11-6 神聖エリオン
ちょっと大神官ジェシカのところへも話を聞きにいってみた。
「よ~、ジェシカ。
ちょっと聞きたいことあるんだけど、こいつについて何か知らないかい?
レインボーファルスっていう種族なんだけど」
「え? まさか?
鑑定!
おお、ほ、本物だわ~」
精霊共も狂ったように騒いでいる。
そんな中でも、どさくさに紛れて俺の魔力を吸いにチュウチュウしてくるような強者もいたのだが。
何か知っているのか?
最初にここへ聞きにくればよかった。
よく考えてみたら、ここでいっぱい精霊を飼っているんだし。
「神聖エリオン」
「え?」
「ファルスと精霊達が呼ぶものを、私達人間はそう呼びます。
神の御使いのような存在なのです。
精霊の力が枯渇すれば、日照り・飢饉・洪水などが起き、そして人間の世界も戦が絶えなくなります。
その精霊を守りし者ファルス。
精霊達にとり最も神聖な場所である精霊の森、その地上に在る神の社ともいえる場所における主神ロスの御使いたる、一種の祭神とでもいうべき存在。
しかも、その中でも特別な存在である伝説のレインボーファルスを生きて拝めるだなんて。
ああ、ありがたや、ありがたや」
とうとうジェシカは跪いてファルを拝みだした。
あれえ。
この世界、実在する神様はいないんじゃなかったの?
祭神というのは確か社に祀られた神様の事だと思ったが、ファルスは神の代行者として祭神も代行する訳か。
「キュウイーー」
だが俺の足元でズボンの裾を引っ張って、そのような騒ぎには馬耳東風といった感じでファルがおやつの催促をしていた。
これが本当に、そんな御大層な存在なのかあ⁇
一応王宮へも顔を出して、王様には一報を入れておく。
頭の上の謎生物を指差しながら。
「というわけで、うちでこの子を預かっております」
「また、それは……御神籤に続いて豪いものを」
「あ、そういや例の御神籤はどうなりました?」
「問題が有り過ぎて、そのまま宝物庫に封印してある。
それでもちゃんと効果は及ぶようだしの」
あはははは。
笑い事じゃないが、知ーらない。
エミリオ殿下にもファルを見せに行く。
殿下も可愛らしい生き物の訪問に、無茶苦茶に大はしゃぎだった。
いやほっこりするな。
可愛らしいもの同士の素晴らしい映像をバッチリと収めたぜ。
ちょっとのつもりで来たのに、ついつい三時間も一緒に遊んでしまった。
王女様達も『可愛いもの』の話を聞きつけてやってきた。
彼ら王族の侍女さん達の間には、その種の情報交換をするためのネットワークが存在するらしい。
俺も久しぶりにルーバ爺さんと色々な話をした。
王太子殿下?
正式に国から王太子と認められた彼は、さっそく山のような仕事に埋もれている最中だ。
さすがに御邪魔はしにくかった。
それから、もう一回アーモンのところへ顔を出した。
「それが神聖エリオンなのだと?
神聖エリオンがレインボーファルスなるものだというのか!」
「神聖エリオンを知っているのか?」
「知らんのはお前くらいのものだ。
俺も伝説の中でしか聞いた事がないがな」
そしてレッグさんがファイルをトントンしながら言った。
「伝説というか、単なる史実ですよね。
古い話ですが王国の記録にも書かれていますよ。
それに主神を崇めるロス教においては神聖不可侵の存在です。
だから、そのように呼ばれるのですから」
なるほど。
人の歴史の中に最初に登場した、あるいは大きく関わって救世的な行いをしたファルスの名前がエリオンだったとかいう話なのかもしれないな。
それからケモミミ園へ戻ってジョリーに聞いてみた。
「こいつの母親は今どうしている?」
「ちゃんと御存命です。
生きていてくださればよいのです。
今は二代に渡って御健在ですので、それなりにファルスの力の強き時代です。
しかもレインボーファルスが親子揃って。
殊に精霊達も力が漲っており、様々に大地とかへも加護を与えられるような状態でして」
まあ世界中の精霊達が、あれだけ大量に俺の持つ天文学的な数字の魔力を食い散らかせばな。
せめて食った分くらいは、しっかりと世界のために働いてくれや。
よかったな、ファル。
お前の母ちゃん、元気だそうだ。
よっし!
今日は気分がいいから、あれを出そう。
と言う訳で、ガラガラガラガラと大きな音を立ててチビ達が走っていた。
何個か出したハムスター運動用の回転車のでっかい奴の中で。
おチビ猫娘のレミとファルが競争で回していた。
後でゲロを吐いていなきゃいいんだが。
まるでスポーツジムみたいな感じだな。
いっそ、王太子殿下にも大人用の大きめの奴を’差し上げるか?
トーヤがそれを分解したがって、番待ちしている子達に怒られていた。
ウォーキングマシンなんかもいいよな。
どっちかっていうと、あれは王太子殿下に必要な感じがするのだが。
今度作ってみるか。
ジムで使うようなトレーニング機器一式を。
俺にも一時期はジムへ通って頑張っていた時代もあったのだ。
自転車も毎日数十キロ走っていた事もあったし。
そしてアントニオ達の結婚式の準備も着々と進んでいた。
今日は帰ってから、運動会の準備と、そして学芸会の劇の脚本を書いていた。
ファルもだいぶ大きくなってきた。
俺から魔力を吸い放題なので、ぐんぐんと育つ。
雛っぽい感じは抜けて、なんかこう「産毛が生え変わりました」みたいな印象がある。
羽毛でも鱗でもない、もふもふでもない。
撫でると、これがまたなんともいえない手触りで気持ちがいい。
これは一体なんなんだろうな。
もはやファルスだからで済ます以外の何者でもない。
雲を愛でているかのような。
マシュマロともちょっと違う感じか。
多分、それはファルスが発している何らかのエネルギーによって、ありがたく? もたらされている物なのかもしれない。
顔は少々げっ歯類っぽい?
少し丸っこい、イタチっぽい感じで尻尾はふさふさだ。
普通の毛とは感触が全く違うのだが。
体は毛が生えてはいないのだが、ぬめっとした感じもない。
むしろスッキリ感があって好ましい感じか。
顔とかにすりすりされると、なんとも言えないような気持ちよさがある。
まあなんだったらペット枠でもいいかな。
一応俺も精霊魔王なんだそうだし、神聖エリオンをペットにしていてもいいっしょ。




