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第1話 神様に裏切られたので、真の悪役を目指します!

『困っている人がいたら助けてあげなさい。誰もしないようなことも率先してやりなさい。良い人がいたら、それ以上に良い人になりなさい。誰も見てないようでも、神様だけはきっと見ていてくれるから』


 昔、祖母にそんなことを言われた。


 当時子供だった俺は、その言葉を律儀に守った。困っている人がいたら誰でも構わず助け続けたし、人がやりたがらないことも率先してやり続けた。


大きくなってからは、その言葉が徳を積むことなのだと気づき、さらに多くの人を助けてきた。


 ゴミ拾いや落とし物探し、お年寄りが重いものを持っていれば代わりに持ち、仕事終わりや休みの日にボランティアなどもした。


自分の生活を犠牲にして、徳という徳をひたすらに積み続けた。


 そして、今――道路に飛び出した子供を庇って、トラックにひかれそうになっていた。


トラックと衝突する寸前、俺は恐怖心よりも肩の荷が下りた気持になっていた。


毎日人のために生きる生活を送り続けたせいで、心が疲れてしまったのだろう。


もう十分徳を積んだだろう。きっと、来世は金持ちの貴族の家に生まれて、何不自由のない生活が待っているはず。


 そんなことを考えたのが最後、俺の意識はプツンと切れた。




「おおっ、これが我が息子か!」


 男性の喜ぶ声が聞こえて、俺はうっすらと目を開ける。


 すると、そこには三十代の成人男性が俺の顔を覗き込んでいた。そして、俺を抱き抱えている二十代くらいの女性と、そのすぐ近くにはメイドさんが二人いた。


 メイド? え、なにここ?


 え、なんでトラックにひかれた次の瞬間、女性に抱き抱えられているんだ?


 ていうか、成人男性を持ち上げる女性ってなんだよ。


 俺が困惑しながら、視界に入ってくる情報を整理する。


 異世界ファンタジーでよく見る貴族家庭のような屋敷に、知らない言語。それなのに、会話の内容はスラスラと頭に入ってくる。


 なんだこの展開。これじゃあ、まるで異世界転生アニメの中にでも入ってしまったかのようなーーん?


 もしかして、これって本当に異世界転生ってやつなのか?


 そんなアニメやラノベでしかみないような展開に巻き込まれているのか?


 俺が突然の事態に驚いていると、メイドの一人が嬉しそうな表情で男性を見た。


「聡明そうな顔だちをしておりますね、ダーティ男爵!」


「ああ! 今から成長が楽しみであるな!」


 ん? 今『ダーティ男爵』って言ったか? ていうか、よく見るとこの男の顔に少し見覚えがある気が……あっ!


 『ダーティ男爵』って、学園RPGゲーム『魔法学園の彼方』に出てくる悪役貴族キャラの家じゃないか?


『魔法学園の彼方』。元々はエロゲとして発売されたゲームだったが、グラフィックや戦闘システムの良さから移植され、世界的に人気のあるゲームだ。


 まぁ、俺はただキャラの可愛さとかに惹かれてプレイしただけなんだけどな。


 そのゲーム中では、ちょこちょこボスイベントが発生する。熱いイベントもあるのだが、ただ主人公に悪役がざまぁされるというイベントもある。


 そして、そのイベントの最序盤のチュートリアルにでてくる悪役が『ダーティ男爵』の息子だったはず。


 確か、あの悪役の名前はーー


「『ヴィラン』! そうだ、この子の名前はヴィランと名付けよう!」

 

 俺がそんなことを考えていると、ダーティ男爵がそんな言葉を口にした。


 そうそう! 確か、悪役の名前はそんな名前だったはず! 


 ……ん?


 俺はダーティ男爵の言葉を聞いて、目をしばたかせる。


 今、『ヴィラン』って名付けるって言ったのか? え、ていうことは、俺の名前がヴィラン?


 しかし、戸惑う俺をそのままに、周囲はワッと盛り上がっていた。


「いいわね、ヴィラン! 凄いことを成しそうな雰囲気があるわ」


 俺を抱き抱えている女性はそう言って、微笑ましい表情で何度も俺のことを『ヴィラン』と呼んできた。


 ヴィラン? え、俺がヴィランなの? 人気ゲームのチュートリアルでざまぁされるような悪役に転生したってこと?


 …………え?


 うっそだろ、おい! 俺、生前にめちゃくちゃ徳を積んだはずだぞ!



 徳を積むと来世ってイージーモードになるんじゃないのかよ! なんであんなに徳を積んだのに、こんなに生きづらい悪役貴族に転生してんだ!


「おぎゃああああああああ!!」


 俺はこの世の不条理に泣き叫んだ。それはもう長いこと泣きわめき、両親を困らせてやった。


 俺は涙が枯れるほど泣いた後、涙の潤んだ瞳で窓の外を強く睨んだ。


 空のはるか上空にいるであろう神様を恨み、見えない神様を睨みながら俺は決意した。


 ……グレてやる。


 生前人のために生きてきたにもかかわらず、こんなクソみたいな悪役に転生させるって言うなら、こっちにもやりようがある!


 こうなったら、誰もが恐れおののくような、最強の悪役貴族になってやる! 


前世でできなかったような、めちゃくちゃ悪いことしてやるからな!


 そこで、俺はふと生前の祖母が言っていた言葉を思い出した。


『良い人がいたら、それ以上に良い人になりなさい。誰も見てないようでも、神様だけはきっと見ていてくれるから』


 ……悪い奴を見つけたら、それ以上の悪になってやる。神様って奴はちゃんと見てくれているんだよな?


 俺よりも悪い奴は絶対に許さない、俺がそいつらを全員倒して、真の悪役になってやる!


そんな決意と共に、俺の第二の人生がスタートしたのだった。


 そして転生して一週間後、俺はさっそく真の悪役になるために修業を始めることにしたのだった。


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