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第52話 侯爵令嬢誘拐1




 ミカは1年振りのリッシュ村を満喫していた。

 といっても、基本的に何もないリッシュ村での休暇は、その「持て余す時間を満喫する」といった感じではあるが。

 この1年間、学院と冒険者としての活動と、そして”呪い”への干渉を試みるなど、何だかんだと忙しく過ごしてきた。

 ミカは休暇中、昼間は教会で過ごし、アマーリアたちの仕事が終わったら家で過ごすという、学院に行く前の生活と同じように過ごした。


 キフロドに毎日ブアットレ・ヒードの相手をさせられ、ミカはボコボコにされ続けた。

 ただ、時々ミカの誘導に引っ掛かって形勢を引っ繰り返されると「待った。」などを言い出すのには呆れてしまった。

 ほとんど素人のような子供相手に、待ったはないだろう、待ったは。

 ミカはキフロドを罠にかけられれば満足なので、「いいですよ。」と待ったを認めるのだが、それで勝って勝ち誇るのだから始末が悪い。


(……もう二度とやらねえ。)


 と毎回思うのだが、翌日になるとまたキフロドがしつこく誘ってくる。

 まるで子供が駄々をこねるようなその我が儘に、仕方ないなあ、とミカが折れるのだった。


 ニネティアナの家にもちょくちょく遊びに行った。

 ミカは初めてのクエストで死にかけたことは黙っていようと思ったのだが、ニネティアナはすぐに隠そうとしていることを見破った。


「…………何か、話してないことあるよね?」

「そんなことないですよー?」


 ニネティアナの手がミカの頬を摘まむ。

 この人、予備動作というか、動く気配をまったくさせないのな。

 見えているのに、ミカにはその手を避けることができなかった。


「何か隠してるよね?」

ほんはほはひはへんほ(そんなのありませんよ)。」


 頬を摘まむ指に、少し力が入る。


「…………いはいへふ(いたいです)。」

「今日はこのまま、ずっとこうしてる? 一晩中でも付き合ってあげるわよ。」


 ニネティアナの言葉に、本気の気配を感じた。

 洗いざらい白状させられた。

 ミカはこっぴどく叱られ、生き残れた幸運に心から感謝された。

 そして、ニネティアナはミカに謝った。


「……あたしが中途半端に教えたのがいけなかったのよね。 ごめんなさい。」


 ミカには、これが一番堪えた。

 自分の覚悟の無さや、準備を怠ったことが原因なのに、ニネティアナが頭を下げたのだ。


「お願いだから、そんな謝らないでください! 完全に僕の自業自得じゃないですか!」

「そうさせた原因はあたしよ。 あたしがもっとちゃんと教えていれば、そんなことにはならなかったわ。」


 ミカはニネティアナを悲しませてしまった、自分の浅はかな行動を心底後悔した。

 そうして、これからは決して油断しないこと、準備に細心の注意を払うことを心から誓うのだった。







■■■■■■







 ミカがリッシュ村に里帰りして2週間が経ち、明日の朝ホレイシオにコトンテッセまで送ってもらうことになった、

 ノイスハイム家で過ごす最後の晩、ミカはアマーリアとロレッタにテーブルについてもらい、寝室に置いた雑嚢から布袋を取ってきた。

 ミカはテーブルの上に布袋を置いて、アマーリアの方に押し出す。

 袋の中身はお金。

 銀貨五十枚が入っている。

 これでミカの持っているお金はほとんど無くなった。

 勿論、帰りの旅費は残しているし、サーベンジールに着いたらそれで素寒貧という訳でもない。

 最低限必要と思えるお金を残し、それ以外のすべてをアマーリアに渡す。

 アマーリアやロレッタも中身の見当はついているのか、恐るおそる袋を開けて中を確認する。


「え!?」

「っ!?」


 二人は金額の多さに絶句している。

 これでもお土産に使ったりして、結構減ってしまった。

 今回は初めての里帰りなので、そちらもできる限り奮発したかった。

 お世話になった人たちに、少しでも感謝を伝えたかった。


「こんなに受け取れないわ、ミカ。 学院での生活にも必要でしょう? 家のことは気にしないでいいから、自分で必要なことに使いなさい。 ね?」


 アマーリアは布袋の口を閉じ、ミカに返す。


「すごいね、ミカ。 もうこんなにお金を貯めちゃうんだもん。 でも、あんまり無理しないで、自分のために使うべきよ? ミカは学院(向こう)ですごく頑張ってるんだもん。」


 ロレッタはミカの頑張りを褒め、自分のために使うように言う。


(まあ、そうなるよね。)


 この二人のことだ。

 素直に受け取ってもらえるとはミカも思っていない。

 ミカは昂りそうになる感情を、意識して抑える。


「僕が手紙で送っているお金。 使ってくれてますか?」


 ミカは唇を引き結び、アマーリアを真っ直ぐに見る。


「え、ええ、勿論よ。 とっても助かってるわ。 ありがとう、ミカ。 だから、このお金は――――。」

「使ってないんですね。」


 アマーリアの言葉を遮り、ミカは断言する。

 ミカの言葉に、アマーリアとロレッタは目を見開いて驚く。


「手紙にも書いてるけど、貯えにするのは構わないんです。 だけど、必要になる時が来るかもしれないから、これもその貯えに入れてください。」


 ミカのあまりに真剣な表情に、アマーリアもロレッタも口を閉ざして俯いてしまう。

 ミカは何となく、ノイスハイム家には「何か事情があるのだ」と感じていた。

 アマーリアとロレッタが働いていて、それでも冬を越すのが苦しい。

 さすがにこれは変だ、と考えた。

 だが、ミカはその『事情』に踏み込んでいいのかどうかを迷っている。

 なので、「せめてこれくらいは」と少しずつでもお金を送っているのだ。


「それほど多くはないけど、僕も自分の手でお金を稼げるようになりました。」


 ミカはアマーリアを見る。

 アマーリアは辛そうな、苦しそうな表情をしていた。


「学院ではほとんどお金を使わないので、僕の方は大丈夫です。 他にもちゃんと貯えはあるので、これはそのまま受け取ってください。」


 これは嘘だ。

 だが、将来的にはそうなるようにするつもりだった。


 ロレッタを見ると、悲しそうな顔をしていた。

 二人にこんな顔をしてほしくて、このお金を用意したわけではないのだが。


「お願いします。」


 ミカが頭を下げると、グスッとロレッタの鼻をすする音が聞こえた。


「…………わかったわ。」


 アマーリアが悲し気に微笑む。


「ありがとう、ミカ。 でもね、お母さんはミカにあまり危ないことをして欲しくないのよ。」


 そう言って席を立つと、ミカの横に来る。

 そっと、ミカの頭を撫でる。


「お母さんにはよく分からないのだけれど……、危ないこともあるのでしょう?」


 本当のことを話せば悲しませることになるのは分かっている。

 だからミカは、自分が冒険者として活動していることを二人には伝えていなかった。

 危うく死にかけたなど、この二人に言えるわけがない。

 だけど、嘘もつきたくなかった。


「……はい。」


 だから、それだけを答えた。

 ロレッタはガタッと席を立つと、何も言わずにミカを力いっぱいに抱きしめる。

 アマーリアは、そんなロレッタとミカをそっと抱きしめた。


(……やっぱり、何かあるんだろうな。)


 ミカは自分の予想が当たっていたことを確信する。

 だが、今のミカでは力になれることはそれほど多くない。

 明日の朝には、学院に戻るためにリッシュ村を出なくてはならないのだから。


 ミカはこれからの自分がどうするべきなのかを考えながら、その日は眠ったのだった。







■■■■■■







 土の3の月、5の週の火の日。

 学院には今月中に戻っていればよく、ミカは余裕をもってリッシュ村を出た。


 すでにリッシュ村を出て三日目。

 今日の夕方にはサーベンジールに着いている予定だ。


 ミカは二つ目の休憩所で強張った身体を解し、乗り合い馬車の出発時間まで街道沿いの草叢に立ち、木々のさざめきや小鳥の囀りに耳を傾けていた。

 少し離れた所に森があり、その手前には小川が流れているようで水のせせらぎも聞こえる。


(”地獄耳(デ〇ルイヤー)”も、そろそろ正式な”魔法名”を考えてやらないとなあ。)


 草叢にぼけーー……とつっ立ち、そんなことを考えていた。

 よく使う魔法なのだが、どうにも自分の中のイメージが某アニメになってしまい、他の”魔法名”がしっくりこない。

 すでに”条件付け”が、この”魔法名”で登録されてしまってるような気がする。


 ガタゴトッ、ガタゴトッ、ガタゴトッ。


 街道を通る馬車の音に顔をしかめ、”地獄耳”の音量を少し下げる。

 すべての音を増幅させてしまうのは、やはりこの魔法の欠点だ。

 一応、人間の脳は音を聞き分ける機能を備えている。

 多少煩かろうが、自分が必要とする音や注意を向ける音だけを認識しやすくする。

 所謂、カクテルパーティー効果と言われるものだ。


 だから、ミカがその”音”に気づいたことは、それほど不思議なことではない。

 例え馬車の車輪が立てる音が大きかろうが、ミカにとっては不必要な音だ。

 もっと、ミカが注意を向けるべき音が紛れている。


 ミカは周囲を見回し、その音の発生源を探す。

 見える範囲でそれらしきものは見当たらない。

 だが、注意深く音に耳を傾けることで気づいた。


(音が遠ざかっている……?)


 ミカはもう一度周囲を見回し、今通り過ぎた馬車に注意を向ける。

 一度下げた音量を再び上げる。

 耳障りな車輪の音に紛れながら、微かながらもその”音”が聞こえた。


(……あれだ。)


 ミカは急いで乗り合い馬車の傍に行き、誰も自分に注意を向けていないことを確認する。


「”制限解除(リミッターオフ)”、”吸収(アブソーブ)”。」


 ミカは【神の奇跡】を発現する準備をする。

 これを忘れると一発アウト、問答無用でミカは気を失ってしまう。


「……創造の火種たる火の大神。 その偉大なる眷属神、漲り迸る力の神よ。 我が祈りを聞き届け、艱難を振り払い、辛苦を打ち砕く豪の力を授け給え。」


 乗り合い馬車の陰に隠れ、【身体強化】を発現する。

 魔力不足による一瞬の体調の不調。目を閉じてじっと我慢する。


 別に人に見られたところで然程問題はないのだが、この【身体強化】は発現する時に一瞬だけ、ミカの全身を陽炎が覆う。

 あまり目立ちたくないので、身を潜めて陽炎を誤魔化す。


 ミカは雑嚢から切符代わりの木札を取り出し、そっと荷台に置く。

 それから自然な振りをして街道に出ると、目立たないように気をつけながら馬車を追うのだった。







 ミカが追ったその馬車は、一見普通の荷馬車だ。

 だが、乗り合い馬車のようなゆっくりとした速さではなく、その倍以上の速さで走っている。

 あんな速さで走ればすぐに馬がバテる。

 だが、そんなことお構いなしに馬車は走り続けた。

 途中、街道から外れて脇道に入ったので、離れた場所から注意深く様子を伺っていると、別の馬車が用意されていた。

 数人の男が馬車から降りると、一つの木箱を二人で馬車から降ろす。

 どう見ても一般人には見えない、絵に描いたような悪党の集団だった。

 これがドラマなら木箱の中身が麻薬や銃でも驚かないが、ミカは”地獄耳”で中身の見当がついている。

 悪党の一人が木箱の蓋を開けて手を突っ込む。

 木箱からは、猿ぐつわのように布で口を塞がれ、手足を縛られた一人の女の子が、襟首を捕まれて引っ張り出された。


(やっぱり……。)


 ミカは、この女の子の苦しそうな呻き声と、すすり泣く声を聞いたのだ。

 それだけならただ泣いているだけかもしれなかったが、異様にくぐもった呻き声が妙に気になった。

 そして、馬車をつけるうちに男たちの声も時折聞こえてきた。


「……あんなガキ一人で大金貨五十枚かよ……。」

「……思ったよりも楽な仕事だったな……。」

「……無傷で連れ出したから、報酬は倍だよな……。」

「……時間はかかったが、これなら悪くねえ……。」


 といった話をしているのを、後を追っている間に確認している。

 間違いなく、これは誘拐だ。

 ミカは何とか助け出すことができないだろうかと、情報収集をしていた。


(ようやく賊の人数が分かったな。 …………しかし、八人か。 さすがに多すぎるな。)


 女の子が人質になっている状況では、無闇に突っ込むのは得策ではない。

 不意打ちで”石弾(ストーンバレット)”を放っても、さすがに八個すべてを確実に当てる自信はない。

 もし人質がいない状況なら、八人を同時に相手にして敵うだろうか?


(……そう言い切れれば恰好いいんだけど。 残念ながら、ヒーローって柄じゃないしな。)


 映画やアニメの主人公のようには戦えない。

 無茶をすればミカの命だけではなく、あの女の子の命にも関わる。

 慎重にいかざるを得ない。

 ミカが木の陰に隠れて様子を窺っていると、男たちの下品な笑い声が聞こえてくる。


「ここまで来れば、とりあえずは一安心だ。 そのガキを馬車の中に入れろ。」


 頭領らしき男が女の子を掴む男に指示する。


「はっはぁー。 こんな楽な仕事で本当にいいのかよ。 ガキ担いで、スラムから街壁潜って来ただけだぜ?」

「俺は一年近くもスラムに潜ってたんだぜ? あんなシケた街じゃ、ロクに遊べもしねえしよ。」

「こんなシケた国とは、さっさとおさらばしてよぉ。 シャクサーラに戻れば、しばらく遊んで暮らせるぜ。」


 男たちは口々に好き勝手なことを言っている。

 そんな中、女の子が引きずられるようにして、用意されていた馬車に連れて行かれる。


「お前たちが楽できたのは誰のおかげだと思ってんだ。」


 一人の男が頭領の前に進み出る。

 悪党集団の中で、一人だけ浮いている()()()()()な男。

 身なりが良く、執事ではないが、それに近い品の良さが服装から分かる。

 ただし、こんな悪党集団(れんちゅう)の中にいるのだから、こいつもロクな者じゃないのは確かだろう。


「ああ、分かってるよ、ボゲイザ。 すべてお前の協力のおかげさ。 そうだろみんな。」


 おどける様な頭領の声かけに、周りにいた男どもも下卑た声で笑いながら相槌を打つ。


「さすがはボゲイザさんだぜ。 ガキを誑かすのが上手いねえ。」

「そうそう。 『学院に行きたい』だっけ? よくそんなくそつまらない話で、ガキを引っ張って来れたもんだ。」

「お前、女衒(ぜげん)が向いてんじゃねーの? シャクサーラに着いたら仕事紹介してやろうか?」


 嘲るように笑いながら、ボゲイザと呼ばれた男を揶揄(からか)う。


「だったら分け前をもっと増やせ! この計画は、最初から俺の協力が前提だったんだろう!」


 苛立ちを隠そうともせず、ボゲイザは頭領に詰め寄る。


「おいおい、今さらそりゃねえだろう、ボゲイザさんよ? こっちだっていろいろと準備が大変だったんだぜ? お前一人で、どうやって無事に逃げ切れるよ。」


 ボゲイザは掴みかからんばかりに頭領を睨むが、頭領はまったく意に介さない。

 だが、頭領はわざとらしく手を打つと、ニッとボゲイザに笑いかける。


「そうだな、分け前を増やすいい方法がある――――。」


ゴシュッ!


 ボゲイザの後ろにいた男が、いつの間にか抜いていた剣でボゲイザを斬り捨てた。

 後ろから袈裟斬りにされ、ボゲイザは呻くこともできずに絶命する。


「ンンーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」


 馬車に乗せられそうになっていた女の子は、ボゲイザの斬られる場面を見てしまい、悲鳴にならない悲鳴を上げた。


「一人減れば、一人当たりの分け前が増える。 いい方法だろ? なあ、ボゲイザさんよ?」


 男たちは頭領に指示されるまでもなく、ボゲイザを木箱に詰める。

 そうして、乗ってきた馬車に載せた。


「……で、斬っちまって本当に良かったのか? 友達だったんだろう?」

「冗談でもよしてくれ。 計画がなきゃ、とっくにぶっ殺してたところだ。 ……本気でムカつくんだよ、こいつは。」


 頭領が声をかけると、ボゲイザを斬った男は不機嫌そうに剣を払って鞘に納めた。

 男は目の下に飛んだ返り血を雑に拭う。

 そこには、大きな傷があった。


「うるっせえんだよ、このガキが!」


 男の中の一人が、女の子に平手を浴びせる。

 人が斬られるのを目の当たりにした女の子が、上げられない悲鳴を上げているのが気に障ったようだ。

 女の子がその場に倒れる。


「まあまあまあ、そう怒んなよ。 あー、怖かったねえ。 もう大丈夫だよぉ、おじさんが守ってあげるからねえ。」


 別の男がナイフを片手に倒れた女の子を起こす。


「でもぉ、静かにしてないと、また痛い目に遭っちゃうかもよぉ?」


 そう言って、ナイフで女の子の頬にスッと一本の傷をつける。


「――――――――――――――――ッ!」


 女の子は、必死に堪えて悲鳴を上げるのを我慢する。


「そうそう、いい子だねぇ。 いい子にしてればちゃーんと治してあげるからねぇ。」


 そう言うと男はナイフを仕舞い、ポケットから回復薬(ポーション)を取り出す。

 乱暴に女の子の顔に回復薬(ポーション)をかけると、叩かれた腫れも、ナイフの傷もあっという間に治る。


「おじさんたちも、()()()()お嬢ちゃんを()()()連れて行ってあげたいんだけどさぁ。」


 そう言って女の子の長い髪を引っ張り、無理矢理上を向ける。


「あんまり煩いと、回復薬(こんなの)じゃ治せない傷がついちゃうかもよぉ? おじさんたちも報酬を減らされたくはないんだよぉ。 ()()()()さぁ。」


 女の子は、涙を流しながら必死にこくこくと頷いた。







 ミカはその一連の様子を、離れた木の陰に隠れながら見ていた。

 歯を喰いしばり、必死に堪えながら。


(あいつらぁ……っ!)


 ミカは破れかぶれで突っ込んで行き、好き勝手に暴れたい衝動を抑えるのに必死だった。

 たぶん、それでも何とかなったはずだ。

 一人の男を除いて――――。


 ミカは男たちの騒ぎに一切加わろうとせず、少し離れた所から静かに周囲を警戒している男から目が離せなかった。

 痩身の、青白い顔をした不気味な雰囲気を漂わせる男。

 一人だけ、(レベル)が違う。

 この男さえいなければ、不意打ちで何とかなる。

 だが、この男の存在のせいで、不意を突くだけでは絶対に女の子を救うことができないと分かってしまう。


(ごめん……。)


 ミカは心の中で、今すぐに助けてあげることのできない自分の無力さを謝った。

 謝ることしかできないのだ。

 今は、まだ……。







 悪党集団の乗り換えた馬車は、どこかの商会の物のようだ。

 ミカには見た覚えのないマークが幌に描かれ、先程までとは違い、進む速さは普通よりちょっと速いくらいのペースになっている。

 ミカは、男たちの姿を実際に見たことで、警戒レベルを引き上げた。

 距離を大きく取り、中の様子を聞くことはできないが、ミカの存在を気づかれないことを最優先に行動することにした。

 馬車は宿場町を越え、途中の休憩所なども無視してひたすらヤウナスン方面に進んでいる。


(……このままヤウナスンに行くのか? それなら、ヤウナスンの警備兵に話せば、何とかしてくれる……?)


 すでに日は落ちかけ、ミカが馬車を追い始めて3時間ほどが経過している。

 このままのペースの場合、ヤウナスンまではあと5~6時間くらいかかりそうだ。

 ヤウナスンを避け、夜通し進むつもりだろうか?

 その場合、さすがにミカ一人で追跡し続けるのは無理だ。

 御者は男たちが交代で行うにしても、馬はどこかで休憩させる必要があるはず。

 だが、また馬車を用意していて乗り換えるだけだった場合、ミカ一人の尾行では限界がある。


(……どうする? どうすればいい?)


 ミカは焦っていた。

 自分自身の体力、精神力、集中力の限界。

 極限状態に置かれた女の子の限界。


 不安、焦燥、罪悪感を抱えながら、ミカは薄闇に沈んでいく馬車を睨む。

 そうして自分も闇に沈めながら、少しずつ馬車との距離を縮めるのだった。





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― 新着の感想 ―
家族とのお別れシーン省略 想像つくけどね 入れて欲しかったなぁ 家の秘密を匂わせつつ フラグ立てる感じで
[一言] ボ、ボゲイザ!? お嬢様をただ学院の友達に合わせてあげたかっただけなのに・・・ああかわいそうに!?
[良い点] ボゲイザがあっさりと死んだのはビックリしたね。帝国絡みかと思ってたら小悪党だったとはw
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