13
するとダヴィドは焦った様子で答える。
「まさか、違う違う。頼むからこれ以上話をややこしくしないでくれ」
「慌てるなんて余計に怪しいわね。でも、もし本当にシャトリエ侯爵令嬢のことが気になるなら言ってね」
「いや、それはない。あ、ほらそんなことより今は、宝探しの準備をしないとだろ?」
「そうだったわ。まずチーム分けのくじ引きを持ってこないと」
そう答えてアレクサンドラは、慌ててくじ引きの箱を持ってきた。
この宝探しは、二チームに分かれて大雑把なヒントをもとに、隠された宝を先に見つけ出したほうが勝ちというものだった。
宝を隠すのも、ヒントを作るのもセバスチャンにお願いしてある。なので、アレクサンドラも宝がどこに隠されているのかは知らない。
ただ、チームを決めるときのくじ引きに細工をしていた。
くじを引いて同じ数字の者同士でチームを組むことになるのだが、実はくじ引きには全て同じ数字『1』が書かれている。
そこでダヴィドとアレクサンドラはくじを引いたあと、自分のくじは『2』だと答えようと口裏を合わせたのだ。
そうすれば自然とアリスとシルヴァンが同じチームになる。
ヒントを解きながら宝探しをすれば、自然と仲は深まるだろう。
アレクサンドラはもう一度ダヴィドと答える数字を確認し、シルヴァンとアリスを二人きりにするために、しばらく間をおいてから部屋へ戻った。
そうして部屋へ戻ると、二人は窓から外を見ながら談笑しているところだった。
「ごめんなさい、お邪魔だったかしら?」
そう言って二人に微笑みかけると、シルヴァンが即答する。
「そんな心配はいらない。私は君たちが戻ってくるのを待ち望んでいたぐらいだ」
アリスは恥ずかしそうにその横でうつむいていた。
その様子を見たアレクサンドラは、シルヴァンの言い方は素っ気ないものだったが、ちゃんと二人の仲は深まっているようだと感じた。
「では改めて、宝探しの方法を説明しますわね」
そう言ってアレクサンドラが、宝探しの方法やルールの説明をするとシルヴァンはこちらの説明に興味深げに耳を傾けた。
そうしてすべての話を聞き終えると、大きく頷く。
「うん、わかった。それにしても、この屋敷の庭はとても広大だ。この中からヒントのみで宝を探すのは楽しい作業になるだろうな」
そう答えるシルヴァンに対し、アリスが少し不安そうな顔をする。
「チーム分けですけれど、私少し人見知りなところがありますわ。できれば一番親しいかた同士でチームを組んだほうがゲームも楽しめると思いますの」
アレクサンドラはそれを聞いて安心させるように微笑んだ。
「シャトリエ侯爵令嬢、チーム分けもゲームのうちですわ。それにもし運命ならばきっとチームだって同じになりますわよ。ね?」
それを聞いて、アリスは嬉しそうに頷いた。
そうしてくじ引きが行われ、無事にシルヴァンとアリスはペアを組むことになった。
チーム分けが済んだところで、宝の場所のヒントが書かれた紙をセバスチャンから受け取ると、ゲームが開始された。
アレクサンドラは渡されたヒントをさっそく読み上げる。
「えっと、陽の光が双子の山を照らしたときその頂点に君臨するのは? ですって。なにかしら?」
「まずは双子の山の意味がわからないとどうにもならないな……」
ダヴィドはそう言って窓の外を見ると、遠くにある山々を見つめた。
「でも、双子の山なんて抽象的過ぎて、どの山かわからないわよ」
「とにかく庭に出てみよう。ここで考えていてもしょうがない」
ダヴィドがそう言っていると、アリスたちのチームも庭に出て行くところだった。
「一緒に行動していたら面白くないわね。少し離れたほうがいいかしら?」
「そうだな、それじゃあ俺たちはとりあえず西の方へ行ってみよう」
そうしてしばらくヒントの意味を考えながら、庭の西側へ向かって歩いていたとき、アレクサンドラは不意に思いつく。
「ねぇダヴィ。この双子の山って本物の山ではなくて、なにかの比喩みたいなものよね?」
そう言うも、ダヴィドから返事がない。アレクサンドラは立ち止まり振り返った。
「ねぇってば!」
だが、そこには居るはずのダヴィドはいなかった。
「ダヴィ? ダヴィド?」
アレクサンドラは周囲を見回し何度もダヴィドの名を呼ぶが、風で揺れる葉擦れの音と小鳥たちのさえずりしか聞こえなかった。
「やだ、はぐれちゃった?」
アレクサンドラは一度スタート地点に戻ろうかと屋敷の方角を見詰めたが、考えてみれば目的地は同じなはずである。
きっと続けていればどこかで会えるはず。
そう思い、とりあえずこのままゲームを続けることにした。
そうしてもう一度ヒントに目を落としたとき、誰かがアレクサンドラの肩に手を置いた。
「ダヴィ、どこに行ってたの?」
そう言って振り返ると、そこにはシルヴァンが立っていた。
アレクサンドラはあまりのことに驚き、固まっているとシルヴァンは苦笑しながらアレクサンドラに尋ねた。
「もしかして、君もはぐれたのか?」
「あ、はいそうですわ。もしかして、殿下もですの?」
「そうなんだ。彼女、一人でなにか言いながら好きな方向へ行ってしまってね。気がつけば姿がなかった」
アリスってば張り切りすぎなんですわ!
心の中でそう呟くと、とにかくこの状況をなんとかせねばと考えをめぐらせた。
「殿下、わかりましたわ。とにかくスタート地点に戻ってみましょう。ダヴィもシャトリエ侯爵令嬢も戻って待っているかもしれませんもの」
「だがみんなヒントを持っているだろう? まだ宝を探していたら?」
「ですが、あのシャトリエ侯爵令嬢が一人で探しているとは思えませんわ」
すると、シルヴァンは楽しそうに笑った。
「『あの』シャトリエ侯爵令嬢ね」
そう言い咎められ、アレクサンドラは一瞬ドキリとし、慌てて訂正する。
「悪い意味ではありませんのよ? シャトリエ侯爵令嬢は逞しい私とは違って、線の細い令嬢ですわ。いつも誰かそばにいて、守って差し上げなくてはならないような」
「なにを言っている。君のほうこそ、そばに誰かいる必要があるだろう。危なっかしくて見ていられない」
シルヴァンのその返事にアレクサンドラは一瞬戸惑うも、それは大きなお世話なのでは? と思いながら微笑んだ。
「あら、ご心配おかけしているみたいで申し訳ありませんでしたわ。とにかく、スタート地点に戻りましょう」
そう答えて踵を返した。
アレクサンドラはまさか、シルヴァンにとって自分が危険人物だと思われているとは思いもよらず、いくらなんでも失礼すぎるとすこし腹を立てた。




