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9-7 夏祭り目指して

 今日はケモミミ園に総出で集まって、皆でわいわいとやっていた。

 エリ一家に商業ギルドの職員さん達や代官、それから王都の行き着けの洋裁店の主任や御針子さん達まで来ている。


 そういう訳でもう、うちの洋裁グループの女の子達が大騒ぎしている。

 悪いな、今日は洋裁の講習じゃないんだけど。


 浴衣を色々と作成し、皆に試着させてみた。

 ネットを見ながら、みんなですったもんだしながら着付けた。


 御針子さん達は、ケモミミ園の皆が操るミシンを見た途端に目の色を変えた。


「こ、こんな世紀の大発明が日の目を見ずに、こんなアドロスの隅っこで埋もれているだなんて!」


 早速、ミシン作業にチャレンジする御針子さん達。

 葵ちゃんや真理、リサさん、あとミシンを使えるようになった元冒険者の職員さんなどが親切に指導する。


 何気に冒険者は器用な人が多い。

 不器用な奴はとっくの昔に魔物の餌に……いやいや。

 な、中には物凄く不器用でも世界最高ランクのSSランクまで上り詰めた素敵な冒険者さんなんかもいましてよ。


 御針子さん達は、最早熱狂の渦の中にあった。

 とりあえず彼女らにはミシンを貸与する事にした。

 うちの関係の被服をしっかりと作ってもらいたいので。


 俺の方は商業ギルドの職員さん達と一緒に夏祭りの打ち合わせをやっていた。

 浴衣を着て、縁側付きの畳の部屋で茶でも啜りながら。


 食い物屋台はもうあれこれとOKで、輪投げ・水風船のヨーヨーなども始める。

 輪ゴムやゴム風船などは既に作ってあるのだ。


 水風船のヨーヨーのために、ガスボンベ代わりの風魔法を使った空気入れのような魔導具も作成済みだ。

 これがないとヨーヨー担当が悲惨な事になる。

 俺は昔、それをやっちまったんだよね。


 あんなにヤバイ、皆が嫌がる貧乏くじの屋台だなんて知らなくてさー。

 会社の屋台なんで、ボンベなんて良い物はなかったのだ。

 そういう物もちゃんと借りておいてくれよな。

 まだ屋台の選択には余裕があったのに、会合にて自らそれを選んできたんだよね。

 皆には大いに嘆かれたもんだ。


 だって水風船のヨーヨーって楽しそうだったもんで。

 俺、あれが結構好きだったんだよね。

 取ってからもずっと楽しく遊べるアイテムで、バシャンバシャンと音が鳴るのも最高だった。

 また風船のデザインが素敵な物が多かったのだ。

 食い物屋台とかは面倒な気がしたしね。


 ま、俺なんかを係にして任せればそんなものさ。

 そんな話も今じゃ、ただのいい思い出だ。

 御祭りであれだけは外せない。


 弓矢を使った射的もある。

 先に付ける吸盤も作ったし。

 あれは自分の家でも結構使っていたので再現は楽だった。


 だが本来ならば屋台の目玉となるはずの金魚掬いが無いのだ。

 もちろん、あれば子供達が喜ぶに決まっているのだが、肝心の金魚自体がいないので話にならない。

 道具だけは作ったんだけどな。


 残念ながら代用で使えそうな手頃で綺麗な魚がいないんだよなあ。

 いかにも地味そうな鮒掬い(ふなすくい)とかじゃパッとしないだろうし。

 それに野生の魚って、掬われるまであんまり大人しくしていない気がする。

 

 想像してみようぜ。

 高貴な王子様や王女様達が、金魚掬いの道具で鮒やハゼを掬っている映えない絵を。

 さすがに、うちの催しとしてはちょっとね。


 ウナギやドジョウなんかだと違う意味で面白いのかもしれないが、これじゃない感でいっぱいだ。

 それだと、どっちかというと掴み取りの世界になっちまうしなあ。


 金魚は人工的に改良された品種だから天然で存在していないしなあ。

 日本の金魚が一番綺麗らしい。

 確か、名古屋の西側地区でも大規模な金魚の飼育が行なわれていたはずだ。


 錦鯉と金魚は、さすがの俺にも作るのが難しい。

 アイテムボックスの中で加工して作るわけにはいかないからな。

 何もないところから狙ってあんな生き物を作り出すのは、生物学者にだって厳しいのではないか。


 どこかで使えそうな代用品を捜してこないとな。

 この際だから、いたら魔物金魚でもOKだ。

 とりあえず金魚掬いは継続審議となった。


 食い物でも、焼きトウモロコシは出来る。

 もちろん醤油味だ。

 ソース味もあるけどね。


 ただ、とりあえずイカがないので、イカ焼きも諦めざるを得ない。

 イカ焼きも金魚掬いも無い、しょぼい夏祭りかー。


 あと型抜きはちょっと難しいかな。

 あれは結構デリケートな物だから俺にも作るのが難しい。

 そもそも、俺はやった事がねーんだ、あれ。

 全然イメージが沸かないわ。

 原料は確か落雁みたいなものじゃなかっただろうか。

 違ったかな。

 興味がないので調べた事すらない。


 これについては、製造段階での技術的な問題から継続審議とさせていただいた。

 これは俺にとっては非常に珍しい事だ。

 他の皆からも驚かれてしまった。


 俺が、こんなありきたりの物を作れないなんてな。

 ベスマギルとかミシンなんかの超難しい代物は作っちまうくせに。


 お面や風船も欲しいな。

 お面は自重無しにプラスチックで試作してみた。

 一応デザインはこの世界のもので作る予定だが、どうしようかな。


 風船は既にヨーヨーで取り入れているわけなので、ヘリウムガスのボンベと充填機を工夫してみた。

 ヘリウムは微量だが空気中に普通に存在するしね。

 それからコピーを取ればいい。

 日本だと、ほぼ外国からの輸入に頼っているらしいが。


 風船を試作したら、うっかりと手を放して飛んでいってしまった物を、特に猫族が必死になって追いかけていた。

 うーん。


 そんなこんなで、もう全員一丸となって夏祭りに向かって邁進していた。

 商業ギルドでは、とにかく食い物屋台の充実に全力を尽くした。

 だが、それ以外の屋台も無いと寂しいものになってしまう。


「そんな祭りは、もし初代国王船橋武が見ていたら、がっかりするだろう!」


 そう言い切ったら、初代国王を崇拝しているアドロス商業ギルド・ギルマスのロゴスが超必死になって激を飛ばしている。

 そんな感じで、夏祭りへの熱狂がアドロス全体を押し包んでいった。



 王宮へ転移して、国王陛下に夏祭り開催の御知らせをしてみた。


「かつて船橋の姓を持つ者が楽しんだスタイルで祭りをやります。

 もし、それを初代国王が見たならば郷愁のあまり膝を付き、嗚咽したであろう祭りです。

 ただ一つ問題がありましてね。

 帝国の奴らがちっとも攻めて来ないんで、落ち着いて祭りを開催できないのですよ。

 帝国に破壊工作とかを食らったら嫌ですから、いっそ帝国の皇太子あたりを夏祭りに招待しちゃ駄目ですかね」


 これには、さすがの国王陛下も面食らったようだ。


「なぜそうしたがる?」


「だって、人質がいたらいいじゃないですか。

 奴の事は俺が全力で守るから大丈夫ですよ~」


「それはさすがに無理じゃ。

 今は帝国と戦争前夜なのじゃぞ。

 招待したって向こうの皇太子が来る訳がなかろう。

 それに万が一の事があってはいかんしの。

 とにかく帝国に開戦の口実を与えるような真似は厳禁じゃ!」


 ちっ、アルバトロス王国の真祖・船橋武の名前でも、この船橋武フリークな王様を釣れなかったか。


「じゃあ、とりあえず敵Sランクだけでも潰しておきますね」


 そういって謁見の間から退出した。



 とかなんとか言いながら、すぐにケモミミ園へ戻って祭りの仕度の続きを始めた俺。

 色々と作って見せる度に、子供達の可愛らしい耳がわふわふと揺れる。

 なんとも楽しくてしょうがない。


 もういいや。

 帝国の奴が攻めて来たら殺す。

 ただ、それだけだ。


 本来なら、俺は滅多な事では敵を積極的に殺さない主義なのだ。

 日本でだって、そのような真似はやった事はない。

 普通に法を遵守する、ただの一般市民だったのだから。

 いくら荒っぽいのが身上の三河人(首狩り民族)だからって、戦国時代の頃じゃあるまいに。


 三河人の何が性質悪いかっていうと、日頃はすっごく大人しい人畜無害な振りをしながら、異世界へ来るとかで日頃は強引に抑え込んでいる(たが)が弾け飛ぶと、平気で大暴れ(首獲り物語)を始めちゃうところだな。


 その辺りの事情は、地元の警察からも頭を抱えられるほどの厚い信頼があったりする、日本国内でも有数の大問題民族なのだ。


 しかも俺の日本における地元は「全国でも有数に治安が悪い街ですから防犯対策の講習をやります」という警察からの御触れが『町内の回覧板』で回ってきちまうくらいアレな街なのである(ノンフィクション)。

 あれもかなり需要があったとみえて、二回目には広い会場を使って倍の人数にパワーアップしていたし。


 だが、そういう気合の入っている(野蛮な)ところが地元の製造業(産業日本一)にも大いに影響(こうけん)している気がするので、地元民は敢えて「功罪相半ばするという事でプラマイゼロだ」と強引に主張している。 


 この前のAランク試験の時は、敵地で自分達が襲撃されまくっていたので仕方がない。

 相棒のアントニオが狙われていたんだからな。


 最初の時も村が襲撃され、俺も直接襲われて殺されそうになったのだから。

 まあ、あれは夢中で反撃しただけだ。


 しかし、今回だけは絶対に襲撃者を生かしておけない。

 大事な子供達を守れなくなるからだ。

 ただ、守りに徹していないといけないので、それがしんどいな。

 その代わり敵が来たら絶対に斃す。


 後はもう夏祭りに向かって全開で向かうのみだ。 

 帝国から帰って二週間が経ち、日本では七月を迎えようとしていた。

 夏祭りまで、あと一か月ちょいを残すのみ。


 それからの一か月というもの、とにかく祭りの準備に邁進した。

 そして、なんとか無事にアドロス夏祭りを迎えることとなった。



 日本では、今日は八月三日。

 しかし帝国の奴は誰一人来なかった。

 設置してあったカメラも異常を知らせる事はなかった。


 たまに帝国へ見に行くが、帝国のあいつらは相変わらずの調子だ。

 なんなんだかなあ。


 そのうちもう、半ば見に行くのも忘れてしまった。

 カメラも設置してあった事すら忘れていたし。

 後で忘れずに回収しておかないとな。



 とにかく浴衣は色とりどりの物を用意した。

 おチビ猫には、日本でも大人気の可愛らしい猫キャラクターの浴衣を葵ちゃんが作ってくれた。


 草履の種類もぐっと増やしたし、靴も夏っぽい感じの物を多数用意した。

 団扇、法被、御神輿、風鈴、(すだれ)、灯篭も作ってみた。

 かなり祭りの雰囲気は出ているように思う。


 葵ちゃんは大喜びだ。

 まるで日本のお祭りだ~っていう感じで。


 皆が初めての異世界夏祭りを楽しんでいた。

 だが俺はビールとかのアルコール類も決して飲まなかった。

 御祭りには提供したんだけどな。


 奴らは必ず来る。

 あの極悪非道の帝国が、計画通りに攻めて来ないはずはない。


 うちの兵隊は戦闘態勢にある。

 しかし、三日間の祭りの間に誰も襲ってくる事は無かった。

 一体どうしたというのか。


 だが、その答はアントニオからの電話でもたらされた。


「おい。

 帝国の噂は聞いたか?

 皇太子が暗殺されたという」


 なんだそれは。

 俺は聞いてねえぞ。


「いや初耳なんだけど」


 ひょいっと彼のマーカーを見てみた。

 ちゃんと御健在であられる。

 これって対象人物が死ぬと勝手に外れちゃうからな。


「今マーカーを確認したら、皇太子は生きているぞ」


「そ、そうか。

 だが、巷ではもっぱら死んだっていう噂だな。

 こいつはまた見事に一波乱あるぞ」


 そんな事を言われたものだから、ちょっくらMAPでマーカーの位置を見てみたら、やはり帝都ベルンの宮殿の中だった。

 気になるのでちょっと覗きにいったら、その場所の入り口には、ものものしく武装した兵士が二人立っていた。


 まさかの幽閉?

 ちょっと中までは御邪魔し辛い雰囲気だな。

 そういう事なので第二皇子のところへ転移する。

 幸い、その部屋へは入った事があったので。


「ふはははは。

 ドランの奴め、ざまあみろ。

 ついに蹴落としてやったぞ。

 後は煮るなり焼くなりしてやるだけだ。

 ふふっふふふっ、はっはーっ」


 あらあ、勝利の高笑いを響かせている御方がいらした。

 まあ俺としては王太子よりも、こいつの方がある意味でやりやすいんだけど。

 こいつの作戦って成功した試しがないんだし。


 そして皇帝のところへ転移した。

 だが、なんだか臥せっている様子なので、ちょっと鑑定してみる。


【ベルンシュタイン皇帝 状態 毒(大)】


 あはっ、シャリオンちゃんったら、なんて御茶目な真似をやらかしているのかねえ。

 あー、最近失敗続きで(俺のせいだけど)、しかも元々出来が悪かったらしいし。

 御兄ちゃんが仕事の山を抱えている時にも、真昼間から女とハッスルしていたもんね。


 やはり寝物語は無理をしてでも聞いておくべきだったか。

 こいつなら自分の女に自慢げにペラペラ喋ってそうだ。

 クーデターだよな、これ。


 そもそも第二皇子なんだもんね。

 こうでもしないと最初から目が無いわなあ。

 黒幕は、あの瞬神あたりか?

 となると、ここからSランクが動いてくるのか。


 どうやら敵は真っ当には来そうにもないな。

 やれやれ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 俺思うにハンドル持った三河人と茨城県民と大阪人は 信用してないぞ? そんなに急いでもこの渋滞だと着くの5分と変わらんよ? 何故信号の停止線をズルズル動くオマーラは? 馬鹿じゃないの?
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