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9-8 2人のSランク

 とりあえずは、また情報収集だな。

 まずアーモンのところへ転移する。


「ちわ」

「今日は真っ当に転移で来たな」


 奴は仕事しながら殆どこっちを見ないで言う。

 最近は俺の扱いが非常にぞんざいだな。


「酷いな、ギルマス。

 まあいいや。

 帝国の皇太子の話を聞いたかい?」


「ああ、もっぱら暗殺されたという噂だな。

 だが実際はどうなんだか」


 書類を捲りつつ、ギルマスも思案顔で懐疑的な意見を寄越した。


「見てきたけど、皇太子は第二皇子に幽閉されているみたいだ。

 ちょっと部屋の中までは入れなかった。


 皇帝本人は毒を盛られてベッドの上だ。

 毒見係は何をしてやがるんだ。

 第二皇子に抱き込まれているのかな。


 どうもここのところ、皇帝がずっとこっくりこっくりと眠ってばっかりいやがると思ったら。

 蓄積するタイプの徐々に効く毒なんかを、食事の際に気が付かない程度の少量ずつ盛られていたかな。

 下手人は第二皇子っていうか、たぶん瞬神ニールセンだな。

 第二皇子は、ただのぼんくらな神輿だ」


「そうか。

 じゃあ、また一波乱あるな」


 アーモンは書類を脇にのけて、椅子に背をもたれさせて思案している。

 気を利かせてコーヒーを出してやった。


「ねえ、いっそ皇帝を俺が治しちゃおうか。

 ゴッドポイズンヒールなら余裕で治せるぜ。

 あの第二皇子がどんな顔をするかな」


「やめとけ。

 今の帝国皇帝は、それなりの傑物だ。

 絶対に起き上がらせてはならん。

 寝た子を起こすな」


 コーヒーを啜りながら、手をひらひらとさせてギルマスが諫める。


「じゃあ、やる事は一つだ。

 敵のSランクを片付けないとな。

 ケモミミ園を襲ってくるだろうSランクというのはどんな奴らだい?

 それを訊きに来たのさ」


「そうだな。

 一人はリック。

 こいつは、こすからい野心家だ。

 多分こいつが来るな。

 あれは要注意だぞ。

 お前は妙に素直なところがあるから、そういう相手には弱そうな気がする。


 あと、もう一人は慎重なタイプのバランだ。

 こいつは様子見をするはずだ。

 お前は奴らから見て危険過ぎる。

 あいつは聡明な男だ。

 お前が稀人かもしれないと見当をつけているんじゃないか?」


「なるほど。

 そいつらって、つえーの?」


「リックはそうたいして強くないが、狡猾な手で攻めてくるはずだから性質が悪いぞ。

 バランは剣も魔法も超一流だ。

 非常に厄介な超高熱スキルを持ち『灼熱のバラン』の二つ名を持つ。

 その上魔法全般もスマートに使いこなす、非の打ち所の無い強者だ。

 お前みたいに馬鹿みたいな魔力は持っていないはずだがな」


「うーん、そうか」



 帝国のSランクなんて、そうたいした事ないと思っていたのだが、少なくともバランの方は要注意だな。

 リックの性質が悪いという評判も気にかかるが。


 うちは割と脳筋系な人材が多い。

 狡猾な絡め手には弱いかもしれん。

 そもそも瞬神なんていう厄介な奴が相手なんだからな。

 どこかにいい人材はいないもんだろうか。

 帰って作戦会議しよう。


「リックは厳つい顔立ちで、体付きがそこそこガッチリしていて髪は短い金髪で顔は面長。

 目は青で身長はアントニオと同じくらい、つまりお前より頭半分高いくらいか。

 十分に気をつけろ」


「ラジャ」


「あと、バランは髪は焦げ茶で目もブラウン。

 背はお前とそう変わらないくらいかな。

 ちょっと隠遁な雰囲気で、一見すると学者かと思うような風貌だが、それは見せかけだけだから気を付けろ」


「わかった、ありがとう。

 じゃあ帰る」



 そしてケモミミ園でまた緊急防衛会議を招集した。


「というわけで作戦会議だ」


「また唐突だね。

 まあいつもの事だけど」


 アルスはおチビ猫の馬を務めている。

 捨てられてしまったのか、葵ちゃん。

 おチビも最近はアルス号が御気に入りのようだ。


「おチビ~。

 ちょおっとおいちゃん達は大事な御話があるから、あっちで遊んでおいで~」


「いーや!

 アルスちゃんともっとあそぶ~」


 あらまあ、しょうがないな。

 じゃあ、ここはとっておきを出すか。

 風魔法で吹き上げて、おチビを空中でくるくると回す。


 そして、それをロックオンしている奴らがいる。

 当然の耳ピンで。

 だからやりたくないんだよな、これ。

 一旦始めるとキリがねえから。


 おチビがきゃっきゃっと言いながら、ミミや尻尾は言うに及ばず、両手両足、全身で楽しさを表現している。

 だが、やめると途端に駄々捏ねニャンコが誕生する。


「もっと~、もっと~」


 その上、遊んでほしい他の奴等が達磨さんが転んだの如くに、にじり寄ってくる。

 そこですかさず、真理がチビを抱き上げて頬ずりした。


「レミちゃん、あっちで葵ちゃんが遊んでほしいんですってー」


「しょうがないなー、あおいちゃんはー。

 あそんでやろー」


 真理さんや、フォローしてくれるのは大変ありがたいのですけれども、貴女も会議メンバーの一人なのですが。


 他のにじり寄ってきた奴等にも取っておきをくれてやった。

 水鉄砲、しかも日本にある長物の銃の形をした本式の奴である。

 それに魔石が組んであって、水魔法で水タンクの水をリロードできる。

 これなら、しばらく奴らの興味も持つだろう。


 実演で使い方を教わった新しい得物に目を輝かせたミミ付きの蜘蛛の子達が散っていった。


「部屋の中だと水浸しになるから、外で遊べよー」


 うちのオモチャは無駄に高性能だ。

 ここでは、これくらいしないと大人が本格的な会議をやれないから困ったものだ。


 エド達もやってきて、真理がホーミングしてきたので会議を始めた。

 横目で葵ちゃんが楽しそうに馬をやっているのをちらっと見ながら。


「さて、アーモンから聞かされた話なんだが……」と先ほどの情報を伝える。


 アルスが、いつも通りの飄々とした感じで口火を切る。


「バランは一緒に仕事をした事があるなあ。

 そして不幸にも仕事以外でも敵として遭った事があるよ。

 冷静な男で無駄な事は一切しない、本当に怖い男さ。

 無論、真正面からの力勝負なら君が負けようはずもないが、彼はそういう戦法を取らないだろう。

 性格は君と真反対だけれど、やる事は似ているかもしれないな。

 用意周到で確実に勝利を狙ってくる」


 うーん、アルスにそこまで言わせるなんて、バランはかなり手強そうだな。

 俺はコーヒーを啜りながら続きを促した。


「奴等二人が組んで攻めてくる可能性は?」 


「多分無いと思うよ~。

 あの二人は仲が悪いらしいから。

 なんといってもリックの奴が悪辣すぎるんだ。

 胸糞だからねー、あいつ。

 僕もあいつと組むのだけは御免だな。

 味方だってどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。


 バランの方はまだ真面な感じがするね。

 逆に何を考えているのかわからないような怖さはあるんだが」


「それはそれで、また嫌な情報だな」


「だからさ、帝国もそれを知っているから、あの二人を無理に組ませたりはしないんだ。

 仕事を失敗する確率が高くなるからね。

 あいつらは伊達に帝国がSランクに上げたんじゃない。

 仕事で失敗した経歴が無くてね。

 まあ手段を選ばないっていうのも、その理由の一つなんだけどね」


 もっと嫌な情報だな。

 そうか、てっきり帝国が見栄を張ってSランクの数を確保するため強引にSに上げたのかと思っていたのだが。

 あの国ならそれも普通にありそうな事なので。

 あのアントニオのAランク試験における強引さは忘れられないぜ。

 だって、うちの関係者以外では今は帝国にしかSランクがいないからな。


「一時的に子供達を疎開させた方がいいだろうか?」


「その必要は無いんじゃないかな~。

 防御だけなら王宮より、こっちの方が凄いしね。

 それにセーフハウスに立て篭もって、そこで襲撃を受けたら一体どこへ逃げるつもりなんだい?」


 確かに、そう言われればそうなのだが。


「真理とエドはどう思う?」


「そうね。

 確かにここにいたほうがいいと思うわ。

 この魔王城が一番安全な場所だと思うの」


「おい!」


「それに、避難生活をさせると子供達は不安がるわ。

 まだ来てそう間もない子なんか特に。

 膝を抱えて蹲る子供はもう見たくないわ」


 千年前には、そういう子をたくさん見たのだろうか。

 真理は昔の悲惨だった時代の話をあまりしたがらない。


「確かにな」


「第一、それぐらいなら魔王さん。

 貴方がSランクを狩ってきてくれれば済むんでしょ」


「まあな。

 それも一興だな。

 うちの子達に手を出されるくらいなら、そうするわ。


 いっそ第二皇子とかの首を獲ってやればいいんだが、それは無理があるしな。

 平時に奴等の首なんかを獲ったりすれば豪い事になるぞ。

 俺のいた世界では皇族暗殺を発端にして、多くの国々が巻き込まれた凄まじい世界大戦が勃発した事がある。

 下手をすれば、それに端を発して帝国と即時開戦だ。

 証拠が無くたって、連中ならいくらでもでっちあげるだろうよ。

 皇族が死んだという事実だけで十分だ。

 それに向こうだって、この国の王の首を狙ってきているわけじゃない」


(こいつの首を狙うのは王の首を獲るより無謀な事だと思うのだけれど)


「エドは警備責任者として、どう思う?」

「そうですねえ」


 エドは御茶受けのクッキーに手を伸ばし、一口齧るとおもむろに話を続ける。


「やはり、ここでの防衛が望ましいでしょう。

 ただし、敷地外への子供や職員の外出は当分の間御避けになった方が。

 御使いでよい用件ならば、我々冒険者が行きますので。

 危ないと思ったら子供は建物の中へ退避、場合によっては私の判断でチームエドが非戦闘員全員をセーフハウスへ転移魔法を用いて移動します。

 その場合の行先は、まず第一退避先である王宮となります」

 

 スパスパと冷静に語っていくエド。

 最近は、すっかり防衛の責任者が板に付いている。

 まだ若いくせに元から物凄く落ち着いている奴なのだが。


「あなたは状況に応じて動いてください。

 ここに残って防衛に徹するのか。

 それとも奴らの動きを見て危ないなと思ったなら、奴らを倒しに行っていただいても構いませんし。

 色々と貸与された装備もありますし、アルスや真理さんにも遊撃で動いていただける。

 それにベテランBランクの方が御二人もいてくださいますから」


 ふむ。

 俺は顎に手をやって、そのBランクに訊いてみる。


「Bランクの御二人は如何です?

 この中では一番経験も深く、思慮深いベテランだ」


 まずベリルが賛同の意思を示してくれた。

           

「そうだな。

 とりあえず、それで悪くないだろう。

 気になる問題があったら都度エドに打ち上げる。

 召集する必要があるならまた会議をしよう」


「了解。

 ジョンソンは何か?」


「うむ。概ね良いとは思うのだが……。

 正直言って、あのリックが絡んでいるのがどうにも気にかかる。

 いや、気にかかるというよりも苦になるといったほうがいいか。


 どうにも胸騒ぎがする。

 こういう物は疎かにすべきではないと思っておるよ。

 そいつは長年の経験から来る物なのだがな。

 まあ心しておくだけは、心の片隅にでも気に留めておいてくれ」


 ドキっとする。

 セブンスセンスというか、その手の何かを感じとる能力は別に俺固有の能力ではない。

 人間なら誰でも「原始の本能」として遺伝子の中に持っているものだ。

 狩る者と狩られる者の持つ、本能的な0タイムラグの感覚知覚。


 イメージ的に一番近しい存在が尾骶骨ではないだろうか。

 俺達人間にも尻尾はあるのだ。

 ただ退化しているだけで。


 この世界に生きる冒険者のような者、殊にBランク以上の上位者は大なり小なりそういった特別な能力持ちだと思っている。


 俺の場合は別に『能力ではない』のだが。

 俺がセブンスセンスと呼ぶ力は、ただ『俺の中のあいつ』と呼ばれるような『者』に過ぎないのだ。


 ファンタジー小説の主人公など、あれだけ次々とピンチに見舞われて、本来この手の力を使っていない人間などいるわけがない。

 そんな奴はすぐ死んでしまう。

 全員必ずその手の能力持ちだ。

 きっと、それぞれの作者の都合で御話を端折っているのだ。


 映画の中のヒーローだって現実世界ではすぐに死ぬ。

 それを演じている有名俳優だって、バナナの皮を踏んで転んで頭を打ったって死んでしまう。


 だから、こういう発言にはドキっとする。

 ジョンソンは、またこのように続けた。


「死神リック。

 何かの作戦・仕事の後で、あいつ一人だけが生きて帰る事も珍しくない。

 目的のためなら味方も一人残らず全て盾、消耗品扱いにする冷徹な男だ。

 それどころか、任務遂行のために必要とあれば積極的に贄として使い潰す。

 そのえげつなさは折り紙付きだ。

 まあそういう男なので、真っ当な方法で来ないっていう事がわかっているだけでもマシか。

 それに対する事前の対策など特に立てようもないがな」


 うーむ。

 またしても特に聞きたくもない情報を、どうもありがとう。

 こりゃあ格下などと侮っていると、とんでもない事になるな。

 ましてや、相手は曲りなりにもSランクなのだ。


 死神Sランク、死神リックか。

 心してかかるとしよう。


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