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【コミックス第1巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第3章 魔法学院初等部の”解呪師”

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第100話 淫紋を解け!




 その淫紋は、ただ描かれているだけではなく、淡く光っているようだった。

 ピンク色の、ハートマークをモチーフにした卑猥な紋様。

 ミカは目の前にある淫紋を見て、頭を抱えたくなった。

 だが、いつまでもヘーミニッキをこのままにさせておく訳にはいかない。

 ミカは絞り出すように、震える声で呟く。


「状況は……、把握しました。 もう結構です。」


 そうして俯き、両手で頭を抱えた。


(……ふざっけんなよっ!? 本当にこんな馬鹿な物があるのかよっ!!!)


 怒りで頭が沸騰しそうだった。


(誰だよ! こんなふざけた呪いかけた奴は!?)


 目の前にいたら、思わず殴り殺してしまいそうだ。

 年頃の女性に、何て呪いをかけやがる。


「…………やはり、難しいでしょうか。」


 頭を抱えたミカの様子に、夫人が落胆した声を漏らす。

 ヘーミニッキの鼻をすする音が聞こえた。


(……俺が自信なさそうにすれば、それだけでこの二人を苦しめることになる。)


 ミカは身体を起こし、姿勢を正した。

 自分の態度を猛省する。


「いえ、問題ありません。」


 ミカは意識して真剣な顔を作り、夫人に答えた。

 そして、ヘーミニッキを真っ直ぐに見る。


「もう少し詳細なお話と、状況の確認が必要ではありますが……。」


 そこで一呼吸置き、しっかりと息を吸い込む。


「早ければ今日中に、遅くとも数日で必ず呪いを解きます。」


 そう、力強く断言した。







 必ず解呪すると言うミカの言葉を聞き、ヘーミニッキは安堵のあまり泣き崩れ、夫人も涙を流して喜んだ。

 普通なら、こんな口先だけの言葉を信じはしないだろう。

 それでもそんな言葉に縋り、信じてしまうのは、それだけこの母娘が追い詰められていたということだ。


 実際のところ、ミカにも自信がある訳ではなかった。

 これまで”物”に宿った呪いは解いてきたが、”人”に宿った呪いは解いたことがない。

 というか、初めてお目にかかる。

 それでも、ミカ自身が「絶対に解く!」と強く覚悟を決めた。

 この母娘の不安を少しでも払拭し、早急に解呪に取り掛からなくてはならない。


 だが、ミカとしてまず事の経緯などを聞き、本当にヘーミニッキの淫紋だけを解呪すれば事態が解決するのかを確認しなくてはならない。

 二人が落ち着くのを待ち、ミカは聞き取り調査を開始した。


 事の起こりは一カ月以上前。

 夫人の夫であり、ヘーミニッキの父親が古物の買い付けで、このネックレスを手に入れたところから始まる。

 古美術や装飾品などを扱う商会を営む父親は、買い付けで国中を飛び回る。

 そこで、このネックレスを見つけた。

 商会の客たちは父親と同じで、豪華で派手な物を好む。

 このネックレスは物は良さそうだが、使われている宝石も小さく、客たちの好みからは外れる。

 いい値はつかないだろう、と仕入れの候補から外した。

 だが、妙にこのネックレスのことが気になった。

 そこで「売り物にはならんが、妻や娘なら気に入るかもしれない」と、お土産として買ってきたのだという。


 夫人や娘は父親の好みとは逆で、落ち着いた雰囲気の物を好んだ。

 そうしてこのネックレスを買ってきたが、夫人はなぜかこのネックレスにまったく興味を示さなかった。


「普段ならもう少し興味が湧いてもいいはずなんですが……。 この時は、不思議と興味が湧きませんでした。」


 それは、ネックレスを一目見て、ということではないらしい。

 お土産でネックレスを買ってきたと言われても、まったく興味が湧かなかったのだ。


 そして、逆にヘーミニッキは始めからこのネックレスに執着した。

 ネックレスを見せる前から「早く、早く」と父親を急かし、手に取ると目を輝かせた。

 そうして、その場ですぐに身につけた。


 ところが、ここからこの家族にとっての、悪夢のような日々が始まった。

 ヘーミニッキの身体に異変が起きたのだ。

 毎晩のように身体が疼くようになり、男を求めるようになった。

 ヘーミニッキは自分の身体の異変に気づいた時、すぐに夫人に相談していた。

 最初は「気のせいだ」「年頃にはよくあることだ」と取り合わなかった夫人だが、ついにヘーミニッキが父親にさえ色目をつかうようになったことで事態の深刻さを理解した。


 淫紋は、ネックレスを身につけてから一週間ほどで、はっきりとした紋様になった。

 それまでは少しずつ赤くなっていく下腹部を見ても、まったく気にならなかったのだとか。

 夫人がヘーミニッキと話をしているうちに、下腹部の紋様の存在を知り、はっきりと何かの呪いだと気づいたらしい。


 だが、内容が内容だけに、そう簡単には人に相談もできない。

 まだ婚約にまでは至っていないが、縁談の話もある。

 こんな話が漏れれば、それも破談だ。

 変な噂が立てば、娘の将来に大きな傷を残すことになる。


 今は男性の使用人には暇を取らせ、何とか女性の使用人だけで屋敷のことをやっているが、それにも限界がある。

 万が一のことも考え、父親も屋敷には近づかないようにしている状態だ。

 このままでは、ヘーミニッキがどうなってしまうのか、家はどうなってしまうのかと不安を抱える日々なのだという。







 一通りの話を聞き、ミカは「ふぅ……。」と息をつく。

 具体的なことを言いづらそうにする夫人から、少々手間取ったが大体の経緯は聞かせてもらった。

 まあ、こんな子供の姿をしているミカに言いづらいのも分かるが、こちらも仕事だ。

 だいぶ突っ込んだ話を聞かせてもらった。


 不運は不運だが、悪意ある者に呪いをかけられた訳ではないと分かり、とりあえず一安心。

 そして不幸中の幸いは、ヘーミニッキがすぐに夫人に相談したことか。

 ヘーミニッキ自身の自制心も強かったのだろう。

 間違いが起こる前に男性使用人を屋敷から出し、父親も屋敷から遠ざけた。

 ひどい呪いだが、取り返しのつかない事態になる前で本当に良かった。


「商会でいろいろな物を扱っているんですよね? 呪いに気づかなかったんですか?」


 ミカが一番不思議に思ったのはそこだ。

 仕入れに【鑑定】の【技能(スキル)】を持っている人を同行させなかったのだろうか?


「主人も目が利きますし、専属の鑑定人も同行させていました。 ですが、呪いにはまったく気づかなかったそうです。」


 娘の様子がおかしいと夫人に相談されてから、父親も原因をいろいろと考えた。

 そこで改めてネックレスを確認して、初めて呪いに気づいたのだという。


(呪いが潜伏するとかあるのか……?)


 潜伏し、何かを引き金(トリガー)として発現する。

 しかも、目にする前からネックレスに興味を示したヘーミニッキと、まったく興味が湧かなかったという夫人。

 呪いが相手を選別したのだろうか?


(父親も仕入れ候補からは外したのに、妙に気になったと言うし……。)


 どうにも、これまで扱った呪いとはかけ離れた効果があるようだ。

 しかも、ネックレスの呪いは解いたが、ヘーミニッキの淫紋はまだ残っているらしい。


(呪いがヘーミニッキに移った? ネックレスは呪いの残りカスみたいなものだったのか?)


 分からないことが多い。

 だが、今やるべきことははっきりしている。

 ならば、まずはそこから手を付ければいいだろう。


 ミカは立ち上がって、ヘーミニッキの横に移動する。


「手を出してもらえますか?」


 そうして手に触れ、魔力を送る。


(…………呪いの存在自体は感じる。 ……けど、これは――――。)


 遠い。

 そう感じた。

 ヘーミニッキ自身が呪物になった、という状態なら手でも髪の毛でも触れれば、普通に解呪できるはずだ。

 だが、どうやらそういう訳ではないらしい。

 何と言うか、一メートルの箸を使って、豆を掴むようだとでも言えばいいのか。

 解呪には繊細な魔力の操作が必要だが、これではそんな操作はできそうにない。


「すいません。 ちょっとお腹に触ります。」


 ミカは一言断って、服の上からヘーミニッキのお腹に触れる。

 丁度、淫紋があった辺りだ。


(……薄手の服一枚隔てるだけで、これか。 これでもやれなくはないが……。)


 手袋をして細かな作業をするような、そんなもどかしさがある。


(今一番に考えるべきは、なるべく早くに解呪すること。 なら、遠慮していても仕方ないか。)


 ミカはヘーミニッキに言って、お腹を出しやすい服に着替えてきてもらうことにした。

 その際に夫人には、ヘーミニッキの全身をよく調べてもらう。

 淫紋以外に何か異変はないか、些細なことでも見落とさないように頼んだ。


「やはり、お腹以外には特にはなさそうです。」

「そうですか。 では、すいませんがお腹の紋様が見えるようにしてもらえますか? 少しでも見えていれば大丈夫です。」


 着替え終わったヘーミニッキとともに戻ってきた夫人の報告を聞き、ミカは淫紋に直接触れさせてもらう。

 そっと触れた瞬間、ミカの左手が呪いの波動の強さに強張る。


(直接触れるのと布一枚隔てるかで、こんなにも違うものなのか。 今まで気づかなかったな。)


 これまでも呪物をポケットに入れたりして、何となく呪いが伝わってくるのを感じたことはあるが、解呪しようとした場合の感覚の違いは段違いだった。

 やはり、直接手で触れるしかない。

 だが、そうであれば――――。


「これならいけます。 解呪できます。」


 ミカは改めて、二人にしっかりと伝える。

 その言葉に、二人は再び感極まってしまったのか涙ぐむ。

 そして、


「どうか、よろしくお願いします。」


 そう、丁寧に頭を下げるのだった。







 ミカはヘーミニッキの私室に行き、ベッドに横になってもらう。

 ベッドの横に椅子を置き、ミカはそこに腰掛けながらヘーミニッキのお腹に手を伸ばす。

 ミカの手が届く位置にヘーミニッキの寝る位置を調整し、テーブルも用意してもらった。

 ペンと紙ももらって、これで準備万端。


「多少動いてもらっても大丈夫ですが、僕の手が離れないようにしてください。」


 寝返りも打てないのは大変だと思うが、まったく動くなという訳でもない。

 大きく動く時はミカに声をかけてから、などの簡単なルールを決めて、ミカは早速解呪に取り掛かる。


 ミカは念のため、以前のパズル感覚で呪いを解いていた時と同様に、手順を書き記していくことにした。

 最近は行き当たりばったりで、タイムアタックのように早く解呪することにしていたが、今回は一応の保険を打っておく。

 いつもの”呪い系”の依頼で解呪する時は、例え何らかの理由で中断することになっても、また次週に最初からやればいい。

 だが、今回は完全に最初からになっては、この家族の苦しみが長くなる。

 なので、中断せざるを得ない事態になっても、再び同じ段階まで辿り着けるように、多少効率が落ちても手順を残すことにした。







 そうして順調に解呪を進め、数時間が経過した。

 普通に昼食を摂り、トイレも済ませて解呪を再開。

 呪いは一晩経てば元に戻ってしまうが、手を離したからといってすぐに戻るものではない。


 再開後、ヘーミニッキのお腹に手を置き、じっと動かずにいるミカを夫人が少し離れた場所から見ていた。

 夫人は「こんな状態の娘と二人きりにはできない」ということで、解呪が始まってからずっと立ち会っている。

 ミカとしても、話しかけられたりして邪魔さえしないのであればどうぞ、という考えだ。

 屋敷の女中(メイド)も常に一人はつき、二人体制でミカを監視している。


 だいぶ解呪を進めてきたが、まだどれくらいかかるかなどの進捗までは分からない。

 目で見て確認できるものではないので、全体というのを把握できないからだ。

 更に数時間経過し、一休み。

 更に数時間経過して、夕食をいただく。

 すでに、手順書は三枚目の半ばまで進んでいる。

 正直、ここまで複雑な呪いは初めてだった。

 それでも確実に解呪は進んでいるし、そうであればいつかは解ける。

 そう思い、黙々と解呪に取り組む。


 いつも通り足を組み、顎に手を添えて目を瞑る。

 意識を集中して呪いに干渉していると、ヘーミニッキのお腹の上に置いていた、ミカの左手が不意に掴まれた。


(ん?)


 何だろうと見てみると、ヘーミニッキがミカの手を掴んでいる。


「どうしました?」

「うふふ……。」


 だが、ヘーミニッキはミカの問いかけには答えず、微笑むだけ。

 ヘーミニッキの様子のおかしさに気づき手を引こうとするが、がっちり掴まれた手を解くことができなかった。

 それどころか、ヘーミニッキは女性とは思えないほどの強い力でグイッとミカを引き寄せ、そのまま抱きしめる。


「うふふぅ~、つ~かま~えた~。」

「ヘーミニッキさん!?」


 楽し気なヘーミニッキの声が耳元から聞こえた。


「可愛いらしい顔してるのに、ちゃ~んと男の子なんだ~。 い~い匂い~。」


 ミカの頭に顔を埋め、ヘーミニッキがくんかくんかしてくる。

 ミカもヘーミニッキのふくよかな胸に顔を埋め、甘い匂いにくらくらする。

 信じられないほど強い力で抱きしめられ、身動きが取れない。


(くそ、油断した! 【身体強化】も使ってないなんて!)


 魔物や魔獣に襲われることはないと思い、【身体強化】を怠ったのは致命的なミスだった。

 昼間はともかく、夜はヘーミニッキに呪いの影響が出るというのは、聞き取りで分かっていたことなのに。


「ヘーミニッキ!? 何やってるの!」

「お嬢様!」


 夫人と女中(メイド)が慌ててヘーミニッキを止めようとするが、蹴り飛ばされてしまう。


「ちっ! ”吸収(アブソーブ)”! 創造の火種たる火の大神。 その偉大なる眷属神、漲りむぐ!? ……ふがふがふが!」


 ミカは【身体強化】を発現しようと詠唱するが、途中で頭を抱きすくめられ、顔を胸に埋める。

 詠唱してはいるのだが、何を言っても「ふがふが」にしかならない。


「ふがふが、ふがふがふがふが、ふがふがふがふがふがふがふがふがふがふが。」

「あん。 そんなところでしゃべっちゃだ~め。 くすぐったいわよぉ~。」


 だが、ミカは構わず詠唱を続けた。

 なぜなら、ミカの中の魔力が詠唱によって動いているから。

 ミカの魔法は音として発音しなくても、魔法名を口にしているとミカが認識すれば発現させることができる。

 では、【神の奇跡】はどうか?


「ふがふがふがふが、ふがふがふがふがふがふがふがふがふがふが、ふがふがふがふがふが!」


 ミカの詠唱が終わると同時に魔力をごっそり奪われ、その瞬間に強い陽炎が現れた。

 突然の強い陽炎に驚いたヘーミニッキの腕を力づくで解き、素早く引っ繰り返す。

 そうして、ヘーミニッキの背後からチョークスリーパーを仕掛けた。


「な、何をしているのですか!?」

「お嬢様を離しなさい!」


 ヘーミニッキの首を絞めているとしか思えないミカを、夫人と女中(メイド)がぽかぽかと叩いてくる。

 当然ながら【身体強化】を四倍にしたミカにはその程度はまったく効かない。

 だが、ヘーミニッキはミカの腕や顔を力任せに引っ掻き、あちこちが出血する。

 髪を掴んで力いっぱいに引っ張り、ぶちぶちと抜けていくのが分かった。


(なんてこった!? 俺の長い友達がっ!?)


 こんな時ですら、大昔のテレビCMにあった「髪は長ーい友達。」というフレーズが浮かぶ。

 そんな馬鹿なことを考えながらもミカは手を緩めず、やがてヘーミニッキの抵抗は弱まる。

 そして、その腕がベッドに力なく落ちた。


「はぁー……、やばかった。」


 ミカは力を抜き、起き上がる。

 そんなミカを夫人は怒りの籠った目で睨み、わなわなと震えていた。


「殺してません! すぐ治します!」


 ビシッと手のひらを突き出して宣言し、すぐに【癒し】をヘーミニッキにかける。

 苦悶の表情で伸びていたヘーミニッキが、ただ眠っているだけのようになり、夫人がへなへなと腰を落とす。


「一応、お二人にもかけておきますね。」


 と、夫人と女中(メイド)にも【癒し】を使う。

 最後にヘーミニッキが掴んだままのミカの髪の毛を回収し、頭にあてる。

 そして、一縷の望みをかけて【癒し】を行った。


 【癒し】は非常に優れた治療、回復の方法ではあるが、手足が欠損しても生えてくるといったものではない。

 だが、斬り落とされたり、千切れた場合には、その取れた部位があればくっつけることはできる。

 ミカの長い友達も、こうすることでまた一緒にいられる可能性があるのだ。

 また、【癒し】は古傷も治すことはできない。

 仮に、骨折して骨が曲がってくっついてしまった場合、それが治るということはない。

 ディーゴが足の怪我で冒険者を引退した理由であり、顔の傷などが残ったままになる理由でもある。

 ミカも全身骨折を癒しの魔法で治したが、もしズレてくっついている部分があっても【癒し】で治ることはない。


「すいませんが急いで紐を……いえ、長い布をいくつかください。 無ければ服でもいいので、ヘーミニッキさんの服を使わせてもらいます。」


 ミカは女中(メイド)に言って、ヘーミニッキを縛るための布を用意させる。


「呪いに操られているのかは分かりませんが、今のヘーミニッキさんは普段とは違いますよね?」

「え、ええ……。」

「なので、すいませんがヘーミニッキさんを拘束させてもらいます。 また先程のようなことにならないとも限りませんし、次は上手く取り押さえられるとは限りません。」


 ミカがそう言うと、夫人は痛みを堪えるような表情で頷く。

 次は逃げられちゃうかもよ?とも取れるし、次は殺しちゃうかもよ?とも取れる。

 まあ、どっちに取ってもらってもいい。

 要は動けないようにするための許可が得られればいい。

 そうして女中(メイド)の持って来た帯のような物を使って、ヘーミニッキの手足を縛る。


 ミカはそのまま解呪を再開し、しばらくするとヘーミニッキが目を覚ました。

 ひどく暴れたので夫人と女中(メイド)に押さえててもらい、ミカは解呪に集中する。


 ヘーミニッキはとても昼間の女性と同じ人物とは思えない変貌ぶりだった。

 「犯して。」「ぶちこんで。」「気持ちよくしてあげる。」などなど、もっともっとお下品な言葉のオンパレードでミカを誘ってきた。

 お嬢様なのに、何でそんな言葉知ってんの?とちょっと驚くような品のない誘い文句が、ぽんぽん出てきた。

 これも呪いの影響なのか?


 昨夜までのヘーミニッキは身体が疼く程度だったのだが、ミカという異性が傍に居る影響かタガが外れてしまったようだ。

 ミカは特に気にせず黙々と解呪に集中していたが、夫人や女中(メイド)は大きなショックを受け、涙を流しながらヘーミニッキを押さえ続けた。

 そして、夜が明ける少し前――――。


 ふわっ……。


「あ……。」


 呪いが、呪いの状態を維持できずに霧散する。

 その瞬間、それまで散々暴れていたヘーミニッキが気を失った。

 ミカは、はぁー……と大きく息を吐き出し、肩の力を抜く。


「終わりました。」

「え……?」


 ミカが夫人に声をかけるが、何のことか理解できなかったようだ。

 夫人はあまりにも変わり果てた娘に涙を流し、その涙が枯れても必死に押さえつけていた。


「解呪できました。 もう大丈夫です。」


 ミカが疲れた笑いを向けると、ようやく夫人も理解できたのかへなへなと座り込む。

 女中(メイド)も力尽きたのか、がっくりと崩れ落ちた。


 ミカはヘーミニッキの下腹部にあった淫紋が消えていることを確認してから、手足を縛っていた帯を解く。

 縛られていた所が力任せに暴れたせいか赤くなり、擦れて出血していた。

 ヘーミニッキに【癒し】を使って治療すると、夫人と女中(メイド)にも【癒し】を使う。

 そして、一応自分にも使っておく。


 どさっと椅子に座り、大きく背もたれに寄りかかる。


(やっと、終わった……。)


 疲れた。

 ただ、その一言しかない。

 たった一日二日で大金貨一枚。

 それだけ聞けば、なんて楽な商売だと言う者もいるだろう。

 だが、その報酬に見合うだけの仕事だったのではないかと思う。


(指名依頼って、大変なんだなぁ……。)


 そんなことを考えながら、ミカはいつの間にか寝息を立てていた。







 そして、目が覚めたら屋敷の客間に寝かされ、夕方になっていた。

 寮の無断外泊に、学院の無断欠席。

 当然、寮と学院の両方でめっちゃ怒られました。


「これからは、指名依頼の時は外泊届け出しておこうかなあ。」


 そんな反省をしました。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公は、まだ精通前の年齢でないのかな(^-^;
[一言] エクソシストみたいだね。あと髪の毛の分は上乗せしても良いと思うんだ!
[気になる点] しかも、ネックレスの呪いは解いたが、ヘーミニッキの淫紋はまだ残っているらしい。 解いたがだと自力で解呪しちゃってる風なので解けたがにして自然に消えたことにするか、ネックレスは捨てたが…
感想一覧
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