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12-1 招かれざる客

 ついにアントニオの結婚式当日と相成った。

 自分で結婚式を演出しておいてこう言うのはなんなのだが、こっちは他人事なのだから、それはもう気楽なもんである。


 王宮でやるにも関わらず、ほぼ友人枠の出席者のノリだった。

 それも俺とアントニオの関係としては別に間違っちゃあいないのだがな。


 友人というよりは相棒(バディ)の結婚式なのだ。

 アメリカ映画の刑事物の冒頭なんかにはありがちな展開だ。

 ああいう映画では結婚式の後、もしくはその最中に大概は碌な事にならないのだが。


 まあ当人達は、もう子供までこさえているので今更なのだし。


 うちの子達は凄く楽しみにしている。

 子供達は式場の中には入れないのだが、王宮の中にはうちの子達のスペースを特別に作ってもらった。

 見事なまでの主催者特権乱用である。

 普通は孤児院の子供達が王宮結婚式に乗じて王宮へ招待されたりしないよな。


 どうせ結婚式を取り仕切るのは国王陛下その人で、御式自体はジェシカちゃんが執り行なう。

 基本的にメインは半ば身内みたいな人ばっかりの面々なのだ。


 なぜかファルが張り切っているのが謎展開であるが。

 最近は魔力たっぷりなせいか、ファルも常時人化している。


 もう人化状態では奴の方が体も大きくなってしまったので、レミたんがやや不満そうだ。

 ちょっと前までは、よくヌイグルミか大きな御人形さんのように抱っこしていたりしていたからな。

「あたちの方が御姉ちゃんなの!」と言いたいらしい。


 結局、マルガリータさんのドレスの裾を持つ役はトーヤとファルに決まった。

 ちょっとケチが付きやすそうなカップルの結婚式なので、神聖エリオンのベールガールで御式に箔を付けようと思って。

 普通なら、これでもう絶対に誰も(アヤ)なんて付けられないよな。


 ファル、頼むから御仕事だけはちゃんとやってね。

 まだ生まれてそう経っていない奴なので非常に心配だ。

 そのために、しっかり者のトーヤを補佐に付けてあるのだ。


 何かあった時のフォローの方法をてんこ盛りに考えておく。

 ある意味で、あのリックの相手をするよりもキツイ。


 そして俺自身は「爆炎スタイル」で臨む。

 でかでかと背中・胸元・袖口に炎の鷹の紋章をはべらせた逸品であった。

 見た目は大変立派なのであるが、実を言うとこれは動きやすくて大変楽な格好なのだ。

 ふんだんに化学繊維も使用しているし。


 まるで自衛隊の迷彩服の、軽量な作業用と重い戦闘用のバリエーションの違いのようだ。

 もしも戦闘になったら瞬間的に革製の戦闘スタイルへと換装出来る専用の御着替えインベントリも用意してあるので。


 まあ、これを見たら絶対に後ろ暗いタイプの貴族は近寄ってこないという絶品のアイテムなのである。

 なんたって『貴族殺しの正装』なんだからな。


 だがなんと、よりにもよってアントニオの結婚式に、あの危ないバイトン公爵親子が呼んでもいないのに勝手に来ているらしい。

 誰のせいでオルストン家が無駄な苦労をしたと思うのか。


 国王陛下とアントニオに「主催者権限で放り出してもいいか」と訊いたら、「それはさすがに」と言われてしまった。


 本当に貴族王族は面倒くさいな。

 国王陛下も目を配っておくと言ってくれたし、アントニオは忍の一字の覚悟らしい。

 ただ俺は「今度は公爵殺しの称号も悪くないな……」とボソリっと呟いて、周囲の関係者の肝を寒からしめた。


 俺のマブダチにあれだけの真似をしておいて、更に追い討ちをかけるのかよ。

 お前らだけは絶対に許さねえ。

 この精霊魔王の名にかけて、公爵殺しの称号を必ず手に入れようと決意した。


 さあ、俺に喧嘩を売って来い。

 お前ら、へたをすると自分の欲望のために御隣の帝国に対してこの国を売りかねないよね。


 必要なら国防のためという名目により、全世界の精霊を集めてでも潰す。

 精霊どもにはレストラン予約の弱みがあるし、連中もうちのファルには逆らえまいよ。

 まあ褒美の魔力くらいは好きなだけくれてやろう。

 ついでにエリの御菓子もくれてやるか。


 前回あまりにも作り過ぎて、とうとう使えなかった装備の数々が泣いている。

 せっかく期間限定で殺しのライセンスを手に入れたのに、そいつも全然使えなかったしな。

 まあ雑魚は退治しまくって生涯殺人数が三桁の大台までいってしまったが。

 次の節目は日本の殺人鬼の再興殺人記録の百六十九だろうな。

 そいつに、あと五十人ちょいくらいにまで迫ってるわ。

 あー、やだやだ。  



 今日は王都全土に御祭り騒ぎが広がっているから、それに花を添えてやるのも悪かない。

 いっそオリハルコン製のバンカーバスターに括りつけて、敵地である帝国に撃ち込んだろうか。


 さりげに遠くから公爵親子にマーカーをつけてやった。

 つまり、敵認定という事だ。

 もうそれは味方には使用しなくなった代物なので。


 地球でいえば攻撃のための照準用レーダー照射とか、潜水艦がソナーで敵艦にピンを当てる行為に該当すると認識している。

 本来なら、あんな奴らに使うのは勿体ないような代物なんだけどな。


 平民の市民の間にも、若干御祭り騒ぎが広がっている。

 アドロスからも大量に屋台を出張させており、広場にはかなりの芸人を呼んである。

 芸人は俺からたっぷりと金をもらい、その上更に他の人から御捻りまで頂けるので、集まった芸人達も浮かれているので盛り上がっている。


 王都にある孤児院の子供達には、屋台で使える無料チケットをプレゼントしてある。

 これは葵ちゃんにPCで作ってもらったものを、俺がアイテムボックスで地球製の『コピー(して作成した)紙』に転写した物なので、それはこの世界の技術では絶対に偽造出来ない。


 遊び心で、日本の紙幣に使われているような特殊コードまで使用している念の入れようだ。

 あれって蛍光灯の下で見ると、紫外線に反応してシールみたいなものが光って見えるよな。

 つまり、偽物を使うと陽光の下ではモロバレな代物なのだ。


 まあ今日のところは偽物が出回る心配はないだろうが、万が一これの偽物を作ってこれるような天才がいたとしたら、そいつはもう俺直々にスカウトするしかあるまい。


 最近は強権国家だの独裁国家みたいなところは、現金の偽造ではなく暗号通貨のネット上での強奪に切り替えている。

 キャッシュレスが広がって、殆ど現金を使わない国も出てきたからな。


 日本円は相変わらず現金の使用が多いが、世界一質の良い紙を使い、職人技で精巧に作ってあるので昔から偽造は少ない。

 日本円は国際的に需要の多いドルとは違い、たくさん労力をかけても絶対割りに合わないローカル通貨なのだ。


 最近は外国で円からドルへ現金を交換するのも、ところによっては難しいらしい。

 失われた三十年や円安のせいで日本人も海外へ行かなくなったから日本円の需要も無いしね。

 今はドル・ユーロ・元の時代だ。

 かつての基軸通貨ポンドさえも忘れられているんじゃないか?


 円は基軸通貨でもないし、外国では在日朝鮮人からの送金を受けていた北朝鮮くらいしか使われていなかった。

 その僅かな需要すらも北朝鮮への厳しい送金規制で廃れてしまっただろう。


 あの国で使っていた万札なんて諭吉の前くらいのデザインじゃないかな。

 それの透かしに誰が入っていたかすら日本人だってよく覚えていないわ。

 聖徳太子だったっけかなあ。


 あの国も昔は、ドルは自分達が刷った偽札が多いからといって日本円の現金が一番信用されていたから、外貨ショップでは日本円で日本のビールが買えたくらいだ。


 もう殆どの在日朝鮮人が代替わりして疎遠になったので、今更在日朝鮮人で日本円の現物を送金する人もいないだろうし。

 かつては日本人の印刷技術者を拉致し田舎通貨日本円の万札偽造にも手を染めていたらしい彼らでさえも、最近は円なんかには見向きもせず暗号通貨強奪一辺倒なのだ。


 忘れられし日本、そして忘れられし日本円。

 だが、ここでは日本の技術で作られた屋台のチケットが、孤児達の御楽しみを担保してくれている。



 まあせっかくの祭りだから、俺も「楽しむ」とするか。

 俺は警備カメラの映像を次々切り替えて見張り、検索条件を色々と入れ替えて、おかしな連中が入り込んでいないか確認した。


 いた!

 そいつは例の公爵親子だったわ。

 俺のレーダー画面で真っ赤に映っていやがる。

 はい、ギルティ。


 アルスやエド達にも、その事を伝えて警戒をさせる。

 子供の引率をしている警備部隊にも、子供達の安全を確保するよう通達した。


 いざとなったら、王宮から外へ出して転移魔法でケモミミ園に退避させよう。

 だが、それだとせっかくのイベントを楽しみにしていた子供達が可哀想だ。


 そんな事にでもなった暁には、俺は公爵親子とガラスの園で素敵な笑顔を浮かべながら語り合うとするか。

 主に肉体言語でな。



 アーモンのところへ転移したら、相変わらず書類の山と格闘していた。

 ドラゴンの相手でもしていた方が、たぶん彼も気が楽なのだろうな。


「こんな日にも仕事か、御苦労様。

 ところで、バイトン公爵親子ってどんな奴らか知ってる?

 どんな悪辣な手を使う連中なのかな」


「お? 話が全く見えんのだが。

 すまんがコーヒーを一杯くれ」


 朝からお疲れモードだな……。


「アントニオの結婚式に呼ばれてもいないのに奴らが現れた。

 真っ赤に敵愾心を燃やして。

 これは想定外なんで、まだ対策が取れていないのさ」


「そうかー……。

 連中はたいした事は出来んと思うが、まあ一番厄介なのは公爵の身分だっていう事かな。

 あいつの家来連中も辟易しているよ。

 もしかしたら家来達も、主がお前に御灸を据えられるのを楽しみにしているのかもな。

 子飼いの奴では、妙な男が一人いると聞いている。

 まあ例えるならリックみたいな奴だな」


「あはははは。

 楽しい連中だね。

 わかった、ありがとう。

 御仕事の続きを頑張って~」


 ささっと王宮へ戻り、公爵の子飼いを検索してみたが、それらしき人物は見当たらない。

 むう。

 こいつはなんだか嫌な予感がするな。

 今までも、この手の話は良い結果にならない事が多かった。


 時間もかなり押してきたので、次々と客が入場してくる。

 今、凄い数の馬車が王宮へ詰め掛けていることだろう。


 皆煌びやかなドレスで着飾っているが、花嫁に遠慮して純白の装いはない。

 それをやってしまったら後々までの笑い種となる。


 出席する貴族達は俺を見ても誰も話しかけてこない。

 まあ無理もない。

 この式の招待客クラスで、あからさまに俺を避けるような奴は特にいないが。

 俺も今は、ちょろっと殺気が漏れていたかもしれないけど。


 ファルとトーヤのところへ見にいったが、いつも通りの様子だ。

 トーヤはいろいろな物を見て分解魂が燃え盛っているらしいし。

 隠し持っていた分解工具は朝のうちに取り上げておいた。


 ファルは会場に漂うスイーツの香りに、もうそわそわして落ち着きがない。

 せっかくの晴れ着がクリームだらけになってしまうとヤバイので、おやつは御預けになっている。

 俺が見ていれば浄化をかけるのだが、こいつらに油断は禁物なのだ。


 食い物も、こいつらの分はしっかり確保してあるのだが、この分だと辛抱出来そうにない。

 仕方が無い。

 一個だけ食わせるか。


 あまりにもそわそわして、ファルが途中でレインボーファルスの姿になられても困る。

 二人にパフェを出してやると夢中でがっついていた。


 今頃おチビ猫は、王宮料理人謹製の特製カップケーキに齧り付いている事だろう。


 それにしても、ファルのこんな姿を見ていると神聖エリオンどころか真性エリ-ン二世にしか見えない。

 なんとエリーンの名前は、このエリオンから取られているのだそうだ。

 エリオンそのものでは恐れ多いという事で少しだけ変えてあるのだ。

 

 だが、神の御使いの方が信者に似ているという残念な結果になってしまっている。

 しかも残念なところだけが。

 ファルもケモミミ園で、いつもあのエリーンの痴態を見せられているしな。

 まあ現実には神はいないらしいからいいか。


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[一言] 所々(今回だけじゃなく)紙が神に成っている。
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