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1ー8 村の宿にて

 俺は歩いて村の宿を探す。

 特に何もないような村なのでMAPに頼るほどの事もない。

 そもそも道らしき道が一本しかないので、極度の方向音痴である俺でさえ迷う事は非常に難しい。


 あったあった。

 ちゃんとそれらしき、針金で吊るされた古びた木製の看板が出ている。

 まあ宿屋というのも憚るほどボロっちい建物なのだが、まあここじゃあね。


 最近じゃあ、日本の古いホテルや旅館だって修理代が捻りだせないから、あれこれともう酷いもんだ。

 愛知県みたいな金持ち県でも、海沿いの温泉ホテルなんかじゃあ海側から見ると土台が半ば崩れかかっているホテルもあるらしい。


 それも無理ないような経営上の惨状なのだが、それが朝の散歩を洒落込んでいる客から丸見えになっているので、口コミに書かれてしまっているぜ。

 それに関してはホテルに限ったもんでもないのだが。 


「こんにちは。

 旅の商人ですが泊まれますか」


「ああ、一泊銅貨五枚になるね」

「御願いします」


「部屋は二階だよ。

 好きなとこを使っておくれ」


 中年の女将さんが顔を出してくれ、銅貨五枚を払って二階の部屋へ上がる。

 うーん、狭い部屋だ。

 粗末なベッドと寝具しかない。

 書き物をするための机すらない。


 これと比べたら、日本のビジネスホテルのシングルルームがスイートルームに思えちまうな。

 でも屋根の下で安心して寝られるだけでホクホクだ。

 何よりも激安だし。

 盗賊の存在は安心出来ないが、少なくともここにあのグリオンのような怪物は出ないのだ。


 それから、ちょっくら村の探索と洒落込んだ。

 しかし、あっという間に終了した。

 本当に何もない村だった。

 これが辺境という奴なのか。


 村の領主館?

 そこだけちょっと立派な建物で、可愛らしく鳴く馬がいたよ。

 しっかりとそいつの鼻面は撫でておいた。

 懐っこい奴で、一見さんの旅人でも特に噛まれたりはしなかった。

 この村を治めているだろう、馬の飼い主さんの人柄が偲ばれるね。


 馬での旅もいいかもしれない。

 個人的に馬での旅には少々抵抗があるのだが。

 馬なんて乗った事がないし。


 他には鍛冶屋に革職人の店みたいなところ、そして後は小さな村の教会か。

 本当にそれだけだ。

 酒場と商店は村のメジャースポットだったんだな。

 やっぱり、あの街に入りたかったよ。


 まだまだ、お金は貴重だ。

 飯は自前のコピー品だな。


 むう、トイレの仕様を確認するのを忘れた。

 自分的には一番気になるところなのに。

 少なくとも、ここは日本のようなシャワートイレでない事は確かだ。


 俺のバケツトイレよりマシである事を祈ろう。

 トイレットペーパーは日本製のいい物があるから大丈夫だ。

 トイレがあればマシってところかな。


 昔のヨーロッパなんかはどうだったろうか。

 各地で事情は異なると思うが。


 さすがに昔の版図のヨーロパ地帯各地のトイレ事情は、研究者の少ない希少なタイプの専門書でも紐解かないとわからないかな。

 たぶん、それに関しては日本の便器メーカーの研究室あたりが一番詳しいのではないか。

 そういうサイトを見かけた事がある。


 それ以前に超広域で栄えていたローマ時代の頃はローマ水道の御蔭でトイレが水洗で凄かったようだし、ヨーロッパにはトイレの下で火薬製造用に硝石を集めるソルトピーターマンなんていう職業があったくらいだから、トイレに相当する物は各家庭にあったはずなのだが、そういう事も時代や地域によっても異なるので詳細は不明だ。


 こっちの世界の服も仕入れたいのだが、出来ればどこかでコピーしたいな。

 今のところ小さな商いしか出来ていないので、まだ現金が貴重だから正規の仕入れは難しい。


 金板は、ここじゃ換金するのは無理だろう。

 逆に酷いと、そのせいで命を狙われかねない。


 あ、でもやっぱり今日は食堂で食おう。

 何よりも、この世界やこのあたりに関しての情報が欲しいのだ。

 まず部屋で、万が一防衛戦に巻き込まれた時のために装備の確認をしてみる。

 

 まずは剣の類。

 メインウエポンは刃渡り九十センチの大刀だ。

 後は刃渡り四十センチの短刀と強化シャベルか。

 俺にとっては、強化された肉体で力任せに振り回せばなんとかなりそうなシャベルが一番使えそうな気がする。


 そして次は槍だ。

 六十センチの大きな刃を付けた大槍と、四十センチの刃をつけた投擲用の短槍がある。


 やはり投擲を得意とする現世人類には槍がよく似合う。

 槍を持った人間って、マンモスとセットで博物館あたりの展示などでよく使われる構図だよな。

 大昔は女性でも最前線で狩りに参加していたという。

 

 それから素人にはこれとよく言われる斧だ。

 二倍拡大サイズにしてあるので、それなりの威力だろう。


 だが斧っていう代物は、先の部分に重量が集中していて非常に扱いにくい。

 なんというか一撃必殺って感じの扱い方になるので、戦闘になった時にビビリの素人には使いにくい気がする。

 やっぱり素人向きなのはシャベルあたりかね。


 今の強化されつつある俺には大きな斧だって扱えそうだが、以前の状態では持つ事さえも難儀だ。

 そんな物は日本人の体格に合わせて作られた物ではない。


 日本人なんか、訓練を積んだガタイのいい自衛隊の隊員ですら7・62ミリ自動小銃の反動に耐えられなくて、弾薬の装薬を四分の一くらい減らして使っていたんだからな。

 昔の単発ライフルの時代とは訳が違うのだ。


 あの米軍ですら、そういう理由でライフルの口径を縮めたのだ。

 携行弾薬数を増やす意味もあったのだが。 

 俺なんかフルオート射撃だと、それすらも真面に撃てずに銃が激しく天に向かって泳いでいく。


 いくら俺が、かつては斧三本分くらいの重量に匹敵しそうなほど巨大な馬斬大鉈を振りかざして戦った三河人(足軽農民)の末裔とはいえ、所詮は末裔に過ぎないのだ!

 現代人は軟弱なのだから。


 昔の武士は馬上で振り回すための馬上剣なる物を使っていそうだが、武士の刀剣や鎧なんかを飾るミュージアムに飾ってあるのを見たら、普通の剣の数倍はありそうなでかさだった。

 あんなもん、重量が一体何キロあるものやら。

 使いこなせるようになるまでには疲労骨折を繰り返したのではないだろうか。


 昔の武士っていう奴は凄かったのだ。

 今普通に見る刀は携帯性を重視した物だし、軽装である歩兵用の武器のはずだ。


 そもそも今でいう日本刀なんて、江戸時代に作られるようになった儀礼的な刀のはずだし。

 それすらも重すぎて、素では俺には真面に扱えまい。

 だが強化した今の俺のパワーならどうか。


 だが俺なんかは小型の手斧とてバランスが悪くて上手く使いこなせないのだ。

 ありゃあもう、投げる専門だな。

 あれだって、投げたって上手く当たらないと跳ね返ってしまう。

 ナイフも御同様だ。


 ナイフ類は投擲用の十六センチから、これまた二倍拡大サイズのアウトドアナイフなどだ。

 後は肉切り包丁や鉈しかない。


 俺としては日本生まれの刃物で日本人の手によく馴染む刃物である鉈が一番使いやすい。

 まあそれだって相手によりけりなのだが。

 懐に入ってきやすいゴブリンのような小型の相手に振り回すにはそう悪くない得物なのかもしれない。


 鉈で猪の相手をするのは無謀。

 突進してきた猛牙により太ももの大血管を切り裂かれるのが関の山だ。

 猪はやっぱり鉄の檻で出来た猪専用箱罠で捕まえて『獣の槍』で倒すに限る。

 あれは単に、ステンレスの丸棒をグラインダーで削って尖らせただけのものだが。

 その必勝のやり方なら絶対猪に勝てる。

 当り前だけど。


 罠に嵌まった猪なんか、ほっといても勝手に飢え死にするけど、そうするとたぶん後片付けがなあ。

 それにやっぱり、どうせ猪を仕留めるなら肉が欲しいし。


 親父の在所に猪がよく出るんだよね。

 どうせなら猟銃の免許を取って、俺が猪狩りでもやればよかった。


 親戚の地所内にて余裕で猪狩りが出来ちゃうもんね。

 解体もそこの地域でやらせてもらえるし。

 あれって最初にちゃんと洗わないと肉に外側の汚れからくる臭みが移るらしいんだよね。


 子供の頃、カガミジシの話が好きだったんだよな。

 それは年老いた妖怪のように老獪な猪が、体中を泥で固めてアルマジロのように銃弾を弾き返す猪の話だ。

 

 あいつら、田んぼを荒らすから困るのよ。

 筍も掘りまくって山を荒らすし。


 長野の七十歳の爺さんなんか、自宅の庭へ侵入してきた月の輪とがっぷり四つに組んで、鉈で野郎のドタマをボコボコにして追い返す(実は実話)。

 鉈っていうものは、使いこなせばそれくらい優れた戦闘性能を秘めている刃物なのだからな。



 そして投下用に作っておいた、車を分解した鉄板がある。

 一・五メートル×二メートルサイズの重いギロチンに、幅十センチ×一メートルのサイズで比較的尖った奴だ。

 グリオンもこれで止めを刺したのだ。


 俺の地元では車を運転している時に、たまにこの手の材質の尖ったスクラップを剥き出しで運んでいるトラックの後ろに付く事があるが、あれはかなりドキドキするね。

 あれを真面に食らったら、スクラップは重量があるから勢いでフロントガラスをぶち破られてバラバラか串刺しか、それはもう酷い事になるだろう。


 風速が凄い台風の日にはペットボトルすら砲弾となって窓ガラスをぶち破る。

 ここは一つ、魔物さんや盗賊さんにもドキドキしていただくとしようか。


 車を分解した残りの重量物は、フレームやエンジン、そしてATのトランスミッションにデフやホイールなんかだ。

 これらを頭の上に落とされたら災難だな。


 こいつが物凄く高いところから落ちてきてクリーンヒットしたら、ドラゴンだって軽くタンコブくらい作るかもしれない。


 そして火炎瓶となるウイスキー瓶が二種類に焼酎瓶が一種類ある。

 ガソリンは専用のインベントリ内にあり、こいつは燃料用に大量に作ってある。


 投下用の岩は、頑張って道中にコレクションしたものだ。

 直径二メートル・一メートル五十センチ・三十センチと各サイズが揃っている。

 

 同じく投擲用の石。

 まあ十センチか五センチとかの各サイズで、握りやすそうな物を適当に拾ったものだ。


 俺には投石紐(スリング)は使えそうもない。

 不器用なんで、強化されたパワーに任せて投げるしかない。

 これがまた素晴らしくノーコンなのが想定されるのだが。


 他に紐の両端に石が括ってあって、それを投げて動物の足を絡めとる奴とか。

 そいつは俺が子供の頃に創作物の中で大活躍していた気がするので、非常に心躍る武器だから使いこなせないのが残念だ。


 そして投下用の大型剣は、刃長が九メートルや四・五メートルもある大型の物や、一・八メートルから九十センチといった御手頃サイズまである。


 後は盾というか単なる遮蔽物か。

 車のドアを外して強化した物で、ドアの取っ手を持って使うしかないな。

 

 そして、兜というか単に圧力鍋を強化した物だ。

 穴を開けて顎紐をつけて、蝶々結びにして使うというマンガのような代物だった。

 やたらと重いし。


 なんだかな……ちょっと悲しくなってくる。

 これだって戦えない事はないのだろうが、もっといい防具があるはずなのだ。



 他に爆薬系の武器をなんとか作れないだろうか。

 と言う事で、バッテリーの希硫酸から水分を分離、濃硫酸を生成してみた。

 酸の取り扱いは危ないので全てインベントリ内で作業する。


 設定で、そのインベントリ用のファイルの状態固定を外してある。

 やばそうならファイルごとアイテムボックス用のゴミ箱へ突っ込むぜ。

 酸類は零れたらマジでヤバイ。


 車の排気ガスやコンロの燃焼ガス・小便の中のアンモニアなどを原料に、一酸化窒素、そして二酸化窒素を精製して、そこから硝酸を作りだした。


 いや、こいつは便利な能力だな。

 このような危険物がこんなに簡単に作れてしまえるとは。

 桑原桑原。

 この酸自体がまた大変な危険物だ。


 続いて硫酸との混酸を生成する。

 ネットを見ながら、アイテムボックスの分解・合成機能で色々と作ってみる。


 出来た物は爆発の危険があるのでインベントリからは出さない。

 グリセリンも車関係の液剤から分離した。


 現実世界ではない空間、まるでPCの中で疑似的に合成するかのように作られていくニトロセルロース・ニトログリセリン・硝酸アンモニウムなどなどの危険物。

 それらの製造に使用される専用のインベントリは魔法PCの中にあるので安心なのだが。


 ここへ来る途中に鑑定で見つけた珪藻土を素材に、ニトログリセリンからダイナマイトを作ってみる。


 とても素では扱いたくないような危険物ばかりだ。

 これらは不安定な物質が多いので、製作した物は時間停止した別のインベントリへと移す。


 もっと安定感のあるものが欲しかったのだが、とりあえず、あまり複雑な物はすぐには作れそうにない。


 爆発物は、プラスチック素材の瓶詰め容器に詰めて、天辺に穴を開ける。

 車のハーネスの細いチューブに、ニトロセルロースを合成機能で詰めて導火線に仕立て上げた。

 それから導火線を爆発物にねじ込んで、車のヘッドライト用の接着剤ホットメルトで封をする。


 点火してから発火までの時間が読めないので使うのが怖い。

 こいつはテストをしたいな。

 導火線用に黒色火薬が欲しかったな。


 俺が作った単純なニトログリセリンなら衝撃に敏感だろうから、高所から落とすだけで十分爆発するかもしれない。

 そのうちにアイテムボックスから投下してテストしよう。


 これにボルトやネジ、薄い小金属部品などを詰めて榴散弾も作成した。

 破片を撒き散らすタイプの手榴弾みたいな物だな。

 うまく飛び散るように金属の配置には苦労した。

 対人ならこれでも充分過ぎる威力だ。


 とりあえず、こんなものしか出来ない。

 普通ならば、これすらも出来やしない事なのだが、俺のアイテムボックスは生産や開発に極振りされている。

 それは俺がこの人生を、製造業どっぷりで過ごしてきたせいではないだろうか。


 あとガソリンの大型容器を作っておこう。

 クーラーボックス標準で30リットル、大きさ二倍コピーで240リットルにもなる。


 三倍で810リットル、四倍で1920リットル、五倍で3750リットル、十倍で30キロリットル、二十倍で240キロリットルという巨大さだ。


 最後の奴に至ってはタンクローリー2ダース分という大容量だ……こんな物を一体何に使うつもりだ。

 威力が高過ぎて逆に使い辛い。

 数キロ四方の街を焼き払えるレベルの量だぞ。


 こいつをアイテムボックスを用いて高い場所から落として爆撃したら、着弾の衝撃で広範囲に飛び散ったガソリンが火花で点火して、地上の大花火になるだろう。


 24万リットルものガソリンによる大爆発か。

 その結果起きる事象に関しては考えたくもない。

 さっきの街なんか、これ一発でおしゃかになるのではないか?



 もう夕方だ。

 一日の締めくくりとなる細やかな酒宴のために、それなりに酒場は賑わっていた。

 こんな村では、ここくらいしか楽しむようなところがないからなあ。


 店の中には古びたテーブルや椅子が並ぶ。

 村人と思しき人達で八割方は席が埋まっていた。

 ここは銅貨が飛び交うミニマムな経済の世界だった。


 俺はあれこれと見計らって、爺さん二人が姦しく喋っているテーブルを見つけて、その横の席へ座る。


「こんばんは。

 よろしかったら相席させてもらっていいですか。

 旅の者ですが、色々とお話を聞かせていただきたくて」


 などと丁寧に挨拶して聞いてみる。


「ああ、いいとも」と快く返事が返ってくる。

 暇な老人というものは色々と話をしたがるものだから、こういう時にはうってつけの相手だ。


 俺は、さっと席を移させてもらった。


「御姉さん、俺にこちらの叔父様達と同じ酒をちょうだい。

 あと、叔父様達にも御代わりをお願い」


「あいよー」


 早速老人方にお酒を奢る俺。

 はっきり言って、御姉さんを二十年くらい前に卒業したと思われる御婦人から活きのいい返事が返ってきた。


「わかっているじゃないか、若いの!」


「はは、人生の先輩方への若者からの細やかな敬意と礼儀にございます」


 店の人に御薦めの料理を聞いて、そいつも頼む。

 先にワインと思しき酒が来たので彼らと乾杯した。

 そして彼らは進んで色んな話を聞かせてくれた。


 細々と商売をやっていたので、あまり大きなお金を見た事が無いと言うと、彼らも昔は村を出ていたそうで、お金の話とかも聞かせてくれた。


「銀貨の上が大銀貨・金貨・大金貨・白金貨と続く。

 さらにその上があるらしいが、さすがにわしらは知らんな」


 ああ、お金の種類も結構色々とあるんだ。

 爺さんはワインをぐいっと一口飲んで更に饒舌になった。


「昔、商人が扱っている大金貨を見た事があるが、その上は見た事がないわい。

 一般の村人では金貨さえ拝む事は少ないのでのう」


「時間はどうやって見ているんです?」


「御主、商人という割には何にも知らんのだな。

 時間は一日が二十四時間で十二刻に別れておる。

 街では六時から十八時まで一刻ごとに鐘で知らせてくれる。

 後は日の入りと出が一般的だな。

 ランプに使う油は高いから、村ではこういうところでないと使わない。

 この村で油の灯りを使うのは、後は代官と村長の家くらいだろう」


 時計が結構役に立ちそうでよかった。

 MAPの形を見ると地球とは大陸の配置などが違うようだが、やはり地球と同じような惑星なんだろう。

 ここは地球のパラレルワールドか何かなのだろうか。


 重力に全く違和感が無い。

 恐らく一年も三百六十五日くらいだ。

 ここは平行世界、隣にあるような世界なのだろうか。


 それならば、まだ日本に戻れる可能性があるのかもしれない。

 むしろ地球の有る世界における宇宙の果てにある惑星なんかだと、却って困るかもしれない。


「村には、どれくらいの人が住んでいるんです?」


「この村は四百人くらいの小村だ。

 今日は盗賊の話を聞いたが、本格的な襲撃を受けたらキツイ。


 ここは辺境だから生活も厳しい。

 ダメージを受けたら立ち直れないだろう。

 昔もこのあたりで村一つが無くなった。

 村や街が魔物の襲撃で立ち行かなくなる場合もあるしな」


「魔物ですか」


 俺は、昨日の魔物を思い出していた。


「このあたりでは、どのような魔物が多いのです?」


「どんな魔物が出るって?

 まあこのあたりは一般的なもんだな。

 ゴブリン・オーク・狼・熊・猪あたりか。

 あと大蜘蛛が巣食うこともある」


「何ですか、それは。

 物騒ですね」


 俺は顔が自然に歪むのを感じた。

 あのグリオンという魔物の、精神に直接捻じ込んでくるような嫌な感じは忘れられそうもない。


「まあ、そこはほれ冒険者の出番だ。

 ゴブリンは単体なら村の男でも撃退できるが、オークは無理だの。

 そいつは村総がかりで退治だな。

 どっちにしろ数が多ければ、いずれの魔物にしろ無理だな。


 狼系の魔物は群れを作るから危険だ。

 熊の魔物なんか出ようものなら、その場で討伐依頼決定だ。

 あれは只の熊じゃないから、村人なんかでは絶対に敵わんだろう。

 ここは辺境だから魔物も数が多い」


 そうなのか。

 よく知らないので、結構歩いて移動してしまったよ。

 魔物って普通に出るんだね。


 今俺が持っている攻撃手段は遠距離攻撃の物理兵器が多いし、強い物理攻撃は派手すぎて使い辛いのが困りものだ。


「それで、その冒険者というのは?」


「街にある冒険者ギルドで登録した者だ。

 ランクの低い者の中には食い詰め者もいるから気をつける事だ」


 あるんだな、冒険者ギルドなんていうものが。

 不思議なもんだ。

 まるでWEB小説のような世界だ。


 興が乗ったのか、ワインのコップを振り振り、爺さんがでかい声で喚く。


「村では登録出来ないのです?」


「ああ。

 ギルドカードは身分証にもなるから、街に入れないような怪しい者には発行されない。

 ギルドによる審査があるしの。

 怪しい奴はあっさりと弾かれる」


「がっかりです。

 他に身分証を手にする方法は無いのです?」


「大きな商会に雇われるか、あるいは村長や村の領主の信頼が厚ければ、身分証を出してもらえる事もあるが。

 まあそういう事は基本、村人なんかにだけだな」


 これは、思ったよりも街への道のりは厳しいな。

 どうしたものやら。


「村人になるには?」


「村長や領主の承認が必要だ。

 村人になりたいのか?

 まあがんばれ、お若いの!」


 いや、そいつは微妙です……一生村人コースだよね、それ。

 うちの父方は先祖代々村人だったけどな。

 最近は、まるで強権国家のように領土拡張に燃える財政豊かな豊田市に併合されて、彼らも無事市人になったね。


「この国は?」


「まあ大きい国だな。

 王都は遠いが、でかいぞ!

 そこには色々な物がある。

 王宮、王族貴族の屋敷や大商人の豪邸。


 そして大劇場、高級商店、高級レストラン、貴族の学校なんかもある。

 さまざまな工房に美術工芸品、目も眩むような調度品、宝石店や高級服屋。


 いろんな食い物もあって、広場じゃ催し物もやっておる。

 武器防具も、すげえのが揃っていやがるぞ。

 ミスリルやオリハルコンで作られた物もある。

 まあそれらの魔法金属は貴重品過ぎて拝む事すら難しいがのう」


 魔法金属!

 そいつは是非とも拝んでみたいもんだ!


 というか欲しい。

 そいつを俺の能力でコピー出来るかもしれないじゃないか。

 高く売れそうな雰囲気だし。


「へえ、いいですね」


 俺はうっとりと、それらの情景や物品を頭に思い浮かべた。


「まあ王都には簡単には入れてくれんがな。

 王都の門はいつも長蛇の列じゃ。

 貴族はもちろんの事、王都で取引のある商人や、ある程度のランクの冒険者はフリーパスだがな」


 そうか。

 そうだろうなー。


「そうそう、この国は稀人が作ったという伝説がある。

 王家公爵家なんかはその子孫なんだそうだ。

 そいつが本当かどうかは知らんがな。

 ああ、稀人というのは、ここではないどこか他の世界からやってきた人なんだそうだ。

 色々と不思議な事が出来たりするそうだが、そんな話も眉唾ものだな」


 マジですか……実は俺もそうだというわけだな。

 もしかして、それであれこれとWEB小説みたいな事になっているのだろうか。


 爺さん達が酒を飲み干す頃合を見て、御姉さんに声をかけて更に一杯酒を奢ったので、爺さん達の話はまだまだ続く。


「この国は稀人を保護する決まりになっているらしいが、実際にはどうだか。

 貴族連中なんかに捕まったりしたらきっと大変だ。

 だが王都には入れないだろうから、その稀人という奴らも国に保護される事はないんだろうな。

 まあ所詮は伝説や噂の中の住人だな。

 初代国王自体も物語や伝説の主人公のようなものだしの」


 なんてこった。

 用心深くしておいてよかった。


 それにしても、なんて物知りな爺さんなんだろう!

 こんな小村の村人レベルを優に超えてんぞ。

 まあ若い頃に村から外へ出ていれば、こんなものなのか。


「貴族様の話は?」


「この村の領主様は騎士爵様だな。

 彼はエルミアの街に住んでおられる。

 村にいるのは代官だ。


 領主様は近隣にある四つの村と御自分の街を収めていらっしゃる。

 まあ辺境の地にある最果ての小さな街だから苦労をされておられるよ。

 これが辺境ではない大きな街なんかだと、街は男爵様とか子爵様が治めておられる。

 この辺りにある最果ての辺境村なんかでは、御領主様も準男爵様ですらない。


 うちの領主様は悪い人じゃない。

 他の騎士爵家も似たりよったりだ。

 だが、中には実績を上げようと無理しているところもあるから気を付けな」


 貴族か。

 トラブルの香りしかしないから気をつけよう。


 この国はかなり広い。

 MAPで測定出来るので、国土面積をパッと見すると、ざっと二百四十万平方キロはある。

 日本の六倍以上の国土だ。


 一口に貴族といっても、いろんな人がいそうだな。

 そんな事は当たり前といえば当たり前の話なのだが。


「そこんところを、詳しく聞きたいなあ」


 俺はメモを取り出して、爺さん達の話を書き付けていた。


「そうさの。

 その上になるのがこの地方をまとめておられる男爵様じゃ。

 彼は五つの街を傘下に治める大領主だ。

 こんな辺境地方でなければ子爵家相当じゃろう。

 御自身も大きめの街を治めておられる。

 まあ、いずれにせよ辺境の街じゃからの。


 男爵様もそう悪い評判は聞かぬが、その下の騎士爵なんかは似たりよったりだなあ。

 その領主次第、人柄や考え方など、まあ人によりけりという事だ。

 代替わりすれば、それもまた変わる。


 さらにその上となると、この南部の辺境地区を治める大貴族の伯爵様だ。

 いわゆる辺境伯という地位になるが、そういう人はいわゆる侯爵家並みの力がある事が多いのう。

 そこまでいくと、わしら村人もよく知らんでな。

 その上がその寄り親である王都の侯爵様で、そのまた上が国王陛下だ。


 基本的にこの国の貴族は、常識外の無理をするような人はそういないはずじゃ。

 そのような無体は国王陛下が御許しにはならんよ。


 まあ王都の下っ端貴族はあれこれとやらかしてるかもしれんし、威張っている人なんかもたくさんいるがな。

 そういう事も、この国はまだマシな方じゃ。

 他の国に行くと、とんでもないところもある。

 河を越えた隣国の国民なんて可哀想なもんだよ。

 亜人も迫害されておるし、たくさん奴隷にされておる」


 よかった、隣の国に来たんじゃなくて。

 ここならうまく立ち回れば、国に保護される事さえ可能なのか!


 しかし亜人奴隷か。

 気になるなあ。

 ケモミミか、あるいはエルフか!


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[気になる点] 恐らく一年も三百六十五日くらいだ。 ↑何を突然?根拠は??? ここは平行世界、隣の世界なのだろうか。 ↑魔法やスキルが有る、魔獣、魔法金属も存在するなど、根源から違うような世界は平…
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