見下されろ!
こちらは途中まで書いたものがあったので、続きを書いての投稿です
東宮で暇を持て余してお茶三昧、茶腹をかかえてぐうたら生活……とはいかなかった。
メルランジャの姫さんとの縁談はどうやら本当の話のようで、その準備で服も新調することになっている。
馬鹿王子は外見だけはいいから、それこそジーンズに白シャツでも王子様オーラが出るんで、有りものの服で十分、もったいない話だと思っていたら、俺のためではなく相手へ「お会いする為に新しい服も用意しました」と他のあれこれも含めた歓迎の意思表示の一環だということなのだそうだ。
あー、うん。そういうことならケチっちゃ駄目だよね。
自分の縁談ながら、周囲の気合の入りっぷりにちょっと怖くなる。
おそらくは皆が皆「これを逃せばもう後がない!」と思っているのだろう。
ダンスや作法のおさらいもさせられたが、体の方が覚えていてくれたのは有難い。
お相手役に妹ちゃんも頑張ってくれたしな。
セクハラ前科持ちの俺(中身俺じゃない時の話な?)のダンス練習の相手をしてくれるのなんて、上の妹か下の妹しかおらず、上の妹は今回の縁談を機に話を進める二国間の様々な課題について国内の調整を行っていて非常に忙しいため、それに比べれば多少は時間の融通が利く下の妹ちゃんが相手をしてくれているのだ。
「こうして見るとドレス姿も美しいのだから、普段からもっとドレスを着ればいいのに」
「もう、お兄様は本当に! 妹は褒めなくても結構ですから、その分お会いする姫をそれこそ精魂込めて賞賛なさいますよう」
ダンスをしながらの軽口にけっこうキツい声で怒ってくるが、耳と目元に少し朱がさしている。
うむ、相変わらず妹ちゃんは可愛いな!
可愛さに気づいてからは、けっこう気軽に妹ちゃんとは話せているが、お付き合いだの結婚だのと言った対象になる若い女性との会話に関しては、内面ヘタレのままの俺であるために非常に不安だ。
俺が結婚とか冗談としても出来が悪いぞ?
まあ、王室の不良債権とも言えるバカ王子をなんとか処理したいのは分かる。
でも、見た目だけだぞ、マジで。
お相手が可哀想過ぎないか?
冷たい政略結婚であってくれた方がマシ。
相手が善良で心優しい女性なんかだった日には罪悪感で押しつぶされてしまうかもしれない。
逃げちゃダメかな?
色々頑張ってくれてる妹ちゃんをはじめとする周囲の人々に応えたいとは思うけど、人には向き不向きがあると思うんだ。
バカ王子も女好きではあったものの、俺とは逆ベクトルに女性とのまともなお付き合いって不得意だろ、実は?
作法やダンスでは体が覚えてる動きってのには助けられているが、致命的なトコで致命的なことをやらかしかねないんじゃね? この体に任せてると……。
「お兄様っ! また気を抜いてらっしゃいますわね!!」
ご、ごめん、でも鼻をギュッとつまんで左右にグリグリするのはやめてくんない?
妹相手に鼻血出してるとか、アホ王子のアホエピソードが追加されそうだからさ。
そんなこんなでメルランジャの姫さんが到着した。
物見高く見物に行くわけにいかないんで、正式な対面までちょっと暇なんだけどね。
城の中は慌ただしいふいんき(ry
妹ちゃんの方は出迎え(実質この国の武官のトップだからな)に出てるし、アヤメはアヤメで上の妹の指示で動いてるみたいだし、薄幸の侍女ちゃんも応援に駆り出されてるため、今の俺はボッチだ。
すごいよね、このおざなり具合。
一応は今回のイベントの主役その2な訳でしょ?
まあ、することないから、自分で茶を淹れて飲んでみたりもしてるけど、あんま美味しくない。
俺の淹れ方が下手な上に、保温の魔法が使われてるとは言え、ポットのお湯も朝に入れられたっきりだからね
猫舌でも無問題な温度です。
お、妹ちゃん戻って来たけど、なんか顔こわばってね?
姫さん迎えに出てたはずだよね?
え?
妹ちゃんが血相変えるほど、メルランジャの姫さんってヤバイ人なの?
「ま、まさか、噂の鬼姫将軍がお兄様のお相手とは思いませんでした」
「鬼」姫「将軍」ってなにそれ、初耳なんですけど?
「あちらの王室は男児に恵まれず、姫君ばかり8人ですが、てっきり、特に国内で役割の無い姫君の、こういっては悪いですが『有効活用』としてお兄様のお相手としての役が割り振られたのだと思っていたのですが……」
まあ、順当な予想だよね、自国にとって重要な役割持ってる姫に、こう、ババを引かせる様な真似は普通しないよな。
「……お兄様は、本当に。なんで、そんなに適格に冷静に判断出来るくせに、普段の行動はああなんです!? ……もうっ!」
まあ、当事者と言っても半分他人事みたいって言うか、俺の意思とか感情とか一切関わりの無いトコで進んでる話だからなぁ……。
「ともかく鬼姫将軍ですが、実際、実物にお会いするまではかなり誇張された噂話、メルランジャが男子継承者不在の現況で他国に侮られまいとする一種の策と見ていたのですが、実物は噂以上、私の様に話を聞いても信じられず、控えめに伝えた伝言ゲームの結果のようです」
つまりは……どういうこと?
「私は戦場であの方にお会いしたくありません。どんな策を練ろうが、兵士の練度を上げようが、あの方一人に蹴散らされて終わりですね。味方にすればこれ以上無いといった存在ですけれども……」
TSした呂布ってことか、うわ、マジで?
「リョフという方は存じませんが……一騎当千という言葉を人の形にした様な方です。こうなると今回の縁談、絶対に破談にする訳にはいかなくなりました。今頃、父上もお姉様も頭を抱えていらっしゃることでしょう」
うわぁ、お腹痛くなってきた……俺に頼らなくちゃいけないとか、俺の肩に全責任がとか、これこの国にとって最悪の展開じゃん。
「お兄様のその能天気さに今はちょっと救われますね……、あと一刻ほどで姫とお兄様の対面となります。準備を整えておいてください」
言うなり、俺の飲みかけのお茶をあおって退出する妹ちゃん。
俺の飲みかけの、それもクソぬるい茶でも必要なくらい喉が渇いてた、つまり緊張したってことか。
鬼姫将軍……なんか周りが少女漫画の中で一人だけキャラデザ宮下◯きらか柴田◯美な予感?
まあ、こっちは否応言ってる立場じゃないけど、あんまり強烈なのはやめてほしいかなぁ……。
そんなこんなで戻って来た薄幸の侍女ちゃんたちの手で着替えさせられ(仮縫いの後、初めて袖通したな、この服、むっちゃ「王子様!」って感じの服)、髪やなんかを整えられ、いざ出陣。
なんか、俺がこの体に入ってから初めてじゃね?
こんな王子相応の扱いって。
一番、格上、バカ王子はともかく俺は初めて入る最上級の応接室。
扉やその前に立つ近衛の質自体からして違うよね?
まあ、身分上、偉いと、こういう時、自分は動かなくて済むのが助かる。
一応は教わってはいるが、部屋の出入りとかも取次だの使っていい言葉だので偉く面倒なんだよ。
部屋に入ると……。
奥に居るのが姫さんかな?
格に相応して部屋が広いから、入り口からテーブルなんかあるトコまで距離があるんよね。
恐れていたドレス破りそうなゴリマッチョではない。
顔はここからは細部は見えないけど(というかあまりジロジロ見るのも失礼だし)、女性らしい、「鬼」とは無縁の外見だ。
かなりホッとした。
態度に出したりはしないけどな。
歩く。
思ってたより距離あるな。
あれ?
なんか遠近感おかしくね?
もっと近くに座ってる様に見えたんだけど?
更に近づくと挨拶の為に姫が座っていた椅子から腰を上げた。
「は、はじめまして……」
むっちゃ、見下ろされた。
鍛えてないとはいえ、このバカ王子そこそこの長身なんですけど?
まあ、相手の目にこちらを蔑む色合いが無いことが救いかな。
サイズを別にすれば、美人だし……。
まあ、中身忠志君だし、お相手考えたらこんな感じになりました
ありがちなツンデレなんかだと、忠志君の場合、面倒くさがってまともに相手しそうもないですし




