表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/1334

9-2 皇帝宮にて

 今日は帝国の皇帝ちゃんのところへ遊びに行く事にした。

 目的は皇子どもにマーカーを付ける事だ。

 特に第二皇子の方へ。


 そして転移早々に第二皇子の野郎の面を拝む事になった。

 奴は玉座に座る父親の皇帝と向かい合っていたのだ。


「皇帝陛下、アルバトロス王国への侵攻はいつに?」


 こいつめ。

 のっけからいきなり、なんて事を言うんだ。

 この場でこいつらの首を刎ねておきたい気分になる。


 この第二皇子め、パッと見に性格が悪いのが一目でわかるな。

 短髪にした金髪、酷薄そうな目、同様の薄い唇、そして顔付きも。

 俺の大嫌いなタイプだ。


 これは間違いなく嫌われ者の顔だ。

 うちの子達が見たら絶対に泣くぞ。

 第一皇子に分があったのも、そういう部分もあるんじゃあないのか。

 多分、皇太子の方はまだ見かけも中身もこいつよりはマシそうな気がするな。


「そう慌てるな。

 物には順序というものがある。

 あの暴れん坊に出てこられても困るだろう。

 現にお前は既に二度もしくじった。


 転移魔法使いは本来なら戦争でも有意義に使えた駒だったのだ。

 それをみすみす無様に失いおって。

 あのように有用な切り札が二度と手に入る事はあるまい。

 残りの転移魔法使い三人は他国の子飼いだ」


 なるほど、今までの実行犯は第二皇子の方か。

 万が一失敗しても、所詮はスペアの皇子だしな。

 もしかするとパルミア家の一件もこいつが主犯なのかもな。 

 よし、本日の俺の行動予定は、この方のストーカーに決定した。


 それにしても、こいつの駒である転移魔法使いを一人潰せたのは僥倖だった。

 あれを残していたりしたらと思うとぞっとするぜ。

 転移魔法使いの恐ろしさは、この俺自身が身を持って知っているのだから。

 皇帝にも内緒で、手駒として他にもまだ転移能力者がいるとか言わないよな。


「それでは、いかようにされると?」


「まずは奴の根城を潰す。

 今あそこには無頼のSランクがいるという。

 そいつを引き抜け。


 それが駄目なら、そいつも殺せ。

 そしてオルストン家もな。

 あそこにパルミア家の女がいるのもわかっている。

 まとめて殺せ」


「かしこまりました。

 必ずや御期待に応えてみせましょう」


 物騒な連中だなあ。

 とりあえずは、引き続きこいつのストーキングだ。

 背後から透明人間として皇宮内をついていく。

 この宮殿もなんていうか豪奢っていうか、趣味はいいんだよなあ。


 普通はこんな帝国って、もっと(いか)ついとか質実剛健っていう感じなんだがなあ。

 街も普通に見ていたら領土拡張に燃えているような国には見えない。


 葵ちゃんなんか全く気が付いていなかったもんな。

 もしかしたら、亜人奴隷を扱き使ってあれこれとカバーしているのか?


 壷や花瓶にその台、それらを一個ずつ丁寧に鑑賞しながら、ついでにコピーしまくりながら歩く。

(あの壷はいいものだ)


 退屈なので、すれ違う美人の女官さん達を見物しながら行く。

 美しい貴族の御令嬢なんかも多いしなー。

 帝国ウォッチング、意外と楽しいな……本来の目的を忘れてしまいそうだ。


 しばらく歩いてから、ほどなくして第二皇子が立ち止まった。

 ん?

 前方から歩いてくる、シャキっとした感じの高貴そうな色男はもしかして!


「これは皇太子殿下。

 御機嫌麗しゅう」


「シャリオンか。久しいな」


 他の人達が関わり合いたくなくて、そそくさと足早に歩いて立ち去るのが非常に印象的だ。

 こ、これは!

 帝国も先は長くなさそうだな。


 ベルンシュタイン帝国は正式に建国されてから二百年といったところか。

 元は小国であったのだが周辺諸国を併合して前身の帝国を築き、やがてベルンシュタイン帝国を名乗るようになった。

 周辺国家からは、武力を振りかざすだけの狂犬とか、成り上がりヤクザ国家とか言われているらしい。

 確かに中枢部にさえ安定化の欠片もないな。


 この皇宮の調度とかが色々と工夫されているのも、そういう悪評判に屈しないための工夫なのかもしれない。


 皇太子は落ちついた佇まいだ。

 シャリオンがどこの高級将校かと思うような服装であるのに比べて、皇太子の方は比較的豪奢な服装ではあるものの派手過ぎず、金の刺繍とかが入っていたりもするが、その癖不思議と嫌味じゃない。

 そのあたりは着こなし一つという訳ですか。

 この皇太子、なかなかのもんだな。

 皇帝の器として十分に合格だ。


 ただ、この二人は御互いの趣味の入った服装が互いに大嫌いらしい。

 単に服というより、御互いの事がとことん嫌いなんだろう。

 見えない火花が、まるで自動車工場の溶接ゾーンのように激しく飛び散っている。

 溶接滓であるプラッタが転がる幻視すら視えそうなほどの激しさだ。


 それはみんな、巻き込まれないように逃げますわ。

 こんなの兄弟間でいつ殺し合いを始めてもおかしくない関係だ。

 王族にはよくありがちなシチュエーションだわ。


 まあ王子にとって王になれるかなれないかは大きいわな。

 へたをすれば負けた方は謀殺防止のために、王になった方から殺されかねない。

 この兄弟も第二皇子の方ならそれをやりかねない。


 いかにアルバトロス王家がいい王家なのかよくわかる名シーンだな。

 居合わせた連中も、パルミア家の二の舞になるのはゴメンだっていう感じか。


 皇太子は顔付きも男前だ。

 酷薄な感じはしないし、なかなかの色男だ。

 むしろ理知的といってもいい感じだ。

 この国の皇子だなんて、とても思えないほどだ。


 そして何よりも目が腐っていない。

 深いブルーの目が知性を感じさせて印象的だ。

 俺が女なら間違いなくこっちを選ぶ。


 だが、かといって優男ではなし。

 瞳は力強く、若さが秘めたる闘志は伺い知れる。

 おそらく統治能力は父親を超えるだろう。

 もし皇帝と皇子の中から一人殺していいというなら、迷わずこいつに決まりだな。


 第二皇子如き取るに足らん雑魚だし、親父も高が知れている。

 狩るのなら成獣のイノシシよりも幼龍を。

 ただ、皇太子が俺と敵対しないというのならば、また話は別なのだが。


 とにかく、こいつにもマーキングだ。

 これで本日のノルマは達成だな。


 二人は軽く挨拶を交わし、その百倍くらい火花を散らしてから、そのまま無言で別れた。

 気になったので、今度は皇太子の後をつける。

 どうやら自分の執務室に帰る途中だったらしい。


 皇太子執務室は趣味がよかった。

 モダンな、それでいて落ち着いた感じのデザインだ。

 明るい木目調の室内は、ヨーロッパならば現代でもオフィスとして通りそうだ。


 書類棚なども同じ基調に揃えられ、若い上級貴族なら自分の仕事部屋も皆こうしたいと思うような、なかなか良い雰囲気だ。


 俺もこういう雰囲気には憧れるが、俺の場合は間違いなくアーモンの部屋みたいに雑多な感じになるだろう。


「全く父上もシャリオンも、機を見るという言葉を知らんのか。

 これだから我が国の国旗を見て諸国の王侯貴族までが、あれは獅子ではなくイノシシだと陰口を叩くのだ!」


 ぶはははははっ。

 他でも言われているのか。

 いい話が聞けたなあ。

 きちんと撮影できたし。


 ちなみに皇帝とシャリオンにもインビジブル・カメラはつけてある。

 ホーミング機能はついているので、いつでも回収可能な奴を。

 これで情報は随時いろいろとゲット出来るぜ。


「しかし、グランバースト卿か。

 一体何者だ。

 なぜアルバトロスにあのような人物が急に現れる。

 あの髪と目の色、そして圧倒的な力はあの国の初代国王を彷彿とさせる。

 ふ、まさかな」


 やっぱり、そう思われるのか。

 俺の髪は厳密には黒髪と言えない。

 日本人には、彫りの深い顔立ちと相まって「ハーフ?」とよく聞かれる。


 日本人からも「外人が三河弁を喋った」なんて言われた事さえある。

 しかし外国人から見れば、充分日本人の範疇に入るのだ。


 どういう訳かは知らないのだが、生まれ故郷の日本では『外国人扱い』されるこの俺も、カナダでは何故かどこへ行っても完全に日本人として扱われていた。

 アメリカではスペイン人か、とか言われたりもしたのだが。


 よし、帝国皇太子殿下よ。

 その御期待には是非とも応えてみせるぜ。


 千年を生きた、誰よりも初代国王を知り抜いた生き証人から「初代国王とはいいとこどっこい」の評価をいただいているんだからな。

 ちょっと先が楽しみになってきたので、今日のところは大人しく御暇させていただくことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ