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私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ   作者: みゅー


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「いや、それを言うなら最初に僕を助けてくれたのは君の方じゃないか。僕は……」


 そこでシルヴァンは話を止めると、アレクサンドラの後ろをじっと見つめた。


 アレクサンドラが不思議に思いながらその視線の先をたどると、そこにはアリスが立っていた。  


 この展開に驚きながらアレクサンドラが唖然とアリスを見つめていると、アリスはこちらに気づきドレスの裾をつまんで、笑顔でこちらに向かって小走りで駆け寄る。


 そしてシルヴァンの前に立つと、息を整えてからゆっくりカーテシーをした。


 シルヴァンは穏やかな表情でそんなアリスに声をかけた。


「やぁ、シャトリエ侯爵令嬢」


「ごきげんよう、王太子殿下」


 そう答えるとアリスはアレクサンドラのほうへ向き直り、頭を下げる。


「それに、デュカス公爵令嬢もごきげんよう」


「ごきげんよう、シャトリエ侯爵令嬢」


 アレクサンドラがそう返すと、アリスは顔を上げキラキラとした眼差しで二人を見つめた。そんなアリスにシルヴァンは尋ねる。


「君はなぜここに?」


「はい殿下。お父様に少し療養をするように言われてまいりました」


「近くに別荘を持っているのか?」


「いいえ。実はトゥルーシュタットにお父様と懇意にしておられる方がいらして、そこでお世話になる予定でしたの。それでこちらの村に立ち寄ったところですわ」


 そこでアレクサンドラは思い出す。確か小説の中でも二人は偶然外で会うことがあったはずだ。


 それが幾度となく重なり、二人はさらに強く惹かれ合っていく。


 この出会いもそのひとつなのだろう。


 ここで二人の邪魔になるようなことがあれば、きっとまたシルヴァンに排除されるに違いない。


 そう思ったアレクサンドラはアリスの元へ行くと手を取った。


「それならば、(わたくし)の屋敷にいらっしゃらない? トゥルーシュタットの知り合いにはお手紙を出したらいいですわ。ね?」


 すると、シルヴァンは驚いてアレクサンドラを見つめ、アリスは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐにがっかりしたような顔でうつむいた。


「とても嬉しい申し出なのですけれど、その、断るとお父様の立場が……」


「そう言われると、確かにそうですわね。残念ですわ。でも少しの間はモイズにいらっしゃるんでしょう? 屋敷に遊びには来られますわよね?」


 その問いかけにアリスは顔を上げ、目を見開いて嬉しそうに答える。


「よろしいのですか? (わたくし)は邪魔になるのではありませんか?」


「そんなことありませんわ」


 そう答えるとシルヴァンのほうを振り返る。


「そうですわよね? 殿下」


 シルヴァンは微笑むと頷いた。


「まぁ、君がそう言うのなら」


「では、あとで誰かそちらに向かわせますわ。今日は忙しいでしょうし、空いている日をあとで教えてくださるかしら」


「わかりました。では、(わたくし)はこれで失礼いたしますわ」


 そう言って頭を下げると、アリスは元来た方向へ去っていった。


 その背中を見つめていると、シルヴァンがアレクサンドラに訊く。


「君は彼女とそんなに仲がいいのか?」


「え? まぁ、そうですわね。殿下ほどではありませんけれど」


「どういうことだ? 君は僕と彼女が仲が良いと思っているのか?」


 そう言ってシルヴァンは怪訝な顔をした。


 え? 気にするところそこ?


 そう思いつつ、なにかまずいことを言ってしまったかもしれないと思い、アレクサンドラは慌てて話題を逸らす。


「そういえば、ダヴィドが今日は姫竹がたくさん採れたと言っていましたわ。姫竹は焼いて自家製のマヨネーズをつけて食べると、とても美味しいんですのよ? 楽しみですわね、ほほほ。じゃあ屋敷に戻りましょう」


 そう言って屋敷に向かって足早に歩き始めた。


 そうして屋敷へ戻るあいだ、せっかく今はシルヴァンに役に立つ奴だと思われているのに、アリスとの仲を邪魔されたと思われ以前のように排除されてはたまったものではない、そう思っていた。


 なんとしてでも二人をくっつけなければと、なにか方法がないか考えを巡らせた。


 屋敷に戻り、急いで身綺麗にして着替えると、アリスが世話になっている屋敷を調べ、使いを出すように言った。 


 そこにダヴィドたちが戻ってきたので、食堂へ向かう。


 席につくといつものように、お互いに調べたことを報告し合いながら夕食をすませると、食器を下げ地図を広げた。


 その地図上には、最終的に有力な候補となる場所を記してある。


 最初は何か所も候補地があったが、細かく調べてみるとダムの建設に向いていない場所がほとんどだった。


 もちろんそこまで詳細に調べるのは大変なことだったが、手を抜くことなく調べ上げ、なんとかここまで話が進んだ。


 今日行った場所が最後の候補地であった。


 ダヴィドが先ほど持って帰ってきた鉱物をトゥーサンに見せたところ、特に問題はなさそうだったので、現在の有力な候補地は三か所に絞られた形になった。


 地図上で場所を確認しながら、その三か所に問題点がないか議論を重ねたのち、トゥーサンにも現地に調査に行ってもらうことになり、この日の話し合いは終わった。


 こうして、しばらくアレクサンドラたちの出番がなくなったことで、次の日から暇を持て余すこととなった。


 この機会にと、アレクサンドラはさっそくアリスを呼んでシルヴァンとの仲を深めてもらうことにした。


 それに、アリスの目的はモイズ村ではなくトゥルーシュタットでの療養である。いつここを発ってしまうかもわからないため、早く手を打つ必要があった。


 そこでアレクサンドラはダヴィドに相談することにした。


「話があるからって言われて来たが、その話はレックスと俺の二人きりで話さなきゃならない内容なのか?」


 部屋に入り、アレクサンドラと二人きりとわかった瞬間、ダヴィドは焦ったようにそう言った。


「そうよ? なぜ?」


「なぜって、そりゃまずいだろう。こんな、部屋で二人きりなんてどんな誤解をされるか」


 今さらなにを言っているのだろうと、不思議に思いながらアレクサンドラはダヴィドを見つめた。アレクサンドラとダヴィドが二人きりで過ごしたことは今までに何度かあったからだ。


 それに、当然屋敷の者はみんなアレクサンドラの性格も、ダヴィドのことも知っていて、二人きりだからどうにかなるような間柄ではないこともわかっている。


 そんな心配をする必要はないのに、と思わず笑った。


 そんなアレクサンドラを見て、ダヴィドは不満そうな顔をして言った。


「ったく、人の気も知らないでこのお嬢様ときたら」


「ごめん、ごめん。ダヴィってば、結構苦労性なのね。でも仕方ないの。ダヴィにだけ相談したいことがあるから」


 すると、ダヴィドはムスッとしたまましばらく考え込んだあと答える。


「そういうことなら。とにかく手短に話してくれ」


「わかったわ。それじゃ本題に入るわね。実は折り入ってお願いがあるの。殿下とシャトリエ侯爵令嬢をどうにかしてくっつけたいのだけど、協力してもらえないかしら?」

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