140-4 メビス大陸
そして聖火ランナーたるブツダムGは海を越えた。
別に仏の教えを伝えるためではない。
ただ今絶賛、惑星アスベータを一周中であるからだ。
転移魔法も飛行魔法も使わない。
そんな物は千手観音から見たら、ただの邪道だ。
千手観音たるものは、俊足で大地(大洋含む)を走ってこそ華。
何よりもそこを買われて、造物主たる園長先生の独断と偏見で聖火ランナーに選ばれて製作されたのだから。
その千手の全てをもってして大切な聖火を守り抜き、その火を決して絶やさぬようにという配慮なのだ。
そもそも千手観音というものは、御仏の御心のような何かを伝道するような者ではないのではなかろうか。
ならば、あのような物騒な手は大量に必要ないはずなので。
しかも仏本人という設定なのだし。
見かけはどう見ても阿吽な仁王様の御仲間にしか見えない。
その上、幾多の腕に施された武装が彼らとは比べようもないほど強力な分、更に凶悪である。
なんというかこう、手数により押し寄せる仏敵を制圧し仏道を貫き通すみたいな信念を感じさせるフォルムだ。
走る。
大海の上を、一体と一頭は、ただひたすら走る。
聖火を吹き消されないように海風と戦いながら。
吹き寄せる波に抗うように。
ただただ西へ向かって。
「千手観音、西へ」
当然、御付きのドラゴンも海の上を走るのだ。
空を飛ぶなんて絶対に許されない愚行だ。
本来、ドラゴンに海上を走る能力はないのだが、アクシスは止むを得ず走っている。
とりあえず翅の魔法力で沈まないようにしているだけで、何よりも足を動かしている事が重要なのだ。
そのうちに、御師様のように海の上を走る技術をマスターしようと考えているのではあるが、あれは仏様の造物主が『仕様』として構造的に与えた物なので、あまり手本にはならない。
「僕は未熟者だ」
そう思いつつも、努力する自分に酔いしれている求道者アクシスなのであった。
幸いにして大洋には御飯となる魔物も多い。
御師様が邪魔なので通りすがりに殴り飛ばした魔物が後ろに飛んできた物とか、手近な手の届く範囲の奴を走りながら自分で捕獲して腹を満たしながら走る。
まるでイルカのように、水分さえ獲物の体からせしめている。
水分や食料を補給しながら走るマラソンのような修行道だ。
マラソン選手は途中で獲物を仕留めたりなどはしないものだが。
むしろ自分がマラソンに仕留められてしまうようなケースも少なくないのだから。
そして文字通り、洋行の末にやってきたメビス大陸。
四方へと散った形を取った小パンゲア大陸群、そのうちのロス大陸の西方にある小パンゲア大陸の一つは地理的にやや下側の位置にあったので、特に上陸する事もなく通過してしまっていた。
そこは五つある小パンゲア大陸の中でも最小の物なので、そうたいしたところではないのであるが。
別にあちこちの大陸を回るために走っているわけではない。
この惑星を真っ直ぐ左回りに一周してくればいいだけなのだから。
特に造物主からそう命じられている訳ではなく、本人が勝手にそう決めただけである。
そんなプレーが許されているのがグランバースト公爵家であり、彼らゴーレムの生き方なのであった。
強いて言うのであれば「十人十色」「みんな違ってみんないい」あたりなのであろうが、いちいちそんな事を言わなくてもよいくらいにグランバースト公爵家はフリーダムだった。
特にゴーレムにとっては。
そして、そのメビス大陸といえば、大まかに区別して「北メビス」と「中南メビス」に分かれる。
北部二十か国、中部十か国、南部二十か国の計五十か国となり、なんとなく瓢箪型の形などから地球のアメリカ大陸を思わせるが、特に北の地域が先進的で大陸の中心という事はない。
メビス大陸は北部の方が南部よりも大きくなっており、大陸北部に北メビス国家群と中メビス国家群が在り、大陸南部に南メビス国家群が在る。
地球のアメリカ大陸におけるアメリカ・カナダといったような先進的な国はなく、どれもこれも五十歩百歩である小国の集合体であったのだ。
何故地理的な構成とは異なる「北メビス」と「中南メビス」を分けているかというと、北メビスの国々は妙なプライドを持っている国が多く、「我こそは、このメビスの盟主なり」「我が国こそがリーダーに相応しい」とか考えているようで、互いにいがみ合っている。
国名も、「メビスワン」「メビスプラス」「真メビス王国」「神聖メビス王国」などと名乗っている。
それが二十か国に渡って互いに主張しあい、他国にも認めさせようと奮闘しているのだ。
そういうのも地域差というか、御国柄というのか。
そういう馬鹿臭い事には参加しない、気候的に気性も大らかな中南メビスの奴等は、それを揶揄して彼らの事をこう呼ぶ。
「メビス大連合」あるいは「メビス大連合国家群」と。
大連合もへったくれもない。
互いに「俺がナンバーワンだ。他はクソくらえ」という激しい主張を行い、喧嘩しているだけの関係なのだ。
小競り合いも非常に多い。
何しろ、同じ地区にある全ての国が同じ理由で争っているので、簡単には決着がつかない。
そういう訳なので特に連合する謂れもないので、どの国も同盟したりもしない。
他大陸からの干渉は愚か、同じ大陸においても他地域からの干渉はない。
中メビス国家群はアホな北部国家群と関わるのを非常に嫌い、合同で超強固な国境線をビシっと築いている。
北部国家は北部国家でまた、自分達のようでない中部国家共の事を嫌い、そっち側からも厳重に国境線を築いている。
おかげで中メビス国家同士は非常に仲がよく、その団結した中メビス国家連合に対し南の国家群も余計な手を出さない。
幸いにして、中央部は非常に細くなっており南メビス国家群からの脅威に対する守りは容易だ。
更に、大らかな南国気質である南メビス国家群からの脅威は元々少ない。
大きめの北メビス大陸には北中メビス国家三十か国があり、北メビス大陸よりも少し小ぶりな南メビス大陸に、比較的大らかな気質の南メビス国家二十か国がある。
それらの国家群は国家の面積もほぼ平均的に分けられており、国力も似たり寄ったりの有様だ。
他国への干渉を望まない中メビス連合が、大陸の真ん中で唯一の中規模連合国家群を形成しているため、比較的平和な大陸だった。
揉め事といったら、アホの「北メビス大連合国家群」の中にしかないのだ。
そして当然の事ながら、我らが「聖天大師様」が上陸したのは、そちらの北メビス地区だった。
それに特段の意味があるわけではなく、ほぼ真西に向かって走っているので、単にそこが通り道になっているだけなのだが。
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