第47話 初めての【神の奇跡】
風の3の月、1の週の月の日。
今年最後の月になった。元の世界でいう師走である。
ちなみにこの世界には年末年始の休みという概念はなく、夏休みすらなかった。
ちくしょー。
今日は久しぶりに午前中が魔力操作の訓練ではなく、教室での授業となる。
まだ教師が来ていない教室に、何となくそわそわした空気が漂う。
「……【神の奇跡】って、どうやるんだろうね?」
落ち着かない感じで、隣のリムリーシェが小声でミカに話しかけてくるが、ミカは曖昧に微笑みを返す。
リムリーシェは期待と不安が入り混じったような顔をするが、ミカには嫌な予感しかしなかった。
そう。
今日はついに【神の奇跡】を学ぶのだという。
まあ、教わったからといっていきなり使えるようにはならないらしいが、これまでは【神の奇跡】の”か”の字もなかった。
授業といえば王国史ばかり。
昨日、「明日から【神の奇跡】についての授業を始めます。」と突然ダグニーに言われ、みんな浮足立った。
入学してから丸8カ月。
これまで魔力や【神の奇跡】についての授業がまったくなかったのだ。
みんなが落ち着かなくなるのも無理はないだろう。
しばらく待っているとダグニーとナポロが揃って教室に入ってきて、二人の真剣な雰囲気に子供たちも自然と姿勢を正してしまう。
「皆さん、おはようございます。 この8カ月、よく頑張ってきましたね。」
ダグニーは微笑みながら子供たち一人ひとりに視線を送る。
「今日から皆さんが待ちわびた【神の奇跡】の授業を始めます。 ……まあ、まずはその前提となる魔力などについて学んでもらうことになるのですが。」
そこでダグニーの表情が一瞬で冷える。
「これから皆さんが学ぶ授業内容の一切の口外を禁じます。 特に【神の奇跡】について口外すれば、例外なく終身刑となるでしょう。 死刑よりもつらい刑罰をこれから五十年六十年と課せられることになります。」
ダグニーの言葉を聞き、誰かがヒッと息を飲む音が聞こえた。
(……やっぱり。)
ダグニーの冷たい目を見ながら、ミカはそっと溜息をついた。
ミカは、これまで不自然なほどに魔力や【神の奇跡】について教えようとしない学院の姿勢には、何か意味があるのではないかと思っていた。
ミカには他の子供たちが知らない、ミカだけの経験がある。
”学院逃れ”だ。
ミカが魔法を使ってみせただけで、あれだけの大騒ぎになった。
村人を火事から救うためだというのに。
メサーライトは、学院での悪質な違反者は”どこか”に送られると言っていた。
ラディに【神の奇跡】の詠唱を尋ねた時、『固く禁じられている』と言っていた。
キフロドは、”学院逃れ”の行き先は”強制収容施設”だと話していた。
そして、不自然なほど魔力や【神の奇跡】について触れようとしない学院の姿勢。
ミカたちは、その【神の奇跡】を学ぶために法で強制されてまで集められたにも関わらず、だ。
……嫌でも予想がつくと言うものだ。
ただ……、とも思う。
実際の”口外”の適用には、多少の弾力があるのではないかとも思う。
そうでなければ、ミカが魔力について知ることはなかっただろう。
ミカの魔力についての知識のほとんどは、ラディからだ。
国と教会では魔力や【神の奇跡】の情報の取り扱いには、若干の差異があるのかもしれない。
なにより、『一切の例外もなく口外を禁じる』では、こうして授業で扱うこともできない。
おそらくダグニーの言葉は、子供たちが軽々しく口にしないように、少々大袈裟に言っているのではないだろうか。
もしくは、法では厳密に定められているが、やはりその適用には弾力があるのだろう。
ミカはちらっと隣に座るリムリーシェを見ると、先程までの期待半分不安半分だった表情が、はっきりと青くなっているのが分かった。
他の子供たちも、反応はリムリーシェと似たり寄ったりだ。
(たく……、子供にそんなもん教えんなよな。)
ミカとしてはそう思わずにはいられないが、国や領主にはそれなりの事情があるのだろう。
優秀な魔法士は欲しいが、無闇に情報が広がれば治安の悪化にも繋がる。
悪党が大きな”力”を得れば、取り締まる側は苦労するでは済まない。
命を落とす者もいるだろう。
だが、魔力量を増やすにはなるべく早くから取り組む方がいい。
だから厳しい罰で脅して、情報の拡散に一定の抑止効果を期待しているのだ。
「それでは、まずは魔力について学びましょう。」
子供たちのショックなどいつものことなのか、ダグニーは特に気にすることもなく淡々と授業を始める。
魔力についての授業内容は、すでにラディによって教えられていたことがほとんどだった。
魔力は世界に満ちていて、どんな物にも宿っている。
「この黒板にも、この記石にも、皆さんの使っているその机や椅子にも宿っていますよ。 勿論、私たちが吸っているこの空気にも。 吐いた空気にも含まれています。」
ダグニーの話に子供たちは、驚いたように、不思議そうに、あちこちをきょろきょろと見る。
「そもそも魔力とは何か? それは今も研究が続けられていますが、神々が世界を作られた際に使われた”御力”の残滓、と言われています。」
これはミカも知らなかった。
というか、やはり『魔力とは何なのか?』という疑問を持つ人はいるらしい。
残念ながらまだ解明されていないようだが、是非とも頭の良い変じn…………天才たちには頑張っていただきたい。
そして、話は魔物や魔獣にも及ぶ。
「魔物や魔獣は、過剰な魔力を取り込んだ動物などが変態・変異したもの。 そう考えられています。」
魔獣も元々は普通の獣だったが、過剰な魔力により変態や変異していったもの、と考えられているのだそうだ。
ちなみに、この場合の変態とは”紳士”の方ではない。
おたまじゃくしが蛙になったり、芋虫が蛹になり蝶になる方だ。
(ニネティアナが『魔獣は魔力の集まる場所を好む』とか言ってたけど、これが理由なのかね。)
以前聞いた話を思い出す。
魔獣が魔力の集まる場所を好むのには、こういう理由があるのかもしれない。
ただ、普通の獣はそういう場所を嫌うとも話していたので、どのようにして”魔力過剰”になるのか、ちょっと気になった。
(しかし、元々は普通の獣ってのは嫌な話だな。 あの姿形から予想はつくけど……。)
基本的には、ある日突然変異するようなものではなく、数世代かけて徐々に”進化”していく。
そんな感じらしい。
ミカがこれまでに見たことのある魔獣は熊、兎、蛇の姿をしていた。
嫌な”進化”の仕方をしたものだ。
また、魔獣は魔獣で繁殖し数を増やしていくのだとか。
だが、はっきりとは言わなかったが、どうやら人を襲い増えるような種もいるようだ。
(この世界でも、女騎士さんは大変だな。)
まあ、実際は女騎士に限った話ではないが。
魔物や魔獣の中には、人の身体に卵を産み付けるようなものまでいるそうだ。
何十年も前に観た、ミカの好きだった某宇宙生物との闘いを描いた映画のようだ。
(”1”では一匹で大騒ぎだったのが、”2”では山ほど出てきたからな。 駄作の続編が多い中、貴重な前作超えした素晴らしい映画だった。)
ただ、この魔物や魔獣の変態・変異では説明できない種も多い。
もっともポピュラーなのが所謂”死霊系”の魔物だ。
”骸骨”や”幽霊”などがこの世界には存在するらしく、これらは先程の例からは外れた存在だ。
いきなり姿形が変わるような魔物や魔獣の例も報告があり、”進化”だけでは説明できないことも多いそうだ。
魔力が関わっていることだけは確かなようだが。
(まあ、学問なんてのはそんなもんだしな。 何でも仮説を立ててみて、実証は後から。 矛盾が出てくるのは当たり前。 発展途上の分野ならそんなもんだ。)
魔物・魔獣学とでも言えばいいのだろうか。
ファンタジー好きのミカには、今後の発展を期待せずにはいられない素晴らしい研究だ。
そして、こうした内容を数日かけて授業で行い、ついに【神の奇跡】の説明になった。
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「先日もお伝えしましたが、これから皆さんにお話しする【神の奇跡】については、特に取り扱いに注意してください。 ……皆さんが罪に問われるようなことがないことを切に願います。」
ダグニーの言葉を無表情で聞き、そっと周りを窺う。
リムリーシェはダグニーの脅しのような言葉にすっかり怯えているようだ。
他の子供たちも皆一様に苦しそうな表情をしている。
「とはいえ、人前で【神の奇跡】を使えば詠唱を聞かれることになります。 そうしたことまですべて禁じているわけではありません。」
少しだけダグニーは表情を和らげる。
それはそうだろう。
ミカ自身、ラディが【癒し】を使っているところを何度か見てきている。
教会では有償で【癒し】を施したりしている。
詠唱を人に聞かれることまで禁じてしまえば、そもそもロクに使うこともできない。
「あくまで【神の奇跡】を発現するために必要な呪文の詠唱、魔力や祈りの捧げ方などについて人に伝えてはいけないということです。 そこは安心してください。」
だが、ダグニーはそこで表情を引き締める。
「……ですが、毎年数人は罪に問われ、実際に終身刑を受けています。 もしも皆さんが誰かに【神の奇跡】とは何か、どうすれば使えるのかを聞かれたら『教えることは固く禁じられています』とだけ答えると良いでしょう。」
ミカは思わず顔をしかめる。
正にミカは、そのままの言葉をラディに言ってしまっていた。
このミカの聞き方は完全に”アウト”だ。
そして、ラディの答えた『固く禁じられています』というのは、どうやらマニュアル通りの返答だったらしい。
「皆さんがこれから憶えるのは、【身体強化】という【神の奇跡】です。 この【神の奇跡】を来年の秋頃までにある程度使えるようになっていることが、レーヴタイン魔法学院での目標と思ってください。」
どうやら、ミカの初めての【神の奇跡】は【身体強化】ということらしい。
これにはミカも、思わずガッツポーズをしてしまう。
勿論、周りには気づかれないようにこっそりとだが。
(これはナイスチョイスだ! 俺にとっては一番役に立つ【神の奇跡】じゃないか?)
すでに自力で四大元素の魔法を習得したミカにとって、今更”爆発させる”だの”焼き尽くす”だのといった【神の奇跡】を得たところであまり意味がない。
そんなことは自力で何とでもなるからだ。
ラディの使う【癒し】も役に立ちそうだが、自分を癒すだけならこれも癒しの魔法がある。
そもそも【癒し】は使う場面が限られる。
だが、【身体強化】なら冒険者としての活動では非常に有用なのではないだろうか。
何がどの程度強化されるのか詳細が気になるが、ミカは思わずニヤケそうになってしまった。
【身体強化】。
火の神の眷属神、力の神の加護によって、体力など身体能力を強化することのできる【神の奇跡】。
単純な腕力や脚力の強化のみならず、持久力、瞬発力なども満遍なく強化される。
非常に優れた【神の奇跡】だ。
ただ、例えば長距離を走るから腕力のいらない分を、持久力と脚力に割り振るといったようなことはできないらしい。
というか、この質問をしたらダグニーとナポロに「何言ってんだ、こいつ」というような目で見られた。
ちょっと気になったから聞いてみただけじゃないか。
【身体強化】で強化される能力は、割合で伸びるのだという。
魔力の捧げ方で10%アップとか50%アップとか。100%以上の強化も可能だ。
だが、少々ややこしいが、魔力の消費は二段階で行われる。
【神の奇跡】の発現時に捧げる魔力と、それ以降の常時消費される魔力だ。
大まかなイメージとして――――。
<発現時の魔力>
発現時に消費される魔力は最低で”10”は必要だが、それ以上は別にいくつでも構わない。
”11”でもいいし、”20”でも”100”でもいい。
ここで消費した魔力が基本の”出力”に関わる。
最初に大きく支払っておけば、強化で”高出力”を得やすいというわけだ。
<常時消費する魔力>
常時消費する魔力は、毎秒というか、常に消費され続ける魔力だ。
強化時間を長くしたいなら、当然ここで消費する魔力はなるべく小さい方がいい。
”1”の消費で済むなら”1”で済ませたい。
ただし、状況によって「今だけもっと高出力にしたい」ということもある。
そういう時は消費する魔力を”2”でも”3”でも、場合によっては”10”でも構わない。
だが、その場合の消費されていく魔力量は半端なく大きくなる。
<効果>
強化される割合はこの”発現時の魔力”と”常時消費する魔力”を方程式に当てはめて求めることができるらしい。
ダグニーの言う「ある程度使えるように」というのは、この強化の”出力”と消費魔力の関係に慣れろということだ。
<注意点>
自分の中にある魔力量は人それぞれだ。
各人で自分の中の魔力と相談しながら、最初に消費する魔力、常時消費する魔力、必要な出力を感覚で憶えろということらしい。
「先に言っておくが、魔力を使い過ぎると気分が悪くなったり、気を失ったりすることがある。 無理をしないで気分が悪くなる前に【神の奇跡】を打ち切りなさい。 自分の限界を把握するのも一人前の魔法士の最低条件だからな。」
ナポロが真剣な顔をしてアドバイスする。
(そのアドバイスは、もっと早く欲しかったよ、ナポロ……。)
すでに限界を超えてぶっ倒れたことのある身としては、無理だと分かっていても、もっと早く教えて欲しかったと思わざるを得ない。
「まあ、今日のところはまだ大丈夫でしょう。 ただ、【神の奇跡】は扱う者も細心の注意が必要だということを忘れないようにしてください。」
ダグニーはナポロの注意に頷くが、今日は大丈夫だと微笑んで子供たちを見る。
「それでは、今日の授業では詠唱する呪文を憶えます。 魔力や祈りの捧げ方は、また次の授業でやります。 呪文も憶えず【神の奇跡】が使える訳がないのは皆さんにも分かりますね。 しっかりと憶えてください。」
そうして、”火の神”の眷属神という”力の神”に捧げる呪文をクラスの子供たち全員で読み上げる。
「「「創造の火種たる火の大神。 その偉大なる眷属神、漲り迸る力の神よ。 我が祈りを聞き届け、艱難を振り払い、辛苦を打ち砕く豪の力を授け給え。」」」
ダグニーが黒板に板書した呪文を、声を揃えて読み上げる。
(確かにこんなの読むだけじゃ【神の奇跡】が発現しないな。 ……しかし、祈りの捧げ方か。)
ミカはみんなに合わせて呪文を読み上げる間、そんなことを考える。
(やっぱり、祈りが必要なのね。 ……まあ、やってみるけどさ。)
ミカは、どうにも神様に祈りを捧げろと言われても、「うーん……」と首を傾げてしまう。
祈って何とかなるくらいなら苦労しねえよ!と思ってしまう自分がいる。
どうにか上っ面の祈りで何とかなりませんかね?と、この期に及んでそんなことを思っていたりする。
(……ん?)
その時、ミカは自分の中の魔力が、ごく僅かながら動いていることに気づいた。
(何だ?)
今は”制限”中なので、簡単に押さえることができるが、突然の現象に首を捻る。
周りの子供たちを見るが、みんな黒板を見ながら懸命に呪文を憶えようと声を出している。
本当にごく僅かな動きなので、気にするなと言われれば気にしないでもいられるが、そこは”悪い病気”持ちのミカである。
(ちょっと、原因を突き止めてみるか……?)
などと考えてしまう。
みんなが声を出しているのに紛れて、「”制限解除”。」と小さく呟く。
魔力の動きをしっかり把握するには、”制限”の状態よりも、”制限解除”にしていた方が分かりやすい。
だが、今は魔力の動きが止まってしまい、自分の中の魔力を探っても何も起きない。
(何なんだ?)
ますます訳が分からない。
とりあえず、また動き出すまで待ってみようと、みんなに合わせて声を出して呪文を読み上げる。
「創造の火種たる火の大神――――。」
すると、変化はすぐに起き始めた。
呪文を読み上げると、ミカの中の魔力がすぐに動き出した。
動く、というよりは、引っ張られる感じか。
(ちょちょちょっ!?)
内心慌てるが、表面上は何でもない振りをして、そのままみんなに合わせて呪文を読み上げる。
最後まで。
「――――豪の力を授け給え。」
その瞬間、ミカの中の魔力がごっそり持って行かれる。
(なっ!?)
必死に魔力を留めようとするが、ミカは”魔力を留める”のが苦手だ。
抵抗空しく、根こそぎと言っていいほどに奪い取られた。
「ミカ君っ!!!」
悲鳴のようなリムリーシェの声が聞こえた。
振り向くとリムリーシェの姿が歪んで見える。
いや、歪んでいるのはリムリーシェだけではない。
ミカの視界が歪んでいるのだ。
見ると、ミカの全身が陽炎のような物に包まれていることに気づいた。
「なにっ!?」
「ミカ君!?」
「ミカ!?」
「「キャァアーーーッ!」」
ダグニーとナポロは驚愕に目を見開き、ツェシーリアたちは悲鳴を上げる。
その瞬間、ミカの意識が途切れた。
■■■■■■
目を覚ますと、見覚えのない場所に寝かされていた。
横を向くと、ミカの使っているベッド以外にも2つベッドがある。
(保健室か……?)
何となくの雰囲気で、そんな気がした。
全身が怠いが、なぜ自分がこんなところにいるのか記憶がない。
「気がついたようね。」
ダグニーがミカのベッドの横に来た。
どうやら、ミカの見えない位置にいたようだ。
「気分はどう?」
「えーと……、怠いです。」
「まあ、それはそうでしょうね。」
ダグニーが苦笑する。
「他は?」
「他は、特には……。」
ミカがそう言うと、ダグニーは隣のベッドに腰掛ける。
「どうしてここにいるのか、自分で分かる? どこまで憶えてる?」
ダグニーにそう言われ、ミカは思い出す。
「教室で、呪文を読み上げてたら……。」
魔力を奪われた。
根こそぎ。
ミカはすぐに思い出した。
「ミカ君は【身体強化】の【神の奇跡】を発現させてしまったの。」
「…………え?」
ミカはきょとんとする。
「ミカ君の周りにとても強い陽炎が見えたわ。 あれは【身体強化】を発現させた時に現れる現象よ。 ナポロ先生も同じ意見だから、たぶん間違いないわ。 君は魔力を”捧げ過ぎ”て、魔力不足になったの。」
ミカは両手で顔を覆い、「落ち着け……落ち着け……」と自分に言い聞かせる。
【身体強化】が発現した……?
なぜ?
ミカはそんなものを発現させる気などなかった。
言われた通り、呪文を読み上げていただけだ。
「…………【身体強化】を発現させるには、祈りを捧げる必要があるはずでは?」
「ええ、そうよ。 ミカ君はとても信心深いのね。 それに、とても神々にも愛されているみたい。 羨ましいわ。」
勘弁してくれ……。
そんなものを信じた憶えはないし、愛された憶えもない。
「普通はそんな簡単には祈りは届かないし、魔力を捧げることもできないのよ。」
ダグニーがにっこりと微笑む。
(……あんなのは捧げたとは言わねーよ。 奪われたって言うんだ。)
ミカは大きく溜息をつく。
「まだ身体が怠いなら、ここで休んでいてもいいわ。 みんな午後の運動の時間だから、終わったら起こしてあげるわよ?」
「……いえ、……部屋で休んでもいいですか?」
「それはいいけど、一人で大丈夫?」
「大丈夫です。」
ミカは強い気怠さを意地で押さえつけ、起き上がった。
ダグニーの心配そうな顔に見送られ、ミカは教室に戻る。
そうして荷物を回収すると、重い足取りで寮に戻るのだった。
初めて魔法を発現してしまった時以来の、絶望感を抱えて。




