10-5 いざ鎌倉
「おじいちゃ~~ん!
どこへ行ってたのー!」
なんだあ~?
え、子供だと?
しかし、よく見ると、この子はなんだかどこかで見覚えが……。
「親父!
どこへ行っていたんだ」
お、お前は~。
あのAランク試験の時に俺と対戦した竜男じゃないか。
あー、よく見たら奥さんもいるわ。
「ん? お前は確かAランク試験の時の」
しかも!
お、親父だとー?
「おうおうおう。
ジェニーちゃん。
御爺ちゃんですよー」
爺はドラゴンハーフな可愛らしい孫娘を抱き上げた。
おい……爺。
「ゴホン」
王太子殿下が少し困ったように咳払いを一つした。
「おお、これは失礼した。
では客人方、こちらへ」
これから滅多にやらないだろう大事な儀式を始めるところだというのに、孫は抱いたままで、おまけに息子夫婦も当然のように付いてくるし。
俺も王太子殿下を促して後に続く。
そして驚愕の風景を目にした。
こ、これは……神社?
真っ赤な鳥居、それと砂利道に石を並べた参道。
手洗い水には当然竜の飾りが鎮座ましましていた。
しかも、竜のデザインは明らかにエンシェントドラゴンとわかるものだし。
どの辺が鎌倉で大仏なのか。
神と仏じゃあ大違いだぜ。
まあ外国人なら特に疑問にも思わんのだろうし、しかもここへ来るのは外国人どころか異世界人なんだし何でもありなのか。
そういや彼は着物のような感じの服装をしていた。
趣っていう奴を大事する主義らしい。
でも宮司さんの格好じゃないのね。
まあ日本でだって、そんな物はどこで買うのかよくわからないのだが。
神社には社務所があって、御守りとかを売っている。
そんなもん誰が買うんだよ。
ここに参拝客なんているのだろうか⁇
だが、それは俺だった。
つい買ってしまった。
しかも、かなりたくさん。
日本の香りが懐かしくって、思わず。
それと、あのケモミミ園の子供達にやろうと思って。
幸薄いあの子達に、せめて初代国王とその盟竜の加護を。
あと他の連中にも買っていってやるか。
そのうちアントニオのところにも安産祈願の奴が要るかな。
ついでに買っていこう。
そうこうするうちに「王太子の儀」の支度が整ったようだ。
だが、そいつを見にいって俺は思わず絶句した。
それって!
「ただの御神籤じゃん!」
やれやれ、一人で山を登って竜を相手に度胸試しをして、御神籤を引いて帰るだけなのかい。
山奥の神社で肝試しかよ。
まあ、それでも格好だけはつくのかなあ。
でも俺も思わぬところで日本式の神社の御守が買えたし、それでもいいか。
御守りも、それを売っている奴のせいなのかもしれないが、かなり霊験灼たかというか、霊験灼然というか、そんな感じの物だし。
「よいか、次期国王よ。
心して聞くがよい。
この中から『いざ鎌倉』を必ず引くのだ。
ただし、引けるのは只一度だけ。
全身全霊で臨むが良い」
鑑定。
『出てくる御神籤から出るものは全て「いざ鎌倉」と書かれた御神籤。
初代国王船橋武の子孫を思う真心が、「いざ鎌倉の心構え」と共に言霊として魔力と共に刻まれている。
大変に霊験灼たか。
直系子孫以外には効果なし。
御神籤は魔法錬金術により作られる。
初代国王が丹精込めて子孫のために作り上げた、親心の塊のようなアーティファクト』
まじか、武。
ぱねえな。
っつうか、どれを引いても出て来る物は一緒なのかよ。
全部大吉の御神籤なんて風情がないなあ。
王太子殿下が気合を込めると共に、御神籤箱から発する魔力も増大していく!
すげえ!
ん?
なんだ、この感覚は。
はっ。
こいつは精霊共に魔力をちゅうちゅうされる時の、あの感覚だ。
この状態で御神籤箱をもう一度鑑定しなおすと、『アーティファクトの持つユニークスキルとして、近くに一定以上の強大な魔力の持ち主がいれば、そこから魔力を吸い上げブーストする事が可能』とあった。
やられたぜ~。
国王陛下が俺を呼んだ本当の狙いはそこだったか。
さては、ぎりぎりのタイミングでこの効用に俺の魔力を利用する事を思い付いたんだな。
まあいいさ、王様にはいつも御世話になっているんだから。
でもこいつは貸しイチね!
そして船橋武よ。
お前の挑戦、千年の時を越えて、しかとこの俺が受けとったぜ。
お前が作ったもんなら少々のオーバーロードにも余裕で耐えるだろう。
それに魔道具なら、もし壊れたって再生のスキルでなんとか直せるだろう。
俺はたっぷりと、それはもうたっぷりと魔力を練り上げると、きちんと不可視になるよう繊細に注意を払いながら、こっそりと指向性放射で御神籤箱にその魔力をぶち込んでいった。
いや、ちょっと楽しいな。
まるで武と一緒に、二人で魔力勝負にて戦っているかのような錯覚を覚えた。
御神籤箱は、もはや魔力光に爆発せんばかりに輝いていた。
目を瞑って一心に集中している王太子殿下は全然気付いていない。
瞼を通して入り込む耀きにも心を乱されていないのか。
これぞ、次期国王たる者の貫禄か。
そして真理先生が少し慌てている。
「自重しない奴×更に自重しない奴。
この掛け算だけはやめてほしかったわ~」
そして辺り一面が光り輝いて、爆発するかのような光の奔流が溢れ出した。
それが止む頃には王太子殿下の手の中には御神籤があった。
ただし、そいつはただの御神籤ではない。
鑑定すると、『スーパーベスマギル御神籤ペーパー』とあった。
【超魔法金属ベスマギル製の御神籤型グリモワール。
世界を覆い尽くす魔素の海から膨大な魔素を吸い上げ、永遠に滅びる事なく神級の加護を生み出し続ける不滅のアルティミット・アーティファクト。
本人だけでなく、本人が即位した国家や子孫にも未来永劫、素晴らしい加護を与え続ける】
これには、さすがに俺も大爆笑した。
こいつはまた酷い物が出来ちまったもんだ。
国王陛下め、ざまーみろ。
頭を抱えて、こいつの扱いに困るがいいさ!
やったね。
俺は右手を高く掲げて、千年前の想像上の武とエアハイタッチを交わした。
真理は頭を抱え、アルスは「信じられねえ」みたいな顔をしている。
王太子殿下はやっとこさ、この厄介な『王太子の儀』を終えられて、ほっとした表情だ。
だけど、そんな顔をしていられるのも今のうちだけだぜえ。
ほっこり。
真理が凄い顔をして睨んでいるけど関係ないもんねー。
MPをチェックしてみると、俺のMPの約半分ちょいが食われてた。
約二千垓MPほどか。
あの世界中の精霊どもに喰われたMPに、ほぼ等しい魔力量だな。
これだけのMPを使ったら、通常ならば一体どれだけの物資を生み出せる事やら。
それがベスマギルとて凄まじい量が出来上がるはずだ。
通常サイズのベスマギル剣にして、ざっと十万本分か。
それが紙っぺら一枚相当でしかない御神籤分を生成しただけとはね。
凄まじく魔力を馬鹿食いっていうか効率が悪いっていうか。
ほとんどゴッド系魔法と一緒の性質だけど、あれだってここまで魔力を馬鹿食いした事は一度もないのだが。
しかし、それもあれだけじゃぶじゃぶと魔力を使いまくって、船橋武謹製の御神籤箱の潜在能力を極限まで引き出したからこそ出来たものなのだろう。
それと、あの生真面目な王子様が一心不乱になって祈ったので、それに祖先の残したアーティファクトが応えたという事か。
この俺の力をもってしても、二度と作れるかどうかわかったもんじゃない代物だ。
それにこういう物って絶対にコピーを受け付けないんだよな。
とにもかくも、こうして『王太子の儀』は無事に終了したのであった。
ドラゴン一家に、色々な日本の食い物とかを分けてやって談笑しつつ、「またな」と挨拶してから転移魔法で御山からお暇する事にした。




