほぼ少年の証言通りの場所から、誘拐の犯人たちが発見された。
全員が惨殺された状態で。
少年が証言したのは、あくまでクレイリアを救出した場所だ。
少年は「賊が馬車を離れた隙に女の子を救出したので、その後の賊のことは知らない」と言っているらしい。
オールコサ子爵も、この少年が賊を殺したとは思っていない。
だが、状況が状況だけに、念入りに調べる必要があるのだ。
ルバルワルスは大きな溜息をつくと、背もたれに大きく寄りかかる。
クレイリアの誘拐事件から、こっち。
頭の痛い問題に悩まされ続けるルバルワルスだった。




