135-5 雪遊び(一部仕事の方)
一通りソリ遊びに興じてから、おチビと一緒にリフトの様子を見に行った。
シルは初スキーに挑戦しているのだ。
今頃は雪面に尻もち穴を量産している頃なのではないだろうか。
活発な性格をした彼女も、初めて履くスキー靴に苦戦していたようだ。
俺はスキーをしないので、足回りは底がスパイク付きになっている只のブーツだ。
本日の沖田ちゃんと斎藤ちゃんのロールプレーはリフトの係員のようだった。
あの連中は本当にそういう事が好きだよな。
子供達の笑顔をカメラで切り取っているのは、スノーマン(雪だるま)の精霊カメラマンだ。
雪だるまがカメラを抱えて、雪の上をすーっと滑るように走り回る姿は若干シュールだな。
あいつは雪の精霊らしい。
「パパ、あれにのりたい~」
抱っこした娘にそう言われたので、一緒にスキーリフトに乗ってみる事にした。
日本にある本物のリフトでは、こんな事はやっていけないのだろうが、おチビは膝の上に抱えたままだ。
ここは下に落ちても大丈夫なようには作ってあるんだけどね。
おチビが楽しそうに足をパタパタさせながら、ミミ付き毛糸帽子のミミカバー部分ごと可愛いおミミを揺らしていた。
こんな可愛い娘がいて俺は本当に超幸せ者だぜ。
初心者コースのリフトに乗りゲレンデに到着すると、体中を雪だらけにしたシルがいた。
スキーウエア姿は非常に様になっている。
美少女なので何を着ても似合うのだが、生憎な事に肝心のスキーの方は様になっていないようだった。
「ふう、スキーって難しいなあ」
「まあ、こういう事はセンスだからな。
でも君の御先祖である船橋の兄妹は割とスキーが得意だったみたいだぜ」
「うーん、それは悔しいな。
もっと頑張るわ。
あそこにもスキーが凄く得意そうな人が一人いるけれど」
シルが指を差したところには華麗な滑りを見せるエリーンがいた。
とてもスキー初心者とは思えない鮮やかなシュプールを描いている。
どうやら上のコースから降りてきたようだ。
「あれは参考外だな。
何せ、三つの頃から狩人として野山を駆け回っていたのだから。
俺達とは色々と年季が違うのさ」
おチビが手を振ると、エリーンがストックを持った手を振り返しながらこっちへ滑ってきた。
「いやあ、スキーは楽しいですねえ。
雪山の狩りには威力を発揮しそうです」
「そう来ましたか」
女性スキーヤーだかスノーボーダーだかを追いかけてきた熊が、下り坂でぶっちぎられている動画があったな。
本物かフェイクか知らないが、いかにも本当にありそうな話だ。
「転んだら食われる!」とかコメントがあったが、こいつの場合は転んだら、それはきっと熊をおびき寄せるための演技。
エリーンが転んだら、狩られて食われるのは熊の方だ。
捕食者である彼女の気配を見つけたら、おそらく臆病な熊の方が本能的に逃げるので実際にはないシーンなのだろうが。
「上ではエドとロイスも滑ってましたよ。
警備責任者として腕を磨いておかないとって」
「チーム・エド、相変わらず気合が半端ねえなあ」
チームで一人だけ仲間外れのデニスが見たら悔しがるかな。
アルスもそのうちに呼んでやるか。
あいつら二人とも、こういうアクティブな遊びが大好きだからな。
南国アル・グランドに天然のスキー場なんて作りようがないし。
あの国も魔法は半端じゃないので、魔法で作ってしまうかもしれないが、今は忙しいから無理だろう。
そのうち、温度調整をした人工スキー場を作ってやるとするか。
魔法じゃなくて、ちゃんとスノーマシンで作る奴を。
トーヤ達がそいつに夢中になる事請け合いだ。
「それじゃあ、もう一回上にいってきまあす」
そして、リフトなんぞ使わずに自力でずんずんと登っていくエリーンの姿を見送った。
雪山登山も楽しいらしい。
俺はごめんだなあ。
スキー靴を履いて歩くのがまず苦手なのだ。
「あなた、足元も普通の靴じゃないですか」
シルに笑われてしまったが、すかさず言い返す。
「最初っから滑る気なんかねえんだもん。
そもそも、そのせいでスキーとかは封印していたんだからな。
へへん。
いざとなったら、これでスノボくらい、いくらでもやってみせるわい」
「やろう、パパ」
あ、娘ちゃんからリクエストが入っちゃった。
しょうがない、やるか。
「わかった。じゃあ、いくか」
「あはは。
いってらっしゃい」
また全身雪だらけになる気満々で初心者コースへ挑戦する奥さんに見送られて、俺は娘を肩車してスキー初心者コースからスノボコースへと足で駆けた。
いや魔法で飛んでもいいのだが、こっちの方が絶対に楽しい。
娘ちゃんも肩の上で大喜びしている事だし。
スキー場ゴーレムには、足跡を埋めておくように指示しておいた。
まるで魔法物の映画のように、俺がパワー任せで抉った雪が直後に平らになっていく。
そんな不可思議でファンタジーな光景も、ここではただの日常シーンに過ぎないのだが。
スノボコースまで走っていき、スノボを取り出した。
ちゃんと爆炎のエンブレムの入った俺専用の特注した奴だ。
物自体は日本で売られている市販品の奴だが、俺のパワーに耐えられるように強化済みの代物なのだ。
「さあて、行くぞー」
俺は両手で娘を抱え、豪快にスタートした。
しかし足元は普通のスパイク付きの靴という格好だ。
もっとも、それも少しは雪山を歩くのに相応しいだろう。
靴でいえばトレッキングシューズのようなものだ。
パワーに任せて、足の裏で強引にボードを雪面に押し付けるようにして態勢を保っているのだが、それだとボードが前へ進まないので重力魔法で反重力をかけている。
実は半重力を発生させられるのは凄い事なんだぜ。
何しろ、そいつがワープ航法の根拠となっているらしいんだからな。
最近は、長年に渡って理論上存在した半重力発生メカニズムが実験の観測結果によって完全に否定されてしまったので、超光速宇宙飛行を夢見ていた科学者達の夢と希望を打ち砕いてしまったのだ。
魔法による半重力の発生は新しい夢の道を切り開いてくれるだろうか。
という訳で、俺の体はパワー任せでボードに押し付けられているのだが、やや浮上した感じのスノーボードは実に軽快に雪山を滑っている。
まるで雪上の反重力式リニアモーターカーだ。
ほぼ重力魔法のレールの上を、ボードに乗った俺がいかにもといった感じに娘を抱えながらバランスを取っているだけなのだが、傍目には十分滑れているように見えるはずだ。
はっきり言って、もうただのズルなのだが、娘が大喜びなのでOKだ。
元々このスキー場を作ったのは、俺がこの子と楽しく遊ぶのが目的なんだからな。




