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138-7 必殺の毛蟹

「よーし。

 じゃあ、あの魔物を捕獲するか。

 一網打尽にしてみせるぜ」


 そして俺はある物を海へ大量に放り込んだ。

 こんな事もあろうかと思い、作っておいた秘密兵器だ。

 どうせまた蟹共は、変な魔物を応援に連れてくるだろうと思っていたからな。


 それはカプセルの玩具のような感じに丸まっていたのだが、海中に落ちるとピュルっというような動きで広がった。


 何と表現したらいいのだろうか。

 円盤状のコアに、細かい触手がぐるりと生えているようなもの。

 強いて例えるならば、ある種のウミウシが好む餌となる銀貨クラゲっぽいような感じか?

 形はあれと少し違うような気もするのだが。


 それは自力で泳ぎ、その魔物、大きさが五十センチくらいの岩の落とし子とやらに近づくと、スパッと触手を長く伸ばして絡めとった。

 何というか、ワイヤーが飛び出すトラップで相手を一瞬で拘束するような感じだろうか。

 まるで発条仕掛けで相手に絡まったという感じに。


 次々と捕獲されて海底へ沈んでいく岩の落とし子。

 そしてその魔物達は皆、後方へと下がっていった。

 連中の大将から撤退指示が出たようだ。


「やるな、クラブプリンセス」


 あっさりと敗北を認め、全滅は避けたのか。

 実に冷静な判断だ。

 もっとも毛蟹どもは目玉を真っ赤にして、思いっきりぐるぐるさせていたのだが。


 それから勢子のお魚ゴーレム達を放った。

 そして追い立てようとしたのだが、何故か毛蟹は動かない。


 そして奴ら毛蟹から放たれたものは!

 何かの【拳法】のようなものだった。


 なんというか、蟹鋏で勢子のゴーレムを叩き落とし、海底へ向けて叩き伏せている。

 しかも蟹は足が多いので、それらも巧みに使いこなしている。

 相変わらず非常識な真似をする蟹どもだな。


 なんという事だ。

 俺のゴーレム達が、ここまでやられっぱなしとは。


「凄いや! 毛蟹千手観音拳法だ」


 どうやら、彼らの技は千手観音マニアの御狐王子の心の琴線に触れたようだ。

 もし千手観音拳法使いの千手観音とかがいたら、ちょっと微妙なヒーローだろうな。


「やっぱり地上のどこかで弟子入りして、覚えてきたのかねえ」


 黒帯の毛蟹とか有りなのだろうか。

 構えも完全に横向きでビジュアル的には微妙だよな。

 世の中にはそれっぽい武道の構えもあるのだが、完全に横向きというのはさすがに違和感がある。


 そして子供達は千手観音拳法ごっこを始めている。

 この前に作っていたオニダムの中に、プロトタイプの千手観音が何体か混ざっていたようで、そいつらも参加している。


「おーい、お前ら。

 海へは落ちないようにな」


 そして千手観音達は船から飛び降りて、海の上を走っていってしまった。

 一体どこへ行く気なんだよ。


「あー、また走って行っちゃった」


 御友達が行ってしまったので、手を振って見送る御狐王子達。

 しかし今度は、こっちの手勢が追い払われてしまったので、毛蟹漁は膠着状態に陥った。


 そして、たくさん集った毛蟹が、今度はなんと蟹王丸を揺すっている。

 ふっ、蟹共め。

 なんだかんだ言って、かなり楽しそうだな。

 まるで新しい玩具を貰った子供のようだ。


 それには子供達も大喜びだ。

 仕方がないので、子供が海に落ちないように、いつものように魔法の仕掛けをしておく。


 何しろ、この蟹王丸の全長の三分の一にも達する大きさの巨大な毛蟹なのだ。

 大量に集まられると結構な脅威なのだった。


 またもや怪獣映画的な展開になってしまった。

 日本の怪獣は船を揺すって遊んだりはせんけどね。


「一旦退却」


 シドの号令に従い、ドワーフ謹製の高速魔導船は魔法のウォータージェットで後退していき、毛蟹どもも無理に追撃してこない。


「余裕だな、あいつら」

「調子に乗って無理をするとよくないとか思っているのでしょう」


「女って、そういうところが妙に冷静で困るよなあ」


 まあ、のんびりとやるか。

 奴らもやる気満々なのだし。


 倒してしまうだけなら簡単なのだが、蟹は手や足が一本取れただけでもその値打ちが大幅に下がるのだ!

 まあ連中を生かしておけば、手足なんかは後で生えてくるんだけどね。


「では、本日はここまでとして。

 おい」


「へい。準備はできておりやす」


 ここまでくる間に漁をしていたので、食材はたんまりとある。

 そして親方が何か作ってくれている。


「それはドワーフ蟹鍋じゃあないよな?」

「ああ、食材に蟹も入っておったが、あんなチンケな蟹ではな」


 なんというか、魚のすり身団子っぽい感じなのだが、何か混ぜているしね。


 レミは親方の傍にくっついて離れない。

 親方の凄いパワーで食材が練りまくられ、まるでチョコレートを滑らかにしていく工程のようだ。


「おいおい、そんな乱暴にしたら魚の身が完全に潰れるというか、細胞すらなくなるんじゃないのかい」


「いや、アルよ。

 これでよいのだ」


「ふうん」


 この前のドワーフ鍋もありえないような作り方をしていたが実に美味かった。

 この精霊族の王のやる事を人間の常識に当て嵌めてはならないのだ。

 俺はもちろん手伝わずに、酒をチビチビやりながら見物だ。

 同じくシドも楽しそうだ。


 この荒海の中、ものともせずに集中して作業する親方。

 もう漁師さん達からは漁師仲間に認定されているのかもしれない。


 見かけは厳ついが、中身は珠玉の宝石のような魂。

 ドワーフの鍛冶魂は、ハイドの船乗りと相通じる物があるのかもしれない。


 見かけは貴公子でも、この空気にどっしりと馴染んでいるような国王もいるのだしな。

 もちろん俺は『郷に入れば郷に従え』がモットーだ。


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