子育て勇者と魔王の子供・19
いい匂いで目が覚めた。両脇にはいつものとおり双子が眠っており、少し離れたところでぽちが土下座している。
なんですかこの状況。
焚き火のところで、この間遭遇した美女(千数百歳のご高齢)シヴィーラさんが、煮炊きしていた。
ああ、いい匂いはその鍋からですか。
「……おはようございます?」
何故気付かなかったのかは、彼女に殺気がないからだ。いくらユーヤでも、殺気もなく、気配も消している相手には気付けない。
勇者に気配を気取られないという離れ技をやってのけた外見だけ若い熟女は、エプロンつけて、機嫌良さそうに鍋をかき混ぜている。
「あら、おはよう」
ユーヤに笑顔で挨拶してきた。
「ふふふ、紳士ね」
「えー……あー……すみません、寝起きで状況が飲み込めないのですが」
なんでご飯作ってるのだろう、この人。
こないだ、双子を渡せと強引に迫ってきたのではなかったか。
「ほほほ。なんでもないわよ」
いやいやいや。思わずユーヤは首を振る。
「なんでもなくないだろ。何してるんだ」
双子を両腕に抱いているような状態なので、襲い掛かってこられたら動けない。抱えて逃げるしかないかと考えながら、ぽちを見る。土下座したままだ。
シヴィーラの魔力に負けているのだろう。役に立たない。
「ご飯を作っているのよ」
「……うん、そんな気がしてた。だから、なんでだ」
「いやね、言わせたいの?」
「すみません、分からないままでいさせてください」
非常にまずい気がしてきたので、即答した。
「やだー、ばーちゃんのごはんよりにーちゃんのごはんがいいー」
「わたしもおなじいけんです。おにーさんのごはんがいいです」
目を覚ました双子は、シヴィーラの朝食に拒否反応。結構いい匂いがするのだけれども、材料が何なのかわからないので、ユーヤとしても拒否したい。
「あら、どうして? 私、一生懸命に作ったのよ。せめてあなたには食べて欲しいわ」
流し目で言われ、ユーヤは引きつった。なんだこれ。なんだこの状況。おかしいな、なにがどうなってこんなことに?
「ババアが言うな気色悪い」
「地面に埋まるまで伏せてなさい犬コロ」
「はい」
どうも失言の多いぽちである。しかし、助かった。
「いやあの、材料が何なのか分からないものは口にしたくないんだ」
「まぁ、力がつくわよ? 沼トカゲとか、レッサーデーモンとか」
丁重に、辞退したい。
「人間の食べるもんじゃないからそれ」
「え、そうなの!?」
真剣に驚いている熟女。口にしなくて良かったと心底から思ったユーヤだ。
「食当たりどころじゃなくて、死にそうだから食べない。すまん」
「……人間ってヤワねぇ……」
魔物が丈夫すぎるのでは。言い返したくなったが、失言大王のぽちではないので言わない。
結局、ユーヤは自分で朝食を作った。もちろん、双子の分も。作っている手元を覗き込み、シヴィーラはふむふむと頷いていた。あげく。
「次はちゃんと食べてね」
なんて言いながら、熟女はどろんと姿を消した。
「なんでだよ……」
ため息をつくユーヤの足元で、彼女の作ったものを無理矢理食べさせられたぽちが、ケイレンしている。匂いはかぐわしくとも、味はものすっごいものだったようだ。
「……さ、まともなメシにしようか」
「うん!」
「はい」
「我輩……死ぬかもしれん……」
ぽちは地面にはいつくばって呻いている。
「大丈夫だ。お前タフだし」
「食ってみろ貴様……アレは料理ではない! 猛毒だ!!」
「よし、元気だな。食べて片付けたら出発するぞー」
「外道勇者だ貴様はっ!! 我輩を何だと思っておるのだ!?」
「うるさいぞのりもの」
「のりものうるさいです」
「ああ……御子達素敵……ぐふっ」
へんじがない。ただのぽちのようだ。
美熟女とのふらぐ。ふらぐ……?




