子育て勇者と魔王の子供・37
星空の下にいる男女。
星と月だけが見下ろす静かな夜、ロマンチックな雰囲気で、二人の仲も深まろうと言うもの。
……普通なら。
「おねえさんのりょうりはちめいてきです。だめです。ふかです。むりです。ちじょうさいていです」
「さいのうないよ。やめたほうがいいよ。ぽちしんだし」
「我輩死んでないですぞ王子」
「……そんなことないわよ、ねえぽち? 死ななかったもんね?」
「匙を持って寄るな女。にじりよるな食い殺すぞ」
オーラに牙をむき出しているぽちの後頭部を、剣の鞘で痛打しておいて、ユーヤは苦笑した。
「オーラ、やっぱり俺が作るよ」
漂う匂いから、なんとなく状況は知れた。研究と開発に青春を費やしたオーラは、家事的なことができないと聞いている。兄がやってくれたから、しなくて良かったとも聞いた。
後で、兄からは妹を嫁にやらないためにしくんだことだとも聞いたが、それはオーラには話していない。兄妹仲に亀裂が入りそうだし。
そういう事情を知っているので、ユーヤは最初から期待もしていない。
「え、え、でも、あの」
「材料ももったいないから」
「う、あ、ええと」
「たき火見ててくれな」
「…………はい」
肩を落として、オーラは火のところに向かった。何か落ち込ませるような悪いことでも言っただろうか。女心って難しい。
「おにーさん、ぐっじょぶです」
「にーちゃん、すげー」
「?? なにが?」
「なんでもないです。おにーさん、わたしもおてつだいします。おりょうりおしえてください」
「おれもおれも!」
双子はなんでか嬉しそうだ。子供心もよく分からない。
「うむむ……貴様本当に外道だな。鈍さも相当だ」
「なんかよく分からんが、お前の言葉は理解できなくていい気がする」
ぽちのことはどうでも良かった。
とりあえず、夕食を作って、食べ終わってから、ユーヤはオーラに声をかけた。
「オーラ、大丈夫だよ」
「……なにがですか?」
「君の料理、魔物にぶつけたら効果ありそうだから。ぽちだって倒れたんだろ?すごいじゃないか、タフなぽちを昏倒させるなんて。何かの研究に使えないかな」
褒めたつもりだったのだが、オーラは真っ赤になって双子を振り返った。
「…………イリアちゃん、イリックくん、ユーヤさんに言いましたねー!?」
「いいましたがなにか?」
「だってほんとのことじゃん」
しれっと言い切る双子に、オーラは何かをこらえてプルプルしている。怒っているのか。
しばらくぷるぷるしていた彼女が心配になってきたころ、彼女は叫んだ。
「ユーヤさん!!」
「う、うん?」
「私料理の勉強します!!」
「へ」
「料理は魔物を撃退するものじゃありません!! そうよ、負けるもんですか……あの淫魔にすらできるんだから……ッ!」
怒りが情熱に変化したようだ。
どう対応していいのかわからない。女心は理解不能だ。
「えーっと……まぁ、その、頑張れ?」
「え、おうえんしちゃうのかにーちゃん!?」
「おにーさん……きけんですよ?」
双子は真剣に心配そうだ。
何を心配しているのか、ユーヤには分からなかった。
「そうよ……あんだけ一緒に旅をしてきて、夜も一緒だったのに、何一つ進展がなかったのはユーヤさんが超絶に鈍いからだもの……!! こっちが動かないとあの人絶対に気がつかないに決まってるわ!!」
ふらぐ? らぶフラグじゃなくて、死亡フラグな気がしますけれども(笑)




