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勇者はだれ?  作者: 臥亜


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1/6

魔王、顕現

空が割れた。


それは、雷でも嵐でもなかった。


真昼の青空に、黒い亀裂が走ったのだ。


「なに、あれ……」


王都の広場で、リュカは立ち止まった。

市場の喧騒が止まり、人々が空を見上げる。


次の瞬間。


空の裂け目から、巨大な黒い城がゆっくりと降りてきた。


影が王都を覆う。


冷たい風が吹き荒れ、旗が引きちぎられる。


城壁の上に立つ、ひとりの影。


長い黒衣。

銀色の髪。

静かすぎる目。


魔王。


声は大きくない。

だが王都全体に響いた。


「人間よ。時は来た」


地面が震える。


魔物の群れが、裂け目から溢れ出した。


悲鳴。


爆発。


騎士団が駆け出す。


リュカの足も、自然に動いていた。


「逃げないと!」


隣でノアが叫ぶ。


「分析不能だ、あんな魔力……!」


だが、リュカは止まらない。


目の前で、小さな子どもが転んだ。


魔物が迫る。


考えるより先に、身体が動いていた。


「やめろぉぉぉ!」


落ちていた騎士の剣を拾い、振り抜く。


ガキン!


重い衝撃。


魔物の爪を、かろうじて受け止める。


「無茶だ!」


ノアが魔法を放つ。


「ルミナス・エッジ!」


光の刃が走り、魔物を吹き飛ばす。


子どもを抱えて、リュカは転がる。


心臓が爆発しそうに早い。


怖い。


足が震える。


それでも。


「大丈夫?」


子どもは泣きながらうなずいた。


その瞬間。


魔王の視線が、リュカを捉えた。


一瞬だけ。


確かに、目が合った。


魔王は、わずかに微笑んだ。


「……面白い」


黒い衝撃波が王城を貫く。


塔が崩れ落ちる。


騎士団長が吹き飛ぶ。


人々が叫ぶ。


王の声が響く。


「勇者を召喚せよ!」


神殿の奥で、光が立ち上る。


巨大な魔法陣。


だが——


何も起きない。


沈黙。


もう一度。


何も起きない。


三度目。


魔法陣は砕けた。


神官が震えながら告げる。


「……勇者は、現れません」


広場が静まり返る。


魔王がゆっくりと手を上げる。


「勇者は、来ない」


その言葉が、世界に落ちた。


リュカは、歯を食いしばる。


勇者がいない?


そんなはずない。


だって——


昔、村を救ってくれた人はいた。


名前も知らない旅人。


でも、あの人は。


「……勇者は、いる」


小さく、でもはっきりと言った。


ノアが振り向く。


「リュカ?」


彼女は立ち上がる。


膝は震えている。


でも、目は揺れていない。


「いないなら、探す」


魔王が空へ戻っていく。


黒い城も、裂け目も、ゆっくり閉じていく。


王都は半壊。


勇者は不在。


世界は絶望。


それでも。


リュカは空を睨んだ。


「勇者はだれ?」


その問いが、物語を動かした。

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