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132-6 お芝居の続き 

「御父さん、世間じゃクリスマスといって、何か御馳走を食べる日があったみたいね。

 もう終わっちゃったみたいだけど。

 さっきもね、本当はクリスマスツリーってどんな感じなのかなと思って見ていたの。

 雪が積もった木みたいな感じらしいから。

 私だって見えなくてもちゃんと感じるのよ」


 それを聞いて、思わず胸が詰まるような想いを噛み締めた父親。

 ただでさえ目の不自由な娘に苦労をかけてしまっているというのに。


「すまない、メイユリア。

 わしに、もう少し甲斐性があればなあ」


「もう! そんな事はいいの。

 ほら、死んだ御母さんと約束したでしょ。

 貧乏を理由に自分を卑下したりしないって」


「ああ、そうだな。

 そんな事を言っていたら母さんに叱られてしまうわい。

 さあ、夜は冷える。

 中に入ろう」


 そして家の中に入った二人。

 父親は娘の手を取り、背中をそっと支えながら。


 貧しいながらも家の中の暖炉には暖かな火が燃えている。

 御馳走はないが、その日の御腹を十分に満たすだけの食べ物はある。


 そして父親には細々とではありながらも、ドワーフが何よりも誇りに思う鍛冶の仕事があった。

 夢はオリハルコン職人だ。

 この年になっても夢は決して捨てきれない。

 それがドワーフという種族の性なのだ。


「御父さん。

 遅くなっちゃったけど、メリークリスマス」


「ああ、メリークリスマス。

 メイユリア、これは父さんからの贈り物だ。

 大した物じゃあないがな」


「わあ、何かしら」


 声を弾ませながら嬉しそうにしているメイユリア。

 渡された物を触覚でチェックしていく。

 それには鈴がついており、手に取ると透き通るような音で鳴ってくれた。


「素敵な音色、これは何?」


「それはソリに乗ったサンタクロースじゃ。

 実はサンタを見かけたという人がいてな。

 話を聞いて、その姿を再現してみせたものだ。

 余り物の材料でこしらえたので、あまり出来は良くないがな」


「ううん、嬉しいわ」


 そうして少女が幸福そうな表情をしていると、誰か家のドアをノックする者がいる。


「あら、誰かしら。

 こんな雪降る夜に」


「ほんにのう」


 こんな夜更けの、こんな一軒家にと首を傾げながらもドアを開けてみる父親。

 だが、そこには頭や肩に雪を積もらせて寒さに震える男の子達がいたのだ。


「こんばんは」


「お前達、どうした!

 子供だけで、まあ。

 さあ、中へお入り」


「ありがとう。

 道に迷ってしまって」


 こんな辺境で獣人の子供とは珍しいが、この国にもドワーフ以外の人種もいるにはいる。

 獣人は人族から迫害されがちで、このような目に遭っている事も少なくはない。

 どこかから流れてきた子達なのだろう。


 父親はそんな風に思い、子供達を温かく迎え入れた。

 最近は獣人の王子達が誕生したので、この国に流れてくる獣人も増えたと聞いているのだ。


「さあ、さあ、あなた達。

 暖炉の傍へいらっしゃい。

 温かいわ。

 今、スープを温めてあげる。

 パンは私の手作りよ。

 粗末な材料だけど、手だけはかけてあるの」


 そんな風に貧しいながらも温かい気持ちで歓待してくれると、心が温かくなるのを感じる二人であった。

 殊にクリスマスの日に行き倒れとなり拾われた過去を持つエディにとっては。


 メイユリアに優しく抱かれていると、遠い遠い記憶、本当の母親に抱き締められていた記憶が蘇ってくるようだった。

 路頭に迷った時にまだ幼かったレミと同じく、そんな記憶は持っていないのであるが。


 ふと、二筋の涙を流してしまう二人であった。

 トーヤも映画の御芝居の時のような嘘涙ではない。


 暖かな御飯を食べさせてもらい、粗末だが温かいベッドで寝かされた二人。

 なんだか、いつもとは違う夢を見ているようだ。

 まるで映画のように。


 メイユリアが二人の母親で、一緒に楽しく暮らしている夢だ。

 小さいけれど素敵な家だった。

 細やかだが、心の底から幸せが込み上げてくるような温かい食事。

 いつも笑顔が満ちている、そんな暮らし。


 朝になって目覚め、夢で残念だったような嬉しかったような、いろいろな物を綯い交ぜた複雑な表情をして、互いに顔を見合わせた二人。


「なんか妙な展開が混じったけど、なんとか予定通りだね、エディ」

「ああ、ここからが本番さ」


 そして二人は、日中は父親の鍛冶の御手伝いをし、メイユリアと一緒に庭の木達と語らい、雪かきをした。

 そして、そっと夕飯前に抜け出したのだ。


「ねえ、御父さん。

 あの子達は?」


「おや、姿が見えないのう。

 もしかして出ていってしまったのか?

 鍛冶は中々筋がよかった。

 獣人ながら立派な鍛冶師になれたやもしれんのに。

 せっかく息子が出来たような気がしておったのだが」


 父親は、その大柄ではないが堅牢そうな、相応の年輪を刻んできた肩を軽く落とした。


「ふふ、御父さん。

 元気を出して。

 私がいるじゃない」


「おお、そうだ。

 お前とこうして暮らしていけるだけで、儂はもう何も要らん」


 だが、またしてもドアを叩く音がして二人は顔を見合わせた。


「こんな辺鄙な場所に立て続けに客とか。

 何事なんじゃろうなあ」


「御父さん。もしかしたら、あの子達が帰ってきてくれたのかも!」

「そうか、そうかもしれんのう」


 そう言って、父親も嬉しそうにドアを開けるのだった。


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