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9-9 対決

 うーん。

 そうなると、やっぱりトラップが有効かな。

 ネット、鳥もち、電気床、スタン床などなど。


 あと魔力を封印する咆哮なんかも悪くない。

 アントニオの試験の決勝の時に食らったあれだ。

 何故か、あれも見取り出来てしまっていた。


 アンデッド固有の魔法スキルだったのか?

 普通はユニークスキルみたいな物は見取れないのだが、これって普通の魔法スキルみたいな物だったのだろうか⁉


 豪く強烈だったのだが、なんというかアンデッドが身に着ける嗜みみたいなスキルだったのか?

 さすがに、あれをスキル欄で見つけた時にはちょっと欝になった。


 だが、これも仕掛けておくか。

 俺も今はこれを解除できるし、他の連中の腕輪にも解除魔法は仕込んであるから、こいつを使っても味方に特段被害は出ない。


 地雷は出来れば使いたくないな。

 魔力識別の安全装置は組み込めるが、万が一にも子供が巻き添えを食ったりなんかしたら困る。

 ここは仮にも幼稚園なのだ。


 仕方がない。

 トラップは非殺傷の方向でいくか。

 出来ればリックは生きたまま捕らえて尋問したいしな。


 まあ、うちの地雷は全てホーミングで回収が可能だし、魔法PCに記録した製造番号でも管理できるので地球のように回収漏れが起きる事は絶対に有り得ない。


 一応は有効な手段として殺傷性の地雷も作るだけは作っておく。

 何かに使えるかもしれないし。

 爆薬部分も、魔法爆発から通常の化学製品の爆薬まで色々と用意した。


 非殺傷系の、踏むと催涙ガスやマスタードガスの出る奴まで作った。

 これもチビ達が退避した後でないと使えないが。

 獣人は目鼻が敏感だからなあ。


 そんな感じで、味方への誤爆防止に個体識別コードを組み込んだ物理トラップや魔法トラップをこれでもかというくらいに仕込んだ。


 地球産のアイデアだから、リックの野郎が如何にこすからかろうが、初見で全てを見破るのは無理じゃないかな。

 強いて言うなら(くだん)の超感覚のような物だが、それはこっちも同条件だろう。


 少なくとも他人の命を生贄にして、こすっからく生きてきた人間のそれに、地球時代から何十年も使いこなしてきた俺が負けるわけがないと信じる。

 俺の場合は能力ではなく『者』なのであって、超感覚もへったくれもないがな。

 自前のESPはせいぜい人並み程度だ。


 その辺も使って、いけるいけないも判断しつつ、仕掛ける位置や種類を選定していく。


「リックならこれで仕留められる。OK」という判断を、セブンスセンスの感覚で行っていく作業なのだ。


 これも実は絶対ではないのだが、奴が引っかかってくれる確率は高い。

 何か一個でも引っ掛かれば、命汚い奴の事だ。

 きっと足も鈍るはずだし居場所も特定できるだろう。

 そこを倒すつもりだ。


 しかも念入りな事に、暇があればこちらから狩りに行くつもりだ。

 くっそ、奴にマーカーさえつけてあれば一瞬にしてケリがつくのにな。

 テロになってしまって構わないなら、距離増大による魔力消費増大と引き換えに、レーダーMAP連動の超遠距離爆撃で仕留められるはずだ。


 さすがに精密射撃は無理だ。

 遠いとMAPが大雑把になってしまう。

 MAP上に発射地点と攻撃地点が両方記されてないといけない。

 移動しない都市や建物のような固定目標向けの攻撃方法なのだから。


 さしずめやるのなら、無人攻撃機からミサイルとかではなくて、大型爆撃機から山一個吹き飛ばす超大型爆弾を大雑把に食らわすような感覚か?


 しかし、さすがにテロはマズイ。

 何しろ俺は、テロリストなんかじゃなくて幼稚園の園長先生なんだからなあ。


 だがあの野郎め、何故かは知らないが、いつもの検索をかけても何故かMAPに引っかからない。

 何か特殊な命汚いユニークスキルでも持っていやがるのだろうか。

 奴の性格からしたら、それも有り得ない事ではない。

 何しろユニークスキルというのは、そういう物なんだから。


 この分だと俺が作った感知系の罠が役に立たないケースも有り得るな。

 十分に備えておこう。


 強敵であるSランク冒険者を捕らえる大捕り物のはずが、なんか雀やウサギを取るような感覚で罠を仕掛けていくモードになってしまっている。


 後は「避難訓練」に精を出す。

 実際に転移魔法で各セーフハウスに行くまでをやってみた。


 最初はみんなどたばたしていて豪い事だった。

 よかったな、避難訓練をしておいて。

 もうちびっ子共は全員、うきゃあうきゃあ言って大はしゃぎして物凄く疲れた……。


 さあ来い、リック。

 もういい加減にスッキリさせようぜ。


 帝国王都へも散々遠征したが、リックらしき奴は影も形も見当たらない。

 バランの奴もだ。


 Sランクっていう奴は、まったくどいつもこいつも。

 まあ、かくいうこの俺だって強力な隠蔽系スキルを持っているから、雲隠れは超得意なのだ。

 生憎と俺はここに籠城しているようなものなので、今回はその特技も役には立たない訳なのであるが。


 たぶん俺の最初からあった隠蔽スキルは、俺と同じ能力を持った人間からも居所を隠せるはずだ。

 もしかしたら、あのリックの奴め、もうアルバトロス王国内に潜伏しているのか?


 来るとしたらリックの方だと言われているし、バランはリックと組んでいないと思われるので、バラン自身はまだ帝国内にいるのかもしれない。


 そんなこんなで日が過ぎていき、もう日本は御盆に入った頃だろう。



 それから幾許(いくばく)も経たない、ある日の事だった。

 頭の中に、まるで腕時計の時報のような軽い感じの警報音が鳴り、真夜中に起こされた。

 まだ夜中の二時だが、警戒網の最外沿に設置された第三警戒線を突破してきた奴がいる。


 ここは元々アドロスの街端(まちはずれ)にあって、ほぼポツンとこの幼稚園があるだけなのだ。

 アドロスは元々、王都のような大都市でもないのだ。


 こんな真夜中に真っ当な人間などは俺のところへやって来ないはず。

 迷宮から戻った冒険者達さえ酔っぱらって宿で寝ているさ。

 そもそも連中は、飲むところや宿すらもない、こんな街端を夜中にうろうろしていないだろう。

 

 そう。

 わかる、理屈でなくわかるぞ。

 とうとう奴が来たか……。


 手筈通り、皆を起こしに行く。

 夜間の歩哨には知らん顔しておくように言っておいた。

 夜勤の警備員も先に配置についていた。


 無数の空中隠密機動監視カメラが無音で動き始め、警備の中央管制室の拡大コピーで作った荒めの大型PCモニターに映像が写しだされていく。


 最近作り上げたばかりの持ち場に着いた監視員は、カメラの映像を切り替えていき、目を皿のようにして侵入者の姿を探しまくっている。


 敵は隠密していたようだが、俺がサーチして見つけた。

 管制室にその位置を知らせておく。


 やつらは総勢五人で来た。

 建物の中へ進入したとことろで、魔法銃のスタンモードで次々と餌食にしていく。


 まるで監視カメラやセンサーが大量に配置された建物の中に侵入してきた野生動物を麻酔銃で仕留めていくかのような様相だった。

 管制室がパーティチャットモードのスマホで警備の冒険者を誘導していたのだ。


 捕まえた敵は厳重に捕縛していく。

 そいつらは俺が転移魔法でガラスの園へ転がしておいた。

 そのまま続けて相手の出方を待つ。

 職員だけは全員起こしてある。


 子供達との区画は魔法で音や衝撃なども遮断してあるし、物理的にも増強した厚い壁で遮ってあるから、騒動は彼らの夢見を邪魔したりはすまい。

 壁や柱にはオリハルコン板なんかも仕込んである。

 むろんAランク試験会場のようにシールドやバリヤーなんかも厳重に張ってあるのだ。


 子供達は大人を信頼して、今どんな楽しい夢を見ている事だろう。

 出来る事ならばリック如きなんかに、その素敵な時間の邪魔はさせたくないものだ。


 壁は、俺がゴッド系魔法でも使うかの如くにとんでもない魔力を込めて強化したので、それだけでも地球製のバンカーバスターくらいなら食らっても傷一つ付かないだろう。


 あたりは夜の静けさを越えるほどに静まり返っている。

 誰も身動ぎ一つしない。


 レーダーには一つだけ赤点が映っている。

 じっとその動きを監視する。

 とりあえず迂闊な事はしない。

 リック本人だと確認出来たら、すかさず仕留める予定だ。


 あの皆から狡猾だと言われている男が、そうほいほいと真正面から来るはずがない。

 おそらく、この赤点は違う人間だろう。


 しかし、こうまで堂々と攻めて来ているにも関わらず、どうやって俺の感知を誤魔化しているものか。

 これは敵を感知しないと動かないトラップ類も全て無効化されてしまっているかもしれないな。


 奴が使っているのは、俺の持つ超感知無効のように高度なスキルではない。

 いつものように理屈でなくわかる。


 きっとリックは殺気や気配をほぼ0にまで抑えているのだ。

 この至近距離でも赤点としてレーダーに映らないほど気配を抑えているのだろう。

 そういう物が鍛練によりスキル化しているのかもしれない。

 

 それで、こういう真似が出来てしまうあたりがSランクなのか。

 なかなか面倒な。

 まあここで奴を潰せるのなら、それに越したことはない。

 

 こちらから迂闊に今映っている赤点に手を出すと、それが隙になって本物につけ入られるかもしれない。

 だから、こちらからは一切手を出さない。


 見えた。

 すかさず鑑定する。

 名はロベルトか。

 やはり、こいつはリックではない。


 特に異常は……いや爆発する魔力、膨れ上がる感触、そして強烈な光。

 これは!


 こいつは一種のESPの感覚だ。

 以前に一度経験がある。

 白昼夢のようなその映像が、直後に現実へと変わるのだ。


 俺はそいつの体全体を超強力なバリヤーで囲み包み込んでから、スマホのパーティチャットに向かって叫んだ。


「そいつが爆発する。

 そして、それに乗じてリックが来るぞ!

 総員サングラスを着用」


 そう、こういう手も想定してサングラスは支給済みだ。

 敵がフラシュグレネードみたいな真似をしくさるかもしれないと思って。


 なんでそんな事を思ったかって?

 そりゃあ自分がそういう魔法を作って持っているからに決まっている。


 次の瞬間に男が見事なまでに粉々になって吹き飛んだ。

 人間ランタンと化した男が放つ炎と目晦ましの強烈な光が俺達を襲うが、目も瞑りながら腕で庇っておいたので視界は確保できている。


 そして同時に、俺の背後からリックが完全に気配を消して襲いかかってくる。

 他の奴等は敵を見失って動けない。

 というか、正面の敵は爆発し、その上リックを捕捉出来ていない。


 普通なら奴の襲撃を防げないだろう。

 奴め、やはりというか、何故か俺のトラップに引っかからないし。


 なんて非常識な奴だ。

 奴自身がこの世にある事すら知らぬはずの、初見である異世界産知識から作られた罠を、どうやってか知らないが無効化しているみたいだった。


 もしかするとこいつはシーフ系冒険者で、隠蔽系の特殊スキルの持ち主なのか。

 あるいは、実は暗殺ギルド出身だと言われたって信じる。

 それくらい胡散臭い感じの野郎なのだ。

 常套手段で使っている非情な手口からいっても、それは十分に有り得る。


 くそ、リックの奴め。

 俺が思っていたよりも遥かにヤバイ野郎だった!

 想定していた中では、転移魔法能力者に匹敵するほどのヤバさじゃないか。


 だが、俺はちゃんと奴を見ていたのだ。

 レーダースキルで。


 ずっと高度なスキルで隠密していて、攻撃に転じ敵意を持って襲い掛かって来た奴がレーダーに映らないはずはない。

 そして俺の背中を守るように、空中隠密機動のユニットがあるものを展開していた。


 それは「カスミ網」である。

 リックの野郎はそれに見事に引っ掛かった。

 更に後ろからもう一枚被せて蓋をする。


 これは俺が作った特別な魔力の網だ。

 魔力を感知できる人間にも見えにくいような細い網だが、魔力を練って作った魔力糸から出来ている。

 一応は網の持つ魔力にステルス化を施してある。


 俺の魔力の込め方が半端ではないので、こんなこすっからいだけの冒険者には絶対に破れない。

 体全体を絡め取って、そのまま前後から吸い付く感じだ。

 これが二枚合わさると見事なまでにぺったりと融合する。

 完全包装のサンドイッチ構造である。

 更にその上から、今度は丸見えとなる太くて丈夫な魔力網を被せておけば完璧な包装だ。


 いやむしろ、金属製のワッフル焼き器の中で焼かれる、ワッフルや肉まんあたりの運命か。

 ふっふっふ、Sランクな死神君よ。

 この稀人特製の二重構造をしたスペシャル魔力網から逃げられるものなら逃げてごらん。


 まるで真空パックされたみたいに身動きが取れない状態だ。

 弾力のある網状なので、力任せに引き千切る事もできない。


 これはホットメルトシャワー並みにやっかいな代物だ。

 俺はカスミ網で見事にSランク冒険者を密猟した。


 鑑定によると、リック・フォン・アスペラルド伯爵Sランク冒険者とある。

 どうやら本人に間違いないようだ。


 さて仕留めるといっても、実は殺すわけにはいかなかったのだ。

 こいつは帝国の正式な貴族なのだから。

 それをネタに両国が紛争になり、敵に侵攻の口実を与えかねない。

 こいつをどうするのかは既に考えてあるのだ。


 だが、俺には少し尋問したい事があった。


「おい、お前はリックだな。

 一つだけ訊きたい事がある。

 お前は今までどこで何をやっていたんだ。

 ずっと探していたのに、全く見つからなかった。

 そして、いきなりここへやってきた」


「ふん! そんな事もわからんのか。

 第一、お前は俺と既に会っているのだぞ。

 この間抜けめ」


「なにい!?

 そ、そんな馬鹿な!」


 俺は必死で記憶を検索してみたが、そのような心当たりは存在しなかった。


「ふっ。旨かったか?」


 え?

 俺の怪訝そうな顔に、奴は満足そうな笑みを唇に張り付けた。


「俺の焼いたお好み焼きは旨かったかと聞いているのだ。

 あれはなかなかの料理だな。

 バランの奴はお前が稀人だろうと言っていた。

 お好み焼きは、お前やこの国の初代国王の故郷の味か?」


「さ、さあなんの話だか、俺にはさっぱりわからんな」


 わかった!

 畜生。

 こいつは、夏祭りの時に屋台でお好み焼きを焼いていた奴だ!


 この街で屋台の修行をしながら襲撃の機会を待っていたのか、なんて野郎だ。

 変装していたからわからなかった。

 ル○ンかよ。


 どうりで帝国を捜してもいないわけだ。

 ああいう時ってセブンスセンスは何故か警告を発さない。


 さては面白がって、わざと黙ってやがったなあ!

 あの時はリックも攻撃の意思はなかっただろうし。

 これだから『俺の中のあいつ』には困ったものだ。


 くっそ、こいつの焼いたお好み焼きは、めっちゃ旨かったわ。

 大絶賛して褒めまくっちまったよ。

 リックの野郎も、さぞかし面白がっていたんだろうなあ。

 く、悔しい~。 


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