9-4 迎撃準備
まず安全退避先第一号として、ズバリ王宮をドラフト一位に指名した。
国王陛下に御強請りして、それはあっさりと認めてもらえた。
ここは魔法が疎外される上、王国騎士団や公爵家騎士団に国軍がびっしりといる場所だから心強い。
退避先二号は大神殿を指名する。
そっちはジェシカ嬢に取り次いでもらって御願いしてみる。
ここは特別な結界があって許可がないと侵入不可能だ。
魔法疎外の効果がある王宮へも入れてしまう、俺の強力な転移魔法さえも弾かれたくらいだ。
はっと気が付くと精霊に魔力をチュウチュウと吸われていて、またしてもジェシカの怒声が響き渡る。
退避先三号は王都以外という事でエルミアにしてみた。
とりあえず教会で御願いする。
ここへ来るのも久しぶりなんで、御土産のバリエーションはたっぷりと増えた。
それを見て湧き上がる子供達の歓声。
ここは武力に欠けるんで、緊急時のみの退避オンリーだな。
エルミアでのメインは冒険者ギルドで、最悪は最初にいた村あたりか。
もう知り合いのところばっかりを、ざーっと回ってきた。
次に装備の見直しを図る。
色々と作り散らかしてきたので、あれこれとぐちゃぐちゃな感じだし。
使いやすいので、いろんな物を腕輪型にしていたが、これを変えるのは保留にした。
武も腕輪にしていたしな。
自分的には手首って一番切り落とされそうな部位なんで、どうかなとは思う部分もあるのだが。
まあ今回はそのまま腕輪で行くか。
武もそうしていたのは、使い勝手が悪いのは命に関わるという事もあったんだろう。
俺も最初は使い勝手を考えて、腕時計を改造して使っていたくらいだし。
変なアイテムにすると落としそうだしな。
それもあって腕輪にしたんだが。
指輪もすぐ外れそうだし、あまり小さいと何か頼りない。
形は洒落たブレスレット型にするのも悪くない。
ただ、どうしてもシンプルで壊れにくい丈夫そうな腕輪になっちまう。
この辺は「質実剛健」をモットーとする地域で生まれ育った影響だな。
あとはペンダント・ネックレス等かな。
この辺りのアイテム形状は、状態異常か防毒用のアイテム用に腕輪と区別して使いたいとか思っていたし、大いに迷うところだ。
アイテムボックスと転移と分けているところも、転移魔法を持たせる人には一個に統一するか。
バージョンアップをしたり追加装備を渡したりもするしな。
あまり腕輪ばかりを、じゃらじゃらと何個も付けているのもなんだ。
間違えそうだし。
そういう事なので、まずはエリのところへ転移する。
MAPで見たら職業訓練所にいた。
指導に来ているんだな。
「よっ」
「あれえ、アルお兄ちゃん。
どうしたの~」
エリが不思議そうに聞く。
俺がこっちへ来る事なんかそうないしな。
「ちょっと色々あってな。
エリのアイテムボックスの腕輪に転移魔法をつけさせてほしい」
「え、どうして?」
確かに、こいつは御大層な物だからなあ。
そんな物を普通の人間が持っていたりはしないからな。
俺はちょっと言い淀みながら、きちんと説明をしてやった。
「お前の家は俺の関係者なんで狙われる可能性がある。
相手は隣の帝国だ。
帝国はこの国に攻め込んでこようとしている。
奴らは俺や他のSランクを戦争の前に殺そうとしているんだ」
「そっか……」
少し眉を寄せて考える風だ。
家族に何かあったらと思ってるんだろう。
「あと、マーカーというものを腕輪に付与させてくれ。
マーカーは俺のMAPというスキルで居場所が一目でわかるものだ。
そいつの欠点として使える数に制限があってな。
それは敵に使いたい。
その腕輪みたいなものは俺のアイテムボックスの中でマーカーを付与すれば、マーカーとして使える。
エリみたいな身内の子にはこっちを使ってほしいんだ」
「うん、わかった。
ありがとう。
御願い」
腕輪に転移魔法を組み込み、一応断ってからもう一つ回復魔法を組み込んだ。
使い方は練習させよう。
一応、この腕輪はエリしか使えない仕組みになっている。
だからベスマギルとゴッド系回復魔法も組み込んだ。
「後なあ、これを渡しておこう」
それはスマホだった。
正確には魔導通信機だな。
魔改造し過ぎて、もう中身はスマホの面影なんてどこにもない雰囲気だ。
電話番号を各通信機に合成するというシンプルな方法で、個別の識別に成功したのだ。
このあたりが魔道具の便利なところだな。
使い方を教えてやったら目をキラキラさせている。
ああ、この子もやっぱり女の子なんだな。
下にも二人小さい子がいるし、そっちも一人は女の子だ。
しばらく電話攻勢が続きそうだな。
アントニオにも新しいスマホを渡しておいた。
奥さんの分も欲しいといわれたので、それも渡した。
こいつは安否確認に使えるから都合がいい。
あそこは夫婦でいちゃらぶコールばっかりしてそうな気もするが、まあ新婚だからそれもいいさ。
メールの機能もついている。
この世界の文字で使える物だ。
このあたりは真理にも手伝ってもらった。
武の助手もさせられていたらしいので、そういう方面も多芸らしい。
それから、王都の冒険者ギルドへ移動した。
「ギルマスいる?」
「部屋にいますよ」
出迎えてくれたサブマスのレッグさんが教えてくれる。
一応コンコンとノックはしておく。
「入れ」
「ちーす」
「ほお! お前がちゃんとそこから入ってくるなんて、雨でも降らなきゃいいが」
仕事が溜まっているのか、少し眠そうな顔でアーモンが答える。
「何、降るのは血の雨だろ」
そしてスマホを渡した。
「なんだ? これは」
「これはスマホといって、離れた場所にいる相手と連絡が取れるものだ。
頼むから持っていてくれ」
「また、お前はそういうものをバラまく」
「あんたには持っていてほしいんだ。
それとアイテムボックスを貸してくれ。
バージョンアップする」
「何を付けるんだ?」
若干警戒気味にアーモンが聞く。
「転移魔法と回復魔法を付与する。
あとマーカーを付けたい。
あれこれとヤバイ雲行きだから、やらせてほしい」
「うーん、そいつもまた考え物だが、まあこの際だから仕方ないな。
そのマーカーっていうのはなんだ?」
「俺のレーダーにあんたの居場所がくっきり映る。
魔道具を持たせたり出来ない敵には使えない。
オリジナルのスキルは十個しか使えないんでな。
敵の雑魚には発信機代わりに何か持たせてもいいが、味方はこれを使って欲しい」
「わかった、やってくれ」
まるで犯罪者がGPS機器を装着させられたみたいに、常時自分の居場所が俺にわかってしまうというリスクに対して了承をもらい、腕輪を受け取るとアイテムボックスの中で加工する。
ついでに俺の作った魔法も突っ込む。
それと特別製のオリハルコン剣も投入しておいた。
戻ってきた腕輪の中身を見てギルマスは少し顔を顰めたが、結局何も言わなかった。
俺がそうした事の意味を汲んでくれたのだろう。
それからケモミミ園へ戻って、アルスの腕輪もフル換装した。
こいつはいちいち訳なんか聞かない。
そういう乗りの男だし、だてにSランクじゃない。
あれこれと文句が帰ってこない分、アントニオよりも更に話が早い。
もちろん新型スマホも渡しておく。
これでSSの俺、Sのアントニオとアルス、それに元Sランクで今でも現役顔負けのギルマス・アーモン。
この面子が世界中どこにいても連絡が取れるようになったし、転移魔法で即集合できる。
たとえダンジョンの中でも、一部の魔素が乱れた圏外地域を除けばスマホで会話が通じる。
よく考えて、「ルーバ爺さん」にも緊急連絡用に一つ預ける事にした。
国王陛下に渡すのは少し躊躇われる。
軍に使いたいと言われると抵抗がある。
これは仲間内だけで使いたいのだ。
あとスマホはチームエドにも貸与した。
彼らには転移魔法などを備えた新型腕輪も渡しておく。
これで、いざとなったら彼らが子供達を逃がしてくれる。
この辺は信頼関係で渡した。
むろん、いつでも腕輪の機能はスイッチを切れるし、ホーミング機能で回収できる。




