豚鬼にからまれろ!
えらく久々ですが、この作品も更新です
「おそれ多くも~バカ王子~♪ ってか? で、いつから貴族が王族より偉くなったんだ?」
高い身分持ったらやってみたい事上位に入る、そんなシチュエーションに俺は遭遇していた・・・。
正体はバレていない筈なんだが、何故か街の人間からは「バカ王子」の愛称をいただいちゃってる俺は、意外とこのレーベテインにかなり馴染んでいた。
お忍びでとか言っても、一緒について来た人間に俺と同体格の人間も居なければ、こちらで雇った平民の若者なんてのも居やしない。
つまりは持ってきた服しか着る服は無いってわけで、そうすんと当然、元々の王子の好みもあって煌びやかな、イケメンフェイスで無ければ滑稽というか道化にすらなってしまう服を着ざるを得ないわけだ。
保養地として貴族に接する機会が多い街の人間から見ても上質な服にも関わらず、中身が一般人なもんで気安く、それで居てこの世界のことあんま知らないもんで世間知らず。
女性に対して気安いどころか、中身俺だからちょっとした肉体的接触(手が触れたとかその程度)でも赤くなるDTぶり・・・。気難しかったり、たちが悪かったり、あるいはプライドが高かったり、様々な貴族やその身内に接する機会が多い街の人間の目で見ても、安全な存在に見えたのだろう(なんせ中身日本人だしなぁ)。
近所の世間知らずのいいとこの坊ちゃん扱いがすっかり定着している今日この頃である。
元の中の人間のせいで悪い意味での「バカ王子」ぶりが知れ渡っている王都に比べると、俺にとっても実に過ごしやすい。
「なんか追い出されるみたいだなぁ」なんて思ってたのも過去のこと、今ではここに寄越されたことを感謝している。
あの運の悪い侍女との関係もかなり改善してきていて、俺が害を及ぼす存在で無い事は理解してくれたようで、想定外のところで突然遭遇しない限り、俺を見て硬直したり泣きそうになったりということは無くなってきた。・・・ただ、それでアヤメに対する尊敬や感謝の念が高まっている様な言動を見せてるんだがな。俺が大人しいのはアヤメのお陰だとでも思っているようだ。
まあ、数少ない今の俺の同居人だ、関係が多少でも改善されたことは良かったと思おう。それに自己評価が低いアヤメに対して、分かりやすい形で感謝してくれる相手が居ることはアヤメにとってもいいことだろう(俺も感謝の言葉は口にしてるんだがな、俺の「命令」は聞いてくれても、俺の「言う事」はあんまり聞いてくれないんだよな、アヤメは)。
ちなみにここまで馬車に俺らを乗せてきた御者は、俺らを送り届けるとそのまま滞在する事無く馬車ごと王都へ戻っていったので、ここには居ない。
俺らが王都に戻る際には改めて迎えに来る事になっているが、これって俺が我侭言って勝手に帰ってこられると困るから足を取り上げたってことじゃね?
つくづくバカ王子のこれまでの所業が足を引っ張ってくれるよなぁ・・・。
・・・まあ、女癖以外はヘタレ具合も含めて俺に非常に近いんだけどな、中身。
なんせ、幼馴染のエリシアに(あれ以降も特訓という名のフルボッコタイムを体験させてくれている)さえ全く不審に思われていないのだ。
つまりはバカ王子マイナス女癖の悪さイコール俺。
多少は根性がついたとは見てもらってるようだが、別人だと不信感を抱くレベルではないらしい。
そんなことはさておき、居心地の良さもあって日中は街中をフラフラと歩く事の多い俺は近所のガキにドロケイやらSケンやら道具無くて出来る遊びを教えてみたり、ストライクゾーンからはずれているせいもあって比較的気軽に話せる店のおばちゃんと話をしたりしている。
ガキは基本移動が「駆ける」なんで、その分コケることも多い。
ケガするヤツもいる訳で、そんな時は完全に治しきるまではいかないレベルで「癒しの手」を試してみたりもしている(完治させちゃうと流石に「王族」だとバレるからな・・・せっかくの居心地のいい場所をなくしたくは無いし)。
俺の数少ない取り得だからな。
無事に使える事を確認してかなりほっとした。
ちなみに治癒魔術は信仰呪文でも似たものがあるんだが、王子の知識にそっちの情報が全く(どうも聞き流すか寝てるかのどちらかだったらしい、常に)無いため、そういった呪文が使えるフリをして誤魔化す事も出来ないのだ、ホント、バカ王子・・・って感じ。
まあ、そんな感じで街で過ごしていた時、割と定番っぽいシチュエーション、平民に無体な態度を取る貴族という光景に出会ったのだ。
貴族って金と地位あるんで、その血筋に外見のいい人間を組み入れやすいんだよ。
だから、外見的には恵まれた存在が生まれやすい筈なんだけど、不摂生から来る肥満と内面がにじみ出た表情でメシマズの手にかかった高級和牛の肉みたいな残念な状態になってたんだよ、その貴族の坊ちゃんらしき豚。
こっちがやめなさいと穏便に言っても殴りかかってくる(エリシアの呪文どころか、この辺のガキが遊びの中で出してくるパンチ以下なんで避けるのは簡単だったけど)、一対一で敵わないと見ると自分が伯爵の長男だと身分をかさに周りの人間をけしかけようとする。
バカ王子、女癖悪くて色んな人間に迷惑かけてたけど、こういう意味での下劣さとは無縁だったんだよなぁ・・・。
「何なんだ、貴様は! どうせ、下級貴族か一代限りの騎士だろう! 誰に逆らったか思い知らせてやる!」
とか喚いているし・・・。
な、もんでついつい言っちゃったんだよね、冒頭の台詞。
好き勝手やる為にまいたらしい、お付のおそらくは伯爵の直臣らしきおっさんがその時ようやく坊ちゃんを見つけて近寄ろうとして、俺の顔を知っているのか顔面蒼白になった。
坊ちゃんを殴りつけると引きずり倒し、その顔面を地べたに擦り付けるとその横で自分も頭を下げた。
まあ、忠誠向けてるのは伯爵にであって、伯爵守る為ならこの場で坊ちゃん切り捨てて自分も死ぬくらいはするよなぁ・・・なんせバカで有名とは言え王族、それも王位継承一位の王子に喧嘩売っちゃったんだもんなぁ、この坊ちゃん。
殴りかかる、暴言吐く、どっちか一つでもアウト。
しかもこっちがバカやってるのをいさめたわけでもなく、逆にいさめられた状況での話だ。
細かいトコは分かって無くても、これまでも似たようなことをしてきたんだろうし、その辺りの状況も理解してるだろう、このおっさんは。だからこの場で殴って見せたんだろうしな。
これまではそんな事は一度もされなかったんだろう、呆然としてた坊ちゃんは今度はおっさんを罵倒し始めた。
今まで身分かさにさんざん理不尽な事してきたんだろうし、当然自分より身分が上の人間に自分が理不尽な目に合わされる覚悟は出来てるはずだよな、うん。
「廃嫡で済むといいねぇ・・・で、アヤメ、なんで豚鬼が貴族の真似してるの?」
そばに何時でも相手を切り捨てられる状態で立っているアヤメに声をかける。
「ゼリリア伯爵の長男です。私的な場所ならともかく、こうした場所ですので内々に済ませることは出来ません。」
やって来たジルブレイス家の兵士を見ながらキッパリと親にまで関わる処分が下ることを明言するアヤメ。
あーあ、時代劇みたいに「控えおろう!」ってスカッとって感じにはいかないねぇ・・・。
ようやく事態を把握して泣き喚く坊ちゃんの声が、屠殺場に引かれる豚の悲鳴に聞こえた・・・。
本物の「バカ王子」だってのもバレちゃったかなぁ・・・居心地良かったんだけどなぁ・・・。
時代劇だと「ははーっ」って土下座か、切り捨てても陰惨な感じにならないんですけどねぇ・・・・・・。




