1.「手始めに、お友達になりましょうよ」
恋愛要素がない! と思われるかもしれませんが、一応恋愛小説です。なんとなくなノリで書き始めたので、ゆるーく行こうと思います。
「茅野君、これ、代わりに貼って貰ってもいい?」
その台詞と共に俺の目の前に差し出されたのは、一枚のプリントと画鋲だった。
「私じゃ身長が届かなくて」
声の主は樋田光紀。
「……何処に貼ればいい?」
俺はとりあえず差し出されたプリントと画鋲を受け取り、壁を見上げながらそう尋ねた。なぜ俺なのだろうと思いながら。樋田の指示を受けながら俺がプリントを貼り終えると、樋田はこう言った。
「ありがとう」
「……」
何と返せばいいのか分からず、俺は樋田の顔を一瞥して自分の席に戻った。
他人に礼を言われるのなんていつ振りだろう。
小学生の時に問題を起こしてから、俺の周りから人が消えた。昔はそれなりに友達もいた。とにかく毎日刺激を求めて、誰かとつるんで悪さをしては先生に怒られていた。そしてある時、今の俺なら到底やろうとは思わないような、とんでもないことをしでかしたのだ。あまり思い出したいとは思わない。周りの皆もそんなことをした俺に不快感を覚え、俺から離れていったのだった。初めの一週間くらいは、俺から離れていったみんなの様子を見て楽しんでいた。しかしそれ以上経つと、ただただつらいだけだった。
そんな感じで小学校を卒業し、中学生になった。中学校にも俺の噂は既に広まっていて、中学で初めて一緒になった奴でも俺に近づこうとはしなかった。その頃には一人でいることが俺にとって当たり前のことになっていて、その事実になんとも思わなかった。むしろ、一人でいる方が気楽だとさえ感じていた。
当然部活にも入っていない。こんな俺が入ったところで他の人に迷惑をかけてしまうからだ。とても退屈で毎日に面白みがないが、その分〝楽〟ではあった。
それなのに。
樋田は今日、ああして俺に声をかけて来た。背の高い男子などほかにいくらでもいるというのに、だ。目的の場所に一番近かったからと言っても、あの噂を知らないわけではないだろう、他の奴に声を掛ければいいだけの話じゃあないか。
……変な奴だな。
☆
「茅野君」
放課後、通学路にて。後ろから声をかけられた。この声は――
「……樋田」
「途中まで一緒にいてもいい?」
「……いいけど」
理由を問うたり断ったりするのが面倒で、よく考えもせずにそう答えていた。確か樋田も部活には入っていなかったはずだが、はてどの辺に住んでいるのだろう。そもそも小学校区が違うからそれなりに距離は離れていると思う。樋田と一緒になることなど今まで一度もなかったから、途中まで一緒ということもなさそうだ。満足そうな顔をして付いて来る彼女を一瞥する。
何か裏がありそうだ。そうでなければ、樋田がこんなことをする理由はないのだから。
「……何かの罰ゲーム?」
樋田は付いて来るだけで何も喋らないので、仕方なく俺から訊いてみた。最近は他人と話すことが滅多にないから、いちいち緊張して仕方がない。二人きりとなればなおさらだ。
「ん? ああ、いやいや。そんなんじゃないよ」
首を横に振りながらそう言う樋田。じゃあ、何のために?
「茅野君は、何でだと思う?」
樋田はにやりと笑いながら訊いてきた。
いや、訊かれても……って感じなのだが。答えずにいれば勝手に話し始めるだろうか。しかし、それをするには樋田が話し始めるまでの間ずっと待っていなければいけない。そんな気まずい事だけは避けたい。
「えっと……俺に好意を抱いてくれてる、とか?」
自分で言っておきながら赤面しそうになった。
馬鹿じゃないの、俺。
「よくそれを言おうと思ったね」
樋田もちょっと引き気味である。
「冗談だっつの……で、お前は結局何がしたかったんだよ?」
「うん、実はね。単刀直入に言っちゃうと、
――私は茅野君に興味があるんだよ」
「はあ!?」
俺は思わず立ち止まった。樋田の方を見る。
興味ってなんだ。さっき俺が言った内容と大して変わらないじゃあないか。
樋田は依然として表情を変えない。俺の反応を楽しんでいるのではないかと思って、俺は慌てて歩き始めた。
「馬鹿じゃねえの、お前」
何か言おうと思ったが、他に言葉が出てこなかった。これでは、馬鹿なのは俺の方だ。
「うん、よく言われる」
そして普通のテンションで返答されると面食らうんだが。
「で、さっきの続きね。私は茅野君に興味がある。だから手始めに友達になりましょうっていうのが今日の私の目的だったの」
「……へえ」
……!?
ずいぶんさらりと言われたので一瞬スルーしそうになったが、今こいつ、爆弾発言をしなかったか?
「ごめん、もっかい言ってくれる?」
「手始めに、お友達になりましょうよ」
聞き間違いであってほしいと思ったが、どうやらそうではなかったようだ。
「えーっと、何で?」
「何でって、だから君に興味があるから」
「だからってなんでイコールで『友達になろう』なんだよ!」
傍から見た感じでは樋田は大人しい奴だと思っていたのだが、全く的外れな見解だったらしい。訂正しておこう、樋田はぐいぐい来るタイプの奴だった。
「興味があるもののことをもっと知りたいと思うのは当然の心意でしょう? そのためには親しい関係になってしまうのが手っ取り早い。そう思ったから」
さらっともの扱いされていることは一旦置いておこう。何故樋田が俺なんかに興味を抱いているのかは分からないが、彼女を説得するのは面倒くさそうだなと思った。ので、
「勝手にしろ」
その場しのぎにこの一言を言ってしまったのは、俺らしいというかなんというか。
ただ、面白そうだと思う気持ちが全くなかったといえば、嘘になる。
「それじゃあ、勝手にさせてもらうよ? いいのかな?」
樋田が立ち止まったのが見えたが、俺は足を止めたり振り返ったりはしなかった。嬉しそうな樋田の声が後方から聞こえる。
「また明日も一緒に帰ろうね!」
俺はそれに返事をしなかった。
今まで投稿してきた作品の中で唯一暗くない話ですね。僕はまだ暗い感じの話しか投稿してなかったので、これで何とかイメージを変えよう! という魂胆です(笑)
『狼の独争』の方を進めつつ、こっちもちょくちょく更新していければと思っています。恋愛物を書こうとしてことごとく失敗してきているのですが、今回は最後まで書けるよう努力するので、次話も読んでいただけないかなー……なんて。




