子育て勇者と魔王の子供・75
祖父の畑仕事を手伝いに行ったら、以前見かけた美人がいて、いきなり雷と共に去って行った。祖父の知り合いだったらしいが、何の話をしていたのか、祖父は顔色が真っ青だった。
「じいちゃん? 大丈夫か? 何の話してたんだ、あの人と」
「ああ……いや、大丈夫だ。ちょっとすまん。今日は草むしりだけしておいてくれるか。じいちゃんは大事な用事ができた」
と、祖父はどこかへ走って行った。老齢だが、体力のある祖父である。
「何があったんだろう……?」
顔色が悪かったから、相当気になることを話していたのだろうか。
「おにーさんのおじいさん、ようじですか?」
「おれたちくさむしりしてていいの?」
イリアとイリックが見上げてくるので、とりあえず畑の草むしりをしておこうかとおもった。
草むしりはすぐ終わるだろうから、終わったら着替えて双子と遊ぼうかと。
祖父のことは気になるので、午後にでも顔を見に行こうかと思う。
「よし、草むしり頑張るか。早く終わったら皆で遊びに行こうな」
「わーい!」
「あそぶために、ろうどうがんばるです!」
双子が頑張ってくれたので、草むしりは予想よりかなり早く終わった。
着替えておいで、と、促したのは確かに自分だ。だがしかし、それがどうしてこうなった。
そろそろ双子が元の体に戻ってくれないものだろうかと、思うユーヤである。
なんというか、精神が摩耗している。主にイリアのお色気アタックで。
ことあるごとに服を脱ごうとするのは何故なのだ。また父親に何か吹き込まれたのか。
「……イリア……」
「はい、おにーさん」
「その服はどこで?」
「おかーさんがかってきてくれました!」
とても可愛らしい。可愛らしいが、胸元が大きく開いている。見えそうで見えない。スカートも短い。下着が見えるかどうかギリギリに近い。
目のやりどころにとっても困る。
「奥さんが……はははー……何考えてるんだろう、あの人も」
脱力しながらユーヤは羽織っていた上着をイリアの肩にかけた。
「さむくないですよ、おにーさん」
「うん、いいから羽織ってなさい」
腕にひっついてくるイリアに視線を下げないようにして言う。見下ろしたらナニカが見える。確実に。
何考えてんですか奥さん! 大事な娘に色仕掛けを勧めないでくださいっ!
「あと、おとーさんがこうすいをかってくれました。いいにおいですか?」
「あー、この香り、香水なんだ……」
「おとこのひとをしげきするかおりです! おにーさん、しげきされてますか」
「あはははは……あの元魔王、コロス……」
元魔王のほうはいつも通りだった。あいつ殺すと思ったのは一体何度目か。
「うぬぬ……オノレ勇者め、姫に不埒な真似をしたらただでは置かんぞ」
「ぽち、にーちゃんとイリアのじゃましたらだめだぞ」
イリックはぽちの背中で堂々としている……少し離れた家の陰から。丸見えなのだが、どちらも自信満々ばれていないと思っている。
「イリアのおいろけだいさくせん、にーちゃんがのってくれたらいいんだけどなぁ。にーちゃんときょうだいになりたいおれ。だいまおうとゆうしゃがきょうだいってなんかかっこいい」
「王子……勇者は敵ですぞ? 魔王様を倒しに来た不届きものなのですぞ!?」
「うるさいな。いすはだまってろ」
「はい」
通常運転である。いろんな意味で。
「……イリックはあそこで何してんだ?」
「わかりません。ぽちをふかふかしてあそんでいるのかもしれません」
「ふかふか……? まぁ、あいつ毛並みは良いよな、確かに」
よその家の陰からこちらを見ているイリックとぽちに苦笑して、手招きする。
「イリック。おいで。遊びに行かないのか?」
「おれたちじゃましないから、にーちゃんイリアとでーとしてくるといいよ」
影から顔をのぞかせて言う。あれで邪魔をしていないつもりらしい。イリアが感激した。
「イリックきがききます!」
「いやいやいや! そんな余計な気を利かせなくていいから! というか、影からついてきてたら意味がないだろ。遊びたくないのか?」
訊くと、遊びたい盛りの四歳児、口をとがらせて頷いた。
「うー。遊びたい」
「じゃあおいで」
吹き出しそうになるのをこらえて、ユーヤはもう一度手招いた。
いくら外見だけ育っていても、内面はまだまだ四歳なのだ、可愛いものじゃないか、と。
――その様子を、さらに離れたところから覗いている者がいた。
「……うぬ、さすが師匠……あの程度の色気ではびくともせんか……」
元魔王である。娘に変な入れ知恵をしている夫妻の片方が、水晶玉をつかって遠視をし、自分の子供とその婿候補を覗いていた。
「一筋縄ではいかんな。さすが勇者。これは妻ともう少し会議をしなくては」
夫婦で何か企んでいる、らしい。
「ふ、ふふふふ。待っていろ師匠……我が娘の色香にせいぜい惑うが良いわ……! ふふふ……はーっはっはっは!」
さすが元魔王、笑い方が悪役である。
直後、激しくせき込んでソファに倒れ込んだために、悪役度-150。
常に状態異常な元魔王だった。
ぐっだぐだ。更新遅くてもうしわけござらぬぅうううう!




