おまけ3 エクトルが決心した日
僕は家族を失い、両親と親交があり跡取りのいないデュカス公爵家に迎えられた。
そのころの僕はショックで誰にも心を開けず、心を閉ざしていた。
もちろん、デュカス家の人々はとても優しく、僕に愛情をもって接してくれていたが、それでも急に『今日から新しい両親』『彼女は君の姉よ』と言われても、どう受け入れればいいのかわからなかった。
当時の僕は甘え方や家族のぬくもりも、もう思い出せないでいた。
僕は孤独だった。
まるで世界の中で自分だけが取り残されているような気がしていた。
そんなある日、屋敷はひどい嵐に襲われる。
雷の音に怯え、両親を失ったあの夜の記憶が蘇った。雷による火災、そうして大切なものを失った記憶。
僕はベッドの中で震えながら、ただ目を閉じていた。
そのとき、扉が開き、アレクサンドラが飛び込んできた。
彼女は真っ直ぐにこちらへ向かってくると、僕を包み込むように抱きしめてくれた。
「大丈夫。大丈夫よ、エクトル」
そう言うアレクサンドラの肩も、かすかに震えていた。
きっと彼女も怖かったのだろう。 それでも迷いなく僕の部屋へ来てくれた。
そのことが、たまらなく嬉しかった。
あの温もりに触れた瞬間、僕はもうこの世に一人ではないと思えた。
そしてその腕の中で、心に誓った。
これからは一生、僕がアレクサンドラを守り続けると。




