バカにされろ!
忠志君初の異国訪問です
姫はその身長を別にすれば、非常に可愛い女性だった。
いや、こんな可愛い女性を戦場に出すなんて、メルランジャはクソだな?
男、全員玉無しだろ!
妹ちゃんに軍事丸投げの俺が言えた筋合じゃないが、ウチの国、前線指揮官や軍官僚で妹ちゃんの代役務まる人間居るぞ?
妹ちゃんの負担減らそうと頑張ってる(下心もあるんだろうが)貴族もけっこう居る。
姫が好感持てる分、メルランジャ、特に王族、貴族への好感度はダダ下がりだな。
え? 自分より背が高い女性は平気なのかって?
お前、ハリウッド行きゃ180センチオーバーの女優なんてゴロゴロ居るぞ?
それがヒール履いて背筋伸ばして堂々としてるんだ。
逆に低身長俳優だって普通に居る。
洋画見慣れてりゃ、そこまで気にならんな。
うん、可愛い女性も好きだけど、カッコいい女性もいいよね。
バカ王子たる俺の相手としちゃ最上級じゃね?
話してた感じじゃ、こっちに悪い感情持ってないみたいだし。
そんなこんなでとんとん拍子で話は進み、今度は俺があっちに行くことになった。
将来的にはメルランジャの姫さんことカタリナ様が女王となり、俺がその王配となるんだとか。
紅茶の国の失言魔と同じ立場か、俺が。
バカ王子としては無難な立ち位置だな。
あちらでの顔見世は必須ってわけだ。
アヤメだけでなく、薄幸の侍女ちゃんまで同行。
俺が言うのもなんだけど、侍女ちゃん不幸過ぎないか?
カタリナ姫とその侍女、俺と侍女ちゃん。
同じ馬車での道行きである。
あちらの侍女はアヤメに近い匂い。
俺程度は瞬殺出来る存在だな。
カタリナ姫はそれを遥かに上回る存在のハズなんだが、こちらの他愛ない話しかけに、赤くなったりしどろもどろになったりと、物凄く初々しい。
初心過ぎるだろ。
ギャップ萌えが凄い。
見た目はカッコいい美人なのに、いちいち色んなことが可愛い。
俺を萌え死にさせる気ですか?
護衛にこちらとあちらの近衛兵が居るんで、アヤメは屋根の上でなく御者台に御者と並んで乗っている。
ウチの国の外交系貴族も同行。
口うるさいオッサンだが、理不尽な文句付けはしないんで、他の貴族よりは苦手じゃない。
今回の件では事前の根回しで相当苦労したらしいし、功績に見合った扱いの一環として、ウチの国を代表する外交使節となってるわけだ。
途中で船に乗り川を行く。
こんな大きな川は日本でもこちらでも初めてだ。
船から降り、さらに馬車で進む。
道行く人や沿道の村人の服装がウチの国とは違うな。
薄幸の侍女ちゃんは、ここまでの旅路であっちの侍女さんにすっかり懐いた。
いつ「お姉さま」って呼びだしてもおかしくない感じ。
カタリナちゃんは相変わらず初心だけど、けっこう会話のキャッチボールが成立する様になった。
たまにあっちの侍女さんから「世間の評判と違い過ぎませんか?」って視線が俺に刺さるけど。
悪評の9割方はこの体の以前の持ち主の仕業だもん、一般的な評判と俺が違っても当然。
ただ、ウチの国内では何故かこういう評価は全く無かったんだけどね?
長々とした旅路の果て、メルランジャの王城へ到着。
城までの沿道には王都の住人たちが鈴生りになって姫の帰国歓迎と俺の見物に押し寄せてたんで、王城から指し寄越されたオープンの馬車に姫と並んで座って沿道の人々に手を振る。
日本に生まれた経験あって良かった。
皇族というこういう場合の振る舞いの見本を見た経験があったからな!
皇族の上品なスマイル、所作を思い出しながら、それを真似てにこやかに手を振る。
バカ王子は見た目はいいからな。
メルランジャの人たちから高評価みたい。
それ以上にカタリナちゃんの愛されっぷりが凄いけどな。
ウチの国で俺がすっかり慣れてしまったネガティブな視線が全くない。
王城に着き、国王に謁見。
割と普通な感じのおっさんだった。
トンビが鷹を生んだんだね。
ウチの親父さんの威厳に慣れてると、どうにも小物感がね。
そのせいで、変な増長してるっぽい貴族も居るし。
沿道と違ってネガティブ視線ビシバシ。
アホ貴族に有りがちな国際感覚皆無、国内目線しかない連中ばかりだな。
カタリナちゃん抜きなら、ウチの国、この国3週間で滅ぼせるよ?
そこの第一継承者である俺相手にマウント取ろうとか、アホ過ぎないか?
俺は相変わらずのバカ王子ではあるものの、元の王子と違って少しは勉強する気はあるんだ。
亀の様な歩みだけど、これくらいは分かるくらいの知識は身に着けている。
だいたいが、カタリナちゃんの相手が俺になったのって、この国の次世代にロクな貴族が居ない証明でもあるし。
つまり、次世代、全員、バカ王子以下。
この国の未来は厳しいねぇ……。
貴族、半分くらいはバッサリやって、民間からの登用とかやらんと、カタリナちゃん健在な俺の時代はともかく、俺たちの子供の世代で国が亡ぶんじゃね?
ネガティブ視線をスルーしつつ、そんなことを考える。
まあ、あっちの世界でも自分の国や地域や会社や組織でしか通じない地位を、外部でも当然の様に振り回そうとするバカは大勢居たけどさ。
マスコミをはじめとして、それを助長する様なバカもさらに大勢居たし。
今日はこの後は旅の疲れを癒すということでお休み。
明日の午前中はあっちの王族とお茶会という名の顔合わせ。
一部貴族招いた昼食挟んで、カタリナちゃんの職場でもある軍の演習の見学(と言う名の示威行為、つまり茶番)。
夜には舞踏会。
バカとの直接遭遇があるとしたらココだな。
身分上許されてるし、帯剣しとこ。
どうもこの国の貴族って王族舐め腐ってるし、その感覚のまま俺に絡んで来るバカも居そう。
で、それ許しちゃうとウチの国のメンツに傷がつくんだよねぇ。
最低でも怒って見せないといけないし、無礼討ちしても許される案件。
第一継承者って軽く無いのよ、バカ王子見てるとそんな印象皆無だけど。
特に公式の場だとね、他国の王族バカにするって実質宣戦布告。
個人レベルじゃ収まらない話になるんだよねぇ、怖い怖い。
で、予想通りそうなったんで、剣を抜いてバッサリ。
抜くのと振るのはバカ王子の中身が俺になる前から良く練習してたからね。
割と鮮やかだったと思うよ?
それでもバカ王子の手並みなんで、バカの傷は致命傷には程遠い。
喚くバカ貴族子弟とその取り巻き。
多少はまともな貴族は真っ青、そりゃそうだ、ある意味国家存亡の危機、最低でも族滅の危機。
身内が取り巻きの中に居ないことを確認して、腰が抜けた様に椅子に座りこんでる貴族も居る。
さらにカタリナちゃん大激怒、戦場モードはこうなのね。
ガタガタ震えて命乞いしてる貴族も居る。
うん、惚れ直した、凛々しくて美しい。
呑気だなぁってか?
ここから先は俺があまり動いたり喋ったりしない方がいい。
下手に動くと死人の桁数が増える。
今なら、このバカとその親程度で済むが、下手すると一族、派閥が同罪。
貴族から舐められる程度の王族でも、こっちの国との関係もあるんでやらざるを得ない。
下手に庇えば当然、同罪。
あっちでニヤケを隠せてないオッサンは、このバカの親の敵対派閥か隣接領地の貴族だろう。
一部のマヌケを除いて、このバカたちは既に過去の存在となっている。
誰も相手にしない。
あ、近衛に連行されたわ。
これって近衛やこの国の貴族の失点でもあるんだよね。
俺が手を出す前に、自分たちがこのバカ切り捨てるなり、ぶん殴るなりすべきだった。
俺が直接手を出した時点でアウト。
他の国にこのエピソードが伝われば、国丸ごとバカにされるし、戦争ふっかけられるリスクも高まる。
俺との結婚を機にカタリナちゃんが摂政になって、貴族粛清やらないとダメかな?
血生臭い道だけど、カタリナちゃんが戦場に出るよりはマシ。
俺のバカ王子生活もここまでかな?
なんとか終わりが見えて来たかな
バカでも王子でも無くなりゃバカ王子じゃないですよね?




