断罪まで
グレシオン様にとっては、リナリア嬢をめぐって起こるであろう取り巻き達の揉め事をおさめ、まとめ上げていく事が将来の王としての器を高め、結束をより高めるチャンス。
そして、その過程で必ず起こるであろう情報の齟齬を吟味し真実を探る工程は、盲目的な信頼に歯止めをかける事が出来るだろう。
なぜならリナリア嬢は器用な事に相手によって口調も、特定の人物や物事に対する意見も、与える印象でさえ見事に使い分けていたからだ。
各々がグレシオン様に彼女の話をすればする程全く別人の話を聞くような気持ちになるだろうし「誰の言う事が本当なのか」と探りたくなるのが必然だろう。
だがしかし、グレシオン様はまさかの解釈に至ったらしい。
各々が語るリナリア嬢の中で意見が一致していた「優しく」「誠実で」「常に相手を思いやる」のが彼女の性分だと理解したグレシオン様は、相手によって変わる態度を『思いやり』の結果だと判定したのだ。
「あれにはさすがに驚いた。周囲の者達をいくら信頼していると言っても、あれはない」
とはお父様の言だ。そうは思うけど、私は笑えない…同じ穴のムジナなのは自覚してるし。
「そこからは坂道を転がり落ちる勢いでな、男達が何でも鵜呑みにするがゆえに、あの娘も抑制が利かなくなっていったのだろう」
なんという分かりやすい構図。
「ただ、それまで各々に合わせて取り繕っていたものが、行動を共にすることが増えてくれば、当然都合が悪い部分も出てくる」
それはそうだろう。むしろその人に合わせて口調から印象から変えるって、それが凄過ぎると思う。
感心していたら、お父様からさらなる爆弾が。
「都合が悪くなるとこうだ。『…ですが、クリスティアーヌ様が…』それだけ言って涙目で小刻みに震えてみせる。絶対に何かした、何か言ったとは口にしない…後は男共が勝手に解釈するわけだ」
それは…勝手に解釈された私はさぞや恐ろしい女になっていた事だろう。彼らの中では、リナリア嬢が口にも出来ない程酷い事をされたり、脅されたりしていたに違いない。
あ…でも、そういえば。グレシオン様からの断罪の時、具体的な事例は何一つ出なかった。「随分と酷い事をしたようだね」って言われたあれは、そんな状況だったからなのか。
「そんな陽炎のような証言を理由に、お前を呼び出し婚約破棄を告げるつもりのようだ、とルーフェスが報告してきた時は…」




