表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/1334

9-10 精霊達のライブ

「小僧、さっさとこいつを解け。

 正規の帝国貴族に向かって、たかが名誉貴族風情がこんな真似をしてただで済むと……」 


 誰が小僧だ。

 この昭和のおっさんに向かってよ。

 まだ蒙古斑の残っていそうな歳の、この青二才めが。


 そもそも、お前は伯爵じゃないか。

 こっちは天下の侯爵様なんだぜ。


 そして奴は台詞を全部言えなかった。

 仰向けになっている奴の顔を、俺がぐりぐりっと思いっきり踏んでやったからだ。


「リック、お好み焼きの御礼だ。

 ありがたく食らえよ」



 とりあえず奴の身柄は王国へ引き渡した。

 面倒な役割は国王陛下に任す事にする。

 説明を聞き、国王陛下もやや難しい顔をした。

 宰相さんも国王陛下と御揃いの長いグレーの髭を頻りに引っ張っている。


「まあまあ、御任せください。

 非常にいい感じになりましたので。

 この決着は上手い事つけますよ」


「そうか、では任せたぞ。

 それで我らはどうする」


「如何にも困った事になったみたいな風情で、時間をかけて、あいつとちょっとだらだらしていてください」


 俺はニヤっと笑って非常に腹黒そうな悪い顔をしてみせる。

 陛下も少しニヤリとして同じように返してくる。


「そうか、確かに承った。

 後は任せたぞ」


「任されました」


 このために、しっかりと準備をしておいたのだ。

 地球人の底力という奴を帝国の馬鹿どもに思い知らせてやろう。


 それから、俺はあるところへ転移した。

 もう既に協力してもらう約束は取り付けてあるのだ。


 そこはアルバ大神殿だった。

 この世界には実在の神はいないらしいが、多数の神が信仰されている。

 その中でも主神と崇められるのが、このロス大神殿の主だ。


 そこに飾られている巨大なロス像は、がっちりとした感じの髭のおっさん風で、どちらかというと爺さんっぽい感じだ。

 非常に親近感が湧くね。


 アドロスとは『主神ロスの晩餐』という意味だ。

 通常は単に『神々の晩餐』と呼ばれるらしいが。

 資源鉱山のあり方としての迷宮としては言い得て妙か。

 生憎な事に、冒険者も結構な人数が魔物さんの晩餐になっているのだが。


「やあ、ジェシカ」


 迎えてくれたのは、このアルバ・ロス大神殿の代表者である大神官、輝くような神々しい銀髪の美少女ジェシカだった。


「本気でおやりになるおつもりですか?」


 ちょっと、いやかなり心配そうに訊いてきた。

 こんな美少女の心配顔が見られるなんて、眼福眼福。

 いや、別に俺の心配をしてくれているわけじゃないんだけど。


「心配ないですよ。

 こういう事は俺の国が大の得意なんだ。

 大丈夫、大丈夫」


 そして俺は振り返り、そいつらに向かって言った。


「おーいい、お前ら。

 用意はいいかー?」


 レーダー上で、そいつらが大量に乱舞していた。


「よーし。

 頼んでおいた、お前らの仲間もOKか~?」


 レーダーMAPの上で、くるくると精霊達が肯定の意を表すかのように丸を描く感じに回る。


「よっしゃ!

 それでは精霊ライブと行きますか。

 1カメさん、宜しくね」


 俺を映しているカメラの上には精霊が乗っかっている。

 特別に出したベスマギル製のカメラには莫大な魔力が込められているので、さぞかし居心地がいいだろう。

 なんとなく他の精霊が羨ましそうにしているようだ。


 アシスタントは真理に任せてある。

 魔力の操作にこれだけ長けている奴もそうはいないだろう。

 何せ御本人が魔法の塊そのものなんだからな。

 彼女のアイテムボックスには、これまた莫大な量のベスマギルバッテリーが突っ込まれていた。


 そして精霊が、空間を操る精霊魔法にカメラから受け取る映像を載せて、それを世界中にいる仲間達に受け渡すのだ。

 もちろん、そいつらにはここの精霊達から話がついている。

 通訳のジェシカちゃんが大活躍だった。


 御礼はセーフハウス代金と合わせ、白金貨十枚だ。

 神殿も最近は財政も厳しいようだ。

 もちろん上の人も清貧な方ばかりではないのだし、現場の彼女も大変なのだった。


 その映像魔法と共に莫大な魔力が報酬として運ばれ、その地の精霊に贈られるのだ。

 精霊だってタダでは動かない。

 まったく世知辛い世の中だ。


 何の映像かって?

 それはもちろん、あのリックのやらかした事の数々だ。

 三メートルサイズの大型タブレットに記録映像が映し出された。

 それはもう派手に喧伝し、更に話を盛った。


 本来なら公表出来ないような、あの帝国国内での非道な襲撃の数々、その全てをバーーンっと景気よくリックに押し付けてやった。


 今頃はリックの野郎も口から泡を吹いてる頃だろう。

 何しろ、主だった国々の主要都市上空に音声まで乗せて、派手に垂れ流してやったのだ。

 奴が今居る、この王都アルバ上空にもな。


 そして映像の中でその事実も喧伝してある。

 リックの野郎に、それが意味する事がわからないなんていう筈がない。

 なんたって、こすっからいので有名な野郎なんだからな。

 ま、それは御互い様なんだけどよ。


 だが、それは確かに帝国の手によって行なわれた蛮行なのであり、まさか帝国もそれはリックではなく自分達の仕業であるとは表だって言えやしない。


 帝国ざまあ、リックざまあ。

 ウエーッハッハッハッていう感じで、下品に大笑いしてやりたい気分だった。


 だが俺も笑っていられるのはそこまでだったのだ。

 真理がなんだか凄く慌てている。


「ちょっと、何この魔力の流れ。

 ヤバイわ。

 もうバッテリーが無くなる!」


 なにい。

 溜め込んでおいた百垓MPもの魔力がすっからかんだと。

 そんな馬鹿な!


「た、大変。

 これは……世界中の精霊達が……みんなで吸い付いているんじゃないかしら。

 協力してくれた、各地の精霊からの『おごり』で」


「ちょ! それは明確な契約違反じゃんか」


 だがジェシカが申し訳なさそうに、消え入りそうな声で告げて来た。


「あの……精霊達にとって契約というのは、コントラクトの事でして……その……他の事は、なんていうか二の次っていうか、どうでもいいっていうか。

 あ、その代わりに気に入った人間には無償で力を貸してくれます。

 よ、よかったですね。

 これからは全世界の精霊達が貴方の味方ですよ」


 あのう、御嬢さん?

 こういうのは無償とは言わずに、稀人の国では前払い方式のプリペイドというんです。


 そして精霊どもは、空になってしまった真理のバッテリーではなく、ついには凄まじい魔力放射を放っている俺の魔力そのものを直接食い始めた。

 むろん、世界中の御仲間へ配給する分まで容赦なく。

 魔法そのもので作られた真理の体を食わないだけ、まだ良心的といっていいのか。


 あ、きた。

 MPのレベルアップ。

 MPLv13 3774垓8736京MP。


 最早、ありきたりな天文学的なレベルの数字を通り越してMPが増えまくっていた。

 だが奴ら精霊どもは、まるで御代わりが来たっと言わんばかりに、ちゅうちゅうちゅうちゅうと俺の魔力を吸い続けた。


 すげえ……もうレベルアップしたはずのMPメーターが半分近くまで減っているよ。

 なんて勢いだ。

 どうやら吸い付いている精霊の数が、どんどん精霊算で増えてきているようだ。


 回転寿司の食べ放題コースで、無数の屈強なプロレスラーのような男達が延々と皿を積み上げている、思わず胸焼けがしそうなシーンを幻視した。

 しかも、その友達がどんどん増えていき、店がパンクしそうになっている。


 千人くらいいる自衛隊の駐屯地付近にあった食べ放題の店が潰れたとかいう噂を思い出す。

 自衛隊員の訓練中の必要カロリーは、確か一日五千キロカロリーくらいじゃなかったか?


 友達の友達は友達だ?

 そして、そのまた友達の友達くらいまで来ているんじゃないのか、これ。

 おいおいおい。


 えーと、どうすんの、これ。

 俺の場合はMPが枯渇したところでレベルアップするだけで倒れたりはしないけどさ。

 他の人だと、きっと死んじゃうレベルの話だよな。


 それ以前の問題で、並みの魔法使いだと既に魔力が尽きて倒れていて、こんな宴はとっくに打ち止めだよな。

 精霊達も仕事だけはちゃんとやってくれてあったので、俺はもう連中が解散してくれるのを待つ事しか出来ず、呆然として棒立ちのまま魔力を吸われ続けていた。


 だがジェシカは、しばしプルプルと肩を震わせていたかと思うと、1カメに向かって凄まじい怒号を浴びせた。

 彼女の美しく長い銀髪が、怒髪天を突いて物凄い事になっている。

 まるで髪を振り乱して憤怒の舞いを踊る歌舞伎役者であるかのようだ。


『あんた達! いい加減にしなさーーい』 


 それは精霊と交感して契約を結ぶ事の出来る大神官の威厳と霊力を持って、全世界へ隈なく中継カメラを通してビリビリと抗し難く伝わっていき、調子くれて狼藉三昧していた世界中の精霊達がもれなく平伏して、この度の精霊晩餐会は終了の鐘を鳴らした。


 そして俺に向かって満面の笑顔を見せてくれた真理曰く。


「大魔王の誕生ね」

「ははは、それもいいかもしれないな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] 大魔王の誕生ね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ