いえ、いえいえ、いえいえいえ!
まずい、なにか特別な意味があったんだろうか。あきらかにレオさんの肩が落ちている。
記憶の引き出しを慌ててひっくり返していたら、しょんぼりと眉毛を下げたレオさんが、諦めたように「わかってないっぽいね……」と呟いた。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、はっきりと言葉にしなかった俺が悪い。改めて……クリスティアーヌ嬢」
「は、はい」
急に真剣な顔になったレオさんに、私の心臓がドキリと音を立てる。
いつも笑った顔ばかり見ているからか、こうして真剣な表情を見たときのほうが胸が高鳴るのだと、この頃ようやく気付いてきた。この顔で、真正面から見つめられるとなかなかに恥ずかしい。
たっぷりと間をとって、レオさんはゆっくりと口を開いた。
「紅月祭では、俺のパートナーになって欲しい」
「…………!」
驚きで、声がでなかった。
はくはくと、息を吸うのが精いっぱい。それでも空気が胸に入ってこない。
パーティーのエスコートをお誘いいただいただけなのに、自分でも驚くくらい、私は衝撃を受けていた。
バクバクと急に激しく打ちはじめた心臓の音に、どうしてこんなに衝撃を受けたのかと考えてみたら、前世も含めて、私ときたら誰からも、こんなに面と向かってお誘いを受けたことなんてなかったんだわ。
知らなかった、こんなにも、ストレートに心臓に衝撃を受けるものだったとは。
「ダメ? もしかして、もうパートナー決まっちゃった?」
私が内心で慌てふためいているのを、レオさんは違うように受け取ってしまったらしい。
俯いていた私の顔を覗き込むように、レオさんが不安げに尋ねてくる。
違います、違います! 気恥ずかしくって身もだえしているだけなんです……!
「いえ、いえいえ、いえいえいえ!」
「え、それどっち?」
あああ、テンパるあまり、よくわからない答え方をしてしまった……!
「決まっていません、決まってないどころか、パートナーどうしようって思っていました!」
思いっきり正直に言ってしまって、ハッと口を押さえる。そんな私を見て、レオさんは楽しそうに笑いだした。
「うん、さっき栞を渡したときの反応で、まだパートナーは決まっていないかもってちょっと安心した」
「ご、ごめんなさい」
「いや、よく考えたらクリスちゃんは元々は殿下の婚約者だったんだから、ほかの人から申し込まれるなんてことなかったんだろうしね。紅月祭のパートナーを申し込むときは、男性がなにか紅い物をプレゼントするんだよ。それで、女性が受け取ってくれたらパートナー成立」
ロマンチックだよな、とレオさんが微笑む。
なんということだ。せっかくの風流なお誘いを、思いっきり台無しにしてしまった。




