子育て勇者と魔王の子供・49
声がする。
「さぁ、新たなる魔王となるのだ……この世界を征服し、己の欲望のままに蹂躙するがよい!!」
「じゅーりんってなんだ?」
「ふんでぐりぐりすることです。こえのひとはぐりぐりしてほしいのです。イリック、ぐりぐりしてあげたらどうですか」
「えー、きもちわるいからやだ。イリアは?」
「わたしもきもちわるいからいやです。しかとしましょう」
「よし、するーしよう!」
不気味な声に対し、子供たちの反応はそんなもんだった。
中庭で放し飼いにされているぽちの様子を見にきたユーヤに、ぽちは歯をむき出した。鋭い牙が並ぶ大きな口だが、全く怖くない。花柄ファンシーな首輪のせいだろう。
「貴様ら、いつまで吾輩を飼い犬扱いするつもりだ」
「俺はなにもしてないよ。子供たちだろ、その首輪。可愛いじゃないか」
「王子と姫からいただいたこの首輪に変な機能を付けたのはあの小娘だろうが! おのれぇ!!」
魔道具を作る腕前だけは天才的なオーラが首輪に何か機能をくっつけた品物である。人間に対して攻撃するとイロイロな効果があるという品物。『いろいろ』の内訳は、それこそ『いろいろ』らしい。オーラはにこやかで、しかしえらく不穏な微笑でそう告げた。ちょっと怖かったのであまり詳しく訊くことは止めたユーヤだ。
彼女もなにかストレスがたまっているのだろう。理由はわからないが、たぶん研究とかで。
「くびわがきにいらないですか、じゃあどっかいっていいですよ、ぽち」
「そうだよな。いまにーちゃんにきばむいたし」
ユーヤの両側にくっついている双子はにべもない。
「いいえ! 王子と姫にいただいたものに不満などございません!! 乗騎ごときにこのようなお恵みをいただけて感激の極み……! ただ、あの小娘が変な魔術をくっつけたのが気に食わんのです!」
きりきりと歯噛みするぽち。首輪自体は気に入っているらしい。首輪を贈られた時点で双子からも飼い犬扱いだと、本人気づいていないのか。
「あー、まぁ、でもほら、ここ王城だから。かなりの偉い人たちも歩いているし。オマエが魔物なのも知れてる。おとなしくしてますって意思表示をしなくちゃ駄目だろ? そのためにオーラも頑張ってくれたんだ、あんまり反発するなよ」
にこりと笑みを向け、ユーヤはこぶしを握った。
「退治されたくないだろ?」
「……おのれ外道勇者め……」
さて、今日はこれからどうしよう。ぽちも元気だし、双子はいつものようにユーヤにべったり。オーラは勉強のため、王立研究院に出勤している。見習いとはいえ、魔力付与の腕前だけはとんでもなく良いので、真剣に入所しないかと誘われているらしい。オーラの腕前はユーヤもよく知っているので、無理もない話だと思う。
彼女の夢は賢者だが、このままいくと付与魔術師になりそうだ。
「にーちゃん、にーちゃん。あそぼ」
イリックに誘われた。基本的にユーヤの王城での仕事はない。城に来た当初に魔王に関するあれやこれやは聴取されたし、今は調査の結果待ちで、自主鍛錬しつつ双子の遊び相手をしている。たまに城の兵士に誘われて組手をすることもあるし、昔の同僚と話したり、細かい雑務を手伝うこともあった。
あとは、美熟女から逃げたり、王女殿下から逃げたり、王のグチにつきあったり、そんな日常である。
「ん? 何して遊ぶ?」
「おにごっこ」
「イリック、おいかけっこならできますよ」
と、イリアが言いながらユーヤの手に抱きついてきた。
「ひめがきます」
「「げ」」
イリアの指摘にイリックとユーヤは同時に呻いた。確かに気配は近づいてきている。姫かどうかはまだ視認できていないので分からないが、イリアが言うのなら姫なのだろう。ここ最近、感知能力が上がってきているのだ。美熟女と姫にいいだけ追いかけまわされているので、対抗能力がついてきた。
「にげましょう、おにーさん」
「にげようにーちゃん!」
「よしきた!」
基本的に、平和だった――今のところは。
不穏な気配ですが、双子にとってはそんな感じ(笑)ふんでぐりぐり。




