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11-2 再び、御山へ

「やあ、とっつぁん」 


 俺は先日知り合ったばかりのバルドスに、昔ながらの知り合いのような挨拶をした。


「おお、アルではないか。

 今日はどうした」


 彼はまだ人化中だ。

 というか、まだ孫と遊んでいた。

 この爺馬鹿竜め。


「これを見てほしいんだ」


 俺は頭の上に乗っかったチビスケを指差した。

 名前は女の子だから、それっぽくファルちゃんに決定した。


 男の子達は格好いい感じのレイを推していた。

 まあ、それでもよかったがね。

 苗字が綾○さんなら、女の子がレイでもそう違和感はない。


 生憎な事に園長先生は○○○オタではない。

 どちらかというと、年代的に〇ノタかな。

 そういう訳で裁定はファルに傾いた。


「ほう」


 爺は目を丸くした。

 なんだなんだ。

 物知りな爺が驚いてるぞ。


「かわいい~。

 だっこしたいー」


 ジェニーちゃんが御強請りしてきたので、しゃがんで抱かせてやった。

 ファルもだいぶ落ち着いたので、ケモミミ園でも抱っこは解禁してやっている。

 この子は懐っこい性格のようでチビ達にも思いっきり甘えていた。


 ジェニーちゃんは、金髪のショートカットで薄いブルーの瞳の女の子だ。

 御母さんの瞳は濃いブルーで御父さんはグリーン。

 この子はグリーン・アイズでもきっと映えるよな。


 ごく自然に、どの服を着せたら似合うだろうとか思って型紙とかを無意識のうちに検索していて苦笑いする。

 俺も、もうすっかり幼稚園兼孤児院の園長稼業が板についたようだ。


 珍しい種族同士の抱擁カットだな。

 きっちりと1カメがいい仕事をしてくれたぜ。


「ところで、この子の事を知っているのか?」


「わしの爺さんに聞いた話なんだが……」

「待て! それはいつの話だ」


「わしが生まれたばかりの子竜の頃だから、約5000年前の話か?

 よく覚えておらん」


 エンシェントドラゴンに時間の話を振ったのが間違いの元だった。

 時間の概念というか、感覚が俺ら人間とは訳が違うのだ。


「それで、どんな話なんだい?」


 爺さんの話によると、レインボーファルスというか、ファルスについての詳細は不明だ。

 爺さんも滅多に見ない珍しい種類らしい。

 ただ、子育てに凄まじい魔力を必要とするため、辛くなって子育てを放棄する親もいるそうだ。

 

 その話をしてくれた老竜も今はもういない。

 竜とて不死身ではない。

 その爺さんも、もう寿命でいなくなった。


 うーむ、「この子をお願いします」ってか。

 まあ教会とか孤児院にはよくある話なんだが。

 でも、あそこは教会ではなく、一応幼稚園なんだぞ。

 せめて書き置きくらい残していけよ。


 ファルス。

 ネットで見ると「ふくらんだもの」か。

 虹という言葉で形容されると意味がわからん。


 男のアレという意味もあるが女の子みたいだし。

 発生学的には女の子の、男の子の物と対になるアレの意味もあるそうだが。


 俺にとっては衝撃、いやファルスには笑劇の意味もあるのか。

 それとも詰め物料理とか。

 全部ファルスの意味だ。


 まさか、これが何かの幼態で二段変身するとか?

 詳細不明ではどうしようもない。

 そもそも、同じ言葉でも地球とは意味が違うのかもしれない。

 うちの千年物の生き字引や、その五倍の歳月を生きた叡智あるドラゴンも知らんのではな。


 とにもかくも、また園児が一人増えたようなものだという事だな。

 まあ、とりあえずは俺の魔力を食わせておけば済むようだし。


「了解、ありがとう。

 またなんかあったら来るわ」 


 ケモミミ園に帰ったが、ファルは俺の頭の上で魔力を充電している。

 そして御腹がくちくなると寝床で寝る。

 起きたら子供達とはっちゃける。

 そして腹が減ったら……以下略。


 こいつは最初雛のような鳥類に近いのかとも思ったが、鱗っぽい感じにもなってきた。

 鳥類と恐竜の関係、ティラノザウルスの外観に関する学説の変遷の話なんかもある。

 うーん、よくわからん感じだ。


 前後の足は大変に器用で上手に物を掴む。

 そして、くりくりとした可愛らしい目。

 今のところ魔力以外に飯を食わないので、よくわからないのだが肉食獣のようには見えない。


 一種の精霊族なのかもしれない。

 一見すると、ただの懐っこい動物にしか見えないのだが。


 俺だって精霊魔王などと呼ばれながらも、園児の相手とかしつつ、作務衣を着て縁側で煎餅を齧りながら茶を啜っているだけの爺なんだが。


 しかし、この子には小さいながら羽があるのだ。

 それは鳥やドラゴンの物とは明らかに違う質感

 強いて言えば妖精系か。

 いや、この世界ならば精霊系とでもいうべきなのか。


 きっとそのうちに空を飛ぶのだろう。

 いつもは仕舞っているらしいが、時々文字通りに羽を伸ばす。


 そうするとパッと見に爬虫類っぽい感じはするんだが、愛嬌のあるくりくり御目目の顔がそれを否定する。

 思わず、どんぐりとかを持たせたくなるような可愛らしい印象だ。

 もう子供達みんなのアイドルだ。


 よし、新チビ。

 お前もこのケモミミ園の子だぞ!



 それから俺は、いつもファルを頭の上に乗っけて秋の大運動会に向けた準備に邁進してきた。

 たまには帝国の様子でも見にいってこないといかんのだが。


 皇帝はもう死んだかもしれんし、何故か皇太子もあの時殺されなかったから、多分まだ生きているのだろう。

 あれから皇太子が死んだという話も特に聞いていない。

 今見たら、マーカーも帝国皇太子の生存を示している。

 皇帝もかろうじて生きてはいるようだ。


 皇太子も元々暗殺説が流れていた訳なのだが、それはあの瞬神が流していたのだろう。

 彼はまだ何か使い道があるのかね。


 あるいは、今度は彼の方がクーデター側から見てスペア扱いだとか?

 いかにも有りそうな話だ。

 あの第二皇子はどう見たって頼りないからな。

 

 

 そう言いつつ、ノーパソで運動会来賓招待者リストをチェックする作業に邁進していた。

 後は真理や葵ちゃん任せだ。


 バザーの御飯とかはエリやロゴスに丸投げにした。

 必要なら冒険者ギルドに人員応援を依頼するつもりだ。


 そんな頃、なんとオルストン家より御目出度の報が届けられた。

 こんな時にか!


 こういうのを会社とかでは俗にイベント発生とかいっていた。

 トラブルが起きると、みんなで集まってわいわい言いながらなんとかするのだ。

 会社生活の醍醐味だな。


 ちょっと懐かしく思いながら、作りかけだった贈り物の赤ちゃん用品を引っ張りだす。

 もう園児が大集合だ。

 頭の上のファルまで騒いでる。


 いや、ちょっとお前。

 おいちゃん仕事すっから、頭の上から降りてくれない?

 もうずっと魔力をちゅちゅうしているよね。

 最近食欲が凄いな。

 

 今作っているのはアレだ。

 赤ちゃんの上でくるくると回っているあれ。

 結婚もしなかったおっさんなので、あれの名前がよくわからない。

 確か、なんとかメリーって言わなかっただろうか。


 色々と煌びやかなので、子供達から大注目を浴びている。

 おチビ猫レミたんも当然のロックオンだ。

 あー、君ももう卒業な案件だから、これ。


 ファルをレミに持たせて、俺は仕事にかかる。

 基本動作の部分は出来ている。

 モーターガール葵ちゃんへ外注に出したのだ。


 多少仕上げに手をかけたが、号試の分はなかなかよく出来ていた。

 改善と量産は俺の仕事だ。

 これを販売してみてもいいし。


 あとは細かい部分の装飾だな。

 丁寧な丁寧な仕事で進めていく。


 そうする中、横目で子供達を観察する。

 特にミミピンな様子で聞いている見ている子をチェックだ。

 その様子を撮影筐体のカメラ映像で空中から記録していく。

 こういうのも将来の進路相談の資料にしようと思って。


 最後に色々な仕上げをして、ようやく完成だ。

 上から吊るして起動するとメロディと共にくるくる回る。

 いや、なかなかいい感じになった。

 何故か幼児共がもう夢中だ。


 そういやこいつらって、こういう物を飾ってもらって親から愛されるような経験は無かったんだよな。

 まったくもって不憫な子達だ。


 更にファルがもう食い入るようにじっと見ている。

 うーん、まあいっか。

 思わずファルの頭をぐりぐりしてやる。


 更にガラガラを製作する。

 これも、じっくりといいものを作った。

 音が出る物なので、みんなこれもミミピンでロックオンしている。

 仕方が無いのでコピーしてくれてやったら、マラカス代わりに両手に持って大騒ぎだ。


 まあ仕方が無いよな。

 誰もこいつらに赤ちゃん玩具なんてくれなかったんだ。

 今からでもいいから存分に楽しんでくれ。



 俺は行ってきますの挨拶をしてから、転移して仕立て屋へ向かった。

 俺が作った素材を渡して作成を頼んでおいた赤ちゃん肌着を受け取り、彼らを存分に労って御祝儀も渡しておいた。


 そして、お次は商業ギルドへ向かう。

 御祝い用のドラゴンハム・チャーシュー・ローストドラゴン・ドラゴンウィンナーなどを受取るのだ。

 奥さん用にきっちりと押さえておいた、滅多に入荷しない希少な柑橘系なども無事に入荷していた。


 それから、それらを持ってオルストン領へ跳んだ。

 あ、一応先に電話くらいは入れておいたけど。

 貴族相手に先触れを出すなんていう話は頭の片隅にもなかったわ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 赤茶用品の名前は世辞に詳しい女子高生の葵チャン位だと 上の兄や姉に子供が出来て早くも叔父・叔母になった 奴もいるでしょう音楽は?真逆アルホンスだから 五木の子守唄だと寝た子も起きるよ?スコッ…
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