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第39話 自分なりの戦い方




 苦い経験となった初クエストから1週間後。

 ミカは再び湖に来ていた。

 ただ、今日は枯実草の採集だけで、モモリマ石やラズラッサ草は採集しない。

 これら3種の採集に限れば、枯実草がもっとも効率良く稼ぐことができる。

 なので、今日は枯実草だけを採集するつもりだ。


 前回、何とか街まで戻れたミカはそのまま冒険者ギルドに寄って採集した物を買い取ってもらった。

 収入

   モモリマ石   二十三個    1350ラーツ

   ラズラッサ草  三キログラム   900ラーツ

   枯実草     四百三十グラム 3000ラーツ

   ―――――――――――――――――――――――

   合計              5250ラーツ


 一日かけてこれしか稼ぐことができなかった。

 しかも、収支はこれだけではない。

 支出

   毒消し     一個      3000ラーツ


 ミカは念のため、毒消しを道具屋で買って使用していた。

 これにより、最終的な収支は二千二百五十ラーツとなった。

 命を危険に晒し、あれだけ痛い思いをして、絶望に打ちのめされながら稼いだお金がたったこれだけである。


 ギルドには登録の時に対応してくれた金髪もっさりお姉さんがいて、ミカの落ち込んだ様子を心配してくれた。

 ミカがギルドカードを出すと、あの時の兎が”ソウ・ラービ”という魔獣だと、カードに貯えられた魔力から判明した。

 ミカが何とか倒せたことを話すと、驚き、褒めてくれたが、森に入ったことは咎められた。

 まだ貴方には早過ぎるわ、と。


 一応、お姉さんに聞いてこのソウ・ラービが毒を持っていないことは確認できたが、どんな病原菌を持っているか分からない。

 ギルドを出たミカは、その足で道具屋に行って毒消しを買った。

 どうやら、この毒消しというのはあまり毒の種類に関係なく効くらしい。

 おいおい本当かよ、と思ってしまうが、そういう物らしい。


 こうして、ミカの初めてのクエストは一応の黒字で終わった。

 苦労に見合った報酬金額かは別として。


 そしてその後の1週間を、ミカは後悔と自分への怒り、再戦のための準備に費やした。

 学院の校舎には図書室があり、そこの文献に魔獣について載っている物があった。

 サーベンジール周辺にいる魔獣、特に森にいる魔獣についての情報収集はそこでできた。


 自分の戦い方の何が問題だったのか。

 どうすれば自分の思い描く通りに戦えるのか。

 逸る気持ちとあの時の恐怖、気を失いかねないほどの痛みを思い出し、居ても立っても居られないような1週間を過ごした。







 湖の美しい眺めを見て気持ちを少し落ち着かせようと思ったが、その目論見は完全に外れてしまった。

 湖岸に立つと、あの時の悔しさがより一層湧き立ってくる。

 鼻をつく血の匂い、湖の冷たさ、悔しさ、涙。

 すべてが鮮明に思い出された。


 諦めてミカは森に向かった。

 森に近づくと、恐怖に足が竦む思いがする。

 ミカを殺そうと襲い掛かって来た、あのソウ・ラービの恐ろしい顔が脳裏に浮かぶ。

 ミカは大きく深呼吸をすると、「”石弾(ストーンバレット)”。」と呟き”石弾”を作り出す。

 三十個の”石弾”。

 それを自分の頭上に待機させる。

 魔法の制限は、街を出て早々に解除しておいた。

 街を一歩出れば、そこはもう人間だけの領域(テリトリー)ではない。

 例え森でなくても、魔獣が出る可能性を排除するべきではない。

 そのことに、この1週間でようやく気づいたのだ。


 ミカは周囲を警戒しながら慎重に森を進む。

 目的は枯実草の採集場所。

 前回来た時と同じ場所に着いたが、ソウ・ラービの死骸がない。

 おそらく、血の匂いに気づいた他の魔獣がやって来て食べたのだろう。

 残骸すら残っていないことに少し驚くが、すぐに頭の中から追い出す。


 雑嚢からボロ布の袋出して、枯実草の採集を開始する。

 頭上に”石弾”を待機させたまま、周囲を警戒しながらの採集。

 前回ほどのペースでは採集ができないが、それでも黙々と作業をしていくと、それなりに集めることができた。

 2時間ほど集めると、前回と同じぐらいの量が集まった。

 これで(おおよ)そ三千ラーツほど。

 週に一回しか来れないのだから、これだけでは少々不満が残る。

 ミカは少し休憩をしてから、また採集することにした。


 そうしてまた2時間ほど採集をすると、少し空腹を覚えた。

 プチ、プチと枯実草を集めながら、そろそろ昼休憩にしようか考えていると、微かにガサッと音がした。

 ミカが採集している場所よりも斜め前方。

 ミカは布袋をその場に置いて慎重に立ち上がり、ゆっくりと後ろに下がる。

 音のした方向に意識を向けつつ、周囲も警戒する。

 茂みから7~8メートルほど離れると、頭上に待機させていた”石弾”の一つを茂みに撃ち込む。

 すぐにガサガサガサッと何かが動く音がして、また静かになった。


(……いる。)


 ミカは音のした方に注意しつつ、他の方向も警戒を解かなかった。

 魔獣は一匹とは限らない。

 息の詰まるような時間がゆっくりと流れる。

 音がしないとミカにはどこに魔獣が潜んでいるか探ることができない。

 ニネティアナのような気配を探る達人の真似は、一朝一夕でできるようになるものではない。

 むしろ、あんな芸当は一生無理なのではないだろうか。

 ミカは一個ずつ、怪しいと思われる場所のいくつかに”石弾”を撃ち込む。

 だが、今度は反応が返ってくることはなかった。


 ミカはじっと動かず、警戒を続けた。

 5分、10分と息苦しい時間が流れる。

 魔獣がどこに行ったのか、ミカにはまったく分からなかった。

 すでにどこかに行ってしまったのだろうか。

 もしかしたら、ただの鼠か何かだったのかもしれない。

 緊張の糸が今にも切れそうなほど、張り詰めた空気。

 ミカは適当に”石弾”を茂みに撃ち込んだ。

 すると、十個目を撃ち込んだ時にガサガサッと音がした。

 先程の場所からは10メートル以上も離れた場所。

 ミカの横に回り込もうとしていたらしい。

 思わず口の端が上がる。


(……まだ()()()()()か。)


 ミカは少し嬉しくなった。

 前回は不意の遭遇だったが、ソウ・ラービは一気に襲い掛かって来た。

 ミカの”石弾(ストーンバレット)”も最初は避けていたが、そのうち当たることを警戒することもなくなった。

 その魔獣が、今はミカを警戒して身を潜めている。

 ほんの少しだけ、魔獣に認められた気がして、つい嬉しくなってしまったのだ。


 今のミカは、警戒に値する、と。


 だが、いつまでもこのままではミカの方が根負けするだろう。

 集中力は森に入ってからずっと高めたままだ。

 魔法の維持、周囲の警戒と、すでに4時間以上も緊張を強いられている。

 このままではミカの方がもたない。


(ちょっと強引だけど、決めさせてもらうよ。)


 ミカは「”石弾(ストーンバレット)”。」と呟き、頭上の”石弾”を補充する。

 そして、再び一個ずつ茂みに撃ち込み、反応の返ってくる場所を探す。

 五個目を撃ち込んだところで反応が返ってきた。


「”風刃(エアカッター)”!」


 ミカは無数の”風刃”を茂みの地面すれすれに放つ。

 次々と茂みが刈られ、突然の状況変化に魔獣が堪らず飛び出す。

 魔獣は前回と同じ、ソウ・ラービだった。

 ミカは一個ずつ”石弾”をソウ・ラービに撃ち込む。

 ソウ・ラービは素早い動きで”石弾”を躱しながら、ジグザグに向かってくる。

 ミカとソウ・ラービの距離が3メートルほどになった時、ミカは頭上の”石弾”の半分を少し広い範囲で撃ち出した。

 どう躱そうと、その場所にも”石弾”が撃ち込まれるように。


 ビィィッ!


 ミカの狙い通り、二個の”石弾”がソウ・ラービの後脚と胴体に当たった。

 ソウ・ラービが初めて鳴き声を上げる。

 それでもソウ・ラービは何とか体勢を立て直そうと機敏に動く。


「”火球(ファイアボール)”!」


 ミカは五個の”火球”をソウ・ラービに放った。

 いくら魔獣がタフでも、後脚を一本失えば思うようには動けない。

 ソウ・ラービは”火球”を躱そうとするが、バランスを崩して跳躍に失敗したようだ。

 すべての”火球”がソウ・ラービに命中し、激しく燃え上がった。


 ビィィィイイイイイッッッ!!!


 ソウ・ラービが断末魔の叫びを上げて、やがて動かなくなった。

 ミカは動かなくなったソウ・ラービに”石弾”を数個撃ち込み、絶命したことを確認する。


「”水球(ウォーターボール)”。」


 水の塊を数個出し、燃えるソウ・ラービの死骸にかける。

 念のために”(ウォーター)飛沫(スプラッシュ)”も周囲にかけた。


 それから周囲を警戒しつつ、ミカは荷物を回収して森を出たのだった。







 森から離れ、湖岸に戻って来た。

 そこで初めてミカは大きく息を吐き出し、緊張を解いた。

 荷物を置き、”水球(ウォーターボール)”を作ると乱暴に顔を洗う。


「はあーー……、疲れたぁー……。」


 思わず呟きが零れる。

 今日森に来たのは枯実草の採集のためだが、一番の目的は魔獣との戦闘だ。

 この1週間、ミカの中で悔しさや自分への怒りがずっと渦巻き、心の中を支配していた。

 日に日にその思いは強まり、気が狂いそうなほどだった。


「…………ようやく、勝てた……!」


 ミカは両手を強く握り締めて呟き、勝利を実感する。

 身体が打ち震えるほどに。


 ミカはずっと、どう戦うべきなのかを考え続けた。

 自分の強み、自分の弱み。

 ぐるぐるぐるぐる頭の中で考え続け、とりあえず自分なりの戦い方を思い描くことができた。

 といっても、まだ机上の空論のようなもの。

 実戦によって少しずつ改良する必要があるだろう。

 だが、自分がどう戦うべきかさえ分かっていないようでは、戦いようがない。

 そんなことすら、死ぬような思いをしなければ気づかなかったのだ。


 ミカの強みは何といっても、この魔法だろう。

 そして豊富な魔力量。

 ”火球(ファイアボール)”や”石弾(ストーンバレット)”、”氷槍(アイスジャベリン)”なら数百個を作れる。

 しかも、”吸収(アブソーブ)”での回復を考慮すれば、ほぼ数の上での上限はない。

 圧倒的な物量が可能なのだから、それを使わない手はないだろう。

 ただし、同時に数百個の”火球”や”石弾”を操れるわけではない。

 魔力量は問題ないかもしれないが、ミカの習熟度が”数量の限界(ボトルネック)”になる。

 そのため、数多くの”石弾”を操る練習を兼ねて、森に入る前から三十個ほどの”石弾”を出しておいたのだ。

 こうすることで必要な時にいちいち作り出す手間が減らせるし、集中力が落ちれば”石弾”が落ちてくる。

 警戒しながら魔法を維持をする訓練にもなる、今のミカには最適な方法だと言えた。


 そしてミカの弱みだが、経験のなさは言うまでもない。

 それ以外にも装備の貧弱さが挙げられる。

 ミカは結局、防具を買えていないのだ。

 理由は単純。お金がないから。

 ないものはどうしようもない。

 なので、そこは諦めるしかなかった。

 装備が揃ってから活動開始では、いつになるか分からない。

 お金を貯めて、最優先で防具を揃えようと思っているが、それまでは仕方ない。

 危険を承知で挑むしかない。


 今日戦ってみて分かった、ミカの弱みがもう一つ。

 敵の位置がさっぱり分からないことだ。

 適当に石弾を撃ち込んで位置を探ったが、この方法では埒が明かない。

 危うく今日は横に回り込まれるところだった。

 一応周囲も警戒していたが、それでも横から襲い掛かられる状況はできるだけ避けたい。

 アグ・ベアや前回のソウ・ラービは突撃して来たが、今回のように潜まれるのは非常に困る。

 この対策も考える必要がありそうだ。


 ミカは大きく伸びをした。

 湖に冷やされた空気を胸一杯に吸い込む。

 それから雑嚢からパンを取り出し、齧りながら西門に向かって歩き出した。







 ギルドに着くと、そこそこ冒険者がいた。

 今は昼の2時頃だろうか。

 十組以上の冒険者のパーティと、一人二人の冒険者がちらほら見える。

 何人いるのか数える気にならないくらいの冒険者が、ギルドの吹き抜けになったフロアにいた。

 それでもあまり混んでいるような印象を受けないことで、改めてギルドの広さを実感した。

 ミカが中に入って行くと、何人かの冒険者が「なんで子供が?」というような顔をする。

 先週は周りを気にする余裕などなくて気づかなかったが、多分同じような感じだったのだろう。


「あら、いらっしゃい。 今日も行ってきたの?」


 カウンターの近くを通った時、いつもの金髪もっさりお姉さんが声をかけてきた。

 相変わらずどこぞの高飛車お嬢様のような雰囲気を醸し出し、豪奢すぎてとてもギルドの職員に見えない。


「こんにちは。 引き取り窓口に行ってきます。」


 ミカは挨拶を返して、そのまま引き取り専用の窓口に向かう。

 ギルドでは、建物の中に採集物や依頼の品を渡す専用の窓口がある。

 ただし、魔獣や魔物の身体、獣などの大きかったり周りを汚しそうな物は、街壁の門を入ってすぐに専用の窓口がある。

 そんな物を持って混み合った大通りを歩こうものなら、苦情が殺到するし、トラブルだらけになるからだ。

 それなら街壁の外で引き取れば?と思うが、そうもいかない事情があるらしい。

 なので、なるべく迷惑にならないように、街に入ってすぐの場所で引き取れるようにしているのだという。


 ミカは、今日採集してきた枯実草を引き取り窓口に出し、カードを提示する。

 係のおじさんがミカのカードを金属の棒で軽く触れると、その場で量を計る。

 今日の採集は八百五十グラム、五千九百五十ラーツほどだった。

 引き渡しの書類にサインして、フロアで呼ばれるのを待つ。

 すぐに金髪もっさりお姉さんがミカの名前を呼んだ。


「はい、ミカ君。 お待たせ。 報酬は現金にする? カードにプールする?」

「カードでお願いします。」


 ミカはカードをお姉さんに渡す。

 お姉さんが今回の入金金額と、カードの残額を教えてくれる。

 この残額はミカが聞いたから教えてくれただけで、聞かなければ特に言われることではない。

 こんな人の大勢いる所で「残額は百万ラーツです。」とか、誰も言われたくないだろう。

 ミカはまだこのカードに慣れていないので、一応確認のために聞いているだけだ。

 慣れてくれば、ミカもわざわざ聞くようなことはしない。


「またソウ・ラービの討伐記録があるわね。 ……また森に行ったの? 枯実草の採集だから、森なのは当たり前か……。」


 じとー……とした目でミカを見る。

 どうやら、お姉さんはミカの実績の記録を見ているようだ。

 ミカの乾いた笑いが漏れる。


「もう、本当に危ないのよ?」


 お姉さんが頬を膨らませる。

 まるで弟を叱る姉のようだ。

 少しだけ、ロレッタとの会話を思い出し懐かしい気持ちになった。


「はい、気をつけます。」

「……やっぱり分かってないわね。」


 ミカは微笑みながら返事をするが、森に行くのをやめる気がないことが分かったようで、お姉さんは溜息をつく。


「今日はスムーズに戦えたのね? そういう顔してる。」


 ミカを見て、そんなことを言う。

 ミカが顔を傾げると、心配そうな表情で言葉を続ける。


「先週のミカ君は、本当にぼろぼろだったもの。 服がヨレヨレなのはいいとしても、すごく落ち込んだ顔してたから。」


 どうやら、見抜かれていたらしい。

 厳しい現実に打ちのめされ、手も足も出なかった自分の不甲斐なさに、地の底に潜ってしまうそうなくらい落ち込んでいた。


「すみません。 ご心配をおかけしました。」


 ミカが素直な気持ちを伝えるが、お姉さんは処置なしといった感じに肩を竦める。


「……まったくもう。 可愛い顔して、とんだやんちゃさんだったわね。 本当に、お願いだからあんまり無茶なことはしないでね? ね?」

「はい。 それでは失礼します。」


 ミカはお姉さんに軽く会釈して、ギルドを出た。







「なになに、ユンレッサ。 あの子が例のお気に入りの子?」


 カウンター越しにギルドから出て行くミカを見送っていたユンレッサに、隣の同僚が話しかけてくる。


「なによ、お気に入りって。」


 ユンレッサはカウンターの上の書類を整えながら答える。

 例の、とは何のことだろう?


「みんな言ってるわよ。 最近ユンレッサが小さい男の子?にご執心って。 もしかして、そっちに目覚めちゃったんじゃないかってさ。」


 同僚が可笑しそうに話す。

 目覚めたとは何だ、目覚めたとは。

 一体、何に目覚めたというのか。

 そっちとは、どっちだ?


「そういうのじゃないわよ、ばか。 あんな小さい子が危ないことしてるから、ちょっと心配なだけ。」

「あー。 まあ、そういうのは分からなくもないかなあ。」


 同僚は難しい顔をする。


「でも、あんまりいいことじゃないよ。 そういうの。」

「うん……。 分かってはいるんだけどね。」


 ユンレッサは頷く。

 何をどうしたって、冒険者というのは危険な仕事だ。

 毎年何人もの冒険者が命を落とし、怪我などで引退を余儀なくされる。

 それでも、そうした仕事にしか進めない者は常にいて、自分はその危険な仕事を斡旋する側の人間なのだ。

 心配など、ただの言い訳か感傷だろう。


「先週が初めてのクエストで、本当にひどい状態で帰って来てね。 それでつい、気になっちゃったのよ。」

「あははは、それで今週はずっと、ちょっと上の空だったんだ?」

「別に、上の空だったつもりはないですけど?」


 上の空だっただろうか?

 確かに、仕事中にもちょっと思い出してしまったりしていたが。


「……でも、すごいね。」

「ん? なにが?」


 ユンレッサの呟きに、同僚が聞き返してくる。

 それには気づかず、ユンレッサは物思いに耽る。


 先週ミカがギルドに姿を見せた時、ユンレッサは心臓が締め付けられるような思いだった。

 ヨレヨレで、くすんだような沁みのついたシャツやズボンはまだいい。

 ミカ自身があまりにもボロボロだったのだ。

 初めて会った時の、子供らしい溌溂とした感じは鳴りを潜め、まるで自分以外のパーティーメンバーが全滅した冒険者のような雰囲気を纏っていた。

 苦し気に顔を歪め、それでも目だけは光を失っていなかった。

 ギラギラとした鋭い眼光。

 とても子供が持つような目ではなかった。

 前の週に自分が冒険者登録をした子と同じとは、とても信じられなかった。


 だが、今日のミカは先週とはまったく違った。

 初めて会った時とも違う。

 今日を含めても、まだたった3回しか顔を会わせていないが、大きな成長と可能性を強く感じた。

 あんなにも小さな子供なのに、しみじみ「冒険者なんだなあ」と思ってしまった。


「……やっぱり上の空じゃん。」

「え? あ、何?」


 考え込むユンレッサを、同僚が目を細めて、じー……と見ていた。


「さすがにこれは、春が来た、と喜んでいいものやら。 ちょっと悩んでしまいますよ、私は。」

「だから、何の話よ!」

「そこ、騒いでないで仕事して!」


 ユンレッサが同僚に言い返すと、後ろから主任のお局様からお叱りが飛んできた。

 同僚と二人で思わず身を竦めると、カウンターに一組の冒険者たちがやって来た。


「はい、いらっしゃいませ。 どういったご用件でしょうか。」


 ユンレッサは、気持ちを切り替えて仕事に戻る。

 小さな冒険者の、今後の活躍と無事をこっそりと祈って。





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― 新着の感想 ―
ユンレッサさん ええ子やー それを知らぬとは言え ミカ君たら モッサリさんなどと せめてゴージャスさんと呼びなさい!
[一言] うさぎが1ターン掛けて太陽光集めてソーラービームを撃ってくるまで読んだ。
[気になる点] 魔力拡げて周囲を探る、千の刃を体内に打ち込む設定どこいったんだ… チート過ぎてなかった事にしたのかな。
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