第28話
「なにも集まって勉強会することもなかったんじゃない?」
今は街にある図書館に僕、翼、彩音、ルイス、七海さん、夏希さんの六人がいた。突然翼が「明日、図書館で勉強会だから1時に集合な!」と電話してきて急に決まった。
「みんなでやれば早く終わるだろうー。桐原さんだってわからないとこ聞けるし」
「そうですよー、夏休みの宿題なんて早く終わらせて、もっと遊ばないと」
「私たちがわからないところは佐倉に聞けばわかるし」
「はい、お任せ下さい」
そうしてみんなで勉強会だ。まぁ、早めに終わらせるに越したことはないしいっか。僕はノートに計算式を書きこんでいく。
「都住先輩、ここはどうなるんですか?」
「どれ、あぁ、ここはね、この計算式を入れて…」
「悠斗、悠斗、ここ終わった? わかんないんだけど」
「それは、この法則を使えばいいんだよ」
「都住様、わからないところなどはありますか?」
「あ、今は大丈夫です。ありがとうございます」
「悠斗ー、写させてー」
「翼はもう少し自分でやろうよ!」
「悠斗、しぃーー」
「あ、彩音ごめん」
図書館なのであまりうるさくは出来ない。みんな必要以上はしゃべらずもくもくと宿題をかたずけていった。そして、集中したおかげか、思ったより早く終わった。
「このあとさ、私の家に来ない? おいしいお菓子があるんだ」
「わたしも紅茶を用意たします」
「いいですねー、私は大丈夫です」
「あたしも大丈夫」
「俺はパス。ミーティングがあるんだ」
「僕もこのあと予定が…」
「悠斗の予定って何? バイト?」
「いや、バイトじゃないんだけど…」
「わたしの淹れた紅茶を飲んでくれないんですか…」
「いや、あの嬉しいんですけど…今日はちょっと」
「悠斗はどうせ暇でしょ」
「彩音は時々ひどいよね」
「じゃあ、バイトでもなければなんなのよ?」
「えっと、その…」
「「「じーーー」」」
「あ、あぁ、そろそろ行かないと! じゃ、お疲れ様ーー」
「「「あ、ちょっと!」」」
「じゃ、俺も帰るわ。お疲れー」
「「「……」」」
僕は逃げるようにして図書館から出た。いや、実際逃げてきたんだけどさ。今日は何があっても行かなきゃならない場所があるんだ。
「どう思う、佐倉?」
「何か隠してるとしかわかりませんね」
「私たちに言えない事ってことですか?」
「悠斗が秘密にしたがるなんて、あんまりないはずなのに…」
四人で話し合う。しかし、誰も答えはわからない。そして、四人で悠斗の後をつけることになった。
「さて、そろそろ出かけようかな」
時間は夕方の時間帯。夕日がそろそろキレイになってくるだろう。今日はバイトも休みだ、今日は大切な日だから。僕は花束を持って出かける。
「あ、都住先輩出てきましたよ。なんか花束持ってますけど…」
「え、なんで花束なんか持って行くの? まさか、これから誰かとデートとか!?」
「でも、こんな時間からデートはないでしょ。あ、見失っちゃう」
「お嬢様、もう少し声のボリュームをおさげ下さい。気づかれてしまいます」
「ほら、先輩達! 行きますよ」
悠斗の後をルイス、彩音、七海、夏希の四人が付けて行く。付けて行く理由は昨日上条翼が「ついて行けば悠斗が弱いということがわかる」と言っていたからだ。ここにいる誰もが、悠斗は優しく、誰よりも強い心を持っていると信じていた。みんな悠斗に助けられたからだ。
「こっちの方向はなんにもなかったはずですよね」
「何するつもりなのかしら?」
「誰かと待ち合わせをしているのかもしれません」
「あたしたちじゃない誰かってこと?」
「「「……」」」
「そうだったら許せないです…」
「そうね、その時はどうしてやろうかしら…」
「お嬢様、暴力はいけません」
「その時はキツーーイお説教が必要ね…」
そんなことも知らずに悠斗はどんどん歩いて行く、時々時間を気にしているのか腕の時計を確認している。そして、角を曲がって行った。
「都住先輩、歩くの早いですね」
「急いでるのかしら、時計を何度も見てるし」
「遅刻しないように確認しているのでは?」
「……あの角って、たしか…」
「どうしたんですか、桜沢先輩?」
「あの角は…悠斗の両親が事故にあった場所……」
「え…、じゃあ、あの花束って…」
四人は急いで角を曲がった。悠斗は立ち止って花束の半分を道路のところに置いていた。道路には未だに車の急ブレーキの跡が残っていた。悠斗はしゃがんで両手を合わせている。
「今日はたしか交通事故から5ヶ月くらいのはず…」
「「「……」」」
悠斗は立ち上がり、別の場所へと移動し始めた。その後を四人で付けて行く。その顔に誰も笑顔はなかった。
「毎月、一人で来てたのかな…」
「そうかもしれないですね…。じゃあ、次に行く場所は…」
「そうだね、方向的にも間違いないわ」
悠斗が次に行った場所はお墓だった。一つのお墓の前に残りの花束を置いた。悠斗がお墓に向かって何かをしゃべる。四人は少しでも聞こえるように出来るだけ近づいた。
「父さん、母さん、元気ですか? 僕は今、夏休みなんだ。先週はクラスの友達と海に行ってきたんだよ。別荘を持ってる人がいて招待してくれたんだ。楽しかったよ、いろんなことがあったけど、僕は楽しかった。でも…」
「…でも僕は…ぐすっ、父さんと…母さんと海…うぁ、行きたかった…。あぁぁ、父さんと泳ぎたかったよ…、母さんとボート乗りたかったよぉ…っ! うあぁぁぁ、ああぁぁぁぁぁ……」
悠斗はボロボロに泣いていた。そこには普段の都住悠斗は居なかった。子供のように泣きじゃくる、弱々しい都住悠斗だった。誰もが、今すぐ飛び出して、悠斗を抱きしめたかった。一緒に泣きたかった。でも、誰も行かなかった。行けなかった。行っても、悠斗は強がって泣くのを我慢するだろう。
「ああぁぁぁぁ……、うあぁぁぁぁーーー」
悠斗が嗚咽を漏らす。四人とも黙って俯いたままだ。悠斗のことを誰も何もわかってなかった、自分達ばっか舞い上がっていたことに罪悪感を覚えた。上条翼が言ったとうり、悠斗も強くはなかった。弱い自分を隠していた。それを周りには絶対に見せなかっただけだった。
そして、悠斗は涙を拭いて立ちあがり振り返らずに去って行った。私たち四人は黙ったまま立ちつくした、誰も何も言えなかった。




