いよいよ出立
「あれ、この前は腕力が足りないから、自衛のために攻撃魔法が習いたいって言ってなかったっけ」
「はい、それは勿論習得したいのですけれど。先日レオさんがガレーヴの村に行ったとき、ひどい怪我をしていたでしょう?」
「ああ、僕のところに治療してくれって来たね、そういえば。痕形もなく治してやったけど」
「あれを見たときはもう、驚いてしまって。心配で心配で……私がすぐに治せればいいのにって思ったんです」
「へーえ」
なんだか意味ありげに笑うセルバさん。
「まあ、君の魔力のカラーなら回復魔法のほうが覚えやすい。そっちから覚えていくのは結構理に適っているかもね」
納得しつつ、魔力贈与と常事回復魔法を施してくださった。
久しぶりに感じるセルバさんの魔力はお湯みたいに温かく、私の体のなかにじんわりと馴染んでいく。少しだけ目がくらむような感覚に襲われたけれど、もう、倒れてしまうような衝撃はなかった。
***
そしていよいよ出立の日。
辺境の村ガレーヴに向けて旅立つのは、二頭立ての馬車が二台。
「クリスちゃんは俺たちと一緒に前の馬車ね」
「はい」
レオさんに促されて、素直に馬車に乗り込む。
今日の私は少し長くなってきた髪をポニーテールにした、活動的な格好だ。スカートが翻っても大丈夫なように、下には薄手の簡素な乗馬服を着こんでいる。大分肌寒くなってきたし、これから向かうのは王都よりも北側だから、これでも問題ないだろう。
今回の旅は総勢五人というコンパクトなものだった。前を走る馬車に私とレオさん、マークさん、さらに御者さんがいて、こちらが人と貴重品を運ぶ馬車。そして後続がたくさんの交易品を乗せた荷運び用の馬車。
なんでも今回、紅月祭に使う食材だけでなく、いくつかの特産品を取引することになっているらしい。
だから当然、行きでも後続の馬車には荷物がたくさん載っている。空のまま行くのはもったいないし、都のものは辺境では珍重されたり、生活必需品でもなかなか手に入らないものも多い。買い付けの代価は都の品である程度は支払うのだそうだ。物々交換ってことだろう。
「本当は一回の取引での効率を、もっと上げたいんだけどね。なにせ小さな村だから」
「まあ、いきなり大量の取引をするよりは、数回様子を見て、軌道に乗ったところで計画的に量産できる体制を考えるほうがいいかもな」
前回レオさんがガレーヴに行った際にも護衛として同行していたマークさんが、御者の方に的確に指示を出してくれるのが頼もしい。近隣の魔物の分布などもすでに把握しているらしく、若干遠回りになっても迂回することがあった。




