道に迷って途方に暮れろ!
こちらは久々の投稿になります^^;
あの後、何か家の使用人の様な人間に出会ったエリシアさんは「じゃあ、悪いけど私は急に行かなくちゃ行けない用事が出来たから、ここで別れさせてもらうわね。いくらあんたでもここから屋敷くらい戻れるでしょ?」と早口でまくし立てるとそのまま去っていってしまった。
離れてアヤメがついているハズだから、本当にどうしようも無くなったら泣きつけばいいかと、俺はあまり深く考えず、歩き出そうとして・・・硬直した。
そうだった、筋肉痛、絶賛痛み祭り中だったんだよ。
一歩も動きたくない。
どこでもドアが欲しいよぉ、アヤメえもんなんとかして~!
泣きそうな顔をした所でアヤメが目の前に来てくれる事はなく、通りがかりの人に気味の悪いものを見る目で見られただけだった。
いい歳をした高そうな服を着た馬鹿っぽいイケメンが泣きそうな顔で硬直しているのだ。
オツムが足りないバカ貴族だとでも思われたのだろう。
王子のこれまでの所業を考えると否定出来ないのが悲しい。
さて、どうしよう、と改めて途方に暮れる。
耐えるとコケる勢いで手を引かれていたから歩けていたので、外部動力が無いと動くどころか座り込むのも厳しい。
辺りの様子を見るのに体を捻る事すら苦しい。
こういう時はかえって思い切って動いちゃった方が楽なんだよ、とばかりに勢いをつけて動こうと思っても、痛みにビクついた体は動かない。
本当にどうしよう。
いや、魔法とかあるファンタジー世界なんだから、治癒呪文とかないの? ・・・ってそうだよ、王子は「癒しの手」がある・・・自分には使えないって制約付きじゃねーかっ!
ホント使えない、この体。
元の俺の体の方がマシだった気がする。
ツンツンと背後から俺をつついてる人間が居る。
人間だろう、たぶん、振り返ってみるとか激痛走るから出来ないけど。
「お兄さん、どうかしたの? さっきから立ち尽くしてるけど?」
捨てるエリシアあれば拾う神ありか?
後ろを振り向きもしないのに業を煮やしたのか前面に回りこんできた拾う神は、俺の胸にも届かない背の高さの少女だった。
顔はまあ、エリシアと比較しちゃうと可哀想だが、そこまで美人というタイプではない。
ただ口元に愛嬌があるのと、目に知性の輝きがある為にパーツ採点より全体採点の方が一気に点数が上がるタイプだ。
服装も割と良く街の人間が着ている普通のもの。
髪は結い上げてまとめてあるので、ほどくとどれくらいの長さになるかはちょっと分からない。
いやあ、俺ってこんな冷静に女の子観察するタイプじゃなかったのに、王子の体に引きずられてるのかね?
なんか、一目でそこまで観察出来てしまった自分に少し愕然とする。
「いやあ、昨日、無理な運動をしたら筋肉痛になっちゃってね、知り合いにここまで引きずられてきたんだが、置き去りにされて動けなくて困ってる。」
「なに、それ~!」
ケラケラと笑い出す少女。
うん、まあ、笑われても仕方ない状況ではあるんだけど、笑われてる当人としては辛いなぁ・・・。
「高そうな服着てるし、普段よっぽど動いてないんでしょ? たまに体動かさないと豚になっちゃうわよ。ここに来る貴族様でもたまにいるけど、そんな人。」
俺も貴族(実際には王族だけどさ)だと分かる格好してるのに、そんな事を口にするのは貴族に対して反発心があるのか・・・それとも俺がよっぽどチョロく見えるのか?
「そういう事情なら、はい!」
手の平を上に向けて俺の方に突き出す少女。
俺に何をさせようというのだろう。
王子なら逆の向きにして甲にキスしてみせるんだろうが・・・。
「なに変な顔してんの? 薬湯買ってきてあげるって言ってるの。」
ああ、そういう事か、まさに拾う神だったのか、だが生憎と今の俺は・・・。
「財布持ってないんだ・・・その、すまない。」
「全く、どこのお坊ちゃまよ、財布も持たず町に来るなんて、その癖お付の人とかいないみたいだし、もしかして何かヤバげな事で逃げてるトコ?」
お付・・・は一応ついて来てるハズだよな?
てっきりついて来てると確信してたんだが、アヤメとエリシアの繋がりの深さ考えると、下手すると変な気の利かせ方してついて来てない可能性もあるかもしれない!
「いや、そういう訳じゃなく、ろくに準備も出来ないウチに引きずられてきたんだよ!」
「で、置き去りにされたの? やっぱ、貴族って酷いのねぇ。」
「いや、たぶん、ここまで酷い筋肉痛だとは理解して無かっただけだと思う。・・・というか思いたい、そこまで悪意を抱かれる様な記憶もないし。」
うん、「分からない」だけで悪意は無いんだと思う。
というか悪意では動けないタイプの人間じゃないかな、エリシアは?
結果が悪意で動いたより酷い事はあるかもしれないが・・・。
「う~ん、流石にただ働きはねえ・・・、何か金目のモノは持ってないの?」
「流石に着ている服を売る訳にも・・・ん? これは・・・。」
なんとか右手を動かして上着のポケットを探ってみる。
なんとそこにはちいさなメダル・・・ではなく、1枚の金貨があった。
「なによ、持ってるじゃない・・・って金貨? しかも1枚きりって、金持ちなのかなんなのか良く分からないわね。まあ、これ預かって買ってくるわ、勝手にフラフラ動くんじゃないわよ?」
言いながらも立ち去っていくが、フラフラ動けるようなら、ここで立ち尽くしてません。
あー、もしかして、そのまま戻って来ないとか・・・は、無さそうだな、うん。
そんなつもりならあんな風に話す必要は無い。
財布を持っていないと言った時点で、疑う様なそぶりも見せなければ、立ち去ったりもしなかった。
善人、かどうかは分からないけど、少なくとも悪人ではないだろう。
「お待たせ! じっと待ってたんだね、よしよし。で、これが薬湯だけど飲める?」
少し息を切らせて御椀の様な物に入った液体を突き出している少女。
「あー、今手渡されたら地面に飲ませちゃう自信がある。」
「はあぁ・・・じゃ飲ませてあげるから・・・って背無駄に高いわね、少ししゃがみなさい。」
「いや、しゃがむの厳しいんだけど?」
「いいからかがめ!」
「は、はいぃ!」
やれば出来るもんだ・・・。
それにしても、強く出る女性に弱いってのは王子の性質じゃなくて俺のっぽいなぁ。
前はあんまり女性と接点無かったから判らなかったけど・・・。
「口開けて、絶対に吐き出さずに全部飲み干しなさい! お婆ちゃんの薬は良く効くんだから!」
「は・・・(うわぁ、苦味が喉に、舌に貼り付いて来る!)・・・ごく、ごく、ごっくん、ぷはぁ、まずい、もう一杯!」
「え? もう一杯欲しいの、なんて変わった人間。」
「あ、いや、単なるネタだから、まずいものを飲んだ時のお約束というか・・・。」
うん、マジでもう一杯とか言ったら、今度は吐くかもしれない。
「変なの、まあ、いいわ。あとしばらくしたら動いても平気になるはずよ。」
「そうなのか、だとすると実に有り難い。」
「あんた程酷いのではないけど、ちょっと無理をして力仕事をした人間なんかがなる事もあるからね、そういった薬もあるのよ。」
「そうか、そっちの知識は全然無いが、凄いものだなぁ。」
あちらでは塗ったり吹きかけたりするのは有ったけど、飲んで効くってのは聞いた事なかったなぁ。
「ぼちぼち効いてきたんじゃない? ちょっと動いてみなさいよ!」
言われておそるおそる動かしてみるが、鈍い痛みはあるものの、確かに動くことを躊躇するレベルの痛みは無くなっている。
「おお、マジで良く効くな、本当に有り難う、じゃあ、これで、また!」
「ちょ、待ちなさいって! はい、お釣り銀貨9枚と銅貨20枚!」
「え? どゆこと?」
「なに変な顔してんのよ、お婆ちゃんの薬良く効くけど、お店が分かり辛いトコにあるから、私がこうして街のあちこちに顔を出して、直接困ってる人とかに注文受けて持って来て売ってるのよ、真っ当な商売なの。」
「え? にしても安すぎるでしょ?」
「あんまり高くちゃ街の人が普通に使えないでしょうに!」
「いや、だったらなおのこと、金持ってる奴からは一杯取った方が良くない?」
「そういうあくどい事してるといつかしっぺ返し食らうのよ、地道が一番!」
「じゃあ、感謝の気持ちもって事でお釣り、銀貨だけ受け取るよ。」
「安っ! あんたの感謝って銅貨20枚なの?」
「どうせい! ちゅうんじゃ!」
「ふふふ、冗談、冗談、ありがとね、この程度なら、まあ、気兼ねなく受け取れるわ。それじゃお腹壊したとか、怪我したとかしたら、すぐそこの赤い看板掛かってる店の脇の路地を奥に入って8軒目がお婆ちゃんのお店だから買いに来てね、まあ、この辺来れば私も居るかもだし・・・。」
「ああ、本当にありがとう、たすかったよ、マジで!」
「じゃ、また。」
見えなくなるまで手を振って、視界から彼女が消えてはたと気がついた。
「いや、ここからどうやって帰ればいいのか、結局分からないままじゃん!」
色々なやり取りのせいで、曖昧だったここまでの道筋が、すっかり頭の中から消えていた俺だった。
ここで登場した女の子、ここまで会話させるつもりも無く、今後の登場も無い人物のハズだったのですが、良く喋り、今後の再登場もあり得る状況にして去っていきました
なんか筆がそっちの方へと^^;




