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第37話 冒険者ギルド




 サーベンジールに来てから初めての休日。

 ミカは朝から街の大通りを歩いていた。

 学院が始まるまでの数日間も少しは街に出て買い物をしていたが、その時は必要な物を買うだけだった。

 今後のことも考えて、とりあえず中央広場から西側の大通りだけは把握しておこうと思ったのだ。


 サーベンジールの街には、大通りと呼ばれる道が2本ある。

 南北に貫く様に敷かれた大通りと、東西に横断する大通りの2本だ。

 その2本の大通りが交わる場所が中央広場で、街の中央よりはやや北に寄った位置にある。

 東西に横断する大通り自体が、街のやや北寄りを通っているからだ、


 街の広さは南北に5キロメートル、東西に4キロメートル。

 つまり中央広場から西側の大通りだけでも2キロメートルくらいある。

 また、魔法学院が北西の端に位置することもあり、まず大通りに着くだけでも2キロメートルくらい歩かなければならない。


「……さすがに遠すぎる。 車じゃなくても、せめて自転車が欲しい。」


 寮から大通りまで2キロメートル、大通りの往復で4キロメートル、大通りから寮まで帰るのに2キロメートル。

 単純計算でも8キロメートルの散歩である。

 考えるだけでもうんざりするが、仕事を探すにも何をするにも、まずは自分の活動範囲を決めなくてはならない。

 町全体を把握するのはいきなりは無理なので、とりあえずは近場だけでもと考えてやってきたのだが……。


「これでも、まだ西側の大通りの半分くらいだろ? もう帰りたくなってきたんだけど……。」


 ミカは制服のシャツの襟元を開き、ぱたぱたと仰ぐ。

 さすがに長距離を歩くことが分かっているので、ローブはなしだ。

 ミカは制服を外出着、運動着を部屋着としても使っていた。


 大通りには人が溢れ、歩くだけでも苦労する。

 とても街並みを見る余裕がない。

 目的は歩くことではなく、街を把握することだというのに。


「ニネティアナは、月が替われば人の多さも落ち着くようなこと言ってたけど……。 今のところは変わった感じはしないな。」


 思わず溜息が出る。

 ミカは身長のこともあり、大通り全体をざっと眺めるといったこともできない。

 目の前にある店しか見えないのだ。


 いい加減、人の多さにうんざりしながらとぼとぼ歩くと、目の前に見覚えのある看板があった。

 横を向いたフルフェイスの兜に、地に突き刺した剣のような絵。


「あれ? これって……。」


 その看板の建物はとても大きく、五階建ての立派な建物だった。

 ミカが出入り口からひょいっと中を覗くと、一階と二階が吹き抜けになった広いフロア。

 建物の中にはあまり人がいない。

 四~五人組の集団が五組ほどいるが、中が広いため閑散とした印象を受ける。

 右の壁の掲示板にはべたべたと紙が張られ、それを眺めている四組の集団。

 奥には長いカウンターがあり、一組はカウンターの女性と何か話をしている。

 左側にはバーカウンターのような物も見える。


「……これが、冒険者ギルド?」


 コトンテッセの冒険者ギルドは、外から見ただけで顔をしかめたくなるような場末感があったが、サーベンジールのギルドはとても立派だった。

 ゴミが散らかってることもないし、内装自体の品も良い。

 入りにくくなるような、心理的抵抗が働く要素がまったく見当たらない。


 ミカは周りをきょろきょろと見る。

 自分に注意を向けているような人はいない。

 ミカはちょっと入ってみることにした。


 中に入ってみると、板張りの床が綺麗に磨かれていることに気づく。

 さすがに年季が入っているのか傷だらけだが、しっかり掃除もされているようでピカピカだ。

 というか、これはちょっと不自然なほどにピカピカだった。

 まるでワックスでも塗っているかのように。


 奥のカウンターでは、お揃いの制服を着た女性が忙しそうに仕事をしている。

 そのカウンターに、さきほど右の壁にある掲示板を見ていた集団の一組がやってきた。

 カウンターにいた女性が一人、その集団の対応をしている。

 そんな様子を少し眺め、ミカは右の壁に行ってみることにした。


「……ランクD、さばくかめ、いし……?の採集、十個以上。 報酬二万ラーツ。 ……ランクC、がらがらくさ?の討伐、五体以上、報酬一体につき一万ラーツ、六体目から一体につき二千ラーツのボーナス……。」


 ミカは掲示板を眺め、とりあえず目についた内容を読んでみた。

 掲示板に張られた手配書のような物はクエスト依頼のようだ。

 そうして一つずつ依頼の内容を読んでいると、横に誰かが来た。

 ミカが振り向くと、ボリューミーでウエーブのかかった豪奢な金髪のお姉さんが微笑んで立っていた。

 気の強そうに吊り上がった眉と大きくぱっちりとした目つきで、髪を縦巻きロールにしたら高飛車なお嬢様役にぴったりな印象だ。

 ……いや、このままでもぴったりな気がしてきた。

 そのお姉さんはカウンターにいる女性たちと同じ、お揃いの制服を着ている。

 おそらくギルドの職員なのだろう。……ちょっとそうは見えないけど。


「どうしたのかな? 誰かと一緒に来たの?」


 見た目の印象とは裏腹に、お姉さんは優しくミカに尋ねる。

 どうやら、子供が迷い込んだのか、誰かの連れなのかを確認に来たらしい。


「ここ、冒険者ギルドですよね?」

「ええ、そうよ。」

「冒険者登録をしたいんですが。」


 以前ニネティアナに教えてもらったことを思い出し、とりあえず言ってみる。

 お姉さんはびっくりしたような顔をして、それから困った顔になる。


「えーと、あのね、冒険者って、とっても危ないお仕事なの。 興味があるのかもしれないけど、もう少し大きくなって――――。」

「特に年齢の制限があるとは聞いたことがないんですが。 何歳ならいいんですか?」

「え? ええ、確かに年齢の制限はないんだけど……。 貴女みたいな可愛らしい女の子がするような――――。」

「女の子ではありませんし、話を聞いて冒険者の実情についても多少は知っているつもりです。 大変さも、危険さも。」

「え、えーと……。」


 お姉さんは片手を頬に添え、本当に困ってしまったようで次の言葉が出てこない。

 この様子では、このまま門前払いされる可能性が高そうなので、吉と出るか凶と出るか分からないが、出せる手札をすべて出すことにする。


「僕は魔法学院の学院生です。 親元を離れているので、自分で稼ぐ手段を考えているところです。 できれば冒険者の仕事をやりたいのですが、僕にできる依頼はありませんか?」


 ミカが左手のブレスレットを見せると、お姉さんは目を丸くして驚く。

 もはや声も出ないといった感じだった。

 ミカが「お姉さん?」と声をかけるまで、しばらく固まっていた。







 ミカはカウンターの中に通され、椅子に座っていた。

 目の前には、先程のお姉さんの上役という、口髭をきっちり整えた渋いおじさんが座っている。

 本当はカウンター越しに話をしようとしたのだが、ミカの身長が低すぎて話がしにくかったのだ。

 そのために急遽椅子を用意しての特別処置だ。


「ふーむ……、まあ事情は分かった。」


 渋いおじさんに面談され、ミカはとりあえず聞かれたことに答えていった。

 といっても、それほど込み入った話をしたわけではない。

 学院に入るために村から出て来て、働こうにも時間が門限で制限されている。

 実質、週末しか自由になる時間がないので、冒険者の依頼で何かやれることがないか。

 そんなところだ。


「いい加減な仕事をしないのであれば、特にこちらからは何も言うことはないよ。 ただ、簡単な依頼といっても危険はゼロではないし、運が悪ければ死ぬこともある。 それを承知でみんな冒険者をやっているので、君が子供だからと配慮されることもない。」


 渋いおじさんの説明に、ミカは黙って頷く。


「駆け出しの冒険者が重症を負ったり、命を落したりする理由の大半が魔獣や魔物との不意の遭遇だ。 ……奴らが、子供だからと見逃してくれると思うかね?」

「いえ。 むしろ張り切って襲ってくるでしょう。 楽な獲物が見つかった、と。」

「ははは、まあ張り切るかどうかは分からんが、魔獣や魔物からしたら大人も子供も関係ない。 ただの餌だ。 だから、覚悟も何もない子供が冒険者登録をしようとする時は、とりあえず説得して考え直すようにしているんだがね。」


 渋いおじさんが、先程のお姉さんに合図を送る。


「覚悟があるならやってみたまえ。 ただし、命を落とす覚悟だけはしっかりな。」


 真剣な目でミカを見る。


「不思議なもので、なぜか命を落とす覚悟のない者から死んでいく。 新米は特にな。 ……多分、自分が命を落とすと考えていないから、準備が甘いんだろう。 君がそんなことにならないことを祈ってるよ。」


 そう言って渋いおじさんは立ち上がる。

 金髪もっさりのお姉さんに二言三言話をすると、そのまま奥の部屋に行ってしまう。

 ミカは、その背中に「ありがとうございました。」と声をかける。


「……本当にやるの?」


 お姉さんが心配そうな顔で聞いてくる。


「はい、お願いします!」


 ミカは晴れ晴れと、張り切って答える。


(やった! これで、ついに俺も冒険者だ!)


 これまで、ただ夢想していただけの冒険者に自分がなれる。

 期待と高揚感で、ミカは雄叫びを上げたいくらいの気分だった。







「はい、これが貴方のギルドカードよ。」


 そう言ってお姉さんがカウンター越しにカードを渡してくる。

 ミカはカードを手にし、思わずにやけそうになる。

 カードにはニネティアナのカードと同じで膨らんでいる部分があり、チェーンも付いていた。


 手続き自体は、確かにニネティアナが言っていたとおり簡単なものだった。

 用紙に名前や年齢、出身地と現在の連絡先などを書いて、水晶に手を置く様に言われたので、手を置いたらそれで終わり。

 後はカードができるのを待つだけだった。


「じゃあ、詳しい説明をしていくわね。」

「はい、お願いします。」


 それから、クエストの受注や報酬の受け取りなどの説明が始まった。

 冒険者はギルドに来て、掲示板の依頼書を確認。

 そして、受注したい依頼書を受付に持って行く。基本的には早い者勝ちだ。

 ただし、受注の早い者勝ちではなく、達成の早い者勝ちというクエストもある。

 こういうクエストは依頼書を受付に持って行ってもいいが、すぐに受付の人が掲示板に張り直す。

 なので、そういう達成の早い者勝ちのクエストの場合は受付に声をかけるだけでいいそうだ、

 なぜ受付に声をかけるかというと、現在いくつのパーティがクエストに挑んでいるのかをギルドが把握するためだ。

 依頼を受けたいけど、すでに挑んでいるパーティが多いようなら諦めて次を探す。

 冒険者がそういった判断をするためにも、ギルドではクエストを受注する場合は受付に声をかけるように求めている。

 声をかければ、すでにいくつのパーティが受注しています、と教えてもくれるそうだ。


 また、必ずしも受付に声をかけなければクエストを受注できないかというと、そうでもない。

 例えば、偶発的に遭遇(エンカウント)した魔獣を倒したとして、その魔獣に討伐依頼が出ていたとする。

 しかも、すでに別のパーティが受注していた。

 この場合の扱いはどうなるか?

 別に難しいことも何もなく、単純に倒した冒険者が達成したことになる。

 こうした偶発的なバッティングは普通に起こるし、それはみんな分かっている。

 わざと横取りするようなのはマナー違反だが、あまり露骨にやればギルドとしての懲罰の対象になる。

 なので、普通は受付に受注を報告するし、偶発的なバッティングなどは運がなかったと諦める。

 そういうことになっているようだ。


 勿論、ミカがそんな競争率の高いクエストを受注できるわけがない。

 今のミカが受けられる現実的なクエストは所謂”定額クエスト”と言われるものだ。

 これは、常に一定の需要が見込める、採集系のクエストをそう呼ぶらしい。

 一定量の指定された草や鉱石などを持ち込むと、定額でギルドが買い取ってくれる。

 状態の悪い物は買取を拒否されたりもするらしいが、採集できる場所もある程度決まっており、いくらになるのか予想も立てやすい。

 特にサーベンジールのすぐ北にある湖周辺の採集は比較的安全のため、最初はそういうのをやった方がいい、とギルドのお姉さんもお勧めだ。

 というか、「お願いだから、最初は無理しないでこういうのからやっていこう? ね? ね?」と懇願された。

 まあ、どうせFランクで受注できるクエストなど大してないので、ミカとしてもこれには特に異論はなかった。

 こうした定額クエストでもちゃんとランク昇格の判断材料になるようで、最初はそれで十分だと思えた。


 そして、次はクエストのキャンセルだ。

 一度受注したが、自分には困難で達成できない。

 そうしたクエストは受付に言ってキャンセルすることができる。

 ただ、その場合はきついお叱りを受ける。また、場合によってはお叱りだけでは済まないこともある。

 早い者勝ちで受注しておいて、「やっぱりできません」では、その冒険者だけでなくギルドの信用もガタ落ちになる。

 そのため、ギルドでは報酬を持ち出しで上乗せしてでも、腕のいい冒険者にクエストを振り直して迅速に達成してもらう。

 そして、キャンセルした冒険者には罰金や降格なども含めて、重い(ペナルティ)が課せられる。

 その冒険者が受注しなければ、他の冒険者がとっくに達成していたかもしれないからだ。

 また、その冒険者が依頼を達成できずに抱えていた無駄な時間により、事態が悪化していることもある。

 そのため、キャンセルというのは非常に重くギルドに受け止められる。


 ただ、キャンセルのすべてをダメと言っているわけでもない。

 パーティメンバーの死傷により、これまでなら問題なかったレベルのクエストに失敗することもある。

 そもそもクエストに設定されたランクでは困難な場合もある。これは依頼者、若しくはギルドの確認ミスということになる。

 そうした事情なども鑑みて、処分や対応をギルドは決めているのだという。







 そして、ギルドカードの説明になった。


「このカードは本人専用で、個人の魔力を登録しているから、他の人が使おうとしても使えないから落としたり無くしても大丈夫よ。 有料だけど再発行もできるから、どこかに落としたからって危険なダンジョンに取りに戻る必要もないわ。」


 なるほど。

 とんでもなく危険なダンジョン攻略に挑んで、街に戻ったらカードがない。

 そんな事態になっても絶望しないで済むらしい。


「クエスト報酬をカードにプールしておけば、大きな街のお店なら大抵は支払いに対応してるわね。 ただ、小さい町とかだと対応していない所もあるから、多少の現金は持っていた方がいいわ。」


 これが、ニネティアナが言っていた「路頭に迷う」という機能か。


「パーティを組んだら、お金はなるべく分散させるってやつですね。」

「そう。 聞いたことがあるのね? この前もそれで大騒ぎしてた人がいるから、本当に気をつけてね。 冒険者なら、常にいろんなことに備えておかないと。」


 お姉さんが真面目な顔をして注意してくる。

 まあ、ソロでやってる分にはあまり関係ない話だ。


「いくらまでプールできるんですか?」

「貴方のカードなら百万ラーツまでプールできるわよ。」


 百万ラーツということは、大金貨一枚分だ。

 どんなに頑張っても、入りきらないという事態はそうそう起こらないだろう。


「僕のカードはってことは、他にもカードに種類があるんですか?」

「ランクが上がって、Cランクになるとカードの更新をするのよ。 いろいろ機能が強化されるんだけど、プールできる報酬の金額も増えるわ。 ただし、更新の時に保証金で三十万ラーツが必要になるけど。」

「サン、ジュ……!? え、保証金で……?」


 驚くミカを、お姉さんは優しい目で見守っていた。

 まだ君は関係ない話だけどね、とその目が語っている。


「……ちなみに、いくらプールできるようになるんですか?」

「ふふふ、いくらかしらね?」


 なぜか内緒にされた。

 ミカをからかえて、お姉さんはちょっと楽しそうだ。

 お姉さんはもっさり金髪をかき上げながら説明を続ける。


「銀行とギルドカードを連携させることもできるんだけど、そうなるとプールできる金額は契約次第よ。 パーティ全員が一生遊んで暮らせるような金額だって入れられるわ。」


 なんか、想像もつかない話になってきた。


「銀行と連携もできるんですね?」

「できるにはできるけど、貴方にはまだ早いかなあ。 なにせ、保証金に最低でも百万ラーツが必要だから。」


 もはや、途方もなさ過ぎて、訳が分からなくなってきた。

 ミカに関係のない話は横に置いて、とりあえず必要な確認していこう。


「プールしたお金は、引き出すことはできるんですか?」

「ええ、貴方のカードならすべての冒険者ギルドで引き出すことが可能よ。 もしも銀行と連携させれば、ギルドだけじゃなくて、銀行でも引き出せるようになるわ。」


 どこのギルドでも引き出せるなら、それなりに安心して入れておける。


「それじゃあ、次は魔獣や魔物の魔力についてね。」

「魔獣や魔物の魔力?」


 魔獣や魔物が高い魔力を持っていることはニネティアナに聞いたことがある。

 だが、お姉さんの話はまったく違う内容だった。


「魔獣なんかを倒すと、カードのここに魔力が貯められていくの。」


 そう言って、カードの膨らんでいる箇所を指さす。

 魔石が入っていると言っていた場所だ。


「その魔力は、ギルドでカードを出した時に回収させてもらうの。」

「回収……?」


 なんか、よく分からない話が出てきた。

 ミカは何度も聞き直したりして、何とか理解するように努める。


 つまりは、こういうことらしい。

 冒険者が魔獣を倒すと、その魔獣の持っている魔力がカードに貯められていく。

 これは、止めを刺した者が総取りになる。


 例えば、十匹の魔獣がいる。

 十人がかりで魔獣を攻撃し、すべての魔獣の止めをミカが広範囲の魔法で刺したとしよう。

 そうすると、すべての魔獣の魔力はミカの総取りだ。

 逆に、ミカが開幕で魔法をぶっ放して全体にダメージを与え、十人が一匹ずつ止めを刺したとする。

 この場合は十人に一匹ずつの魔力が貯められることになる。

 あくまで止めを刺した者のカードに貯えられるという仕組みらしい。

 なぜそんなことができるのか謎だが、そういうものだと受け入れる。


 そして、その魔力はギルドが有料で回収する。

 こう言うとこちらがお金を払うような感じだが、実際はギルドが買い取るということだ。

 小型の魔獣では5~6匹倒しても銅貨一枚程度らしいが、大型の魔獣では1匹で金貨一枚以上の魔力を回収した例もあるらしい。

 討伐の報酬にプラスして、金貨一枚で魔力を買い取ってもらえた、という話になる。

 案外馬鹿にできない収入だ。


「魔獣や魔物も一体一体魔力に個体差があるんだけど、種族とかを特定できるパターンとかがあるの。」


 お姉さんがまた、よく分からない話を始めた。

 ミカが、よく分かりませんとポカンとした表情をすると、お姉さんが苦笑する。

 きっと、お姉さんにはミカの頭の上に浮かぶ?マークが見えていることだろう。


「例えば貴方がクエストで森に行って、何体かの魔獣に遭遇、倒したとするわね?」


 ミカは頷く。


「ギルドでカードを出せば、倒した魔獣の種類、頭数が回収した魔力で分かるの。」

「おお?」

「魔獣討伐の証拠になったりするから、カードは無くさないようにしてね。 再発行はできても、貯められた魔力まで分かるわけじゃないから。」

「分かりました。」


 ミカは素直に頷く。


「ただ、分かるのはこれまでに倒した実績のある魔獣や魔物だけだから、新種なんかの場合は『不明』ってことになるの。」

「新種?」

「これまで倒されたどの魔獣の魔力とも特徴が一致しなければ、新種ってことで聴取させてもらうことがあるわ。 どんな魔獣だったか、特徴や分かれば弱点なんかも貴重な情報よね。」

「なるほど。」

「もし、そういうことがあった場合、できるだけ協力してもらえると助かるわ。 その情報が誰かの命を救うことになるかもしれないからね。」


 確かに、新種でまったく情報がないよりは、多少でも手がかりがあった方が助かるだろう。

 まあ、たまたま遭遇して、たまたま勝てたってだけじゃ、情報の信頼性は厳しいかもしれないが。

 それでも、少しでも多くの情報を積み重ねることが大事ってことなんだろう。


「あと、魔力を貯められるのは魔獣だけだから、討伐対象が野生の動物とかだと証拠は自分で持ち帰る必要があるわ。 そういうのは依頼書にちゃんと書いてあるから、しっかり読むようにね。 魔獣が対象だとしても、依頼主が魔獣の身体を持ち帰ることを依頼内容にしていることもあるし。」

「どちらにしろ、しっかり依頼内容は確認する必要があるということですね。」

「そう。 依頼書に特に記載がなければ、魔獣や獣とかの身体は討伐した冒険者の物だから、ギルドに持ち込んで買い取ってもらう人もいるわ。」


 お姉さんはカウンターの下から一枚の紙を取り出して、ミカに渡す。


「一応、説明はこんなところだけど、後は定額クエストのリストを渡しておくわね。」


 リストを見ると、採集する植物や鉱石の絵が描かれている。

 名前と特徴、買い取りに必要な数量や重量、買い取り金額、採集できる場所まで書かれている。


「冒険者登録した人、みんなに渡すことになってるの。 参考にしてね。 ……それと最後に!」


 お姉さんがカウンターから身を乗り出して、ずいっとミカの顔を見る。


「絶対に無理しちゃだめよ! 絶対によ!」


 真剣な顔で、ミカに念を押す。

 ミカは姿勢を正し、こくんと頷いた。







 ギルドのお姉さんに近くの武器屋や防具屋、道具屋などの場所を教わった。

 ニネティアナがギルド近くの店なら、そう悪くない選択だと言っていたので、とりあえず参考に見学してみることにしたのだ。

 今日の当初の予定からは大幅に狂うが、武器屋などの場所の把握も一応は大通りを散歩する目的の一つではあった。


 すぐ近くにある武器屋にまずは入ってみる。

 狭い店内に、所狭しと置かれた武器の数々。

 見ているだけでその無骨さと物量に圧倒される気分だ。


 ミカは所謂コンバットナイフのような物を探してみたが、一番安い物でも三万ラーツ、大銀貨三枚だった。

 とても手が出ない。


(……ナイフ一本買えないとは。)


 ミカはがっくりと項垂れる。

 勿論ミカはナイフを使いこなせるわけではないが、サバイバルではナイフ一本あるかないかで難度が桁違いに変わる。

 念のためにナイフの一本くらいは、持っていけるなら持っていきたいと考えていたのだ。


(手当が月に五千ラーツ。 何もしなければナイフ一本手に入れるのに半年もかかる。)


 やはり、最初は少し無理してでも定額クエストを頑張って稼ぐ必要がありそうだ。

 ミカは一通りぐるっと店内を見て回り、あまりの高額さに溜息しか出なかった。

 カウンターの奥に飾ってあった長剣と大剣は、百万ラーツと二百万ラーツ。

 大金貨が必要な武器など、一体どんな人が買っているのだろうか?


 次に隣の防具屋に入ってみるが、こちらもバカ高い。

 カウンターの奥に飾ってあった2つフルプレートアーマーの値段が、百万ラーツと五百万ラーツ。

 ニネティアナが使っていたような革の胸当てと手甲でさえ、五万ラーツと三万ラーツ。

 今のミカが最低揃えたいと思っていた装備、ナイフ、胸当て、手甲だけでも合計で十一万ラーツかかる。


 次に道具屋に行くと、回復薬(ポーション)が置いてあった。

 魔獣襲撃の時、キフロドが自警団員に渡していたのと同じ物だ。

 値段は三千ラーツ、銀貨三枚。

 買おうと思えば買える値段だが、結構高い。

 手持ちに余裕があるなら欲しいところだが、金欠の今はそれすら惜しい。

 一応、ミカにも癒しの魔法があるので、必ずしも必要というわけではない。

 とりあえず、道具屋も冷やかすだけで外に出た。

 ちなみに、鑑定屋がこの道具屋の隣にある。

 買取はギルドだけでなく、こういう所でも行っているらしい。


 冒険者が日替わり定食を食べ、乗り合い馬車のボロ小屋で休む理由が、よく分かった一日だった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] >なぜ受付に声をかけるかというと、現在いくつのパーティがクエストに挑んでいるのかをギルドが把握するためだ。 いろんな異世界の物語に出てくる定番のルールだけど これほど納得できる現実的な理…
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