136-8 不毛な決勝戦
なんやかやあったのだが、ついにオニダム大会も決勝を残すのみとなった。
ファルは途中で御眠になったので棄権した。
あの子も優勝候補の一人だったのだが。
場外で巻き添えを食った観客も含め、辺りは死屍累々の有様だった。
退場者や避難者で溢れ、見学している参加者は最早数えるのみの惨状だ。
警護の騎士団員の方が遥かに人数が多いな。
まあ、みんな痣だらけになっただけだけど。
所詮は豆を食らっただけなんだし。
回復魔法の処置を受けて、別会場で御茶でもしているのだろう。
話題はもっぱら、こんな無茶な催しを開催したあの王妃様についてなのに決まっている。
このままだと来年の開催はなさそうだ。
俺が主催していたら、こんな危険な行事にはしておかなかったのだがな。
まあ俺のせいじゃないしと、軽く責任回避だけしておく。
決勝は当然の事ながら、王妃様と親方の対戦だ。
このオニダムの、性能がほぼ操縦者の能力で決まる仕様は止めた方がいいと思うのだが。
大体、こういうタイプの人しか勝ち残れないではないか。
あまりにも趣が無さすぎるぜ。
ふ、所詮は素人仕事だな。
親方のオニダムはシンプルな鍛冶職人スタイルだ。
厚地の布の服で身を固め、ごつい革のエプロンをし、同じく厚手の革手袋をしている。
ハンマーを持てば今すぐにでも鍛冶が行えそうな風体だ。
これがドワーフ装備の基本という事だろうか。
「ふふ。
やるわね、親方」
「お前さんもな、ロッテよ」
この王宮行事のホスト国の王妃たる者と、その招待客である他国の国王が、御互いにそんな呼び方でいいのだろうか。
そもそも、この催しの主催者が王妃様だよな。
まあ誰もそんな細かい事は気にしていないのだが。
それに誰かが何か言ったところで、毛一筋ほどもビクともしないような人達だし。
「それではトーナメントの決勝を行います。
ファイっ!」
若い貴族が務める司会の掛け声と同時に、ゆっくりと動き出す両者。
互いに大きく間合いを取り、王宮舞踏会場の周りを回っている。
そして唐突に駆け出した。
まず親方が仕掛ける。
親方のオニダムが飛び出していった一完歩一完歩が凄まじく大きくて、とてもその図体から繰り出されるとは思えぬ素早い動きだ。
そしてパンチ。
豆を握ったパンチだ。
ルール的にはこれも有りなのだ。
その戦い方はこのオニダムという競技においては、距離的な意味において圧倒的なまでに不利なのだが、そのような些事は親方には特に関係ないらしい。
ここまで全てのオニダムをその剛腕の餌食にしてきたのだ。
だがヒラリっと躱しざまに豆を飛ばしてくるオニダム・ロッテ。
これも体を捻って躱したオニダム親方。
どちらも操縦者の身体能力によって、驚異的な挙動を見せていた。
「おのれっ、ちょこまかと」
「ほっほっほ。
親方、図体に物を言わせたパワーだけでは、このオニダムという競技では勝てません事よ」
そして突進する親方、それを躱しざまに豆を飛ばしてくる王妃、それをまた親方が避けてと。
このままだとキリがないな。
俺もカクテルを貰って飲みながら欠伸をしている。
カクテルを配るボーイさんも、とうとう金属鎧を着込んでいた。
そこへ流れ豆が飛んできて、まるで拳銃弾が当たったかのような激しい音を奏で、慌てて退場していくボーイ。
いやそれを着ていたら大丈夫だと思うけど。
これがライフル弾とかだったら貫通しちゃうけどさ。
たとえライフルに詰めたって、金属鎧を着ていたら豆じゃ死なないと思う。
あの王妃の指弾は油断するとライフル並みの威力があるような気がしないでもないのだが。
「ボーイさん、カクテルの御替りをよろしくね。
さっきと同じのでいいよ~」
俺はしっかりとオーダーだけ出しておいた。
そうしないとカクテルの御代わりが届きそうにないほど危険な状況だった。
カクテルを変更するような余力もない。
本当は、こちらはちょっと心配だったので覗きに来ただけなのだが。
これだとケモミミ園の行事の方を見ていられないではないか。
俺は行事をやっている最中である幼稚園の園長先生なのだぞ。
まあ、あっちは普通にやっているはずなので別にいいんだがな。
節分なんて御馴染みの葵ちゃん達もいるのだし。
もうこっちは放っておくかな。
キリがねえや。
どっちが勝っても俺には関係ないし、もう大概の人は会場から避難しているのだ。
俺はもう一杯届いたカクテルをグイっと一息に頂いてから、王宮の大舞踏会場から御暇させていただいた。
そして帰った時、非常に驚いた。
桃太郎だ。
桃太郎がいる。
正確には桃太郎に扮したレミが、俺が買ってやった赤の鍔と黄色の刀身も目に鮮やかなプラスチック製の玩具の刀を振り回し、メルに跨って元気にのし歩いていた。
急遽裁縫グループが作ってくれたらしき桃太郎ファッションに身を固め、桃太郎ズラを被って、日本一と書かれた幟を背負っている。
あれは山本さんの字だな。
キメルとフェメラにも、猿・犬・雉の仮面をつけた園児が乗っている。
ケモミミがついていないから、あれはショー達地球勢の子達か。
そういや、ショーがうちの子の騎士を希望していたような。
確かに連中には本物の銃さえ扱える腕前はあるのだがな。
サーシャなどは、あの若さで下手なシークレットサービスよりもいい腕をしている。
その後を他のケモチビ達が豆を持ってのし歩いている。
壁には鬼さんの絵を描いた切り抜きが多数飾られており、プリーツハンガーというのか、飾りを取り付けられる網状の商品が取り付けられている。
そいつは俺が日本へ買い出しに行ってきたものだ。
最近は不精して出来合いを買ってきてしまう事が多い。
だって今はもう日本へ買いに行けるんだし、出来が綺麗なんだよな。
プロが設計して金型を使って均一な品質で打っているから当たり前なんだけど。
以前は自分で作るしかなかったもんだが。
しかし。
節分……そして鬼……でもって桃太郎か。
確かに『鬼退治』という事で、節分のテーマに合っていない事もないのだが。
今回はバリ島のガルーダといい、節分と微妙な組み合わせが多いな。
ケモミミ園はまるで学芸会のような有様だ。
みんな黍団子の袋を持っているし。
そして向かう先は鬼の面を着けたゴン太達だ。
うちの桃太郎子ちゃんを中心にして、ケモミミ園児達は楽しい豆撒きを楽しんだのだった。
おっさんも童心に帰らせてもらって、おチビと一緒にドラゴン達と楽しく遊んだわ。
ちなみに、王宮では決勝戦を延長十回戦した挙句、決着はつかずに勝負は来年に持ち越したそうだ。
あの二人、本当によくやるよ。
早めに切り上げてきて大正解だったぜ。
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