未来へ向かって
レオさんに「少しなにかお腹に入れた方がいい」と言われて食べた女将さんの唐揚げは、涙が出る程おいしい。
あったかい女将さんの笑顔が思い出されて、それだけで疲れ切った体を癒してくれる気がする。
いくつかの料理を堪能していたら、むこうの方からカーラさんとエマさんが、二人して「クリスティアーヌ様、こっちー」と、声をかけてくれた。
レオさんと顔を見合わせて、声のほうに向かってみれば、なんとデザートのスペース。なんとも二人らしい。
「カフェ・ド・ラッツェを紅月祭に呼んでくれたの、クリスティアーヌ様なんですね!」
「ええ、お二人と一緒に行った時の感動が忘れられなくて」
「さっき、店主のお兄さんと会ったんですぅ。いい宣伝になったって、とっても喜んでました!」
「だよね! 他のカフェの人たちも、学生のお客が増えそうだって嬉しそうだったし」
「良かった……!」
お店の方たちからも直接そう聞いてはいたけれど、こうして人づてに感想を聞くと、安心感が増す。お店の方たちが手ごたえを感じられたなら、参加していただいた甲斐があるもの。
「それに実は私、カフェ・ド・ラッツェに就職が決まりましたぁ」
「ええ!?」
エマさんの爆弾発言に、思わず素の声が出てしまった。
「ちょっと前に、店員を募集していてぇ、私、あんな素敵なお菓子が作れるようになりたいってずっと思っていたから、思い切ってアタックしてみたんですぅ」
「さっき店主さんにあったとき、合格だよって教えて貰ったんだよね」
「最初は接客からですけど、お店が終わってから作り方を教えてくださるそうで……私、嬉しいですぅ」
「いいなぁ、これで就職が決まってないの、私だけかぁ。焦るー」
いきなりの展開で驚き過ぎて目を白黒させている私に、矢継ぎ早に情報が流し込まれて、もうなにがなにやら。
でも、とにかくエマさんがとっても喜んでいて、おめでたいということだけはわかる。
「エマさん、おめでとう! また、絶対に食べに行きますわ!」
「はい、ぜひにー、お待ちしております!」
すっかり店員のような受け答えのエマさんに、なんだか癒される。
そうよね、みんなこうして、未来へ向かって足を進めているんだわ。私も、頑張らないと。
「クリスティアーヌ嬢、そろそろダンスにも加わらないと」
控え目に発されたレオさんの言葉に、ハッとする。
「はい……!」
急にドキドキと高鳴り始めた胸をさりげなくおさえながら、私は、カーラさんとエマさんに小さく手を振って、その場を後にした。
そう。
私にも、このダンスでやり遂げたいことがある。
決意を胸に、レオさんと共に踊りの輪に加わった。




