第44話 パズル入荷しました
夏の最後の月である火の3の月、1の週の火の日。
いや、日付が変わってもう水の日だ。
みんなが寝静まった深夜。
ミカは寮の自室で椅子に座り、じっと動かず集中していた。
腕と足を組み、左手は顎に添え、握りこんだ右手には”呪われたお守り”。
「…………できた。」
薄暗い部屋で、右手を開いて神像のお守りを見る。
これまであったざわざわとした感じがなく、それはただのお守りになっていた。
すでに”祝福”も抜けたお守りは、正確にはお守りですらないただの金属の塊。
金属の神像だ。
ミカはこの”呪われたお守り”を手に入れてから、ずっと魔力での干渉を試していた。
ある時、ミカの干渉を拒み反発するだけの箇所と、弱い反応を示す箇所があることに気づいた。
かなり大きな魔力を、繊細に操作しないと分からない違いだが、明らかに違いがある。
反発するだけの箇所はどうにも手がつけられないのだが、弱い反応を示す箇所は魔力で押したり引いたり捻ったりといろいろ試していくうちに、「緩んだ」と感じる状態になることがある。
そうすると、それまで反発するだけだった箇所にも変化が生じることがあり、新たに反応を示す箇所が増えたりする。
なんだろう、これは?と毎日いじり回しているうちに、時間が経つとミカが「緩ませた」箇所が元に戻っていることに気づいた。
目に見えない、手探り状態だったので分からなかったが、毎日元の状態に戻っているのだ。
元に戻り、同じ手順で「緩ませて」いくと、憶えている通りに「緩んで」いく。
(これ……攻略法があるんじゃね?)
六面体のパズルを揃えるように、決められたルール、決められた手順に従えば、必ず揃えることができる。
虎の巻が作れるかもしれない、と手順を書き出すことにし、前日の状態までは試行錯誤しないでも辿り着けるようなった。
そうして前日の状態にまで辿り着いたら、そこから新たな「緩む」箇所を探す。
上手く「緩んだ」ら、それをまた手順に書き加える。
ミカはいつしか、この”呪い”をまるでパズルのように感じていた。
やっていることが、所謂”頭脳パズル”のようなのだ。
知恵の輪のように二つの箇所を同時に、微妙な角度で動かすような操作が必要だったりと、中々頭を使わせる。
だが、決まった操作をすれば、必ず決まった通りの結果になる。
理不尽に思える挙動はない。
これは、娯楽のほとんどないこの世界で、ミカが手に入れた唯一の娯楽だった。
「できたーーっ!」
ミカは机に金属の神像を放り出し、大きく伸びをする。
この達成感。
正しく難解だったパズルを解けた瞬間の感覚である。
「すっげ! 呪いって解けると消えちゃうんだな。 魔力に戻る感じなのか?」
苦節3カ月。
本当に丸3カ月もかけて、ようやく解くことができた。
土の日はリムリーシェの特訓に付き合い、陽の日は採集に出掛ける。
呪いのお守りはミカにとって、平日の帰宅後のお遊びみたいなものになっていた。
子供の頃、学校から帰るとゲームで遊んでいた、あの感覚に近い。
「……でも、そっか。 解けると消えちゃうのか。」
机の上の神像を見る。
もう呪いはなくなってしまった。
つまり、これからは平日の暇潰しがなくなってしまった。
「そっか……。」
名残惜しそうに神像を見つめ、そう呟くミカだった。
「ふぁ~……。」
ミカは大きな欠伸をする。
昨晩はいつもより夢中になり、寝るのが少し遅くなってしまった。
ミカが怠さの残る首を軽く捻っていると、隣に座ったリムリーシェが話しかけてくる。
「どしたの? 眠い?」
「んー……ちょっと夜更かしし過ぎた。」
リムリーシェはミカの隣に座ることが多くなった。
というか、最近はすでに指定席のような状態。
ミカとしては誰が隣でも構わないが、何となく周りが気を利かせてるような空気に、若干の居心地の悪さを感じなくもない。
「夜更かし?」
リムリーシェは不思議そうな顔をする。
こんな何もない寮で、何を夜更かしするようなことがあるのだろうかと思っているのだろう。
ミカは呪いのお守りのことは誰にも話していなかった。
メサーライトには知られているが、基本的に他人のことにあまり干渉しない主義のメサーライトは、余計なことを他人に話したりもしない。
それが分かっていたので、ミカも安心して悪戯を仕掛けられた訳だが。
「まあ、今日は早く寝るよ。」
やることもなくなったし。
ミカがそう言うと、「うん。」と頷いてリムリーシェは自分の魔力操作に集中する。
リムリーシェは、まだ訓練部屋の魔法具では魔力を感じられていないが、自分の意思で少しだけ感じることができるようになったらしい。
感じはするが、ほとんど手応えがない。
ミカにも憶えがある感覚だ。
それでも、少しずつでも成長していることが実感できて嬉しいのか、リムリーシェの表情は本当に明るくなった。
もうしばらく特訓に付き合えば、自分の意思である程度は動かせるようになるだろう。
(土の日の特訓も、もう少しで終了かな。)
そのことを、少しだけ寂しく思う気持ちもある。
平日の暇潰しに続いて、土の日もやることがなくなってしまう。
(何か、いい時間の潰し方を考えないとだなー。)
そんなことを思うミカだった。
■■■■■■
火の3の月、3の週の陽の日。暦の上ではあと2週間で夏も終わる。
そんな日の朝から、ミカは森の中を走っていた。
ミカの周囲の茂みには、ガサガサガサッと同じく走る複数の音。
「チッ!」
前方からもミカに向かってくる何かに気づき、思わず舌打ちをする。
ミカは前方の何かに頭上で待機させていた”石弾”三個を撃ち込み、方向転換する。
これで待機させていた分は打ち止めだ。
方向転換した先に茂みの途切れた場所を見つけ、そこに駆け込む。
ミカが急ブレーキして振り向くと、三匹のソウ・ラービが茂みから飛び出しミカに襲い掛かってきた。
「”石弾”!」
拳大の”石弾”を高速で撃ち出しソウ・ラービを狙うが、命中したのは一つだけ。
さすがに三匹すべてを精密に狙うことはできない。
二匹のソウ・ラービは左右に分かれてミカを挟み込む動きを見せる。
「”火炎息”!」
右に回ったソウ・ラービに広範囲の炎でけん制し、左のソウ・ラービに狙いを定める。
「”石弾”!」
十個の”石弾”を作り、すべてをばらけさせて撃ち出す。
散らばった”石弾”を躱しきれずにソウ・ラービは絶命する。
残りのソウ・ラービに攻撃しようとして、背後にぞわりとしたものを感じる。
ミカが横に転がるようにして飛ぶと、ミカの居た場所を棒状の物が高速で通り過ぎる。
地面に着地した”それ”を見ると、3メートルはある巨大な蛇だった。
十個はありそうな不気味な目が爛々と赤く輝いている。
クート・バイパー。
森に生息する魔獣の中でも、上位に位置する魔獣だった。
「”氷結息”!」
ミカは魔法を切り替えて、”氷結息”でクート・バイパーをけん制する。
こいつの弱点が冷気だというのは、以前に森に生息する魔獣を調べた時に読んで知っていた。
冷気で近づけさえしなければ怖い相手ではない。
もし近づかれたら、あっという間に巻つかれ全身の骨が砕かれるが。
「”石弾”!」
”火炎息”がなくなったことで突っ込んできたソウ・ラービを十個の”石弾”で倒す。
「”風刃”!」
即座に”風刃”五つを放ってクート・バイパーを輪切りにする。
”火炎息”で燃えた茂みに大量の”水飛沫”を大雑把にぶっかけ、ミカは警戒しながらも全力で森から脱出するのだった。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」
湖岸まで逃げてきたミカは膝に手をついて、荒い呼吸を繰り返す。
(……死ぬ!…………まじ、死ぬ!)
大量の汗が全身から噴き出し、このまま湖に飛びたい気分だった。
しばらくは動くことができず、乱れた呼吸を整える。
「やばかったーーー……。」
落ち着いてくると、”水球”を作り頭から突っ込む。
乱暴に顔を洗い、頭をガシガシ掻くと、適当に”水球”を投げ捨てる。
おざなりに髪をかき上げ、一息つく。
今日のミカはついてなかった。
陽の日はいつも森に出掛けて、枯実草の採集をする。
今日も朝から森に来たのだが、採集を始める前に二匹のソウ・ラービに出会ってしまった。
茂みにいるソウ・ラービはミカに気づいておらず、「さて、どうやって倒そうか」と考えているところに、少し離れた場所でもう一匹のソウ・ラービが茂みから出てきた。
後から現れたソウ・ラービはミカに気づき、即座に突っ込んできた。
慌てて撃ったミカの”石弾”は残念ながら躱され、そのため二匹のソウ・ラービにもミカのことを気づかれた。
これはまずい、と頭上の”石弾”をけん制に使いながら戦いやすい場所を探していたら、前方から近付くクート・バイパーに気づいた、という訳だ。
どう動くべきだったのだろうか?
ミカは頭の中で先程の戦いを考える。
三匹のソウ・ラービに囲まれた時点で”風千刃”を使うべきだったのだろうか?
ただ、残念ながら”風千刃”はまだ焦っていると上手く制御できない。
口腔や鼻孔、耳孔に魔力を送り込まなくていけないので、かなり意識を集中して魔力を操作しなくてはならない。
致命傷を狙わないのなら、とりあえず発現させて三匹のソウ・ラービにダメージを与える、というのもありだろう。
だが、一度発現させてしまえば、また魔力を広げ直さなければならない。
これまでの地道な練習により、魔力を目標の10メートルまで広げることはできるようになってきた。
ただし、それだけに専念すれば、だ。
いつもは森に入る前に準備し、その状態を維持するように努めるだけで良かった。
森の中で”風千刃”を使ってしまえば、もう一度展開し直すまで魔力の効果範囲を利用した索敵ができなくなってしまう。
それを嫌って”風千刃”を使わず、戦いやすい場所を探すことにした。
前方からのクート・バイパーの接近は、そのおかげで知ることができた。
まあ、ソウ・ラービをさっさと倒せていれば、そもそもクート・バイパーと遭遇することもなかったかもしれない。
だが、魔力を広げていたからソウ・ラービと戦っている最中に、背後から襲ってきたのを察知することができた。
どちらにもメリットがあり、どちらにもデメリットはある。
どちらを選んでも生き残れたかもしれないが、冒険者にとってはそれこそがすべて。
生き残りさえすれば次があり、次があるならその時にもっと上手くやればいい。
「とはいっても、さすがにくたびれもうけってのはなあ。」
ミカはがっくりと項垂れる。
死ぬような思いで生き残れはしたが、今日はまだ一ラーツすら稼げていない。
先程の場所に戻ればソウ・ラービの死骸がある。
三匹分を回収できれば、いい金額にはなることは確かだ。
「また、あそこに戻るの……?」
さすがにそれは勘弁してほしい。
血の匂いに他の魔獣がすでに寄って来ているかもしれない。
危険に飛び込むのが冒険者と言えど、自分の実力は弁えないといけない。
「今日は諦めるかー……。」
空を仰ぎ、「うがぁーっ!」と吠える。
そんなことをしても憂さなど晴れないのに、やらずにはいられなかった。
ミカは街に戻り、防具屋で革のブーツを発注した。
すでに革の手甲と胸当ては手に入れたが、もう少し守りを固めたいと思っている。
最初はナイフを買いたいと思っていたが、ミカの攻撃のメインは魔法だ。
ナイフを手に入れたところで、劇的に何かが変わるわけではない。
付け焼刃のナイフ術で、魔獣たちと渡り合うのは無理だろう。
それならば、少しでも守りを固めることが命を繋ぐと考えた。
防具屋の次には鑑定屋に向かった。
中に入ると狭い店内の奥に、ぼさぼさ白髪の老婆がいる。
老婆は手の中の小さな装飾品を眺めていた。
「おや、お客さんかい。 いらっしゃい、嬢…………いや、坊ちゃんかい。 まあどっちでもいいさね。」
老婆はミカのことを憶えていないらしい。
「どうしたんだい? 何か鑑定してほしいのかい?」
「いえ……。」
ミカが首を振ると、老婆はつまらなそうに手の中の装飾品に視線を戻す。
「なんだい、冷やかしかい? こっちにゃ見るような物はないさね。 あっちにお行き。」
もうミカに興味がないのか、老婆は手の中の装飾品をいじる。
どうやら宝石の装飾が付いたネックレスのようだ。
「お聞きしたいことがあるんですけど……。」
ミカは老婆に声をかける。
老婆は溜息をつくと、カウンターの下にネックレスを仕舞う。
「ここは鑑定屋だよ? 聞かれても答えるのは鑑定結果だけさね。 見て欲しい物ができたら、またおいで。」
どうやら、老婆にはミカの相手をする気はないようだ。
「呪われた物が持ち込まれることは多いんですか?」
ミカは構わず質問をぶつけてみた。
ミカは先日、お守りの呪いを解いてしまった。
そのため、平日にやることがなくなってしまったのだ。
ミカにとっては呪いに魔力で干渉するのはパズルのようなものだった。
もし手に入るなら、別の呪われた物も試してみたいと思ったが、そもそも呪われた物なんてどこに行けば手に入るのか。
その辺の店で売っているわけもなく、以前鑑定してもらった時に「引き取ることもある。」と言っていたことを思い出した。
ここに来れば、交渉次第で何とかなるのではないか、と。
もっとも、交渉に使えるカードなど、ミカには何もないのだけれど。
老婆はミカの顔を訝し気に眺め、「あ!」と声を上げる。
「あの時の坊ちゃんかい! お守りも買って行って、何か企んでた子!」
……いや、何も企んでいないんですが。
老婆の中では、ミカが何か悪さを考えていたことで確定しているようだ。
「実は、あれから『呪いとは何か?』といろいろ考えてまして。 それで、他の呪われた物も見てみたくなったんです。」
「呪いは呪いだろう? 何を言ってるのさ?」
老婆はますます訝し気な顔をする。
変なことを言う子供だ、と思われているのだろう。
「それで、呪われた物は持ち込まれることは多いんですか?」
ミカは再度同じことを聞いてみる。
「……別にそれほど多くはないよ。 月に一個二個ってとこさね。」
どうやら、毎月持ち込まれることはあるようだ。
「それを引き取ることは?」
「まあ、無くはないね。」
素直に答えてくれる。
少しミカに興味が出てきたのか、それともさっさと追い出すために仕方なく相手をしているのか。
「引き取った物はどうしているんですか?」
「呪われた物の行き先なんか、教会に決まってるだろう? 自分で持ってたってロクなことにゃならないさね。」
呪われた物は教会に持っていくようだ。
「教会で呪いを解いてもらうんですか?」
「馬鹿な事言う子だね。 教会にだって呪いは解けやしないよ。 寄付をして、封印してもらうだけさ。」
「…………呪いは、解けない……?」
「当たり前だろう。 何言ってるんさね。」
ちょっと、予想外の答えが返って来てしまった。
ゲームなんかでは、教会でお金を払って呪いを解いてもらうのは定番の設定だが、この世界では呪いは解くことができないらしい。
それでは、ミカのやったことは何だ?
ミカは呪いが解けたと思ったが、実は解けていないのだろうか。
呪いは解けたのではなく、ミカに移った……?
いや、ミカは呪いが”解けた”と思った。
勘違いと言われればそれまでだが、ミカには呪いが”呪いの状態を維持できず”に霧散したように感じたのだ。
(…………これは……。)
考え込んでしまったミカに、老婆は肩を竦める。
「気が済んだんなら帰っておくれ。 馬鹿な事考えてないで、外で遊んできな。 子供はそれが一番さね。」
老婆はギシと椅子を軋ませて、背もたれに寄りかかる。
「…………呪われた物の引き取り料って、いくらなんですか?」
ミカは俯いたまま尋ねる。
老婆は溜息をついて、カウンターに張ってある紙をおざなりに指さす。
紙には銀貨一枚から大銀貨五枚までの、何段階かの鑑定の料金表と、一番下に呪物の引き取り料が書かれていた。
「……銀貨五枚。」
「一律で一個銀貨五枚。 物によっては引き取れない物もあるけどね。 で、教会への寄付は銀貨四枚。 残りが手間賃さね。」
老婆はミカが聞いてもいない料金の内訳を答える。
ミカは思わず苦笑してしまう。
さて、ここからどうしようか。
老婆が引き取った呪われた物を譲り受けることは可能だろうか?
普通に考えれば無理だろう。
そして、ミカには交渉に使えるような材料はない。
それなら、いつも通りとりあえずやってみるだけだ。
だめなら、その時にまた考えればいい。
「今、引き取った呪われた物ってあるんですか?」
「今はないね。 この間持って行ったところさ。」
タイミングが悪かったようだ。
最近持って行ってしまったところらしい。
月一に近いペースで持ち込まれるなら、次はまた来月ということになる。
「……そうですか。」
ミカは項垂れるが、すぐに閃くものがあった。
「でも、教会に行けば、ある……?」
思わず呟く。
みんなが教会に持ち込むなら、毎日とは言わなくても、それなりの頻度で持ち込まれているのではないだろうか。
封印とやらが何か知らないが、封印される前の物がそれなりにありそうだ。
それを、どうにかして手に入れられないだろうか。
「こらっ、悪ガキッ! 教会に悪さするなんざ許さないよ!」
だが、ミカの呟きを聞いた老婆がミカを怒鳴りつけた。
どうやら、この老婆は熱心な光神教の信者のようだ。
「しません!しません! 考えたこともありません!」
両手を上げて降参のポーズを取る。
悪さなんてとんでもない。
ミカはただ、呪われた物を譲ってもらえないかな、と考えただけだ。
まあ、老婆にはとっては、それでも十分悪さを企んでいることになるのだろうが。
老婆は、それでも信用ならんといった面持ちでミカを見る。
「まったく何企んでるんだい。 何か仕出かしたら、本当に承知しないよ。」
「本当に企んでなんていません。 ただ、ちょっと興味があるだけで……。」
「興味ぃ……? さっきもそんなこと言ってたね。」
老婆は少し落ち着いたのか、呆れたような表情でミカを見る。
「…………あのぉ……。」
ミカは老婆の顔色を窺うように、小声で話しかける。
「……今度は何だい。」
「できたらでいいんですけど……、もし呪われた物を引き取ったら、ちょこーっと見せてもらえないかなぁ、なんて。」
「はぁあ?」
老婆は心底呆れたような声を出す。
「そんな物、見てどうすんのさ。」
「いや、ですから、ちょっと興味があって。 毎週陽の日に見に来ます。 それまで取っておいてもらえないでしょうか。」
お願いしますっ!とミカは両手を合わせて拝んだ。拝み倒した。
何やら真剣に頼み込むミカに、老婆は難しい顔をして考え込む。
「……何でそんなもんに興味持つかね。 それに、陽の日だって? こっちはさっさと教会に渡してせいせいしたいんさ。」
「すみません。 学院とかあって、確実なのは陽の日だけなんです。」
本当は、平日も時間だけはある。
だが、平日はとても動く気がしないのだ。
午後の運動でくたくたになった上で、鑑定屋までの往復4キロメートルはさすがに厳し過ぎる。
「学院……? 騎士学院かい? それとも魔法学院?」
「魔法学院です。」
ミカは左腕の手甲を外し、ブレスレットを見せる。
学院生の証のブレスレットだ。
以前来た時も付けていたのだが見ていないだろうか?
もしかしたら、その時は気づいたが忘れてしまったのかもしれない。
「こりゃたまげた。 こんな悪ガキが魔法学院の学院生かい。」
「いや、悪ガキじゃないんで……。」
ミカは苦笑する。
老婆はまた難しい顔をして考え込む。
「……興味があるってのは、呪いについて何か研究でもしてんのかい?」
老婆は口をへの字に曲げながらミカに質問してきた。
「研究なんて言えるようなものではありませんが、いろいろ調べてみたいと思っています。」
これは嘘ではない。
いろいろ調べた結果、呪いは解かれ、魔力に還る。
それだけだ。
老婆は腕を組んで、んんー……と考え込む。
「…………陽の日まででいいのかい。」
ぽつりと呟く。
「いいんですかっ!」
「月の日には教会に持ってくからね。」
「はい!」
なんと、魔法学院という”ブランド”の力で老婆の態度が変化した。
ミカは何度も何度もお礼を言い、頭を下げた。
そして2週間後、ついに呪われたブレスレットが持ち込まれた。
「おお~……。」
ミカはブレスレットを右手に乗せ、感動に打ち震えた。
いや、嘘です。本当は寒くもないのに右手だけ震えちゃうんです。
何ですかね、これ?
「ブレスレットはあんたが持ってきたお守りなんかとは訳が違う、本物の呪いだよ。 効果はおそらく体力と精神力の低下さね。 他にも弱い効果はありそうだけど、身に着けると体力の低下が一番深刻さね。」
「身に着けないと?」
「こういうのは、身に着けさえしなければ基本的には効果はないさね。 まあ、あくまで基本的にはだけど。 でも、こいつに関してはまず間違いないさね。」
ミカは右手のブレスレットを凝視する。
目に見えて何かあるわけではないのだが、とにかく右手に伝わる波動というのか、魔力にビシビシ伝わってくるものがある。
右手が震えてしまうのも、その波動の影響だと思う。
「…………あのぉ……。」
ミカは老婆の顔色を窺うように、小声で話しかける。
「今度は何だい! まったく、あんたがそんな風にする時はロクでもないことに決まってるよ!」
なかなかいい勘をしてらっしゃる。
「こちら、お譲りいただくわけには……。」
「馬鹿おっしゃいっっっ!!!」
特大の雷が落ち、ミカは思わず身を竦ませる。
「そこを何とか! お願いします!お願いします! 絶対にご迷惑はおかけしません!!!」
「もう迷惑してんだよっ!」
ミカと老婆の一進一退の攻防。
それでも何とか拝み倒し、何なら土下座もしてみせた。
この世界では土下座なんかに意味はないが、老婆はミカのあまりのしつこさに、…………ついに折れた。
絶対に身に着けないことと、必要無くなったらまた老婆に返すという約束により、呪われたブレスレットを無料で譲ってもらうことに成功した。
老婆の矜持で、「こんな物を売る訳にはいかない。」のだとか。
やったね、パズルゲットだぜ!




