第27話 ミカの旅立ち 侯爵領の魔法学院へ
土の3の月、5の週の陽の日。
元の世界でいう3月の下旬頃。
ミカが魔法学院に旅立つ日がやって来た。
侯爵領にある魔法学院には、今週中に入寮するようにということが渡された紙に書いてあった。
まだ日が出たばかりの早朝にも関わらず、村の北門には多くの村人が見送りに来ていた。
見送りのほとんどは自警団員で、昨秋から冬にかけて、木の伐採やら何やらの作業で関わりが多かった人たちだ。
「ミカ、頑張ってね。 辛かったら、いつでも戻ってきていいんだからね。」
「いや、だめでしょ……。」
相変わらずミカに甘いロレッタの言葉に、思わずツッコミを入れる。
収穫祭からこっち、自分のベッドを手に入れたミカだったが、ここ数日は久しぶりに一人寝を禁止された。
もうすぐお別れだと思うと我慢ができなかったのか、珍しくロレッタが我が儘を言いだした。
一緒にいられるのもあと何日かしかないんだから、毎日お姉ちゃんと寝なさい、と。
当然、そんなことを言いだしたロレッタに、アマーリアが黙っている訳がない。
ロレッタばっかりはずるいわ。お母さんとも寝なさい、と言い出す始末。
こうして、ここ何日かは以前のように、二人の使うベッドに間借りすることになった。
勿論ミカとしては、そんな要求を素直に受け入れるつもりはなかった。
だが、旅立ちの日が近づくにつれて日に日に元気をなくしていく二人を見ていると、居たたまれない気持ちになってしまった。
(…………この二人、本当に大丈夫か?)
ミカがこの家を出たら、倒れてしまうのではないだろうか。
仕方なく、これが最後だからと二人の願いを叶えることにしたのだ。
アマーリアは、今は落ち着いているようだ。
見送りに来た自警団員たちに声をかけられ、元気に応えるミカの姿を眩しそうに見つめている。
成長した我が子を、誇らしく思っているのかもしれない。
「ニネティアナさん、ミカのことよろしくお願いします。」
「そんなに心配しないで。 あたしがしっかり送り届けるから。」
アマーリアはニネティアナに頭を下げる。
侯爵領の魔法学院までは、ニネティアナが付き添うことになった。
ニネティアナは革の胸当てと手甲を着け、革のベルトやブーツも身に着けている。
普段は村人と同じ格好をしているので、これがニネティアナの旅行スタイルということだろう。
コトンテッセから、侯爵領の領都サーベンジールまでは3日かかる。
乗り合い馬車を乗り継ぎ、3日もの旅を子供一人で行かせるのはさすがに現実的ではない。
そこで付き添いが必要だろうという話になったのだが、実は村人の大半がリッシュ村から出たことがなかった。
女性のアマーリアやロレッタが特別だったわけではなく、男性ですらそんな感じなのだ。
コトンテッセまで行ったことのある人はそこそこいたのだが、そこから先に行ったことのある人はほぼいない。
冒険者だった、ディーゴとニネティアナ。
教会や修道院の関係で外に行っていたキフロドとラディ。
リッシュ村以外の出身であるホレイシオと他数名。
その程度なのだ。
なんと、村長すらコトンテッセまでしか行ったことがなかった。
さて、どうしたものかとみんなで悩んだ。
別に一人でも何とかなるでしょ、というミカの案は論外。黙殺された。
高齢のキフロドにはちょっと厳しい。
村の万が一を考えればディーゴやラディは残ってほしい。
ホレイシオは工場があるので往復1週間は難しい。
ニネティアナもデュールがいるので無理。
そんな感じで難航したのだが、最終的にニネティアナに頼むことになった。
デュールはディーゴの両親がリッシュ村にいるので、その人たちに預けることとなった。
ニネティアナの子育て仲間がサポートするというので「1週間くらいなら平気でしょ。」というニネティアナの意見で落ち着いた。
ディーゴが最後まで難色を示したが、「ふーん、そう?」とニネティアナが冷たい眼差しを向けたらあえなく撃沈。
あのディーゴの焦りようからして、きっと何か弱味を握られていると邪推してみる。
ちなみに、サーベンジールまでの旅費は村の人たちのカンパだ。
ホレイシオが中心となり、村人みんなに「銅貨1枚でもいいから。」と頼んでくれたらしい。
「みんな、おはよう。 待たせて済まないね。」
ホレイシオが荷馬車に乗って、工場の方からやって来た。
ホレイシオには、コトンテッセまで荷馬車で乗せて行ってもらうことになっている。
コトンテッセなら歩けない距離ではないが、これからの長旅を考えれば体力は温存しておくべきだろう。
ということで、コトンテッセまでの道中はホレイシオが送ろうと申し出てくれた。
ミカの荷物は着替えを詰め込んだ、縦長の雑嚢一つしかない。
ミカはホレイシオに挨拶とお礼を言って、雑嚢を荷台に投げ入れる。
荷台が高くてミカの身長では投げ入れるしかできないのだが、そんなミカを見てキフロドが窘める。
「まったく、もう少し落ち着かんかい。 これからはお前さんの行動の一つひとつを、知らん者が見るんじゃぞ? 粗野な者だと思われて、得することなど何もないわい。」
「うぅ……、分かりました。」
この冬の間も、昼間は教会に預けられていた。
村の作業がない時は、教会でキフロドやラディにみっちり勉強を叩きこまれた。
礼儀作法なども。
おかげで、この世界での物の考え方などの理解が進んだ。
……ある程度、ではあるが。
半年も毎日のように出入りしていたため、キフロドはすっかり「孫の躾に厳しいおじいちゃん」と化している。
ラディは「優しい従妹のお姉さん」といった感じか。
年齢を考えれば「叔母さん」の方がしっくりくるのかもしれないが、見た目が若いので語感の「おばさん」はなんとなく気まずい。
この半年で、ミカの中で”笑う聖母”っぷりが完全に定着したが、あの時の憤怒の形相は今も忘れることができなかった。
ミカにとって、ラディは『決して怒らせてはいけない人ランキング』で断トツのトップである。
「お二人の道中の安全をお祈りしましょう。 そして、ミカ君の健やかな成長も毎日お祈りします。 元気でね、ミカ君。」
「ありがとうございます、シスター・ラディ。 シスターもお元気で。」
そうして見送りに来てくれた人たち、みんなに挨拶をしていく。
「村長さん、ディーゴさん、お世話になりました。 村のことをお願いします。」
「学院でしっかり学んできなさい。」
「おう。 坊主に言われるまでもねえ。 余計な心配なんざしてないで、おめえはおめえのことをしっかりな。」
「ナンザーロさん、メヒトルテさんもお元気で。」
「ああ、ミカ君も。」
「ミカ君も元気でね。 君に助けてもらった恩は、一生忘れないわ。」
ナンザーロとメヒトルテは寄り添い、仲睦まじそうだ。
いろいろあったけど、やっぱり火災の時に無理をしてでもメヒトルテたちを助けられて良かった。
全員に声をかけ、別れの挨拶をしていく。
そして、最後に二人が残った。
「お姉ちゃん。」
「…………ミカァ……。」
ロレッタの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
せっかく整った綺麗な顔をしているのに台無しだ。
「行ってくるよ。 元気でね。 これからは僕のことじゃなくて、自分のことを一番にしてね。 お姉ちゃんは優し過ぎるから。」
ミカが両手を広げると、ロレッタが抱きついてくる。
ロレッタはすっかり号泣してしまった。
「……やっぱり、やだよぉ……。 離れたくないよぉ……。」
耳元で、行っちゃやだぁ、と泣きじゃくるロレッタの言葉が胸に突き刺さる。
この家族を引き裂いたのは、きっと今のミカだ。
9カ月前のあの日、ミカ少年と入れ替わることがなければ、死にかけることもなかった。
そして今日、別れることもなかっただろう。
アマーリアの望むような、リッシュ村という小さな村での、小さな幸福の中で生きていけたはずだ。
だが、それを言っても仕方がない。
ミカとしても、望んでこの世界に来たわけではない。
望んでこの家族を引き裂くわけではない。
突然放り込まれた世界で、精一杯に生きてきた上での”今”なのだ。
ロレッタの背中をぽんぽんと叩き、それでもしがみついたままのロレッタに苦笑する。
仕方なく、そのままアマーリアに声をかける。
「行ってきます、お母さん。」
「ミカ……、元気でね。 頑張ってくるのよ。」
アマーリアは気丈に振る舞おうとしていた。
笑顔で見送ろうと頑張っているが、その目には涙が溜まっているのが見える。
「お母さんも、元気でね。」
ミカも、笑顔を作る。
だが、不意にミカの頬を涙が零れた。
「……いつも、迷惑かけてごめんね。」
目を閉じると、ミカの脳裏にはこの9カ月の記憶がよぎる。
「いつもいつも……、心配ばかりかけてごめんなさい。」
言うことを聞かず、約束を破ってばかりだった。
「でも……、ちゃんとするから!」
真っ直ぐにアマーリアを見る。
アマーリアは、堪えきれずに涙を流していた。
口元を手で押さえ、嗚咽が漏れるのを我慢している。
「これからは、もっとしっかりするからっ!」
空に向かって叫ぶように声を上げる。
ミカも堪えきれずに涙が溢れた。
「だからもう……、そんなに心配しないで。」
ロレッタを強く抱きしめてから、ゆっくりを身体を離す。
それから、泣き崩れてしまったアマーリアを抱きしめる。
「僕はもう、大丈夫だから……。」
アマーリアの温もりに名残惜しさを感じながら、それでもしっかりと立ち上がる。
「……行ってきます。」
ミカは涙を拭い、荷馬車に向かう。
ニネティアナはすでに荷台に乗っており、ホレイシオが荷馬車の横に立っていた。
「もう、いいのかい?」
ホレイシオはもらい泣きをしてしまったようだ。
軽く目元を拭くが、その目は真っ赤になっていた。
どうやらもらい泣きはホレイシオだけではないようで、其処彼処からすすり泣く声が聞こえる。
「はい、お願いします。」
ミカが答えると、ホレイシオはミカを持ち上げて御者台に座らせる。
続いて自分も御者台に乗ると、後ろのニネティアナに声をかける。
「それじゃ、出すよ。」
「あたしの方はいつでも。」
ニネティアナは気軽に返事をする。
荷台で足を伸ばして、すっかりリラックスモードだ。
「お気をつけて。」
「しっかり頑張るんじゃぞ。」
御者台の横まで来たキフロドとラディが声をかける。
「行ってきます。 二人のこと、よろしくお願いします。」
キフロドはしっかり頷き、ラディは「お任せください。」と応える。
ホレイシオが手綱で合図すると、荷馬車はゆっくりと動き出した。
「……行ってしまいました。」
ラディはぽつりと呟く。
真っ直ぐ延びる街道を、荷馬車がゆっくりと遠ざかっていく。
ある日突然、神々から授けられた特別な力を使ってみせた少年。
その大き過ぎる力は、平穏な村に突如騒動を巻き起こした。
「ミカにとっては、大変なのはこれからじゃ。 まあ、今のあやつなら心配はいらんわい。 ……ちと不安はあるがの。」
ミカの行動は、その大き過ぎる力のためか破天荒すぎる。
この半年、キフロドはそうした行動に枷を嵌めるために、「常識」や「礼儀」などを叩きこんできた。
ただ、困ったことにミカはそうした常識や礼儀をきちんと理解していた。
理解した上で、自分の判断で必要とあれば破ってしまうのだ。
「分かっとるなら破るんじゃない!」
そう何度も何度も、今日までしつこいくらいに言い聞かせた。
感情や好奇心などに正直すぎて、理性や抑制がまるで利いていない。
大人のような深い思慮と、子供の無邪気さ、無鉄砲さが危ういバランスの上で成り立っている。
それが、ミカと過ごした半年でのキフロドの結論だった。
キフロドは振り返り、アマーリアを見る。
愛する我が子が、自らの手を離れていってしまった悲しみは計り知れない。
それでも懸命にロレッタを励まし、母娘二人で立ち直ろうとする気丈さを見せていた。
「アマーリアも強くなったのぉ。」
「……そうですね。」
「まあ、しばらくは寂しいかもしれんがの。 今のアマーリアたちなら大丈夫じゃろう。」
「そうですね。」
ラディは、街道の先を見つめたまま応じる。
「……私はまだ、あの日のこと許してませんからね。」
そんなラディが、ぽつりと呟く。
その呟きが耳に入り、キフロドはぎょっとしてラディを見る。
キフロドには、ラディが何を言っているのかすぐに思い当たった。
魔法学院入りを通告され、打ちひしがれていたアマーリアに言った言葉だろう。
家族の絆を試すような行いは、ラディにとってはもっとも許しがたい暴挙といえる。
「あれは、あの家族のことを思ってじゃの――――。」
「存じております。 でも許しません。」
「おい、ラディ!?」
ラディは振り返ると、にっこりと微笑んでいた。
「私はアマーリアさんたちをお家まで送ってきますね。 少しお話をしてくると思いますので、戻りは遅くなるかもしれません。」
そう言うと、ラディはアマーリアたちのところに歩いていった。
キフロドは茫然とラディの背中を見つめ、はぁー……と大きく溜息をつく。
「…………ミカなんかより余程手強いのぉ。 やれやれじゃ……。」
ラディは教典の教えに忠実だ。
忠実すぎて、教えに反することを一切受け入れようとしない。
これはこれで、大きな火種になりかねない。
誰もがみな、ラディのように生きられるわけではないからだ。
どうしたものか、と頭を捻りながら教会に戻るキフロドだった。
リッシュ村から魔法学院のあるサーベンジールまでの道のりは長い。
リッシュ村のあるリンペール男爵領と、魔法学院のあるレーヴタイン侯爵領は南北で隣り合っている。
レーヴタイン侯爵領が北、リンペール男爵領が南になる。
だが、その領境には深い森があり、ここには街道が通っていない。
強い魔獣が生息し、下手に開拓して魔獣が森から出てくる方が問題になるので、手を出していないのだ。
そのため、一旦西にあるオールコサという子爵領の領都、ヤウナスンに出ることになる。
そして、そこから北にあるレーヴタイン侯爵領へ向かうというルートだ。
予定としては――――。
まず、ホレイシオにコトンテッセまで送って行ってもらう。
コトンテッセでは、ヤウナスンまでの乗り合い馬車に乗る。
これが馬車で1日。
ヤウナスンについたら、今度はサーベンジールまでの乗り合い馬車に乗る。
これが馬車で2日。
大雑把に言えばこんな感じだ。
「あたしも久しぶりだなあ。 馴染みだった店に顔を出してみようかな。」
「ミカ君を無事に送り届けた後ならご自由に。 ただ、あんまり戻りが遅いとディーゴさんがどうなるか……。」
村を出てから30分。
道の両側の綿花畑は、もうしばらく続く。
ただ、今はまだ種も撒いていないので、畑といっても何もない。
剥き出しの土が遥か彼方まで広がっている。
空は雲がほとんど見られない、気持ちのいい快晴。
早朝のため肌寒いが、昼間はそれなりに気温が上がりそうだった。
村を出てしばらくはミカも俯いていた。
少し時間をおいて、ミカが落ち着くのを見計らって、ニネティアナとホレイシオが雑談を始める。
「サーベンジールなら、広場に美味い串焼きの屋台があったんだがね。 少し辛いタレに付け込んでて、酒によく合ってなあ。」
「あー、もしかして禿親父の屋台じゃない? 右肩に、すっごい傷のある。」
「おぉ? 知ってるかね。 昔はよく行ったもんだ。 まだやってるかなぁ、あの屋台は。」
何やら、二人はローカルグルメで盛り上がりだした。
「ミカ君も、落ち着いたら是非行ってみるといい。 あの広場は毎日いろいろな屋台が並ぶからね。 安いからといろいろ摘まんでいるうちに、すぐお腹いっぱいになるよ。」
「で、べろんべろんになっちゃうのよねー。」
どうやら、買い食いしながらの飲み歩きの指南だったようだ。
「……寮でご飯は出るし、あんまり買い食いはしないかな。 お金も勿体ないし。」
食と住は確保されているとはいえ、それ以外は手当の銀貨5枚で賄わないといけないのだ。
コツコツ貯めていって、いざという時に困らないようにしないと。
魔法学院には、助けてくれる家族も、キフロドやラディたちもいないのだから。
「ま、最初はそれくらいの気持ちでいいでしょ。 そのうち時間ができたら行ってみなさいな。 折角大きな街に行くのに、寮に閉じ籠る気?」
「何ですか、最初はって。」
口では反論するが、ミカも何カ月かすれば普通に買い食いくらいはしてるだろうなあ、とは思う。
ただ、それもお金の算段がついてからだ。
さすがに月に銀貨5枚だけの収入に頼るのはリスキーだ。
向こうでの生活にどの程度のお金が必要になるのか見当もついていない状態だが、落ち着いたら稼ぎ口を探そうとは考えていた。
まあ、それも学院と両立できる仕事がある、という前提だが。
ニネティアナとホレイシオがミカの様子を窺っている。
おそらく、ミカの気を少しでも紛らわせようと、サーベンジールの屋台の話を言い出したのだろう。
「そんなに気を遣わなくても平気ですよ。」
離れても家族は家族だ。
家族を大事に思う気持ちはあるが、それはいつでも一緒にいることとイコールではない。
実際、家族との別れは寂しい部分もあるが、然程悲しくもつらくもない。
元の世界でも、30年近く一人暮らしをしている。
親元を離れるからといって、それで特別に何か思うところがあるわけではない。
だが、そうなると先程のアマーリアやロレッタとの別れに説明がつかない。
なぜあれほどに感情が昂ってしまったのか。
(さすがに、あんな風に泣いてしまうのは恥ずかし過ぎる……。 これがたぶん、キフロドの言ってたことなんだろうな。)
ミカの意思とは別に、勝手に感情が昂ってしまうことがある。
感情の抑制がうまくいかないのだ。
以前に、今の自分を「ミカ少年と混ざった状態」と考えたことがあるが、その影響なのかもしれない。
まだ子供だったミカ少年の、精神的な未熟さが受け継がれてしまっている可能性がある。
そもそも、脳自体の成長がまだ途中か?
感情や衝動の抑制などを司る前頭葉は、成熟するのに時間がかかったはずだ。
(……とはいえ、見た目はともかく中身は大人なんだから。 もう少し感情を抑制できないとみっともないよな。)
魔法を学ぶだけではなく、このあたりの訓練も今後の課題だろう。
そんなことを考え込んでしまったミカを見て、ニネティアナは肩を竦める。
それから難しい顔をして何かを考え始めると、ポンと手を打つ。
「ねえミカ君。 サーベンジールまでなんだけどさぁ。」
ニネティアナは荷台から身を乗り出し、ミカの肩に顎を乗せるように聞いてくる。
「普通に行くのと、冒険者っぽく行くの。 どっちがいい?」
ニネティアナが、なにやら怪しい笑みを浮かべている。
「おい、それはちょっと無茶が過――――。」
「まあまあまあまあ、まあまあまあまあ!」
「いくら何でも、まだミカ君は子ど――――。」
「まあまあまあまあ、まあまあまあまあ、まあまあまあまあーーーっ!」
焦った顔をしたホレイシオがニネティアナの提案を止めようとするが、ニネティアナは「まあまあ」で押し切る。
ホレイシオは人と争うことがとても苦手だ。
ニネティアナの強引さに押し切られてしまうのは仕方ないだろう。
「別に無理強いなんかしないし、ミカ君の好きな方でいいわよ。 どっちを選んでも、ちゃんと魔法学院まで送ってあげることは保証するわ。 どう?」
イタズラっぽく言うニネティアナはすごく楽しそうだ。
(……普通に行くのと、冒険者っぽく行く? どう違うんだ?)
おそらく、ここでどう違うのか聞けば、ニネティアナは提案を引っ込めるだろう。
そんなことが気になるなら、素直に「普通を選べ」と。
ミカが冒険者に興味があることを知っているニネティアナだからこその提案。
ホレイシオを見ると、渋い顔をして首を横に振る。
やめておけ、とその顔が教えてくれる。
だが、ここでミカの中の”悪い病気”が疼きだしてしまう。
(……気をつけるって、さっき決めたばっかりなんだけどなあ。)
そう分かっているのだが、これはミカの好奇心をくすぐってくるニネティアナが悪いのではないだろうか。
ミカが悪い顔でニヤリと笑うと、ニネティアナは「おっけ~。」と嬉しそうに荷台に引っ込む。
そんな二人を見て、ホレイシオは肩を落として盛大に溜息をつくのだった。




