133-5 八百万の神々
そして、お次の参拝ポイントは広島の嚴島神社だ。
「へえ、さすがは世界遺産ねえ」
「絵になるなあ」
そう言いながら二人がスマホで写真を撮っていたのを確認してから宣言する。
「うんうん。
というわけで、ここは終了ね」
そう言って次のスポットへと向かった。
またもや突如として景色が変わるので、初代国王妹君であるアルバトロス王国大御婆様が文句を垂れた。
「もう。せっかく世界遺産まで行ったのに、御参りはしないの?」
「だって、あの正面から見るアングルが一番絵になるんだぜ。
あれを見ちゃったら、もういいんじゃないのか?」
俺があまりにも身も蓋も無い事を言っているので、二人とも苦笑している。
「まあ今は自力で転移魔法を使えるから、空間座標を手に入れた事だし自分達でまた来ればいいんですけど。
ところで、ここはどこ?」
「あ、わかった。
ここは出雲大社ですね?」
「御名答。
ここが転移魔法神社巡り弾丸ツアーの最後のスポットかな。
ゆっくりしていこう」
個人的には、ここが一番好きな神社かな。
天皇家と関わり合いの深い御伊勢さんも、由緒正しさではここを上回るのかもしれないが、日本人から見て八百万の神々が集うイメージがあるのは、やはりこの出雲大社なんだと思う。
いろいろなコミックやアニメなどでも登場するのは、大概はここなのだ。
なんというか雰囲気も好きで、ここは前にも旅行で訪れた事がある。
「ふふ。
異世界では何かにつけ困ると『八百万の神々』に祈ったもんさ。
あの頃は異世界には神はいなくて、ファルスと精霊しかいないんだと思っていた」
龍神大和はまた別だけどなあ。
あれは俺と最も近い神であり、また自分にとっては一番恐ろしい実在の存在でもあった。
何もないような市井の人生においては、心の拠り所でもあり、また二度と関わりたくない恐怖の対象でもあった。
地球の信仰で感覚的にそれに一番近い物を想定すると、こう言ってはなんなのだが、多くの人心を延々と闇の方面に惹きつける『クトルゥー信仰』が一番近いのかもしれないな。
大いに心惹かれ、つい近寄ってしまうが、それでも恐ろしくて仕方がないみたいな。
まあ大和は別に邪神ではないのだが。
あれは、『ただそこに在るだけのもの』なのだから。
なまじ実在するモノだから、そのヤバさは世界宗教の主流である創作神よりも格段に上だけど。
だから、俺は心惹かれながらも大和の地を二度と訪れる事はなかった。
本当は再訪問したかったのだがな。
あれが本当は実在しない幻だったのではないかとか、時に不安を覚えたりしたから。
だがまあ、二度行ったところで遭えるわけでもなし、結局行かなかったのだ。
それに、その証としてイコマがいてくれたのだし。
あれだけは絶対に気のせいなんかではなかったので。
本当はあれが何と呼ばれているのか、その真名すら知らない。
だが本当に困った時には、そっと心の中であの神に祈りを捧げるのだ。
本来ならば口に出す事すら憚られる存在なのだった。
この出雲にも龍神はいるのだろうか。
今まで、そんな事は考えた事もなかった。
理屈から言えば居そうな気もするのだが、俺にはよくわからない。
ここは神聖な雰囲気があり、あの大和のように陰惨な雰囲気はない。
ここは忌み地である龍尾の地ではないのだし、わざわざ人を招かないだろう。
人は自然に、この出雲に集まるものだ。
神々でさえ集まると言われる地なのだから。
大和のような地は本当に寂しい。
人っ子一人いないような荒涼とした雰囲気を放つ。
その周りで暮らす氏子のような人々はいるが、彼らも龍神大和の存在など知らない。
おそらくは一生知らずに過ごすのだろう。
もし必要な事態があるならば、彼ら龍神の氏子は『仕事』に駆り出されるだけなのだ。
この俺が彼の地に招かれた時にも、『入山』の試験に関わるようなキャストがいたな。
彼らは、自分が『役割を演じている』事にさえ気が付かずに、俺のように招かれた者を『試験官』としてもてなすのだ。
そして時には、試験対象者が聖域に足を踏み入れるのに相応しくないとして排除する。
俺も対応を誤っていたら病院送り、あるいは殲滅対象となっていたはずだ。
ずっとそう感じていた。
だが、そのような事は滅多にないはずだ。
何故なら、あれは『心根』だけを試す形式だけの試験なのだ。
最初から合格が大前提の『ただの儀式』に過ぎない。
性根の腐ったような、あのベルンシュタイン帝国の国境検問所にいた隊長みたいに、死んだ魚の腐ったような目をした人間は最初から龍の地には呼ばれない。
龍王というアクターには選ばれない。
彼らはそういう卑しい者を忌む。
そのような忌み人の人生を、わざわざ好んで見物しようとは思わないからだ。
俺にとっては、俺が龍神大和と呼ぶ存在さえ居てくれればそれでいいのだ。
神などは、ただただ居てくれるだけでいい。
特別に何かしてくれなくたって構やしない。
親と一緒だ。
世界には「糞ったれな神は信仰を捧げたって俺に何もしてくれない」などという寝惚けた世迷言を言って絶望しているような馬鹿がたまにいるようだが、神とはそういう存在ではないのだ。
そんな自己中な信仰など神だって願い下げだろう。
もう他の地球の神々に関わろうとは思わない。
こちらの生まれ故郷の世界地球では、異世界ほど神々と関わる事もないだろうし。
この地球の神々は非常に無口だ。
だがあちらの世界の神々は、まるでギリシア神話の神々のように人間臭く、また御喋りだ。
そのような俺の感慨に対して感じたところがあるのか、二人とも黙って待ってくれていたようだ。
「ああ、悪い悪い。
待たせちまったな。
実際に、ああも神様みたいな連中と関わる事が多いとな。
こんな場所では、つい思うところもあるのさ」
「園長先生も大変ねえ」
「ああ。
やろうと思えば、いつでも頭の中で初詣くらい出来るレベルでね」
うーむ、頭の中でアドミンの哄笑が小煩い。
言っておくが、お前なんかに御賽銭なんて銅貨一枚だってやらないからな。
「しかし、凄い人出だねえ」
「そりゃあ、そうだよ。
正月だけで六十万人が参拝するっていう話なんだぜ。
ラスベガスでカウントダウンするため年末年始に集まる観光客の二倍の数なんだ。
日本屈指の初詣ポイントなんだからよ」
「園長先生って人混みが嫌いなくせに、よくこんなところを参拝する気になったわね」
「ふふ、ここ出雲大社が特別好きだからね。
とはいうものの、前に来た時は時季外れで思いっきり空いていたんだけど」
あれは、もうかれこれ三十年以上は前の話だからなあ。
「じゃあ、覚悟を決めていくわよ」
「おう!」
そして俺は、転移魔法による日本初詣弾丸ツアーの大鳥である出雲大社の人混みの中へ友人達と共に、「パパ、いっけえ」と叫ぶおチビ猫を肩車して突撃していったのであった。




