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第25話 スマートな潜入は貰いゲロと共に

 ルルノフ公爵の屋敷に着いた俺たちの前には、多くの馬車と人の姿があった。


 馬車から降りてくる人たちを見ると、皆ドレスコードのようなものを着ているようだった。


「やけに人が多いな」


 俺が窓から外の景色を見てそう言うと、シャルロットが外を見ながら口を開く。


「パーティでもしているんじゃないでしょうか? ルルノフ公爵はパーティ好きで有名ですから」


 俺はシャルロットの言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。


 俺の屋敷ではアリスを殺すように命じて置いて、自分は呑気にパーティをするつもりだったらしい。


 俺はため息を吐いてから目を細める。


「またパーティか。アリスのときといい、貴族連中はパーティ三昧なのか?」


 以前、アリスが誘拐されたときもウィナン伯爵の屋敷でパーティが行われていたらしい。こう何かが起こるときにパーティばかり開催されているとなると、常にパーティばかり行っているのかと呆れてしまう。


「貴族社会ですので、付き合いも大事と考える方が多いです。ヴィラン様はあまりパーティに参加されないのですか?」


 シャルロットが首を傾げたので、俺は真の悪役のような不敵な笑みを浮かべる。


「ああ。守りたいものを守るために鍛錬をしている方が有意義だからな」


「守りたい者……アリス様は幸せですね」


 シャルロットは俺の言葉を聞いて微笑みを浮かべた。


 ん? なぜ今アリスの話になったんだ?


 真の悪役を目指すという夢とそのプライドを守るためなんだが……


 俺は首を傾げてから、また視線をルルノフ公爵の屋敷の方に向けた。


 しかし、これだけ人がいるとなると、どうしたものか。


 深夜にそっと忍び込もうかと考えていたが、深夜にも少数宿泊客が屋敷に残るかもしれない。


 それに、以前アリスが誘拐されたこともあったし、深夜とかの方が警戒が強まる可能性もある。


 それはそれで面倒だな。


 俺はしばらく腕を組んで考えてから、大きく頷く。


「……計画変更だ。こいつらに紛れ込んで屋敷に潜入する」


 すると、シャルロットが驚いて目を丸くした。


「パーティに忍び込むのですか?」


「ああ。と言っても、パーティ会場にはいかんがな」


 変に警戒が強まる深夜なんかよりも、人が多い今のうちに人が多い今のうちに侵入してしまった方がいいだろう。


 最悪、屋敷の中で迷っても道中で迷ったで話を通せるはずだ。


 俺はそう考え、窓から御者席に向かって口を開く。


「タイラー。このままルルノフ公爵の屋敷に向かってくれ」


「え?」


 すると、御者をしているタイラーが驚いた声を上げてから続ける。


「屋敷ですか? あの、これからパーティが始まるのでは?」


「ああ。だからこそだ」


 俺が笑みを浮かべてそう言うと、タイラーはしばらく黙り込んでしまった。


 不思議に思って窓の外に顔を出すと、御者席からぶつぶつと独り言が聞こえてきた。


「突然の婚約、婚約者の使用人を連れ出してパーティに参加……これは、」


 ……これは、後でちゃんと説明しておかないとだな。


 どうやら、シャルロットがいうように完全に勘違いさせてしまったようだ。


 それから、他のパーティ参加者がいる列に並んでいると、屋敷の前に立っている門番のもとに徐々と近づいて来た。


 シャルロットが俺の肩を軽く叩く。


「ヴィラン様。どのように屋敷に入られるのですか?」


「どのように?」


 俺がシャルロットの言葉に首を傾げると、少ししてその門番が俺たちのもとにやってきた。


「あの、招待状の確認をよろしいですか?」


「招待状?」


 俺は思いもしなかった言葉に目をぱちぱちとさせる。すると、門番は当たり前のように続ける。


「ええ。もしくは、お名前だけでも平気ですが」


「あ、ああ。そうだな」


 俺は冷静を装ってそう言いながら、心臓の音をバクバクとさせていた。


 しまった! パーティ慣れしていないだけに、勝手にいけば上手いこと潜入できると思い込んでいた!


 そういえば、パーティに参加するためには軽いチェックがあったんだった! 当然と言えば当然だが、パーティ慣れしていないだけにすっかり忘れていた!


 俺が背広のポケットを探りながら必死に頭を働かせる。


 それから、俺は何もないポケットの中をまさぐって、余裕の表情を続ける。


「あ、ああ、これのことか」


 俺がそう言うと、門番が微かに距離を詰めた。


 俺がちょいちょいっと手招きをすると、門番がもう数歩近づいてきた。俺はその瞬間に一気に魔力を体に巡らせ、身体を強化させる。


 俺は馬車の床を強く蹴り、一気に門番との距離を詰めて門番の手をグンと引いた。


「え⁉ ちょっ!」


 それから、俺は門番の肝臓と胃と小腸にパパッと手を当てて、反転させた回復魔法をかけた。


 かけた回復魔法はアルコールなどで酔った時の酔い止めの効果のあるもの。それを反転させたのだから、急激にアルコール酔いを引き起こす。


「おろろろろろっ!」


 その結果、門番は突然俺たちの馬車に向かってゲロを吐いてしまった。

 

 その瞬間、俺たちに出欠の確認をしていた門番の近くにいた別の門番が駆け寄ってきた。


「お、おい! なにごとだ!」


 そして、慌てたように駆け寄ってきた門番に俺は不機嫌オーラ全開で顔を歪めて口を開く。


「こっちが聞きたい。ルルノフ家の使用人はパーティ中に酒を飲むのか? それも客人の馬車にゲロを吐くほどまで飲むのか?」


「ひっく」


 俺が酔わせた門番の肩を掴んで近づいてきた門番に引き渡す。すると、酔っていない門番は顔を青くして深々と頭を下げた。


「も、申し訳ございません! おい、何してんだお前っ! すぐに馬車を清掃いたします!」


「構うな。御者に洗い場の場所だけ教えて去るがいい。ゲロを吐くほど酒を飲んで客人を迎える門番など信じられん」


 俺が吐き捨てるようにそう言うと、門番は水洗い場に俺たちを案内してくれた。


 そして、取り乱していた門番は俺たちをチェックするということを完全に忘れているようだった。


「フッ、鮮やかな潜入だな……おえっ」


「ヴィラン様。貰いゲロにはお気を付けくださいっ。うぷっ」


 その結果、俺もシャルロットも貰いゲロをしそうになってしまったのだった。


 こうして、俺たちはスマートにルルノフ公爵の屋敷に潜入することに成功したのだった……うぷっ。


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