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12-2 伝説の目撃者

 バイトン公爵親子の事が気になるので、少しアントニオの様子を見てくる事にした。

 奴は花婿控え室で泰然とした御様子だった。

 さすがに大したもんだ。

 これが小心者の貴族なら、玉が縮み上がるようなシチュエーションなのだ。

 ベルグリットの奴なら間違いなくそうなるだろう。


 タキシード風の花婿衣装がとても絵になる。

 元々色男なんだが、なんていうか華のある男だ。

 ただし、もっとも華があるのは戦場に立った時というオプション付きの『漢』なのだが。


「よお、どうだい?

 花婿さん」


「ああ、いつになく緊張しているよ」


 こいつには念話で状況を伝えてある。

 朝、バイトンを見かけてからパーティを組んであるのだ。


 一応は万が一に備えて、アントニオ用の御着替えインベントリも用意してある。

 本人が最強スキルたる魔道鎧持ちなんで何の心配もないのだが。


 もし何かがあるとしたなら、それは戦闘力防御力の関係ではなくて身分的なものに由来するだろうから、なおさら性質が悪い。


 だが、この国のトップがこちらのセコンドについている以上、俺達に負けはあるまい。

 第一、この大魔王が新郎新婦の警備係トップなんだからな。

 それに真理とアルスもいる。


 アントニオも入れてこの四人でパーティを組んだなら、全帝国軍を相手にしても、まとめて粉砕できるのではないだろうか。

 稀人世界のアイデアと魔法が結合したチート装備もあるしな。


「色々と手は打っておいた。

 安心して式に専念してくれ。

 また、このパターンだな」


「その手という奴の内容が非常に心配だな。

 だが、ありがとう。

 また世話をかけるな」

 

「なあに、なんという事もないさ。

 じゃあな」


 いざという時のためにでっかい保険もかけてある。

 保険料は今までに十分過ぎるほど払い込み済みなのだ。

 もちろん、それに関しては国王陛下の御承諾もいただいている。


 辺りを見渡すが、おかしな雰囲気は感じられない。

 レーダーの検索も常時色々やっているが、特に敵が引っかかったりはしない。

 公爵親子の赤点以外は。


 他にも保険はある。

 ジョリーに命じて精霊の森から腕利きを呼んである。

 そいつらは今も俺の周りにいて、しっかりと充電している最中だ。

 ジョリー自身も俺の傍に控えている。

 最近はジョリーの奴も、もう完全に俺のパシリと化している。


 俺はいわば王女様の養父みたいなもんだからな。

 精霊共もファルに何かあったら一大事なので、滅茶苦茶に気合いが入っている。

 何せ、精霊を守りし者の側勤めなど、そうそう機会がある事ではない。

 よしよし、魔力も大盤振る舞いになろうというものだ。


 やがて多くの王侯貴族が見守る中、厳かに式が始まった。

 心配なのが式に参加するうちの子二人なのだが、今のところ全く問題なくやれている。

 一応アルスに警戒を任せ、俺と真理によるマンツーマンでいつでも魔法のフォローをするべく見守っている。


 正面には大神官ジェシカが待つ祭壇がある。

 主神ロスの神前で愛を誓い合うのだ。

 武もここで結婚式を挙げた。

 相棒を務めた「紅蓮の風」と共に。


 何か物騒な通り名の初代王妃様だな。

 上がる血煙とか血飛沫を連想させるような名前だ。

 あれの奥さんを務めたんだから、やっぱり大概な人物だったのだろう。

 真理はなかなか昔の話はしてくれないから、よくわからないのだがな。


 元々、この宮殿自体も武の奴が建てたものらしい。

 俺も一丁挑戦してみるか、ガラスの園あたりで。

 インドの有名な宮殿とかフランスの有名な城とかを建てたら面白いかもな。


 二人は厳かにしっかりと歩いているが、そこへついに災厄が登場した。


「ほおう。

 悪行を働いて家を取り潰された屑貴族の三男と、他国で皇族暗殺を企んだ家の売女の組み合わせか。

 王国の恥再びだな」


 そいつはまた下品で大きな声を式場全体に響き渡らせた。

 辺りの空気が絶対零度に凍りつく。


 マルガリータさんの目が大きく見開かれ、瞳が少し震えている。

 しかしアントニオはきゅっと優しく手を握り、柔らかく微笑んだ。

 さすがはマイフレンド、こんな状況でも男前だぜ。


 トーヤはドレスの裾を持ちながら「こいつら分解してもいいかな?」みたいな顔で見ている。

 出来ればそうしてもらいたいくらいの心境で、思いっきり渋い顔をしている俺がいた。


 国王陛下は、「やっぱり奴らは摘まみ出しておくんだった!」みたいな顔で苦虫を噛み潰していらっしゃるし。


 さって、クソ親子様よ。

 ちょっとばかり、このおっさんとガラスの園でお話しよか。

 そう思い、俺がアクションを起こそうとした正にその時。

 それは起こった。


「ハァーーール・アールゥアー。


 フィーアルーンダスァー オースリー、


 ミィーアファールアー、オーオ・オービシィーラァーリファー、


 ラーフィアールラァー……フィーアルーンダスァー オースリー、


 ミイーアファールアー」


 ファルが歌っていた。

 まだ拙い、舌っ足らずに近い子供の声ではあるものの、これは!


 いや歌というよりも、これはなんというか祝福そのもの、その福音が体に染み込んできて思わず感極まって泣き出してしまいそうな……。

 みれば、国王陛下が感動のあまり震えている。


「こ、これはまさか……伝説に聞く、神聖エリオンの祝福。

 かつて、初代国王ヤマト・フォン・アルバトロス一世の結婚式で一度だけ披露されたという……」


 衝撃!

 武の奴、こっちではそんな名前を名乗っていたのか!


 そういや、こっちで使っている名前を聞いた事がなかったよ!

 真理もいつも、武とかアレとしか言わないしな。

 その前は御主人様と呼んでいたのだった。


 日本での本名『武』の別の読み方とこっちで使っている名前を合わせると、日本武(やまとたける)さんになってしまうな。

 こいつはファルの歌よりも衝撃だった。


 殆どの貴族がファルの前で平伏していた。

 大神官ジェシカは、敬愛するファルスの足元に泣き伏していた。


 俺はすかさずジョリーに命じた。


「おいジョリー、ここで駄目押しにいけ!

 ここに呼んだ奴等を具現化させて祝福の舞いを超ド派手に舞わせろ!」


「わ、わかりました!

 お前達、聞いたな?」


 次の瞬間、数々の超高位精霊達が具現化して乱舞する。


 七色に光り輝くドラゴン。

 美しい、ただただ美しい形容しがたい形状の幻獣。


 輝くような金色の毛並みの、狼とも猫科の猛獣とも表現しづらい美しい獣。

 羽を生やしたこの世のものとは思えない超美少女な妖精達が、くるくると会場中を飛び回る。


 巨大で逞しく、それでいて美しい巨人タイターン。

 真っ白なユニコーンやペガサス。


 その他伝説の中でしか拝む事の出来ない幻の高位精霊や幻獣達が、なんとも言えない幻想的で美しい姿で乱舞する。

 もちろん、その原動力たる魔力供給はこの俺だ。

 ブースト・ブースト・ブーストアップ!


 溢れんばかりの魔力の大盤振る舞いを受けて、膨大な数の精霊達は狂喜してヒートアップした。


「我は祝福する。

 我は福音を与える。

 文句があるならば我が前に出でよ」


 そんな言葉にならない言葉が全ての参列者を圧倒する。

 馬鹿親子以外の全ての参列者が泣きながら跪いていた。


 そこへ俺が畳み掛ける。

 ファルの耳元に囁いて、そのセリフを言うようにと。

 そしてファルが大声で宣言する。


「我が名は神聖エリオン!

 我が名において、オルストン夫妻の結婚をここに認める」


「おおおおーー」


 熱狂と歓声が式場に満ちた。


「我らは伝説の生き証人となったのだ。

 アルバトロス王国万歳!」


 ちょっとうぜーよ、お前ら。

 だからもう少しだけファルに指示して、台詞に付け加えてやった。


「おい! そこの屑親子、我が前にて無礼だぞ!

 とっとと跪づけ」


 国王陛下が跪いてるのにな。

 また少し会場の空気が凍った。


 だが不思議な事に、馬鹿親子は何故か大人しく膝を着いた。

 はははは、俺の勝ちだな。


 アントニオは苦笑を浮かべ、やれやれといった顔付きだが、目がありがとうと言っていた。


 ファルはドヤ顔で、褒めて褒めてオーラ全開だった。

 俺は思いっきり頭を撫で回して絶賛した。


「ファル! よくやった!」


 やっぱり、うちの子達は最高だぜ。

 そして二人で喜びはっちゃけるトーヤとファル。


 トーヤがファルを抱き上げて、いつものように無造作に振り回すので、貴族連中がヒヤヒヤしながらそれを見守っている。


 周りの精霊達も具現化は解かずに、生暖かい視線を載せた表情で、その愛らしい姿を見守っていた。


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