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第20話 ミカの処遇1




 織物工場の火災から1週間が過ぎた。

 火災のあった建物は、実際には紡績工場にあたるらしい。

 ロレッタからそのことを教えられたのは火事から数日経ってからだが、まあミカにとってはどうでもいい情報だ。


 実のところ、あの後もかなりいろいろと大変だった。

 アマーリアが気を失った後もロレッタはなかなかミカに気づかず、落ち着くまで時間がかかった。

 そして建物も燃えたままだったので、放っておけば隣の棟に燃え移ってしまう可能性が高かった。

 なので、みんなが見ている前で消火を試みることになった。


 燃焼という化学反応には、「可燃物」「酸素」「熱」の3つが必要なのは誰でも学校で習うだろう。

 つまり、消火とはこれらのうちの1つでもいいから取り除けばいい。

 方法としては――――。

   ・可燃物を「除去」

   ・酸素を無くす「窒息」

   ・熱を奪う「冷却」

 のどれかだ。これを消火の三要素という。

 すべて行えるのがベストだが、1つでも成立すれば消火は可能。

 ただし、一時的に消火できても、完全に鎮火するまで継続させないと再び息を吹き返すことがあるので注意が必要だ。

 火とは、本当に恐ろしいものなのだ。


 燃え盛る建物を前に、ミカは消火の方法を考える。

 大気中の魔力を集められるようになったおかげで、魔力の心配はほぼ無くなった。

 なぜ”ほぼ”かというと、大気中の魔力量を測定することができないからだ。

 油田のようにほぼ無尽蔵に湧いてくると思っていいのか、それとも大きめのタンクを手に入れた程度のものなのか。

 今のところは判断がつかない。


 放水車での消火のように大量の水を撒こうか?

 建物を包み込むくらいに大量の二酸化炭素を作って、酸素を無くすか?

 可燃物を除去するのは、建物自体が可燃物だから無理か。

 などなど、いろいろ考えた。


 大量の水を撒けば、その衝撃や重さで建物が崩壊しかねない。

 ここまで燃えてしまえばいつ崩れてもおかしくないので、いっそ崩してしまった方が後々は安全ではあるが、火がついたままで崩すのは危険だ。

 ということで水は却下。


 二酸化炭素を充満させて酸素を無くす。

 これは良さそうな気がしたが、周りに人が多すぎる。もしもコントロールしきれずに大量の二酸化炭素が漏れれば、人的被害が出かねない。

 いきなり大量の魔力を得たが、慣れなければ扱いきれない。魔力量の問題ではなく、俺の習熟度の問題でこれも却下。


(よし、冷やそう。)


 これらを踏まえた上で、冷気により熱を奪うことにした。

 おそらくこの方法は効率でいえばすごく悪い。

 それでも、なるべく建物に衝撃を与えず、周りへの影響も抑えるという観点で考えれば、これがベターだろう。

 冷気で熱を奪うと言っても、”氷結息(アイスブレス)”を噴きつけて建物全体を凍らせるなんてことをすれば大変なことになる。

 なにせ工場はとても大きいのだ。

 その時その時で最適な場所に移動しながらとはいえ、勢いよく噴きつければやはり崩壊を招きかねない。

 そこで応用したのは”風千刃(サウザンドエッジ)”と”氷槍(アイスジャベリン)”だ。


 まず、建物全体を10ほどの区域(ブロック)に分ける。

 そして区域(ブロック)毎に、建物の内部も含めて魔力を纏わりつかせる。壁に穴を空けた時のように。

 そこで”風千刃(サウザンドエッジ)”のような風の刃を起こすのではなく、氷を作り出すのだ。

 1カ所につき1回でOKというわけにはいかないが、数回繰り返して次の区域(ブロック)へ移動。

 こうして大まかに建物全体を凍りつかせる。

 もしも多少の熱源が木材の内部に残っていても、周りの氷が溶けだして消火してくれる。

 多少の時間と手間はかかるが、これが確実で安全な消火方法だと思えた。


 あと問題なのは、そこまで広範囲に魔力を伸ばせるのか。

 ”風千刃(サウザンドエッジ)”の練習では、半径数メートルに伸ばすのがやっとだった。

 今は魔力量の問題はほぼクリア。あとは制御の問題だった。

 だが、これも思ったよりは簡単にできた。

 魔力量が豊富になったおかげもあるだろうが、目で見える範囲に伸ばしていく分には、それほど苦労なくできた。

 まずは大まかに区域(ブロック)単位で冷やし、視界に入らない部分などの難しいところは個別対応。


 こうして、工場の火災を鎮火することに成功した。

 もっといい方法もあっただろうか?

 まあ、目的は達しているのでOKとしよう。







 そんなこんなで消火も終わって家に帰ってきたのだが、それからも大変だった。

 まず、アマーリアが2日寝込んだ。

 寝ていても度々うなされ、飛び起きてはミカを探すのだ。

 一切の反論の余地なく、悪いのは自分だと分かっているので、なるべくアマーリアに寄り添うようにした。

 アマーリアが少しでも安心できるように手を握り、アマーリアが目を覚ました時に不安にならないよう、常に傍にいるようにした。

 その甲斐あってか、アマーリアは少しずつ元気を取り戻し、今では普通に家事を行っている。

 ただ、仕事にはまだ復帰していなかった。


 ロレッタは家に帰る頃には大分落ち着きを取り戻していた。

 ただ、アマーリアと同様にロレッタもミカが傍にいないと不安になるようで、いつも傍にいるようになった。

 つまり、ノイスハイム家の3人はほぼずっと一緒にいるような状態になった。

 それでも責任感の強いロレッタは、アマーリアの寝込んでいる時に自分まで家事をしなければ家庭が破綻することを理解していた。

 そのため、渋々ながらミカから離れて家事をこなしていた。

 それが終わると、またすぐに戻って来てミカにべったり張り付くのだが。

 そして、ロレッタもまだ仕事には復帰していない。


(……このままじゃ、確実にノイスハイム家は破綻だろ。)


 ロレッタの膝の上で、ミカは「むぅ……。」と頭を悩ませる。

 最近、ミカは自分の席にあまり座れていない。

 食事の時だけだ。

 それ以外はアマーリアかロレッタの膝の上に座らされた。

 今はアマーリアが食器などを洗いに行っているため、ロレッタの番だった。


(これは、もしかしたら依存状態と言うのでは……? 心理学には詳しくないけど、間違いなく破滅に進んで行ってる気がする。)


 自分に原因があることを自覚しているので、あまり強いことは言えない。

 だが、確実にこのままではまずいことになりそうだ。

 そんなことを考えていると、アマーリアが食器洗いから帰ってきた。

 その表情はずいぶんと暗い。


「お母さん、どうかしたの?」


 アマーリアの様子に気づいたロレッタが声をかける。

 ロレッタの声に明らかに動揺するが「うん……。」と答えるだけだった。

 ロレッタはミカを下して食器を受け取ると、すぐに棚に仕舞う。

 二人が席に着くと、今度はアマーリアの膝の上がミカの席になった。


「…………村長に、明日話をするって……。」


 アマーリアが重い口を開く。

 ”何の”を言わないが、十中八九ミカのことだろう。

 それだけではないかもしれないが、ミカの話が出ないわけがない。


 いきなり”魔法”を使ってみせた村の子供。

 今回は村の人を救うために使ったが、大きすぎる力はそれだけで恐怖の対象だ。

 排斥されても不思議はない。

 ただ、ミカはまだこの世界での”魔法”の位置づけを図りかねていた。

 いちおう国を挙げて育成しているくらいなのでいきなり化け物扱いにはならないだろうが、消火作業中のミカを見る村人たちの様子からすると、手放しに喜ぶようなことでもなさそうだ。


(アマーリアやロレッタの表情を見るだけでも、明日は明るい話になりそうにないな。)


 アマーリアの膝の上で、そんなことを思うミカだった。







■■■■■■







 翌朝、言われた時間に村長の家に行くと集会場に連れて行かれた。

 村長の話は集会場で行うらしい。

 やや不機嫌そうな村長が前を歩き、アマーリアとロレッタがミカの手を繋いでいる。

 二人とも押し黙り、暗い顔をしている。

 それだけで、これから行われる話し合いが決して楽しいものにはならないだろうと想像がつく。


(FBIに連行されるグレイって、こんな気分だったのかね?)


 二人の男に挟まれ、連行される小型宇宙人の画像が頭に浮かぶ。

 もっとも、あの画像はフェイクということで確定しているらしいが。

 ミカがそんな下らないことを考えていると、集会場にはすぐに着いた。

 中に入るとそこには10人ほどの人がいて、キフロド、ラディ、ディーゴ、ニネティアナ、ホレイシオ、ナンザーロ、メヒトルテ、その他ミカの知らない人も数人いた。

 ミカの知り合い大集合だが、どの顔もこれまで見たことがないくらいに真剣だ。

 並べられたテーブルの中には3人分の席が空けられており、村長にそこに座るように言われる。

 ミカを真ん中にアマーリアとロレッタが両側に座る。

 アマーリアはテーブルの下でミカの手を握った。


(さて、どんな話になるのやら。)


 集会場にいる人たちと比べるとミカには真剣さが足りないが、それも仕方がないことだろう。

 ミカにはそもそも、なぜ魔法を使えることがそんなに問題なのか?という思いがある。

 何が問題なのか分からないのだから、真剣になりようがない。


「さて、それでは始めよう。 皆、朝早くから集まってもらって済まなかった。 あれから1週間も経ってしまったのでね。 できれば今日中に話をまとめたい。」


 そう言って村長は集まった面々を見る。

 もしかしたら、村長はもっと早くにこういう場を開くつもりだったのかもしれない。

 それが何らかの理由で延期されていたのだろう。


「いくつか確認すべきことがあるが、まずはこれを確認しなくてはそもそも話し合いにならないだろう。 ……ミカ君。」


 村長がミカを呼ぶと、集まった人たちがミカの方に顔を向ける。

 握られたアマーリアの手に力が入る。


「……君は【神の奇跡】が使えるね?」


 村長の問いに集まった人たちが固唾を飲むが、ミカはきょとんとしていた。


(……【神の奇跡】?)


 思いもしなかった村長の問いに、ミカは一瞬何のことか分からなかった。


(……そういえば、この世界で魔法は【神の奇跡】なんだっけ。 すっかり忘れてたわ。)


 ラディの使う【癒し】が【神の奇跡】だという認識はミカにもある。

 だが、自分の使っている魔法が【神の奇跡】だとは思ったことがなかった。


(だって、神様関係ないし。)


 ミカが初めて魔法を使ったのは偶然だった。

 それどころか使う気すらなかったのだ。

 使いたいとは思っていたが、水の塊を想像したら出てきてしまった。

 それを【神の奇跡】と思え、というのは少々無理があるのではないだろうか。

 確かに言われてみれば【神の奇跡】なのかもしれないが、もしかしたら違うかもしれない。

 何をどう説明したものかと考えあぐねていると、村長はそれを「隠そうとしている」と受け取ったらしい。


「もう、みんな見ているのだよ? 君が【神の奇跡】を使うところを。 私もこの目で見た。 正直に話してくれないかね?」


 正直に、と言われてもこの場合は質問の仕方が悪い。

 なぜ【神の奇跡】に限定するのか。

 下手に肯定して、ミカの魔法が【神の奇跡】とは別物だった場合、また面倒なことになるかもしれない。それは絶対に避けたい。

 ならば、ここは誤解のないようにしっかり主張した方がいいだろうか?


(いや……、それはそれで危険だろう。)


 【神の奇跡】でないならば、じゃあそれは一体なんなのか?

 相手がどう受け取るか分からない以上、下手なことは主張できない。

 もう後がないという状況なら一か八かで何らかの主張をすべきだろうが、まだ話し合いは始まったばかりだ。

 今は下手な主張をせず、少しでも情報を集めたい。

 ミカが答えないでいると、苛立ったように村長が荒げる。


「ミカ君! なぜ何も答えようとしな――――。」

「まあ、待つのじゃ。 子供をそんな風に問い詰めても何もならんわい。 まずはしっかりと事実確認をせんとの。」


 村長の言葉を遮り、そこに割って入ったのはキフロドだった。


「ですから、私がこうして――――。」

「村長、お主の立場も分かるがの。 もう少し落ち着くがええぞ。 そう悪いようにはせんわい。 教会としても、できる限りの協力を約束しよう。」


 ええの?とキフロドがラディに問いかけると、ラディは神妙な表情で頷いた。


(ん? なんか、村長の立場が関係する話なのか? 俺の魔法で? なんで?)


 何やら、ミカのよく分からない事態になっている。

 理由は分からないが、どうやら村長にも飛び火しているらしかった。

 朝、村長宅で顔を会わせてからの不機嫌さには、それなりに理由があるようだ。

 キフロドはいつもの好々爺然とした雰囲気でミカを真っ直ぐに見る。


「なあミカよ、今ここにいる人たちはの。 みんな、お前さんのために集まったんじゃよ。 少々困ったことにはなったがの。 それをどうにかしようと、こうして集まったんじゃ。」


 そう言ってキフロドが集まった人たちを見ると、一人ひとりがしっかりと頷く。

 アマーリアは「司祭様……。」と呟き、ロレッタは涙を拭っていた。

 どうやら、本当にまずい事態になっているようだ。

 ミカが事態を飲み込めずにいると、キフロドが一つひとつを確かめるように聞いてくる。


「まずはミカよ。 お前さん、水の塊を作ってみせたの。 火事に飛び込む前じゃ。 そして、中では大量の水を撒いて火を消していた。 これは中に取り残された人たちが見ておる。 ……間違いないかの?」


 キフロドの問いに、ミカは素直に頷いた。

 これはもう誤魔化しようがないほどに見られている。

 否定したところで、信用を失う以外の意味はない。

 ナンザーロとメヒトルテが、沈痛な面持ちでミカを見ていた。


「そして、火事の起きていた建物を凍らせて、火事を止めてもいるの?」


 これもミカは素直に頷く。

 村人の全員に見られたと言ってもいいほどに見られている。否定するだけ無駄だ。

 ミカが頷くのを見て、キフロドははっきりと笑顔を見せる。


「うむ。 おかげで幾人もの命が救われたわい。 ありがとう、ミカよ。 お前さんの行いは、誰にでもできることではない、立派な行いじゃ。 ……ちと、無茶が過ぎるがの。」


 キフロドの言葉に、ディーゴとニネティアナがうんうんと頷く。

 ラディは略式の祈りの仕草をしている。


(……そういえば、今回のことでお礼を言われたのって、何気にこれが初めてか?)


 そんなことが、ふと思い浮かんだ。

 この1週間ミカは家から一歩も出ていない。アマーリアから離れるわけにはいかなかったし、その後も二人が離してくれなかったからだ。

 そして来客はロレッタが対応していた。アマーリアが起き上れるようになった後も、二人のうちのどちらかが対応していてミカは会っていなかった。

 そんなことを思っていると、キフロドが話を続ける。


「じゃがのぉ、ここでいくつか疑問があるのじゃ。 お前さん、いつからあんなことができるようになったんじゃ?」


 どうやら、ここからが本番のようだ。

 キフロドは相変わらず好々爺然としているが、周りの空気が一瞬で張り詰めたのがミカにも分かった。

 アマーリアの手も、ビクッと震える。


(さて、ここはどう答えるか? ……事実としては1カ月半くらい前だが、この答えで良いのか悪いのか。 結局、何が問題なのかを把握してないから判断がつかないんだよな。)


 ただ、嘘をつくことで「ミカのために」ここに集まったという人たちの信用を失うのは得策ではないだろう。

 正直に話すことにした。


「……1カ月くらい前です。」


 悪あがきだが、少し大雑把に答える。

 これで、時期を微妙にズラす必要ができた時に強弁することが可能だ。

 そんなミカの返事を聞き、集まった人たちが一気にざわつき始めた。


「1カ月? それなら――――。」

「そんなの、どうやって……。」

「いや、しかし証拠がなければ――――。」


 どうやら、今問題になっていることに、「時期」というのが非常に重要だということが分かる。

 アマーリアとロレッタは、不安そうにキフロドを見つめている。

 キフロドは、隣に座るラディと何やら話し込んでいた。

 他の人たちも口々に何かを言っている。断片的に、「証拠」や「証明」という単語が聞き取れるが、ミカには魔法を使えるようになった時期を証明する方法など思いつかなかった。


(隠れて練習してたしなあ。 これなら、素直にラディに魔法の相談をしていた方が大事にならずに済んだか。 失敗だったな。)


 魔法を使えることがバレれば禁止されると思い、あえてラディを避けていた部分もある。

 今更ではあるが、その時にラディに話していれば……、と少しばかり後悔をした。


「あー……、みんな静かにしてくれんかの。 まずみんなに聞きたいのじゃが、一月前からミカが【神の奇跡】を使えるようになったこと、誰か証明できる者はおるかの? 証言でもええぞ。」


 キフロドの言葉に、全員が口を閉ざす。

 どうやら、キフロドの中でもミカの魔法は【神の奇跡】で確定らしい。


(……俺は、そんなこと一言も言ってないぞ。)


 ミカは心の中で悪あがきをする。

 もしもミカの魔法が【神の奇跡】と別物だったとしても、自分は【神の奇跡】だとは一言も言っていないと主張できる。

 まあ、そんな理屈が通ってくれるなら、ではあるが。


「ふむ……。 では、間接的に状況を裏付けるしかないのぉ。 村長。」


 キフロドが村長に声をかける。


「春に行った魔力測定の記録。 残してあるの?」

「ええ、もちろんです。 もしこちらになくても、コトンテッセにもあるはずですから問題ありません。」


 村長の返答に、キフロドはしっかりと頷く。


「教会でも儀式を行っておる。 2カ月ほど前じゃな。 この時のことは詳細に日誌として残しておる。 そうじゃな、ラディ。」

「はい。」


 ラディもしっかり頷いた。


「また、この時のミカの結果が少々特殊だったこともあっての。 教区の司教にも通常の報告とは別に、手紙でもお伝えしておいたのじゃ。 ラディの判断での。」


 おぉ~……と、少しだけ集まった人たちが騒めく。

 ミカは、キフロドの言う「特殊な結果」というのが気になったが、それはスルーされてしまう。


「これらにより、楽観はできんがおそらくミカの”学院逃れ”の嫌疑は晴らせるじゃろう。 儂からも司教宛に助力をお願いしてみるわい。 ……まったく、手紙を書くなんぞ何年振りになるかの。」


 キフロドは、さすがにこればかりは代筆させられんわい、とぶつぶつ愚痴のようなことを言っている。

 だが、放心しているようなアマーリアとロレッタの様子に気づくと、笑顔を作って優しく言葉をかける。


「アマーリアよ、それとロレッタ。 そんなに心配せんでええぞ。 これなら何とかなりそうじゃ。 いや、必ず儂らで何とかするわい。 大丈夫じゃ。」

「司祭様! ……ありがとうございます。 …………ありがとうございます。」

「ミカッ!」


 ロレッタは弾かれたように立ち上がると、ミカに抱きついた。

 アマーリアはキフロドに何度もお礼を言い、ミカとロレッタを抱きしめる。

 二人とも、涙を流して喜んでいる。

 集まった人たちも先程までの緊張した様子から一変して、安堵の息が漏れる。

 口々に、よかったよかったと言って笑顔になるが、ミカは一人だけこの状況に置いて行かれていた。


(いやいやいや、分かんねえって。 なにこの、万事解決って空気。 俺一人置いてきぼりなんですけど!?)


 心の中で、誰か教えてくれよぉ~……!と吠える。

 とてもそんなことを言える雰囲気ではなかったが。







 しばしみんなが喜び合っていたが、話はそれだけではなかったようだ。


「あー……では、次の問題じゃがの。 どうするかの、村長。 このまま儂が進めても構わんかの?」

「ええ、お願いします。」


 村長は話し合いが始まった頃の不機嫌さが無くなり、快く進行をキフロドに譲る。

 どうやら、村長の立場は安泰になったようだ。


「では……、ミカよ。 お前さんにの、もう一つ尋ねたいことがあるんじゃ。」


 キフロドがそう言うと、先程の緩みまくった空気が一変し、再び緊張したものになった。


「お前さん、誰に【神の奇跡】を教えてもらったんじゃ?」

「え? 教わってませんけど?」


 キフロドの問いに、ミカは何も考えずにポロッと答える。

 もっとも、これについてはよく考えようが誤魔化しようがない。

 適当に誰かのせいにしようものなら、下手をすると魔女狩りのようなことになりかねない。

 適当な証言一つで、本人が()()するまで拷問する。

 そんなことになっては大変なので、本当のことを言うしかない。


「また君は、そうやって適当なこと――――。」

「まあ、ちょっと待つのじゃ。」


 村長が口を出そうとするが、キフロドがそれを遮る。

 どうやら、ミカは村長にすっかり嫌われてしまったようだ。


「…………【神の奇跡】を扱うにはの、大事なものがいくつかあるんじゃよ。」


 キフロドは、【神の奇跡】を使うためには「信仰心」と「魔力」、そして「詠唱」が必要不可欠だと言う。


「まあ、細かく挙げれば他にもあるがのぉ。 大まかに言えば資質が必要ということになるんじゃが。 逆を言えば、資質があるなら信仰心や魔力は本人の努力次第で何とかなるわい。」


 そこはミカにも理解できる。

 腕力などの単純な身体(フィジカル)の問題なら、子供と大人ではどうあがいても越えることのできない壁があるだろう。

 だが、信仰心に年齢は関係ない。

 将棋や囲碁など、深い思考や閃きが勝負を決す場合、子供が大人を凌駕することはしばしば起こる。

 円熟した思考には経験なども大事だが、子供だからその域にまで至れないということはない。

 信仰心も、子供だから大人ほどには持つことができない、ということはないだろう。

 ”魔法=【神の奇跡】”説や、”【神の奇跡】には信仰心が必要”説などには大いに疑問があるが。


 キフロドが詠唱についてなどいろいろ説明を続けているが、ミカは自分の考えに没頭した。


(ここで魔法の一つも使って見せれば、俺に詠唱が必要ないことは証明できるな。 ……だけど、それが最善手か?)


 まるで水芸のようにみんなの前で魔法を披露する場面が一瞬思い浮かぶが、それで事態が好転するかは微妙だろう。

 むしろ【神の奇跡】以外の何か、と思われるのはまずいのではないだろうか。

 だが、詠唱を必要としないことも事実なので、誰に教えられたのかと聞かれても困ってしまう。

 というか、建物の消火の時に詠唱していないことに気づかなかったのだろうか?


 ミカがキフロドを見ると、キフロドもミカの方を見ている。

 キフロドだけではない。そこにいる全員が、ミカの答えを待っていた。

 次にラディを見る。

 ラディは胸の前で手を組み、心配そうにミカを見つめていた。


(キフロド、ラディ……。 この二人は信用できるか?)


 ミカは自問する。

 これまで、二人との関りはそれほど多くない。

 ラディは命の恩人だし、キフロドもこの場では積極的にミカを救おうとしている。

 だが、全面的に信頼してもいいのだろうか。

 正直に言えば自信が持てない。


 アマーリアとロレッタは、不安そうにミカを見つめていた。

 この場に集まった全員が、固唾を飲んでミカを見ている。


(…………もう、これしかないか。)


 誰一人言葉を発しない静寂の中、ミカの椅子から下りる音だけがやけに大きく響いた。





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― 新着の感想 ―
やっぱり、若返った影響か、47才とは思えない立ち回りの不味さ。
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