第2話 魔力のゴールデンエイジ
学園RPGゲーム『魔法学園の彼方』。
魔力で体を強化し武器で戦うもよし、魔法を駆使して戦うもよしなリアルタイム制バトルが売りのゲームだ。
この世界では、魔法は基本的に貴族しか使うことができない。だから、争いごとがあるとどうしても魔法か身体強化ができる貴族が必要になる。
貴族たちは平民を争いから守ることで平民から敬られるらしい。……まぁ、そんな力関係があるにも関わらず、平民も戦いに駆り出されるんだけど。
おそらく、ゲーム通りに物語が進むのなら、俺は魔法学校で魔力の使い方や剣、基礎的な教養を教わることになる。
そして、俺はその序盤のチュートリアルで主人公にざまぁされるわけだ。
当然、そんなざまぁイベントなんか回避させてもらうつもりだ。力もろくについていない状態の主人公にざまぁなんかされてしまったら、真の悪役なんて言えないからな。
真の悪役は強くなければならない。そして、この世界で強くなるためには、魔力量がどれだけあるかが肝になってくるのだ。
魔力で体を強化するのにも、大規模な魔法を使うためにも魔力は必要不可欠。
しかし、この世界では魔力量というのが生まれた時にすでに決まっている設定だった。だから、いくら好きなキャラがいても戦いについていけなからパーティメンバーから外さなければならないということが多々あった。
……『魔力量というのが生まれた時にすでに決まっている』。果たして、それは本当なのだろうか?
ゲームの登場キャラたちは16歳から魔法学校に通い始めていた。だから、16歳を超えるとどうなるかは分からないが、幼少期の修行次第で魔力量は増やせるんじゃないだろうか。
一般的に運動神経はゴールデンエイジという9~12歳の期間や、プレゴールデンエイジという4~8歳の期間で決まると言われている。
同様に音楽や絵の才能にも伸びやすい時期があるらしい。
それなのに、魔力量だけ生まれた瞬間に決まるというのはおかしい。多少は生まれながらの差があるかもしれないが、努力次第である程度どうにかなるのではないだろうか?
もしかしたら、運動神経や他の芸術の才能と同じように、幼少期に努力をすれば膨大な魔力量を得られるかもしれない。
いや、得られなくては困る。だって、真の悪役になるのに魔力量が少なかったらしまらなだろう。
そんなわけで魔力を増やすための修行をしようと考えたわけだが……当然、画期的な方法など思いつかない。
当たり前だ。このゲームは幼少期パートなんかなかったし、ゲーム外の情報を得ようとしてもまだしゃべることもできない。なにより、まだ首だって座っていない。
そんな状態なのだから、良い修行の方法なんか分かるはずがないのだ。
本来ならもっと大きくなってから修行をすればいいのだろうけど、それだと他の悪役たちに後れを取ってしまう。
今のうちになんとか修行を開始して、誰にも負けない悪役にならねば。
とりあえず、魔力を感じれるようにならなければ話にならないよな。
確か、ゲームでは貴族の体には、血液のように魔力が流れているって言っていた。
幸い、生前の知識もあることだし、生前の体との違いとかを意識しながら魔力を探してみるか。
魔力、魔力、魔力……。
「ヴィランよ! 難しそうな顔をして一体、どうしたんだ~!」
俺が真剣に魔力うぃ探そうとすると、父親であるダウトがうきうきした様子で俺の顔を覗き込んできた。
くそっ、邪魔だおっさん。せっかく修行を始めようとしていたのにーーん? ダストの体になんか青白い光が見えるぞ。
体中を走っているようなその光を前に、俺は目を細める。
「あーー」
「ん? なんか凄いご機嫌斜めだな?」
俺がじっと青白い光のようなものを見ていると、母親のミリアが俺の頭を撫でてきた。
「ふふふっ。もしかしたら、あなたの魔力を見て驚いているのかもね」
「あっ、そうかもしれないな。そうかぁ、もう魔力を目視できる時期に入ったのか」
魔力を目視できる時期? なんだそれ、そんな設定聞いたことないぞ?
俺が眉間に皺を入れていると、ミリアが微笑んでまた俺の頭を撫でた。
「不安かもしれないけど大丈夫よ。四歳くらいになると徐々に見えなくなってくるからね」
「ああ。みんな通る道だからな。すぐに見えなくなるさ」
ミリアとダストは俺を安心させるように笑う。
どうやら、この世界の子供は魔力を目視で見ることができるらしい。俺のいた世界で言うところのモスキート音的な奴なのか?
それにしても、魔力を目視で確認できるとは思わなかった。感覚頼りになるかと思っていたが、これなら案外早く魔力の流れを掴めそうだ。
もしかしたら、魔力が見える期間がプレゴールデンエイジの期間なのかもしれない。
つまり、この期間に魔力の流れを掴んで自在に操れるようになれば、真の悪役により近づくことができるってことか。
「あひゃひゃひゃっ」
俺はこの世界で真の悪役になる方法に気づき、笑い声をあげた。
世界の真理を知ったかのような感覚を前に、俺は上げた笑い声を止めることができずにいたのだった。




