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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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子育て勇者と魔王の子供・74

 夜、ベッドに入ってしばらく、近づいてくる気配に気が付いた。敵意はない。誰だろう。急な用事だろうか。それともただ通りすがっているだけ……いや、確実に近づいてくる。

 窓の外を見ると、明るい。多分、たいまつの光、だろうか?

 ユーヤは起き上がり、靴をつっかけるようにして履いて窓に向かい、外を覗いてみた。

 小さなたいまつをかかげ、ぽちにまたがっているイリアがいた。

「………………イリア?」

「こんばんは、おにーさん。よばいにきました」

 脱力しそうになるのを必死でこらえて、薬で外見だけ成長している四歳児に声をかける。

「……ぽち連れで?」

「……よる、こわいです。イリックねちゃったので、しかたないのです」

 夜中にひとりで歩くのが怖かったので、ぽちに乗ってきた、と。外見だけ成長してもやはり子供。可愛らしい、が。

 ぽちに視線をやると、ハァハァ言いながら何やら嬉しそうだ。ムカッと来たので窓から飛び出て頭頂を一撃して失神させ、イリアを立ち上がらせる。

「どうしたですか、おにーさん?」

 重ねて追記するが、今のイリアは実年齢にプラス十歳ほど。それなりに成長した姿で、ぽちの背にまたがっていた。

 ふとももとか、お尻とかの感触が、ぽちの背に。

「いや、なんでもない」

 うん、なんでもない。なんでもないぞ。


「ところで、どっから『夜這い』なんて言葉を聞いたんだ?」

「おとーさんが、ししょうのところにぜひよばいにいけ、と」

 犯人は父親か。何考えているのだ一体。娘を男のところに夜這いに行けとか進めるな。しかも内面は四歳児なんだぞあの野郎。

「あははははは。うん。よく分かった。さ、イリア、おうちに送るよ」

 よーく話し合う必要があるなと思いながら、少女に言う。

「えー、おにーさんといっしょにねたいです。おとまりしたいです」

「駄目。さ、行こう」

 手を引いて家まで歩く。ぽちは放置。いつものことだ。幸せそうな感じで失神しているのが気に食わないような気もするが、放置で。

 夜空が綺麗な中、手をつないでわずかな距離を歩く。

「おにーさん、おとまりしたいです」

「駄目。イリックと一緒ならいいよ」

「むう。ふたりきりがいいです」

 唇を尖らせるイリアは、まるでキスをねだっているかのようで。

「…………駄目」

 しっかりと手を握ったまま、歩いた。


 礼儀をわきまえ、三度ノックして声をかけた。

「夜分に失礼します。ユーヤです」

 声をかけたが、返事はなにやら中からの騒音。争っているかのような――まさか、もと魔王を狙う何者かが来襲したのか!?

 ユーヤはあわててドアを開けた。

「おや、青年」

 目にしたのは、居間の中央で奥さんが旦那にえらく複雑な関節技をかけている光景だった。

「……お、邪魔します」

「ああ、いらっしゃい。すまんな、今取り込み中で」

「ええ。見ればわかります」

 よく分かります。というか、何かやらかしたんですね、もと魔王。みしみしメキメキ聞こえてますが、生きてますか、旦那。関節技をキメたまま、死の化身である奥さんは平然と言う。

「急用だろうか? そうでないのなら明日の朝、また改めてもらえると嬉しいのだが」

「急用です。お忙しいところ申し訳ありませんが、娘さんのことに関して」

「娘?」

 そこで母親はユーヤが娘を連れていることに気が付いたようだ。

「おや、イリア。どうしたのだい? 部屋で寝ているのではなかったのか」

「おかーさん、ただいまです。きょうせいれんこうされました」

「強制連行?」

「よばいにいったです。おにーさんにきづかれてれんこうされました」

 腕になついてくるイリアに微妙な顔になりながら、ユーヤは視線を泡を吹き始めたもと魔王にやった。

「……父親に夜這いを推奨されたようで」

「ほほう……」

 ぼき。


「いや、すまんな、青年。手間をかけさせて」

「いえ、いいんです……」

 動かなくなったもと魔王を放置して、奥さんはユーヤの腕に抱きついている娘に近づく。少しかがみこんで娘と視線を合わせた。

「イリア。夜這いとは何をすることなのか理解しているのか?」

「よくしりません。ぜんらになっておにーさんのよこにねて、あさになったら『まじめそうなかおしていがいとすごいのね』っていえばいいとおそわりました!」

 ユーヤは思わず祖父から譲り受けた剣を探した。実家に置いてきたことを今猛烈に後悔している。

 気絶しているもと魔王の顔面に、剣を突き刺してやりたい衝動が湧いてきた。

「すみません、奥さん。俺、今あなたの旦那さんをあなたの職場に送ってやりたい気分です」

「青年。気持ちはよく分かる。しかし私はまだ多忙なのだ。余計な手間は避けてくれないか」

 旦那のことを『余計な手間』扱いしつつ、奥さんはイリアの頭を撫でた。

「イリア。その夜這いの知識は間違っている。いいか? 正確な夜這いというのは」

「奥さん奥さん奥さん!!」

 そこで具体的に説明するのも違う気がするので猛烈な勢いで止めた。

「む? どうした青年」

「どうもこうもないです。四歳児に何を教えるつもりですか!?」

「うむ、正確な愛情の行為をだな」

「真顔で言わんでください」

 冗談なのか本気なのか非常に分かりづらい奥さんである。

「あー……イリア? 今日はもういいから、イリックのところに行って寝なさい」

「えー。おにーさん、そいねしてください」

「しません。さ、良い子だから。おやすみ」

 言うと、イリアはくいくいとこちらの服を引く。

「むう。ではおやすみのきすを」

「しません。おやすみ」

「くちじゃなくてほっぺでもいいですよ」

「しません。おやすみ」

「おでこでもいいです」

「…………しません」

 しつこく食い下がるイリアになんとかそう言ったら。


 背伸び。

 ちゅ。

「っ!? イリアッ!!」

「おやすみです、おにーさん」

 にっこり笑って小悪魔少女は寝室に入って行った。触れた感触の残る頬をさすって、ユーヤは何とも言えない気持ちになる。

 四歳児四歳児四歳児。そう心の中で唱えるのは一体何度目か。

「うむ、我が娘ながら手練手管を尽くしている。末恐ろしいな」

「感心してないで止めてくださいよ……」

 母親、相変わらず止める気はないようである。

 脱力感を身にまといながら、ユーヤはもと魔王宅を辞去した。

 断じてトキメいていたりしない。しないったらしない。

 四歳児四歳児四歳児……唱えながら帰路に着く。

 帰り道、ぽちのことも目に入らなかった。


 俺、今日寝れるだろうか……。


いちゃいちゃがもっと見たい、と、コメントがあったので「よーし作者がんばっちゃうぞー」と頑張ってみたら、何か違う気がしてきた書き上げ後。

……いちゃいちゃって……どう書くの……?

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