11-4 イベント目白押し
意外な事に、ファルの奴がスイーツを貪り食っていた。
御飯は食べなくても、おやつは食うんだ。
今までも特にケモミミ園のおやつには反応していなかったんだがな。
しかも、もりもりと夢中で食っている。
今までは魔力の収集に専念していて、卵の中にあった栄養で賄っていたのだろうか。
レインボーファルスの謎がまた一つ。
口の周りをクリームだらけにして鼻の穴までクリームを詰めてしまっていて、フンっと鼻息で吹き飛ばしていた。
そんなにありがたいような、御大層な生物には見えない。
軽くもふもふしてやると、なんというかもう物凄く手触りがいい。
本人は撫でられていようが一顧だにせず、一心不乱にスイーツに顔を突っ込んでいる。
そしてエリにはある物を特注していた。
それは地球では御馴染みのものだ。
その規模、そして用途を考え緊張はしていたものの、エリは武者震いをして目には闘志を漲らせていた。
うん、これなら大丈夫だろう。
ちょくちょくとエリのところへ顔出ししては、ネットで調べ上げた細かい資料を渡していく。
そして国王陛下から報告があった。
アントニオの結婚式関連の事は概ね根回しが済んだという。
王国の恥とさえ呼ばれたあの事件に関しては、バイトン公爵に加担しなかった多くの上級貴族達も非常に後ろめたさを感じており、これですっきりさせられるならこの国にとってもよい事だと言う訳で、結構皆さん協力的であるものらしい。
悪事に関わっていたような下級貴族共は、結婚式の主催者が俺なので、ただ震え上がっているだけらしい。
どれだけ悪さをしていやがるんだ。
もっかい掃除しとくか?
ん?
そろそろ頃合かな。
あの人の御腹が大きくなる前に決めちまうか。
そして急ぎ王宮へと戻り、式は一か月後という事で陛下とは話をつけた。
そういう訳なので、俺は再度オルストン家へ突撃した。
「おまえは、またいきなりだな」とか言いながら、御茶の用意をさせようとするアントニオに向かって宣言した。
「お前らの結婚式の日取り、一か月後に決まったからな」
「アル、何を言っている?
結婚式って一体何の話だ!」
「さっき国王陛下から通達があった。
お前らの結婚式の件を貴族共に通達し終えたと」
「なんだとおっ!」
「みんな、王国の恥はきっちりと終らせたいんだよ。
これは新しく伯爵家を立ち上げたお前の義務だ。
今はこの国よりも軍事力に勝る帝国ともゴタゴタしている。
俺と違って国王の正式な家臣であるお前には期待がかかっているのさ。
武門の誉れである『王国の剣』オルストン家、その中でもソロドラゴンスレーヤーであり、またSランク冒険者でもあるお前の力にな。
一種の象徴みたいなものだよ。
だから余計にきっちりと片を付けたいと、貴族連中もみんなが考えている。
お前もアルバトロス王国貴族家の当主として、上級貴族の団体さんに恥はかかせないよな?」
「そ、それはそうなのだが……彼女は」
「わかっている。
だから国王自らの根回しを頼んだんじゃないか。
特に問題はないそうだ。
それでまだ文句があるなら、この貴族殺しが自ら御相手しよう」
俺はニヤリとして、こう言ってやった。
「それにオルストン伯爵家由来の素敵な物品に関しても、王妃様や王女殿下達、それに知り合いの侍女さんなんかにも色々と情報をバラまいてある。
マルガリータさんが身重なのも伝わっているから、あんまりガタガタされないとは思うが、結婚祝いの御返しは期待しているだろう。
そっちの方は、全部うちでサポするから心配すんな。
もし人手が要るなら、王都やアドロスの冒険者ギルドや商業ギルドに応援も頼める。
アントニオ、男の甲斐性を見せてみろよ。
稀人の世界の人達も、インターネットを通じてサポートしてくれているんだぜ」
「そ、そうか。
ここは素直に、ありがたいと言っておかねばいかんのだろうな……」
「さすがはアントニオ、相変わらず話が早い。
じゃあ一か月後という事になっているから宜しくな」
そして俺は転移魔法で王都へと戻り、街の針子の裁縫チームをかき集めてオルストンへ送り込む。
みんな目を白黒していたが構っていられない。
これが日本の会社なら『一分44円』とかで工数計算をされちまうのだ。
結婚式のドレスの仕入先だからって赦される訳ではない。
今回は王国重鎮が集まっての王宮結婚式なのだから、失敗は絶対に許されない。
ウエディングドレスは、近年にて地球で実際に使われた事がある王族仕様の物だ。
服飾生地やミシンも持ち込んだ。
マルガリータさんをいろんな角度から取ったカメラ映像をソフトで解析して、サイズは予め測って基本の部分は用意してある。
御目出度なんで、余計に手直しが必要だ。
それで、うちの服飾チームのチビ共も社会見学で送り込む。
そっちの引率は真理と葵ちゃんで。
絶対にトーヤだけは連れていってはいけない。
まあ、さすがにウエディングドレスは分解しないと思うのだが。
奴にはレミとファルを預けていく。
葵ちゃんはいないからレミの馬が必要ならアルス号を使ってくれ。
葵ちゃんにはオルストン家の使用人に対してもラッピング講座をやってもらう。
ついでにチビどもにも一緒に習わせるのだ。
案外とうちの子の方が上手にやっていた。
みんなケモミミ園で色々な事をやらせているし、俺のやる奇天烈な事に慣れているからな。
引き出物候補としてクリスタルグラスやサテン生地、そしてドラゴン素材の革製品に高級ウイスキー、その他に高級チョコレートなどを用意する。
暑さに弱いチョコも、この季節なら大丈夫だろう。
なんだったら、持ち帰り用に保冷の魔道具でも作ってみるか。
それらは自力で魔力を充填してくれれば再利用も可能だ。
あとは俺が作った地球デザインの宝飾品なんかだ。
それらを使うかどうかはアントニオに任せた。
特に飲食物は参列した人に渡すとマズイ場合もある。
後で何かあって、毒を盛ったなんて言われちゃ敵わんのだし。
なんたって王国の恥と帝国の恥という絶妙な組み合わせなんだから、元々イチャモンは付きやすい。
俺も必要な物品を出したり加工したり、園に戻ってファルにおっぱいならぬ魔力をやったりして、ついでにチビどもの頭をもふもふして自分も充電しておいた。
結婚式の準備と運動会の準備が平行して進められる事となったので、どちらも主体となる指導者の葵ちゃんは大忙しだ。
実はどちらにも精通している人材が葵ちゃんしかいないという御粗末さ。
おっさんは転移魔法による輸送機関及び工作機械と化していた。
これからしばらくの間は園の行事がかなり続く。
運動会の後は「学芸会」だ。
これも準備が大変なのだ。
体を使ってやる運動会と違って、大道具小道具の準備やあれこれと御稽古などがあるからな。
そして、その次はクリスマス会で、そして年明けにはなんと「ケモミミ小学校設立」という一大イベントが!
今までも学校関連の設立はあったけれど、料理学校や職業訓練校などだ。
それらは、どんがらの建物を用意して、後は金を渡して商業ギルドに丸投げでOKだったので。
小学校はエスカレーター式でうちの子が上がるので、授業のカリキュラムも本格的な物にせざるを得ない。
小学校からは担任教師もつけないといけないのだ。
まあ最初は生徒の人数が少ないから、なんとかなるだろう。
学校がスタートする来年は、まだ一学年一クラスだけだしな。




